- 著者: Zhijie Wang, Jianchun Duan, Shangli Cai, Miao Han, Hua Dong, Jun Zhao, Bo Zhu, Shuhang Wang, Minglei Zhuo, Jianguo Sun, Qiming Wang, Hua Bai, Jiefei Han, Yanhua Tian, Jing Lu, Tongfu Xu, Xiaochen Zhao, Guoqiang Wang, Xinkai Cao, Fugen Li, Dalei Wang, Yuejun Chen, Yuezong Bai, Jing Zhao, Zhengyi Zhao, Yuzi Zhang, Lei Xiong, Jie He, Shugeng Gao, Jie Wang
- Corresponding author: Jie Wang, MD, PhD (State Key Laboratory of Molecular Oncology, Department of Medical Oncology, National Cancer Center/Cancer Hospital, Chinese Academy of Medical Sciences & Peking Union Medical College, Beijing, China)
- 雑誌: JAMA Oncology
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-02-28
- Article種別: Original Article
- PMID: 30816954
背景
腫瘍変異負荷 (TMB) は、ゲノム不安定性を示す指標であり、ネオアンチゲン産生を誘導し、免疫原性を向上させる可能性を持つ。全エクソームシーケンス (WES) や次世代シーケンス (NGS) がん遺伝子パネル (CGP) によって測定されるTMBは、免疫チェックポイント阻害剤 (ICB) への反応と関連することが、メラノーマ、肺がん、尿路上皮がんなど複数の研究で確認されている。例えば、Snyder et al. NEnglJMed 2014 や VanAllen et al. Science 2015 はメラノーマにおけるTMBとICB反応の関連を報告し、Rizvi et al. Science 2015 は非小細胞肺がん (NSCLC) におけるPD-1阻害薬への感受性をTMBが決定することを示した。しかし、進行がん患者の多くは、十分な腫瘍組織を分子検査のために提供できないという課題が残されている。このため、非侵襲的なアプローチとして、血液中の循環腫瘍DNA (ctDNA) から推定される血液TMB (bTMB) がICB療法のガイドとなるかどうかが注目を集めている。
これまでの研究では、血液由来の意義不明なバリアントがICB反応と相関することが示唆されていたが、bTMBが免疫療法の臨床的バイオマーカーとなりうるかについては、さらなる検証が未解明であった。特に、Gandara et al. NatMed 2018 は、アテゾリズマブとドセタキセルの比較試験において、bTMBが16以上である場合に無増悪生存期間 (PFS) のベネフィットと関連することを示したが、最適なパネルサイズ、TMB算出アルゴリズム、および臨床的カットオフ値の確立が依然として課題として残されていた。また、Gandaraらの研究では、bTMBと組織TMB (tTMB) の相関が、WESを基準として評価されたわけではなかった。これらの背景から、bTMBを臨床的に実用可能なバイオマーカーとして確立するためには、技術的信頼性の検証と、ICB療法における臨床的有用性のさらなる検証が不足していた。特に、最適な遺伝子パネルサイズとTMB算出アルゴリズムの体系的な探索はこれまで行われておらず、この知識ギャップがbTMBの臨床導入を阻んでいた。
目的
本研究の目的は、まず、bTMB推定のための最適な遺伝子パネルサイズとアルゴリズムを探索し、それに基づいてNCC-GP150というCGPを設計することである。NCC-GP150 (National Cancer Center-Gene Panel 150) は、150個のがん関連遺伝子の全エクソン領域をカバーするよう設計された。次に、このNCC-GP150パネルを用いて推定されたbTMBと、WESによって測定されたtTMBとの間の相関を評価し、パネルの技術的信頼性を検証する。最後に、抗PD-1/PD-L1療法を受ける進行NSCLC患者の独立コホートにおいて、bTMBが臨床的アウトカム(無増悪生存期間 [PFS] および客観的奏効率 [ORR])と関連するかどうかを検証し、bTMBが免疫療法の臨床的に実行可能なバイオマーカーとしての実用性を確立することを目指す。具体的には、最適なbTMBカットオフ値を特定し、その予測的価値を評価する。本研究の主要エンドポイントは、bTMBとPFSおよびORRの関連を評価することであった。
