- 著者: Diego Chowell, Luc G. T. Morris, Claud M. Grigg, Jeffrey K. Weber, Robert M. Samstein, Vladimir Makarov, Fengshen Kuo, Sviatoslav M. Kendall, David Requena, Nadeem Riaz, Benjamin Greenbaum, James Carroll, Edward Garon, David M. Hyman, Ahmet Zehir, David Solit, Michael Berger, Ruhong Zhou, Naiyer A. Rizvi, Timothy A. Chan
- Corresponding author: Timothy A. Chan (chant@mskcc.org) (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA); Naiyer A. Rizvi (nar2144@cumc.columbia.edu) (NewYork-Presbyterian/Columbia University Medical Center, New York, NY, USA)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2018
- Epub日: 2017-12-07
- Article種別: Original Article
- PMID: 29217585
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) は、転移性癌患者の治療を著しく改善したが、その奏効は患者間で大きく異なり、治療抵抗性も頻繁に認められる。これまで、ICBの臨床的有効性を予測するための研究は、主に腫瘍変異量 (TMB)、PD-L1発現、腸内微生物叢などの腫瘍固有の要因に焦点を当ててきた (Rizvi et al. Science 2015; Tumeh et al. Nature 2014; Herbst et al. Nature 2014)。しかし、宿主の生殖細胞系列遺伝学がICB奏効にどのように影響するかについては、未解明な点が多かった。
CD8+ T細胞による癌細胞の殺傷は、ヒト白血球抗原クラスI (HLA-I) 分子による腫瘍抗原の効率的な提示に依存する。HLA-I遺伝子型は、感染症、炎症性疾患、自己免疫疾患に対する免疫応答の差異と関連することが報告されている (Pereyra et al. Science 2010; Carrington et al. Science 1999)。各HLA-I分子は、細胞内タンパク質由来の特定のペプチドを結合し、細胞表面に提示してCD8+ T細胞に認識させる。ICBの抗腫瘍活性は、CD8+ T細胞およびHLAクラスI依存性の免疫活性に依存することが示されている (Gubin et al. Nature 2014; Tran et al. Science 2015)。
HLA-I分子は高度に多型性であり、その多様性はペプチド結合領域に集中している。各アレルは異なるペプチドリガンドレパートリーに結合するため、少なくとも1つのHLA-I遺伝子座でホモ接合性を示す個体は、各クラスI遺伝子座でヘテロ接合性を示す個体と比較して、より小さく、多様性の低い腫瘍由来ネオ抗原レパートリーを細胞傷害性Tリンパ球 (CTL) に提示すると予測される (Doherty and Zinkernagel Lancet 1975)。このため、HLA-I分子の多様性(ヘテロ接合性)が高いほど、ICB治療後の生存率が向上する可能性が考えられる。しかし、患者固有のHLA-I遺伝子型が抗PD-1抗体または抗CTLA-4抗体に対する応答にどの程度影響するかについては、これまで系統的な検討が不足していた。特に、大規模なコホートにおいて、HLA-Iのヘテロ接合性や特定のHLA-IアレルがICB奏効に与える影響を包括的に評価した研究は限られていた。宿主の生殖細胞系列遺伝学がICB奏効にどのように影響するかについては、多くの未解明な点が残されており、この知識ギャップを埋めることが喫緊の課題である。
目的
本研究の目的は、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 治療を受けた進行癌患者の大規模コホートにおいて、高解像度HLAクラスI (HLA-I) 遺伝子型を決定し、その治療反応性への影響を系統的に解析することである。具体的には、以下の仮説を検証する。
