• 著者: Yoshiaki Nakamura, Hiroya Taniguchi, Masafumi Ikeda, Hideaki Bando, Ken Kato, Chigusa Morizane, Takayuki Yoshino
  • Corresponding author: Takayuki Yoshino (National Cancer Center Hospital East, Japan)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-11-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33020649

背景

固形がんの分子標的治療に向けた遺伝子スクリーニングは主に組織生検に依存してきたが、進行消化器がん (GI癌) では再生検の困難さ、腫瘍の不均一性、検体品質が課題であった。液体生検 (ctDNAシークエンシング) は低侵襲で繰り返し実施可能な代替手段として注目されていたが、実際の臨床的有用性 (スクリーニング効率、試験登録率、治療アウトカム) を組織生検と比較した大規模リアルワールド研究は不足していた。例えば、非小細胞肺癌 (NSCLC) における研究では、組織生検を必要とする臨床試験はスクリーニング期間の延長 (34日 vs 14日) や失敗率の増加 (49% vs 27%) に関連することがSpiegel et al. Cancer 2017により報告されており、進行がん患者における迅速なスクリーニングの重要性が示唆されていた。また、ctDNAのゲノムプロファイル検出能力は組織分析と比較して高い精度を示すことがThompson et al. ClinCancerRes 2016により示されており、NSCLCにおけるEGFR変異や大腸癌 (CRC) におけるRAS変異のPCRベースctDNAアッセイは臨床で承認・導入されている。しかし、ctDNAジェノタイピングの臨床的有用性を組織と比較した、対照的で大規模な比較研究はこれまで報告されておらず、そのエビデンスは不足しており、課題が残されていた。日本のSCRUM-Japan (Signal Identification to Cure Malignancy with Multi-omics Approach in Japan) コンソーシアムは多施設共同の遺伝子スクリーニングプラットフォームを構築しており、組織ベース (GI-SCREEN) とctDNAベース (GOZILA) の直接比較が可能な世界初の大規模コホートを形成した。ctDNAジェノタイピングの臨床的意義を大規模かつ比較可能なコホートで検証することは、精密医療の加速と患者への提供において極めて重要であるにもかかわらず、そのエビデンスは不足しており、課題が残されていた。

目的

SCRUM-Japan GI-SCREEN (組織シークエンシング) とGOZILA (ctDNAシークエンシング) の二つのスクリーニング研究を比較し、進行GI癌患者でのctDNAによる遺伝子スクリーニングの臨床的有用性 (スクリーニング効率、試験登録率、治療アウトカム) を評価すること。

結果

スクリーニング効率の比較: スクリーニング結果報告までの期間はctDNA群 (中央値11日) が組織群 (中央値33日) と比較して有意に短かった (Mann-Whitney P < 0.0001)。検体採取失敗率はctDNA群で0.1%に対し組織群で10.6%と顕著に低く、液体生検の実施容易性が確認された (Fig. 1a, b)。これらの差はctDNAが採血のみで実施可能であり、腫瘍生検の予約、組織処理、DNA抽出等のプロセスを省略できることによる。ctDNA群では、ターゲット治療に適格な患者の割合も有意に増加した (レベル1または2の推奨変異で7.9% vs 6.0%、P < 0.0001)。

試験登録率の改善と期間短縮: 分子標的マッチング臨床試験への登録率はctDNA群で9.5%と組織群の4.1%と比較して有意に高かった (カイ二乗検定 P < 0.0001) (Fig. 1d)。ctDNA群ではスクリーニング期間の短縮と検体失敗の低減により、より多くの患者が適格性評価を完了し、試験への登録が実現したと考えられる。特に体力維持や全身状態の悪化が速い進行がん患者では、スクリーニング期間の短縮が試験登録可能な患者数を直接増加させる。スクリーニング開始から臨床試験登録までの期間は、ctDNA群で中央値1.0ヶ月、組織群で5.9ヶ月と、ctDNA群で83%短縮された (Mann-Whitney P < 0.0001)。これは、ctDNAベースのスクリーニングが、患者の臨床試験へのアクセスを大幅に改善することを示している。

治療アウトカムへの影響 (ORR・PFS): 試験登録後の治療アウトカムは、ctDNA群と組織群の間で有意差は認められなかった。ORRはctDNA群20.0%に対し組織群16.7% (Fisher’s exact P = 0.69) であり、PFSは中央値2.4ヶ月に対し2.8ヶ月 (HR=1.07, 95% CI 0.70-1.63, ログランクP = 0.70) と同等であった (Fig. 1f, g)。これはctDNAによる遺伝子スクリーニングが組織スクリーニングと同等の治療標的選択能を持ち、臨床的に代替可能であることを示す。両群の患者背景は類似しており (Supplementary Table 5)、ctDNAジェノタイピングが治療効果を損なうことなく、迅速な患者登録に貢献できることを裏付けている。

