• 著者: Erlend Strønen, Mireille Toebes, Sander Kelderman, Marit M. van Buuren, Weiwen Yang, Nienke van Rooij, Marco Donia, Maxi-Lu Böschen, Fridtjof Lund-Johansen, Johanna Olweus, Ton N. Schumacher
  • Corresponding author: Johanna Olweus (Oslo University Hospital Radiumhospitalet, Oslo, Norway); Ton N. Schumacher (Netherlands Cancer Institute, Amsterdam, Netherlands)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-05-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27198675

背景

がん免疫療法における腫瘍退縮は、腫瘍特異的変異に由来するネオ抗原 (neoantigen; 腫瘍特異的変異ペプチド) に対するT細胞免疫応答に依存することが複数の先行研究で示されてきた。第一に、Schumacher et al. (2015) は免疫チェックポイント阻害薬 (抗PD-1・抗CTLA-4) の臨床的有効性と腫瘍変異量 (TMB; tumor mutational burden) の相関を報告し、この仮説を支持した。第二に、Rizvi et al. (2015) によるNSCLC (non-small cell lung cancer) コホートでは、TMBが高い腫瘍で抗PD-1療法の奏効率が有意に高いことが示された。第三に、腫瘍内クローナリティとネオ抗原特異的T細胞応答の関係もSwanton ら (2016) により報告された。さらに、Verdegaal et al. (2016) はTIL (tumor-infiltrating lymphocyte; 腫瘍浸潤リンパ球) 療法で実際にネオ抗原特異的T細胞が腫瘍退縮に寄与することを実証した。

しかし、腫瘍が多数の体細胞変異を有するにもかかわらず、患者自己TILが認識するネオ抗原はわずか数個にとどまるという逆説的観察が繰り返されてきた。すなわち、ネオ抗原の大多数はなぜT細胞に「無視」されるのかは未解明であった。この応答の限局性は、腫瘍による免疫編集によるネオ抗原消失、あるいは自己T細胞レパートリーのトレランス化 (tolerization; 自己寛容による応答消失) によって説明され得る。後者の仮説が正しければ、健常ドナーの非トレランス化T細胞レパートリーにこれら「neglected neoantigen (無視されたネオ抗原)」を認識するTCR (T cell receptor; T細胞受容体) が存在するはずである。一方で、ドナー由来TCRレパートリーが実際に腫瘍細胞上に内在性に提示されたネオ抗原を認識できるかどうかは未確立であった。何が足りなかったか:すなわち、外部T細胞レパートリーが患者由来腫瘍細胞上のネオ抗原を直接認識できるかという機能的検証が不足していた。

目的

健常ドナーの非トレランス化T細胞レパートリーから、HLA-A (human leukocyte antigen type A; 主要組織適合抗原A型) *02:01陽性ステージ4メラノーマ患者のネオ抗原特異的T細胞を系統的に誘導し、(1) 患者腫瘍細胞を直接認識できるか、(2) 患者自己TILが無視したネオ抗原の存在を定量的に実証できるか、(3) ドナー由来TCRの遺伝子移入によって患者メラノーマ細胞特異的なT細胞免疫を再構成できるか、(4) pMHC複合体の安定性 (t1/2) がin silicoの結合親和性予測を超えるネオ抗原免疫原性予測因子となるかを検証する。

結果

健常ドナーT細胞は57ネオ抗原中11個に反応——患者自己TILの2個を大幅に上回る (Figure 1):3名の患者 (n=3 subjects) の57ネオ抗原エピトープに対し、健常ドナーPBMCをTMG mRNA提示DCで刺激したところ、pMHC多量体で検出可能なネオ抗原特異的T細胞が誘導された (Figure 1)。患者1では5/20エピトープ (25%)、患者2では6/27エピトープ (22%)、患者3では0/10エピトープでドナーT細胞反応性が確認され、3患者合計で57エピトープ中11個 (19%) にドナーT細胞反応性が認められた。患者1では認識エピトープとして変異ネオ抗原5個が同定され、それぞれMLL2、CDK4、ASTN1、SMARCD3、GNL3Lの体細胞変異に由来した。患者2では4名のドナーPBMCから6エピトープへの反応が検出され、CTL株は変異ペプチドパルス標的に強い反応を示した一方、野生型ペプチドへの反応は無視できる程度であった。一方、患者1の自己TILによる認識は126予測エピトープ中わずか2個、患者2では154予測エピトープ中ゼロと著しく限局していた。ドナーT細胞が反応した11エピトープのうち、内在性提示された腫瘍抗原を認識したのは10エピトープ (91%) であった (Figure 2)。