結果
本研究では、NSCLC患者の2つの独立したコホート(コホート1: 48例、平均年齢60歳、女性31.2%;コホート2: 50例、平均年齢58歳、女性30.0%)を用いて、NCC-GP150によるbTMBとWESによるtTMBの相関、およびbTMBが抗PD-1/PD-L1療法から恩恵を受ける患者を識別する有用性を評価した。
NCC-GP150パネルの設計と仮想検証: TCGAデータベースの9,205サンプルのWESデータを用いた解析により、TMB推定においてパネルに含まれる遺伝子数が増加するにつれて、パネルベースTMBとWESベースTMBの相関が徐々に増加し、標準偏差が減少することが観察された。この相関は、150遺伝子を含んだ時点でプラトーに達した (Figure 1A)。NCC-GP150は、150個のがん関連遺伝子の全エクソン領域をカバーするように設計され、TCGAデータに基づくと、ほとんどのランダムサンプリングされた150遺伝子パネルよりも優れた性能を示した (Figure 1B)。既存のNGS遺伝子パネルとの比較では、MSK-IMPACT (468遺伝子) がWESベースTMBと最も高い相関 (r²=0.97) を示し、F1CDx (324遺伝子) とNCC-GP150 (150遺伝子) がそれに続き、いずれも高い相関 (r²=0.96) を示した (Figure 1C)。特に、同義変異をパネル由来TMB計算に含めることで、WESとの相関がさらに向上した (中央値r²=0.92)。また、Rizvi et al. Science 2015 の公開NSCLCコホート (34例) を用いた仮想検証では、NCC-GP150による高TMB群 (TMB中央値以上) の患者は、低TMB群と比較して有意に長いPFSを示した (14.5ヶ月 vs 5.2ヶ月、HR 0.36; 95% CI 0.14-0.93; log-rank p=0.03) (Figure 1D)。
NCC-GP150によるbTMBとWESによるtTMBの相関 (コホート1): NCC-GP150パネルを用いたctDNAシーケンスによるbTMBの信頼性を評価するため、進行NSCLC患者48例 (コホート1) のマッチした腫瘍組織と血漿サンプルを用いて、それぞれWESとNCC-GP150シーケンスを実施した。NCC-GP150ベースのbTMBとWESベースのtTMBのSpearman相関係数は0.62であった (eFigure 5A)。WES TMBの中央値 (75) をカットポイントとして設定した場合、bTMBが6以上である場合に最適なYouden指数0.59を示し、感度0.88、特異度0.71であった (eFigure 5B)。この結果は、NCC-GP150パネルが組織TMBの代替としてbTMBを推定する上で技術的な信頼性を持つことを強く示唆する。
bTMBとICB療法における臨床的アウトカムの関連 (コホート2): ICB療法から恩恵を受ける患者をbTMBが識別できるかを検証するため、抗PD-1/PD-L1療法を受けた進行NSCLC患者50例の独立コホート (コホート2) を解析した。bTMBとPD-L1発現は相関しないことが確認された (eTable 5)。bTMBのカットポイントを6に設定したとき、ハザード比 (HR) とp値が最小値に達した (eFigure 6)。低bTMB群 (bTMB<6、n=22) と比較して、高bTMB群 (bTMB≥6、n=28) の患者は、有意に優れたPFSを示した (高bTMB群: PFS中央値未到達; 95% CI 2.8ヶ月-未到達; 低bTMB群: PFS中央値2.9ヶ月; 95% CI 2.7ヶ月-未到達; HR 0.39; 95% CI 0.18-0.84; log-rank p=0.01) (Figure 2A)。また、高bTMB群の患者は腫瘍縮小を経験する可能性が高く (Figure 2B)、客観的奏効率 (ORR) も有意に高かった (高bTMB群: 39.3%; 95% CI 23.9-56.5% vs 低bTMB群: 9.1%; 95% CI 1.6-25.9%; p=0.02) (Figure 2C)。奏効患者は非奏効患者よりも有意に高いbTMBレベルを示した (中央値10 vs 5; Mann-Whitney p=0.02) (Figure 2D)。