ctDNAゲノムプロファイルのランドスケープと生殖細胞系BRCA変異の偶発的同定: GOZILA患者のゲノムプロファイルを解析した結果、ctDNAは全n=1,573例の91.4% (n=1,438) で検出された。ESCC (食道扁平上皮癌) とCRCで最も高い検出率 (それぞれ99.1% (107/108) と96.0% (628/654)) を示し、膵臓癌 (PDAC) と胃食道腺癌 (GEA) で最も低かった (それぞれ83.4% (304/363) と85.8% (223/260)) (Fig. 2a)。がん関連遺伝子/経路における変異の有病率は、既報の進行GI悪性腫瘍の報告と一致した。腫瘍変異負荷 (TMB) の推定値やマイクロサテライト不安定性 (MSI) の有病率も、組織検査に基づく過去の報告を反映しており、TMBスコアはMSI-H群で有意に高かった (P < 0.0001) (Fig. 2c, d, Extended Data Fig. 4)。GOZILAのctDNA解析において、n=1,687例の1.5% (n=26例) で生殖細胞系BRCA変異 (germline variant allele fraction ≥ 30%) が偶発的に同定された (Fig. 2e)。がん種別ではPDACでgermline BRCA2変異が3.0% (11/363例) と特に高く、PARP阻害薬適応検討のための遺伝カウンセリングへの紹介が必要な症例として同定された (Fig. 2f)。胆道癌 (CCA) でも4.3% (8/188例) でgermline BRCA2変異が検出された。ctDNAが体細胞変異の検出だけでなく、生殖細胞系変異の発見にも寄与できることが示された。

ctDNAと組織のコンコーダンス: ctDNAと組織ジェノタイピングのコンコーダンスは、ctDNAのクローン性 (clonal fraction) に依存することが示された。ctDNAの陽性適中率 (PPV) は、ctDNAのクローン性 (clonal fraction) が低い値 (<30%) では依存性が高かったが、高い値ではほぼ非感受性であった (Fig. 3a)。クローン性変異のPPVは80.3%と、サブクローン性変異の8.3%と比較して有意に高かった (Fisher’s exact test P < 0.0001) (Fig. 3b)。これは、サブクローン性ctDNA変異が単一の組織生検では見逃されがちな不均一に分布する変異を反映していることを示唆する。CRC患者n=232例におけるKRAS、NRAS、BRAF変異のctDNAと組織間の全体的なコンコーダンスは84.9-100%と高かったが、クローン性変異では97.0-100%とさらに高かった (Fig. 3c)。

考察/結論

本研究は、進行GI癌の大規模リアルワールドコホートにおいて、ctDNAシークエンシングが組織シークエンシングと比較してスクリーニング効率と試験登録率で顕著に優れる一方、治療アウトカムは同等であることを初めて実証した。本研究は、主に感度・特異度の観点でctDNAを評価していたこれまでの研究 Leighl et al. ClinCancerRes 2019 とは対照的に、試験登録率や治療アウトカムという臨床的エンドポイントを用いた比較を大規模コホートで実施した点に新規性がある。これは、ctDNAジェノタイピングが、臨床研究における患者選択の質を損なうことなく、スクリーニング期間を短縮し、物流上の障壁を低減することで、治験登録を加速できることを明確に示している。

臨床的意義として、進行GI癌のゲノムスクリーニングにおいてctDNAを第一選択として用いることで、治療開始までの期間を短縮し、より多くの患者が分子マッチング試験に参加できる。特に、PDACやCCAにおいて偶発的に検出されたgermline BRCA変異は、PARP阻害薬の適応を検討する上で重要な情報であり、臨床応用の可能性を示唆する。例えば、PDAC患者の3.0%に未診断の病原性germline BRCA2変異が検出され、PARP阻害薬治療による生存改善が期待される。日本のSCRUM-Japanコンソーシアムが構築した多施設共同スクリーニングのインフラは、液体生検を組み込んだ次世代の精密医療プラットフォームのモデルとなり得る。

残された課題として、ctDNAと組織の相補的使用の最適化 (特にctDNA陰性例での組織スクリーニングの適応)、より高感度な次世代ctDNAパネルの実装、生殖細胞系変異発見時の遺伝カウンセリング体制の整備、および個別の分子標的に対するctDNA誘導治療の前向きランダム化試験での有効性検証が挙げられる。また、本研究は進行期治療中の患者に限定されており、初回治療におけるctDNAの有用性については今後の検討が必要であるというlimitationがある。さらに、異なるシーケンシングプラットフォーム間での比較はレトロスペクティブに行われたため、結果の解釈には注意が必要である。

方法

GI-SCREENは2015年2月から2019年4月にかけて施設で収集した組織検体 (n=5,621例、12がん種) を対象にした包括的な遺伝子パネル解析 (次世代シークエンシング、Oncomine comprehensive assay v.1/v.3) を行った。GOZILAは同時期にn=1,687例の進行GI癌患者の血漿ctDNA (Guardant360パネル) 解析を前向きに実施した。両コホートでスクリーニング期間 (検体採取から結果報告までの日数)、試験登録率、検体失敗率を比較した。試験登録患者での客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS) をctDNA群と組織群で比較した (傾向スコアマッチング補正)。GOZILA内でのgermline BRCA変異偶発的検出率も解析した。統計解析にはカイ二乗検定またはFisherの正確検定をカテゴリカルデータに、Mann-Whitney U testを連続データに用いた。PFSはKaplan-Meier法で推定し、ログランク検定で比較した。ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) はCox比例ハザードモデルを用いて算出した。本研究は観察研究であるため、事前のサンプルサイズ計算は行われなかった。本研究はUMIN臨床試験登録システム (UMIN000016343, UMIN000016344, UMIN000029315) に登録された。