- HLA-I遺伝子座の接合性の影響: HLA-I遺伝子座(HLA-A、-B、-C)におけるヘテロ接合性が、ICB治療後の患者の全生存期間 (OS) に影響を与えるか。特に、少なくとも1つのHLA遺伝子座でホモ接合性を示す患者が、完全にヘテロ接合性の患者と比較して、OSが短縮するかどうかを評価する。
- 個別HLA-I座位およびスーパータイプの影響: 個々のHLA-I生殖細胞系列アレルまたはHLA-IスーパータイプがICB治療後のOSに影響を与えるか。特に、特定のHLA-Bスーパータイプ(例:B44スーパータイプ、B62スーパータイプ)が、メラノーマ患者の生存期間と関連するかどうかを特定する。
- 腫瘍におけるHLA-I LOHの影響: 腫瘍におけるHLA-Iのヘテロ接合性喪失 (LOH) が、ICB治療後の患者のOSに影響を与えるか。また、LOHが腫瘍変異量 (TMB) と組み合わさって、予後に与える影響を評価する。
- HLA-B*15:01の分子構造的特徴: HLA-B*15:01アレルがICB奏効不良と関連する場合、その分子構造的特徴がT細胞によるネオ抗原認識をどのように阻害する可能性を分子動力学シミュレーションによって探る。
- HLA多様性とTCR応答: HLAヘテロ接合性が、治療中のT細胞受容体 (TCR) クローン性および抗腫瘍T細胞応答に影響を与えるか。
これらの解析を通じて、HLA-I遺伝子型がICB治療の奏効予測因子としての臨床的意義を確立し、将来のICB治療戦略やネオ抗原ベースのワクチン設計に重要な情報を提供することを目指す。
結果
HLA-Iのホモ接合性がICB治療患者の全生存期間を短縮: コホート1 (n=369 patients) において、少なくとも1つのHLA-I遺伝子座でホモ接合性を示す患者は、全生存期間 (OS) が有意に短縮した (HR=1.40, 95% CI 1.02-1.9, p=0.036)。この結果は、独立したコホート2 (n=1166 patients) でも検証され、同様にホモ接合性がOS短縮と関連した (HR=1.31, 95% CI 1.03-1.70, p=0.028)。両コホートを統合した1535例の解析では、HLA-Iホモ接合性はOSの有意な短縮と関連した (HR=1.38, 95% CI 1.11-1.70, p=0.003)。この効果は、特にHLA-B (HR=1.66, 95% CI 0.93-2.94, p=0.052) およびHLA-C (HR=1.60, 95% CI 1.16-2.21, p=0.004) の座位で顕著であった。これは、HLA-Bが一般的にHLA-AやHLA-Cよりも細胞表面での発現量が高く、より多様なペプチドに結合すること、またHLA-Cが抗原提示細胞で高レベルに発現し、CTLプライミングを促進する可能性と一致する。多変量解析(変異量、病期、年齢、薬剤クラスで調整)後も、コホート1 (HR=1.50, 95% CI 1.07-2.10, p=0.02) およびコホート2 (HR=1.31, 95% CI 1.03-1.67, p=0.028) でHLA-Iホモ接合性とOS短縮の関連は有意であった (Fig. 1A-C)。
HLA-I多様性と腫瘍変異量 (TMB) の組み合わせが予後予測能を向上: HLA-Iホモ接合性と低TMBの組み合わせは、HLA-Iヘテロ接合性と高TMBの患者と比較して、OSの有意な短縮と強く関連した。コホート1ではHR=2.03 (95% CI 1.27-3.30, p=0.003)、コホート2ではHR=2.98 (95% CI 1.84-4.82, p<0.0001) であった。この結果は、HLA-I多様性とTMBを組み合わせることで、TMB単独よりもICB奏効の予測精度が向上することを示唆している (Fig. 1D-G)。
腫瘍におけるHLA-Iヘテロ接合性喪失 (LOH) がOSを短縮: コホート1の腫瘍エクソーム解析により、32例の患者でHLA-IのLOHが同定された。HLA-I LOHを有する患者は、OSの有意な短縮と関連した (HR=1.60, 95% CI 1.03-2.43, p=0.05)。さらに、低TMBの腫瘍において、HLA-I LOHの影響はより顕著であり、OSのさらなる短縮と関連した (HR=3.68, 95% CI 1.64-8.23, p=0.0006)。このことは、利用可能なHLA-I分子の数のわずかな違いが、効果的な抗腫瘍T細胞応答およびICBの有効性にとって大きな課題となりうることを示唆している (Fig. 1H-I)。探索的解析では、HLA-IIのHLA-DP座位におけるホモ接合性もOS短縮と関連した (HR=1.45, 95% CI 1.06-2.00, p=0.018)。