多変量解析によるbTMBの独立予測因子としての評価: 単変量Cox比例ハザード回帰モデルでは、ECOGパフォーマンスステータスと治療ライン数もPFSと関連していた (ECOG: HR 2.67; 95% CI 1.21-5.88; p=0.02; 治療ライン数: HR 4.50; 95% CI 2.05-9.89; p<0.001)。多変量Cox比例ハザード回帰モデルにおいて、bTMB、ECOG、および治療ライン数を調整した後も、bTMBとPFSの関連は有意であった (HR 0.44; 95% CI 0.20-0.99; p=0.05)。多変量ロジスティック回帰分析でも、bTMBステータスはORRと独立して正の関連を示した (OR 11.69; 95% CI 2.16-111.6; p=0.01) (Table)。これらの結果は、bTMBが他の臨床因子とは独立して免疫療法の効果を予測する強力なバイオマーカーであることを裏付けている。
サブグループ解析におけるbTMBの予測的価値: サブグループ解析として、一次または二次治療のNSCLC患者におけるbTMBとPFSの関連をさらに検討した。このサブグループでも、bTMBのカットポイントを6に設定したときにHRとp値が最小値に達し (HR 0.08; 95% CI 0.02-0.36; p=0.001) (eFigure 7)、bTMBが6以上の患者は、bTMBが6未満の患者と比較して有意にPFSが延長した (PFS中央値未到達 vs 2.9ヶ月; 95% CI 2.7ヶ月-未到達; HR 0.08; 95% CI 0.02-0.36; log-rank p<0.001) (eFigure 8A)。また、このサブグループにおいて、bTMBが6以上の患者はORRが有意に高かった (61.1%; 95% CI 39.2-80.1% vs 6.7%; 95% CI 0.3-27.9%; p=0.003) (eFigure 8B)。奏効患者は非奏効患者よりも有意に高いbTMBレベルを示した (中央値10 vs 5; Mann-Whitney p=0.008) (eFigure 8C)。これらの結果は、NCC-GP150パネルによって測定されたbTMBが、NSCLC患者におけるICB療法の潜在的な臨床的バイオマーカーであることを確認するものである。
考察/結論
本研究は、最適化された遺伝子パネルサイズとアルゴリズムを持つNCC-GP150パネルが、WESベースのtTMBの代替としてbTMB推定に実行可能であることを示唆する。また、bTMBが抗PD-1/PD-L1療法を受けるNSCLC患者において、臨床的ベネフィットを識別する潜在的なバイオマーカーとなりうることを検証した。
先行研究との違い: これまで、bTMBの臨床的有用性に関する研究は限られており、特に最適なパネルサイズやTMB算出に含めるべき変異の種類については未解明な点が多かった。Gandara et al. NatMed 2018 はbTMBがアテゾリズマブ治療におけるPFSベネフィットの指標となることを報告したが、その研究ではWESベースのtTMBを基準としたbTMBの信頼性評価は行われていなかった。本研究は、WESデータを用いて体系的に最適な遺伝子パネルサイズとアルゴリズムを探索し、その結果設計されたNCC-GP150パネルがWESベースのtTMBと良好な相関 (Spearman相関係数0.62) を示すことを技術的に検証した点で、これまでの研究と異なるアプローチをとっている。
新規性: 本研究で初めて、TCGAデータを用いた仮想検証により、TMB推定には最低150遺伝子のパネルサイズが十分であることを体系的に示した。また、同義変異をパネル由来TMB計算に組み込むことで、WESとの相関が向上することも確認された。NCC-GP150は、既存のMSK-IMPACT (468遺伝子) やF1CDx (324遺伝子) と同等の性能を維持しつつ、より少ない遺伝子数で設計されており、コスト効率に優れる可能性がある。さらに、bTMBが6以上というカットオフ値が、抗PD-1/PD-L1療法を受けるNSCLC患者のPFS延長 (HR 0.39; 95% CI 0.18-0.84; p=0.01) およびORR向上 (39.3% vs 9.1%; p=0.02) と有意に関連することを、独立した臨床コホートで初めて実証した。
