- 著者: Matthew M. Gubin, Xiuli Zhang, Heiko Schuster ほか (計27名)
- Corresponding author: Robert D. Schreiber (Washington University School of Medicine)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-11-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 25428507
背景
CTLA-4およびPD-1を標的とするチェックポイント阻害 (ICI) 療法は、メラノーマや非小細胞肺がん (NSCLC) など複数のがん種において、持続的な奏効を示す画期的な治療法として確立された。2011年のイピリムマブ (CTLA-4阻害剤) の米国食品医薬品局 (FDA) 承認を皮切りに、複数の抗PD-1抗体および抗CTLA-4抗体が承認され、がん治療のパラダイムを大きく変えた。しかし、全体的な奏効率は依然として限定的であり、多くの患者で二次耐性が生じることが課題として残されている。このような状況下で、ICIが活性化するT細胞が何を認識しているのか、すなわち「ICI反応性腫瘍の拒絶抗原の正体」は、がん免疫学における最大の未解決問題の一つであった。自己抗原が標的となるのか、あるいは変異ネオ抗原が主要な拒絶抗原となるのかという論争があり、もし変異ネオ抗原が主要な標的であれば、個別化されたがんワクチン開発への展開が期待できるが、その直接的な証拠は不足していた。
先行研究では、がん免疫編集の概念が提唱され、免疫系ががんの発生と進化に深く関与することが示された Dunn et al. NatImmunol 2002。特に、インターフェロン-γ (IFN-γ) とリンパ球が初期腫瘍の発生を抑制し、腫瘍の免疫原性を形成することが報告されている Shankaran et al. Nature 2001。また、Schreiberらのグループは以前、高免疫原性で未編集のMCA肉腫の自然拒絶を担う腫瘍特異的変異抗原 (TSMA) を同定した先行研究を有していた。本論文では、より臨床的な「治療薬 (ICI) によって制御された腫瘍」の拒絶抗原を定量的に同定する系の開発に挑んだが、その具体的な標的抗原の特定は未解明な状態であった。3-メチルコラントレン (MCA) 誘発マウス肉腫は、化学発がん物質による高変異負荷を持ち、ICI治療研究の標準的モデル系として機能する。これらのモデルは、ヒトのがんにおける変異負荷と免疫応答の関連性を研究するための貴重なツールである。
PD-1とCTLA-4はT細胞に発現する免疫調節受容体であり、その阻害はT細胞の活性化を促進し、抗腫瘍免疫応答を増強することが知られている Pardoll et al. NatRevCancer 2012。しかし、これらの治療がどのような分子メカニズムで抗腫瘍効果を発揮するのか、特にT細胞が認識する抗原の具体的な同定は、その後の治療戦略の最適化に不可欠であった。本研究は、この知識ギャップを埋め、ICI療法の作用機序を分子レベルで解明することを目指した。
目的
本研究の目的は、3-メチルコラントレン (MCA) 誘発マウス肉腫 (進行性株d42m1-T3およびF244) を用いて、以下の2点を検証することである。(1) 抗PD-1および/または抗CTLA-4治療下でCD8+ T細胞が認識する腫瘍特異的変異抗原 (TSMA) を、ゲノミクスと生物情報学を組み合わせたアプローチで同定すること。(2) 同定された変異エピトープを組み込んだ治療用合成長ペプチド (SLP) ワクチンが、チェックポイント阻害免疫療法と同等の腫瘍拒絶を誘導するかを検証すること。
具体的には、まずd42m1-T3腫瘍細胞株の非同義変異を網羅的に解析し、MHCクラスI結合予測アルゴリズムを用いて、T細胞エピトープ候補を絞り込む。次に、これらの候補エピトープに対するT細胞応答を、テトラマー染色、細胞内サイトカイン染色、および質量分析法を用いて機能的に検証し、主要なTSMAを特定する。最後に、特定されたTSMAを標的とするSLPワクチンを設計し、その治療効果をICI療法と比較することで、個別化されたがんワクチン療法の可能性を探る。この研究は、ICI療法の作用機序を解明し、新たな免疫療法の開発に向けた基盤を確立することを目的とする。