HLA-B44スーパータイプはメラノーマ患者のOS延長と関連、HLA-B62スーパータイプはOS短縮と関連: メラノーマ患者コホートにおいて、HLAスーパータイプとOSの関連を解析した。B44スーパータイプ (頻度45%) を有する患者は、有意に良好なOSを示した (HR=0.61, 95% CI 0.42-0.89, p=0.009)。この関連は、HLA-B18:01, HLA-B44:02, HLA-B44:03, HLA-B44:05, HLA-B50:01などのB44サブアレルによって主導されており、これらのアレルを有する患者ではOSがさらに延長した (HR=0.49, 95% CI 0.32-0.76, p=0.001)。コホート2でもB44スーパータイプの良好な予後傾向が確認され (HR=0.32, 95% CI 0.09-1.1, p=0.054)、多変量解析でも有意であった。B44スーパータイプと高TMBの組み合わせは、OSのさらなる延長と関連した (コホート1でHR=0.23, 95% CI 0.13-0.41, p<0.0001)。対照的に、B62スーパータイプ (頻度15%) を有する患者は、OSの有意な短縮と関連した (HR=2.29, 95% CI 1.40-3.74, p=0.0007)。このB62スーパータイプの影響は、主にHLA-B15:01アレルによって主導されており (HR=2.21, 95% CI 1.33-3.70, p=0.002)、Bonferroni補正後も両アレルは統計的に有意な関連を示した (p=0.01およびp=0.02) (Fig. 2A-F, Fig. 3A, Table 1)。
HLA-B*15:01の構造的ブリッジがT細胞認識を障害する可能性: HLA-B15:01アレルがICB奏効不良と関連する分子メカニズムを解明するため、分子動力学 (MD) シミュレーションを実施した。HLA-B15:01は、ペプチド結合溝内にArg62、Ile66、Leu163からなる「ブリッジ」構造を持つことがPDBクリスタル構造解析で示された。MDシミュレーションでは、HLA-B07:02やHLA-B53:01ではペプチド結合時にブリッジが開くのに対し、HLA-B15:01ではペプチド存在下でもブリッジが維持され、ブリッジ残基の揺動が減少した。平均ブリッジ分離距離は約6Åでほぼ一定であったが、ペプチド結合複合体ではこの距離の変動が少なかった。これらの構造的および動態的特徴は、HLA-B15:01がT細胞受容体との相互作用強度を低下させ、ネオ抗原認識を障害する可能性を示唆する (Fig. 3B-E)。
HLA-Iヘテロ接合患者で治療中のTCRクローン性が高い: Nivolumab治療開始後4週目の腫瘍TCR CDR3ディープシーケンス解析では、HLAヘテロ接合患者は、HLAホモ接合患者と比較して、治療中のTCR CDR3のクローン性が有意に高かった (Wilcoxon順位和検定, p=0.0093)。VJカセット組み合わせごとのTCR CDR3クローン性でも同様の結果が観察された (p=0.023)。これらの結果は、HLA分子の多様性が、ICB後のネオ抗原に対するT細胞のクローン性選択と増殖に影響を与えることを示している (Fig. 3F-G)。これらの解析は、n=29 patientsの腫瘍サンプルを用いて実施された。
考察/結論
本研究は、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 治療を受けた進行癌患者において、宿主のHLAクラスI (HLA-I) 生殖細胞系列遺伝子型が治療反応性に影響を与えることを、1535例という大規模コホートで初めて系統的に示した。
新規性: 本研究で初めて、HLA-I遺伝子座におけるヘテロ接合性がICB治療後の全生存期間 (OS) 延長と正に関連し、少なくとも1つの遺伝子座でホモ接合性を示す患者ではOSが短縮することを示した。また、特定のHLA-Bスーパータイプ、特にB44スーパータイプが良好な予後と関連し、B62スーパータイプ(特にHLA-B15:01)が不良な予後と関連することを新規に同定した。さらに、HLA-B15:01の分子動力学シミュレーションにより、ペプチド結合溝内の「ブリッジ」構造がT細胞によるネオ抗原認識を阻害する可能性を初めて示唆した。これらの知見はこれまで報告されていない。
先行研究との違い: これまでのICB奏効予測因子に関する研究は、主に腫瘍変異量 (TMB) やPD-L1発現などの腫瘍固有の要因に焦点を当ててきた。本研究は、これらの腫瘍固有の要因に加えて、宿主の生殖細胞系列遺伝学、特にHLA-I遺伝子型がICB奏効に与える影響を大規模に解析した点で、これまでの研究と対照的である。特に、TMBとHLA-I多様性の組み合わせが、TMB単独よりも強力な予測因子となることを示した点は、先行研究と異なる重要な知見である。