臨床応用: 本知見は、進行NSCLC患者に対する免疫チェックポイント阻害剤治療において、bTMBが治療効果を予測する潜在的なバイオマーカーとして臨床応用可能であることを示唆する。特に、腫瘍組織の入手が困難な患者にとって、非侵襲的な液体生検によるbTMB測定は、治療選択の重要な情報源となる。NCC-GP150のような最適化された小規模パネルは、より低コストで迅速な検査を可能にし、臨床現場での実用性を高める。また、本研究では、ECOGパフォーマンスステータスや治療ライン数がPFSと負の相関を示すことも確認されており、早期のICB療法導入の重要性も示唆される。
残された課題: 本研究にはいくつかの限界が残されている。第一に、臨床的検証が後ろ向き研究であり、コホートサイズが限定的 (n=50) であるため、統計的バイアスが生じる可能性がある。第二に、臨床コホートは異なる試験(抗PD-1および抗PD-L1治療)から得られたものであり、これが最終的な生存アウトカムに影響を与える可能性も否定できない。第三に、仮想検証にはTCGAデータを用いたが、技術的および臨床的検証には中国のコホートを用いたため、人種間の発がんドライバー変異の有病率の違いが解析の妥当性に潜在的な交絡効果をもたらす可能性がある。今後の検討課題として、より大規模な前向き無作為化臨床試験によるbTMBの臨床的有用性の確認が不可欠である。また、腫瘍量が低い症例におけるctDNAベースのbTMB推定の精度向上も今後の研究で取り組むべき点である。
方法
本研究は、2016年7月19日から2018年4月20日にかけて実施された後ろ向きコホート研究であり、以下の4段階から構成された。
-
パネル設計と仮想検証: The Cancer Genome Atlas (TCGA) データベースの9,205サンプルのWESデータを用いて、遺伝子パネルサイズとTMB推定精度の関係を解析した。これにより、全エクソン領域をカバーする150個のがん関連遺伝子から構成されるNCC-GP150パネルを設計した。このパネルの性能は、MSK-IMPACT (468遺伝子)、F1CDx (324遺伝子)、Guardant360 (73遺伝子) など既存のCGPと比較して仮想的に検証された。また、同義変異 (synonymous mutations) の包含がTMB推定精度に与える影響も評価された。さらに、Rizvi et al. Science 2015 の公開NSCLCコホート (34例) を用いて、NCC-GP150に基づくTMBがICB治療の生存アウトカムを層別化する性能を評価した。
-
技術的検証 (コホート1、n=48): 進行NSCLC患者48例から、十分な腫瘍組織サンプルとそれにマッチする血漿サンプルを収集した。これらのサンプルを用いて、腫瘍組織からはWESによりtTMBを、血漿からはNCC-GP150パネルを用いたシーケンスによりbTMBをそれぞれ測定した。NCC-GP150 bTMBとWES tTMBの相関は、Spearman相関係数を用いて評価された。WES TMBの中央値 (75) を基準として、Youden指数に基づき、bTMBの最適なカットオフ値を特定した。
-
臨床的検証 (コホート2、n=50): 抗PD-1/PD-L1療法を受ける進行NSCLC患者50例の独立コホートを対象に、NCC-GP150によって推定されたbTMBが臨床的アウトカム(無増悪生存期間 [PFS] および客観的奏効率 [ORR])と関連するかどうかを解析した。PFSの解析にはKaplan-Meier曲線とログランク検定、Cox比例ハザードモデルが用いられた。ORRの解析にはロジスティック回帰が用いられ、オッズ比 (OR) と95%信頼区間 (CI) が算出された。多変量解析では、単変量解析でp値が0.05未満であったベースライン変数をモデルに含めた。
-
統計解析: 統計解析にはGraphPad Prismソフトウェア (バージョン5.0) およびRソフトウェア (バージョン3.5.0) が使用された。TMBの相関はPearson相関係数 (r²) で評価され、bTMBとtTMBの相関はSpearman順位相関係数で評価された。カテゴリカル変数の比較にはχ²検定またはFisher正確検定が、連続変数の比較には2標本t検定またはMann-Whitney U検定が用いられた。すべてのp値は両側検定であり、p<0.05が統計的に有意であると判断された。