結果
ICI介在腫瘍拒絶の免疫学的機序の解明: d42m1-T3およびF244のいずれの肉腫細胞株も、抗PD-1、抗CTLA-4、または両者併用療法により、野生型C57BL/6マウスにおいて治療的な腫瘍拒絶を達成した (Fig. 1a)。この腫瘍拒絶は、CD4+またはCD8+ T細胞の枯渇、IFN-γの中和、Rag2-/-マウス (T細胞、B細胞、NKT細胞欠損)、およびBatf3-/-マウス (CD8α+CD103+樹状細胞欠損、腫瘍抗原クロスプレゼンテーション不能) において完全に消失したことから、クロスプレゼンテーションに依存したCD8+ T細胞応答が必須であることが示された (Extended Data Fig. 1a)。腫瘍再チャレンジ実験では、強固な記憶応答による完全防御が示され (Extended Data Fig. 1b, c)、抗PD-1治療day 11の腫瘍拒絶直前に採取したCD8+ TILからmLama4およびmAlg8特異的T細胞を同定した結果と整合する。未治療の増殖中 (progressor) 腫瘍内にも低頻度のmLama4-テトラマー陽性CD8+ T細胞が存在しており、ICIはde novoプライミングではなく、既存のネオ抗原特異的クローンのリアクティベーションを行うという機序が支持された。これは、ICIの臨床効果が既存のネオ抗原免疫応答の増幅に依存することを意味し、腫瘍変異負荷 (TMB) がバイオマーカーとして機能する理論的根拠ともなっている。
腫瘍特異的変異抗原mLama4およびmAlg8の確定同定: エピトープ絞り込みパイプラインにより、H-2Kb結合候補44,215個から62個、さらにフィルタリング後42個に絞り込んだ後、テトラマー染色解析を実施した。その結果、CD8+ TILの15.6±2.7%がmLama4 (Lama4 G1254V変異、H-2Kb結合) テトラマー陽性であり (6実験の平均、1実験では13.1%)、2.8±1.1%がmAlg8 (Alg8 A506T変異、H-2Kb結合) テトラマー陽性であった (1実験では4.2%) (Fig. 1e, Extended Data Fig. 2d)。これら2つのエピトープのみが、一貫して確認された主要な標的であった。変異Lama4はH-2Kbに野生型比12.8倍強く結合し、変異Alg8は1.2倍強く結合した。いずれもp5およびp8にアンカー残基を有し、p4 (Alg8) とp1 (Lama4) 位置の変異がMHCクラスI結合を増強した。H-2Db候補は49,677個から4個まで絞り込まれたが、これらはin vivoでの確認には至らなかった。インビトロで脾細胞をこれら62個の予測H-2Kb/H-2Dbエピトープで刺激した際も、IFN-γおよびTNF-α産生を有意に誘導したのはmLama4およびmAlg8のみであった (Fig. 1f, Extended Data Fig. 2e)。質量分析法によってH-2Kb精製画分からmLama4およびmAlg8ペプチドを直接同定し (Fig. 2a, Extended Data Fig. 5a, b, Extended Data Fig. 6a)、野生型配列のwtLama4およびwtAlg8は検出されなかった。RMA-S細胞 (抗原トランスポーター機能欠損、MHCクラスI不安定) 上でmLama4およびmAlg8がH-2Kb発現を安定化し (Extended Data Fig. 4b)、拒絶後マウス脾臓から確立したT細胞株はd42m1-T3に対し反応するがF244や他肉腫株には反応せず、H-2Kb制限性が確認された (Extended Data Fig. 3a, b, Extended Data Fig. 4a)。この結果は、mLama4およびmAlg8がd42m1-T3肉腫における主要な腫瘍特異的変異抗原であることを強く支持する。