臨床応用: 本知見は、ICB治療の奏効予測と患者層別化に新たな遺伝的バイオマーカーを提供する点で、臨床応用に直結する。HLA-Iホモ接合性や腫瘍におけるHLA-I LOHは、効果的な免疫療法に対する遺伝的障壁となる可能性があり、これらの患者群では代替的な免疫システム活用法が必要となるかもしれない。また、B44スーパータイプがOS延長と関連するという発見は、免疫優性なHLA-B44拘束性ネオ抗原を標的とした治療用ワクチンの開発機会を提供する。例えば、メラノーマで発現するHLA-B44拘束性ネオ抗原を標的としたワクチン設計の根拠となる。
残された課題: 今後の検討課題として、HLA-B15:01の構造的特徴がT細胞認識を障害するという仮説の実験的検証が必要である。具体的には、HLA-B15:01に結合したネオ抗原に対するT細胞応答をin vitroおよびin vivoで評価し、ブリッジ構造がTCR結合親和性やT細胞活性化に与える影響を詳細に解析する必要がある。また、HLA-I遺伝子型情報をICBの臨床試験デザインに組み込み、その予測的価値を前向きに検証することも重要である。本研究のlimitationとしては、特定の癌種(メラノーマ、NSCLC)に焦点を当てたこと、およびコホート間の治療レジメンの異質性が挙げられる。今後、より多様な癌種や治療法におけるHLA-I遺伝子型の影響を評価する研究が望まれる。
方法
本研究では、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 治療を受けた2つの独立した癌患者コホートを対象とした。
コホート1: 全エクソームシーケンス (WES) および臨床データが利用可能な369例の患者で構成された。内訳は、進行性メラノーマ患者269例 (先行研究で報告済み) と、進行性非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者100例であった。これらの患者は、抗CTLA-4抗体または抗PD-1抗体による単剤療法を受けていた。NSCLC患者は主に抗PD-1単剤療法であった。
コホート2: Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) でMSK-IMPACT標的次世代シーケンス (NGS) を受けた1166例の患者で構成された。このコホートには、メラノーマおよびNSCLCを含む多様な癌種が含まれ、患者は抗CTLA-4抗体、抗PD-1/PD-L1抗体、またはこれらの併用療法を受けていた。
HLA-Iジェノタイピング: 両コホートの全患者について、血液または正常DNAから高解像度HLA-Iジェノタイプを決定した。これは、WESデータからのHLAタイピング、または臨床的にバリデートされたLabCorp HLAタイピングアッセイを用いて実施された。
HLA-I LOHの同定: コホート1の腫瘍エクソームデータを用いて、HLA-I遺伝子座におけるヘテロ接合性喪失 (LOH) を同定した。具体的には、生殖細胞系列でヘテロ接合性を示すHLA-I遺伝子座が、腫瘍細胞でソマティックに消失しているケースを解析した (n=32)。
統計解析: 全生存期間 (OS) の解析には、Cox比例ハザード回帰モデルを用いた。多変量解析では、変異量、病期、年齢、薬剤クラスなどの共変量を調整した。HLA-Iホモ接合性とOSの関連は、各コホートで独立して評価され、その後、両コホートを統合した1535例のデータで解析された。ログランク検定を用いて生存曲線を比較した。
HLAスーパータイプ解析: メラノーマ患者コホートにおいて、HLA-AおよびHLA-Bの27アレルと50アレルをそれぞれ12のスーパータイプに分類し、各スーパータイプとOSとの関連を評価した。Bonferroni補正を適用して多重比較の問題に対処した。
TCRシーケンス解析: サブセットの腫瘍サンプル (Nivolumab治療開始後4週目) からT細胞受容体 (TCR) CDR3領域の次世代ディープシーケンス (TCR-seq) を実施した。HLAヘテロ接合患者とホモ接合患者の間で、治療中のTCR CDR3のクローン性を比較した (Wilcoxon順位和検定)。
分子動力学 (MD) シミュレーション: HLA-B15:01アレルがICB奏効不良と関連する可能性を探るため、分子動力学シミュレーションを実施した。HLA-B15:01、HLA-B07:02、HLA-B53:01の3つのアレルについて、ペプチド結合溝内の構造的ブリッジ (Arg62、Ile66、Leu163) の動態を500ナノ秒 (ns) にわたって解析した。これにより、ペプチド結合時のブリッジ構造の変化と、それがT細胞によるネオ抗原認識に与える影響を評価した。