185 CTLクローンの>82%が変異ペプチド特異的反応性を示し、腫瘍細胞を直接認識 (Figure 2):樹立したCTLクローン (n=185 samples、4-8ドナーから誘導) のうちpMHC多量体陽性の>82%が変異ペプチドパルス標的細胞に対して機能的反応 (nM以下の低濃度で脱顆粒またはIFNγ産生) を示した。一方、対応する野生型ペプチドへの反応は無視できる程度であった。腫瘍認識の評価ではMLL2変異反応性CTLクローン (n=10 subjects tested) が患者1由来MLL2変異メラノーマを特異的に認識し (第三者HLA-A*02:01陽性メラノーマには反応せず)、CDK4変異反応性クローンが変異CDK4保有腫瘍に特異的反応を示した (Figure 2)。GNL3L変異反応性クローン (n=16 samples) は全例がペプチドパルス標的は認識するが腫瘍細胞上の内在性提示は認識しなかった — 内在性提示の直接検証が候補エピトープ選択に不可欠であることを示した。

ドナー由来TCR遺伝子移入で腫瘍認識を再現——患者由来TCRと同等の効力 (Figure 3):患者1のネオ抗原を標的とする8個のドナー由来TCR (4エピトープ対応) を健常ドナーPBMCに移入し腫瘍認識能を評価した (Figure 3)。MLL2変異反応性TCR 41は患者由来メラノーマを強力に認識し、MLL2変異のCRISPR KO (knockout) 後は認識が消失し、第三者腫瘍への変異MLL2遺伝子導入で認識が回復することで、認識の変異特異性が確認された。CDK4変異反応性TCR 53・55・57は患者由来CDK4変異メラノーマを認識し、TCR 53および57は患者自己TIL由来CDK4変異反応性TCR 17と同等の腫瘍認識力を示した。Pearson r=0.87 (P<0.001) の有意な正の相関がドナー由来TCRの腫瘍認識強度と患者TIL由来TCRの認識強度の間に観察され、ドナー由来TCRの機能的等価性を裏付けた。計3/4のエピトープ (MLL2、CDK4の2変異種) でドナー由来TCR移入T細胞による内在性ネオ抗原認識が実証された。

pMHC安定性 (t1/2 ≥5時間) が免疫原性の強力な予測因子 (P<0.0001):57ネオ抗原のpMHC半減期を新規開発フローサイトメトリーアッセイで測定した結果、T細胞反応誘導群 (11エピトープ) と非誘導群でβ2ミクログロブリン解離半減期の中央値に顕著な差を認めた (14.3時間 vs 4.7時間、P<0.0001、Mann-Whitney U検定)。t1/2カットオフ5時間では32の安定エピトープ中11個 (34%) がドナーT細胞反応性を示し、t1/2 <5時間の25エピトープでは反応なしであった (specificity 100%)。ROC解析では、pMHC安定性による免疫原性予測がin silico結合親和性予測単独を有意に上回ることが確認された (ROC area under curve 比較)。さらに免疫原性を示したエピトープの予測結合親和性中央値は28 nM (範囲 6-119 nM) で、非免疫原性エピトープの54 nM (範囲 2-925 nM) と比較して高い傾向を示したが、親和性のみでは免疫原性を完全に予測できなかった。

考察/結論

本研究は、本研究で初めて健常ドナーT細胞レパートリーが患者自己TILを大幅に上回る広範なネオ抗原認識能を持ち、「患者免疫系の限界を外部レパートリーで補完する」という novel なアプローチの生物学的概念実証を提供した。

先行研究との対照と neglected neoantigen の意義:先行研究では TIL療法 において患者自己の腫瘍浸潤T細胞がネオ抗原を認識することが確認されてきたが (Verdegaal et al. 2016、Schumacher 2015)、認識エピトープ数は予測エピトープの数%にとどまっていた。Rizvi et al. Science 2015 は高TMB腫瘍で免疫療法が有効であることを示したが、低TMB腫瘍では免疫応答の誘導が困難であるという課題が残されていた。本研究の結果は先行研究と対照的に、健常ドナーのT細胞レパートリーが患者自己T細胞では認識されない (neglected) ネオ抗原を系統的に標的にできることを示し、「自己TILの限界はレパートリーの欠如/トレランス化に起因する」という仮説の実験的証明を提供した点で質的に異なる。