SLPワクチンの治療効果:ICIと同等の腫瘍拒絶を達成: mLama4+mAlg8+poly(I:C) SLPを3回接種する治療的ワクチン接種は、d42m1-T3進行性腫瘍を抗PD-1および抗CTLA-4療法と同等の頻度で完全拒絶した (Fig. 2d, e, Extended Data Fig. 8a)。具体的には、mLama4とmAlg8のSLPとpoly(I:C)を組み合わせたワクチンを接種したマウスの85% (n=17/20 mice) が生存したのに対し、対照群 (HPV SLPまたはpoly(I:C)単独) ではそれぞれ10% (n=2/20 mice) および15% (n=3/20 mice) の生存率であった (p=0.0002)。野生型配列ペプチドや無関係な変異ペプチドでは効果がなく、抗原特異性が確認された。F244腫瘍でも同様にF244由来ネオ抗原ベースSLPで腫瘍拒絶を再現し、原理の一般化可能性が示された (Fig. 2e, Extended Data Fig. 8c)。予防的ワクチン接種でも、mLama4とmAlg8のSLPを組み合わせたワクチンは88% (n=15/17 mice) の生存率を誘導し、単独SLPや最小エピトープペプチドよりも優れた防御効果を示した (Extended Data Fig. 8b, c)。これらの結果は、腫瘍特異的変異抗原を標的とするSLPワクチンが、チェックポイント阻害免疫療法と同等の治療効果を発揮できることを明確に示している。
TILの転写プロファイル:抗PD-1と抗CTLA-4の重複および治療特異的遺伝子発現パターン: 抗PD-1と抗CTLA-4で活性化されるTILは、エフェクター/細胞傷害性遺伝子群で重複するが、治療特異的な転写プロファイルも有していた (Fig. 3c, d, Extended Data Table 1a)。抗CTLA-4ブロッケード下ではTh1/ICOS経路が優位であり、抗PD-1ブロッケード下ではエフェクター疲弊回復関連遺伝子が優位であった。SLPワクチン単独では両者を統合したプロファイルを誘導し、チェックポイント阻害とワクチンの組み合わせ最適化の合理的根拠を提供した。mLama4特異的T細胞のLAG-3およびTIM-3発現は、コントロール群と比較してICI治療群で低下しており、疲弊状態の改善を示唆した (Fig. 4a, Extended Data Fig. 9a, b)。また、グランザイムBの発現は抗CTLA-4単独または抗CTLA-4と抗PD-1併用療法で有意に増加した (Fig. 4b)。IFN-γおよびTNF-α産生T細胞の割合も、ICI治療群で増加した (Fig. 4c, Extended Data Fig. 9c)。特に、抗CTLA-4と抗PD-1の併用療法では、IFN-γとTNF-αを二重に産生するTILの割合が最も高かった。これらのデータは、異なるチェックポイント阻害療法が、腫瘍抗原特異的T細胞の機能的表現型に異なる影響を与え、抗腫瘍効果を最大化するためには併用療法が有効である可能性を示唆している。
考察/結論
本研究は、変異腫瘍抗原が抗PD-1および抗CTLA-4療法における主要なT細胞拒絶抗原であることをマウスモデルで初めて直接実証した先駆的研究である。ゲノミクスと生物情報学を組み合わせたパイプラインで治療標的ネオ抗原を定量的に同定できることを示し、SLPワクチンがICIと同等の効果を示すことで、チェックポイント阻害と個別化ネオ抗原ワクチンの併用療法 (後のNEO-PV-01試験など) への科学的基盤を構築した。
先行研究との違い: これまでの研究では、ICIがどのような抗原を標的としているのかが不明確であったが、本研究は特定の変異ネオ抗原 (mLama4およびmAlg8) がICIの主要な標的であることを直接的に示した点で、先行研究と対照的である。また、ICIが既存のネオ抗原特異的T細胞クローンのリアクティベーションを介して作用するという機序を実証した点も、これまでの仮説を裏付ける重要な知見である。
新規性: 本研究で初めて、進行性マウス肉腫モデルにおいて、抗PD-1および/または抗CTLA-4治療によって活性化されるCD8+ T細胞が認識する腫瘍特異的変異抗原を、ゲノミクスとバイオインフォマティクスを統合したアプローチで同定した。さらに、これらの同定された変異エピトープを組み込んだ治療用SLPワクチンが、チェックポイント阻害免疫療法と同等の腫瘍拒絶を誘導できることを新規に実証した。これは、個別化されたがんワクチン開発の可能性を強く示唆するものである。
臨床応用: 本知見は、がん免疫療法の臨床応用に極めて重要な意義を持つ。腫瘍特異的変異抗原の同定は、患者個々のがんに対する個別化ワクチンの開発を可能にする。これにより、ICI療法に反応しない患者や二次耐性を示す患者に対する新たな治療選択肢を提供できる可能性がある。また、腫瘍変異負荷 (TMB) がICI療法のバイオマーカーとして機能する理論的根拠を強化し、治療効果予測や患者層別化に貢献する臨床的有用性を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究で同定されたネオ抗原がヒトのがんにおいても同様に主要な標的となるかどうかの検証が残されている。また、ICIとネオ抗原ワクチンの最適な併用戦略、特に投与タイミングや用量、アジュバントの選択に関するさらなる研究が必要である。さらに、腫瘍微小環境におけるネオ抗原特異的T細胞の動態や、疲弊状態からの回復メカニズムの詳細な解析も今後の研究方向性として挙げられる。Limitationとして、本研究がマウスモデルに限定されているため、ヒトへの外挿には慎重な検討が求められる。
方法
d42m1-T3およびF244肉腫細胞株をC57BL/6野生型マウスに皮下移植し、抗PD-1、抗CTLA-4、両者併用、またはコントロール抗体 (mAb) で治療した。腫瘍拒絶の免疫学的依存性を確認するため、CD4+またはCD8+ T細胞の枯渇、インターフェロン-γ (IFN-γ) の中和、Rag2-/-マウス (T細胞、B細胞、NKT細胞欠損)、およびBatf3-/-マウス (CD8α+CD103+樹状細胞欠損、腫瘍抗原のクロスプレゼンテーション不能) を用いた実験を実施した。腫瘍再チャレンジ実験により、記憶免疫応答の有無を確認した。
変異の同定とエピトープ予測には、cDNAキャプチャーシーケンスを用いて2,796個の非同義変異を同定した。これらの変異は対応するタンパク質配列に変換され、3種類の主要組織適合性複合体 (MHC) クラスIエピトープ結合予測アルゴリズム (Stabilized Matrix Method (SMM)、Artificial Neural Network (ANN)、NetMHCpan) にかけられ、各予測エピトープのメディアン結合親和性が算出された。エピトープは予測されるメディアン結合親和性に基づいて優先順位付けされ、免疫プロテアソームによる処理が不十分と予測されるものや、野生型配列と比較してMHCクラスIへの結合親和性が低いものは除外するフィルターが適用された。このアプローチにより、H-2Db結合候補49,677個、H-2Kb結合候補44,215個から、それぞれ4個および62個まで候補が絞り込まれた。
機能的検証として、最終候補エピトープに対して以下の実験を実施した。まず、H-2Kb/H-2Dbテトラマー染色を、抗PD-1治療下で腫瘍拒絶直前のday 11に採取したCD8+腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) に対して行った。次に、IFN-γおよび腫瘍壊死因子-α (TNF-α) の細胞内染色により、抗原特異的なサイトカイン産生を評価した。さらに、質量分析法 (H-2Kb精製画分からのMHCリガンド同定) を用いて、MHC分子に結合したペプチドを直接同定した。同定されたmLama4およびmAlg8変異エピトープを組み込んだ合成長ペプチド (SLP) ワクチン (ポリイノシン酸-ポリシチジル酸 (poly(I:C)) アジュバント併用) の治療効果を、腫瘍体積の測定により評価した。TILの転写プロファイルをRNAシーケンス (RNA-seq) で解析し、遺伝子発現の変化を詳細に分析した。統計解析には、特に指定がない限り、対応のない両側スチューデントのt検定を用いた。生存曲線はログランク (Mantel-Cox) 検定で比較した。