臨床的意義:TCR-T細胞療法の新パラダイム:本研究の臨床的意義 (臨床応用への展望) は、Gubin et al. Nature 2014 らが示したネオ抗原特異的免疫の腫瘍退縮への寄与を個別化TCR-T細胞療法として実装できる可能性を示したことにある。患者免疫系の機能低下・トレランス化に依存しない「外部レパートリー由来TCR」の活用は、免疫抑制を受けた担がん患者でも高品質なTCR-T細胞を製造できる道筋を提供し、TIL療法 の適応外となる免疫低下患者への適用可能性を拡大する。さらにpMHC安定性 (t1/2) による候補エピトープ選別は、ネオ抗原ワクチン・個別化ACT双方のエピトープ設計を高精度化する実用的ツールとなりうる。

残された課題と今後の展望:今後の重要な課題として、(1) GvHD リスク管理——ドナーTCRを自己T細胞に移入することでMHCミスマッチは回避されるが、同種免疫反応性の完全な安全性評価が必要である、(2) 製造ターンアラウンドの短縮——本研究の数ヶ月を要するプロセスの自動化・並列化が急速進行がん患者への対応に不可欠である、(3) HLA多様性への対応——HLA-A*02:01 以外のHLA型での適用可能性の検証が必要であり、パン-HLA的アプローチの開発が課題となる、(4) 低TMB腫瘍・TMB以外のバイオマーカー — 腫瘍内不均一性 が高い腫瘍では認識エピトープの選択がサブクローナル変異に偏る可能性があり、クローナルネオ抗原を優先選択するアルゴリズムの開発が求められる、が挙げられる。本研究が提示したエクソーム解析→pMHC安定性選別→ドナーT細胞誘導→TCR移入という概念実証的フレームワークは、次世代個別化TCR-T細胞療法の開発基盤として重要な先例を提供した。

方法

患者と試料:HLA-A*02:01陽性の3症例 (患者1:ステージ4メラノーマ、患者2:NSCLC、患者3:その他の腫瘍) の腫瘍組織から全エクソーム解析・RNA-seqを実施し非同義変異を同定。患者1では249非同義変異・予測エピトープ126個から高結合親和性20個を選択、患者2は154予測エピトープから34 nM中央値の27個、患者3は10個 (中央値225 nM) を選択し、計57ネオエピトープを解析対象とした。

ドナーT細胞誘導:各患者につき4-8名の健常HLA-A*02:01陽性ドナーPBMC (peripheral blood mononuclear cell; 末梢血単核球) を、自己単球由来DC (dendritic cell; 樹状細胞) にTMG (tandem minigene; タンデムミニ遺伝子) mRNAをトランスフェクションして共培養し、候補ネオエピトープに対するin vitroプライミングを実施した。反応性評価は3方法で行った:(a) pMHC (peptide-MHC complex; ペプチドMHC複合体) 多量体染色によるネオ抗原特異的CD8 (cytotoxic CD8+ T cell; 細胞傷害性T細胞) 陽性T細胞の検出、(b) CD107a (cluster of differentiation 107a; 脱顆粒マーカー)/b脱顆粒アッセイ、(c) IFNγ (interferon-gamma; インターフェロンガンマ) 産生。反応性T細胞をpMHC多量体でソートし、185個のCTL (cytotoxic T lymphocyte; 細胞傷害性T細胞) クローンを樹立して各クローンを機能的に評価した。

TCR同定と遺伝子移入:患者1のネオ抗原反応性CTLクローン28個からTCR配列を決定し (補足表4)、11個のユニークTCR配列を同定した。うち8個を健常ドナーPBMCに遺伝子移入して腫瘍認識能を評価した。腫瘍認識特異性の確認には、MLL2 (mixed lineage leukemia 2; ヒストンメチル転移酵素をコードする遺伝子) をKO (knockout; 遺伝子ノックアウト) したメラノーマ細胞、変異MLL2遺伝子導入第三者メラノーマ、およびCDK4 (cyclin-dependent kinase 4; サイクリン依存性キナーゼ4) のアルギニン24システイン変異を持つMel 526細胞株を使用した。

pMHC安定性アッセイ:57個の全ネオエピトープについてflow cytometry (フローサイトメトリー) ベースのpMHCオフレートアッセイを開発し (補足図8参照)、β2ミクログロブリン解離半減期 (t1/2) を測定した。免疫原性との相関をMann-Whitney U検定とROC (receiver operating characteristic; 受信者動作特性) 解析で評価した。