• 著者: Sarah R. Weiler, John M. Gooya, Mariaestela Ortiz, Schickwann Tsai, Steven J. Collins, Jonathan R. Keller
  • Corresponding author: Jonathan R. Keller (Intramural Research and Support Group, NCI-Frederick Cancer Research and Development Center, Frederick, MD)
  • 雑誌: Blood
  • 発行年: 1999
  • Epub日: 1999-01-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 9885214

背景

造血 (hematopoiesis) は PHSC (pluripotential hematopoietic stem cell; 多能性造血幹細胞) から 8 系統の血液細胞へ分化する精緻なプロセスであり、c-myb・c-myc・c-kit・c-fos などの癌遺伝子や AML1 (acute myeloid leukemia 1)・PLZF (promyelocytic leukemia zinc finger protein) などの転写因子が段階特異的に関与することが徐々に解明されてきた。MPRO (myeloid progenitor-derived promyelocyte) 細胞株の解析によって、dominant-negative RAR (retinoic acid receptor; RARα403 変異体) の発現が promyelocyte 段階での好中球分化を阻止することが示され (Tsai et al. ProcNatlAcadSciUSA 1993)、後続の MPRO を用いた包括的な遺伝子発現解析によって骨髄系分化の転写プログラムの骨格が明らかとなった (Blood 2002)。正常 PHSC は FACS (fluorescence-activated cell sorting) と磁気ビーズ精製で単離できることが示されていたものの (Spangrude et al. 1988)、骨髄細胞の 0.01-0.005% と極めて希少で不均一であるため、多分化能前駆細胞から骨髄系へのコミットメント過程で段階特異的に制御される遺伝子群を体系的に同定する技術的基盤が不在であった。分化連続する細胞株ペアを用いた差次スクリーニング系が確立されておらず、骨髄系各分化段階を忠実に代表するモデルシステムの整備が最大の障壁として残されていた。特に、活性化腹腔マクロファージで IFNβ/IFNγ/LPS (lipopolysaccharide) 刺激により誘導されることが報告されていた interferon-inducible 200 family 遺伝子の D3 については、正常造血・骨髄系分化過程における HGF 依存的な発現制御機構と lineage-specific 発現パターンが全く未解明であり、IL-3/SCF との関連も全く報告されていなかった。

目的

EML (多能性前駆細胞株; Lin-lo c-Kit+ Sca-1+) と MPRO (promyelocyte 段階の細胞株) のペアを用いた DDRT-PCR (differential display reverse transcription polymerase chain reaction) で骨髄系分化に伴い差次発現する遺伝子を同定し、スクリーニングで得られた D3 遺伝子の発現パターン・誘導要件・lineage 特異性を cell line および正常骨髄細胞で解析することで、正常造血の制御因子を見出す。

結果

DDRT-PCR による差次発現クローンの同定と D3 の帰属:EML と MPRO の RNA を 12 primer pair で比較した DDRT-PCR から n=15 の候補バンドが得られ、このうち Northern blot で確認されたのは 3 クローンであった (Fig 1A)。EG4C1 は EML 特異の 8.7-kb 転写産物を認識し、EG4C2 は EML 高発現の 2.7 kb / 1.5 kb 二重バンドを認識し、MPRO 特異の 1.6-kb 転写産物を認識した MC2C5 は配列解析で interferon-inducible 200 family 遺伝子 D3 の 3’UTR (untranslated region) と完全一致した。D3 のヒト相同体 MNDA/IFI16/AIM2 は human 1q21-32 / distal mouse chromosome 1 の conserved linkage group に位置し、マウスには少なくとも 4 メンバー (p202/p204/p203/D3) が同定されている多遺伝子クラスターの一員であることが確認された。EG4C1・EG4C2 はデータベース未登録の novel cDNA であったが、本報告では D3 の解析に焦点を当てた。

SCF + IL-3 + atRA による D3 誘導の特異性と時間的動態:無処理の EML 細胞では D3 RNA は検出されないが、SCF + IL-3 + atRA 処理で day 2 (48 時間後) から誘導が始まり、day 5 で最大発現 (day 2 比 1.7-fold 増) に達した後、成熟好中球・マクロファージが出現する day 6 に低下した (Fig 1C, D; n=3 独立した誘導実験で一貫して再現)。rSCF と BHK 条件培地 (CM) を比較した実験 (n=3) では、day 1-2 間で 27% の発現増加が確認され両条件で動態が一致した。誘導要件の解析では、SCF 単独・IL-3 単独・SCF + atRA・SCF + IFNγ (16 時間)、および SCF と 15 種の HGF (GM-CSF / EPO / G-CSF / M-CSF / IL-7 / IL-6 / IL-1α / IFNγ / TGFβ) のいずれの組み合わせでも D3 誘導は認められず (Table 1)、IL-3 + SCF の組み合わせが必須で atRA は強力な増強因子として作用することが明確に示された。IFNγ に対しては EML 細胞が受容体陰性であったため D3 は誘導されず、IFN 依存性の macrophage での D3 誘導とは異なる独立した誘導経路であることが示唆された。MPO (myeloperoxidase; 好中球顆粒タンパク質) の発現動態との比較では、MPO が処理後 2-4 時間で急速な第 1 峰を示し 8 時間で基礎値に戻るのに対し、D3 は day 4-5 の第 2 MPO 発現峰と対応し、成熟顆粒球の出現に連動する遅延型パターンを示した。

骨髄系分化の形態変化および HGF 応答性前駆細胞産生との相関:EML 細胞の形態観察では、SCF + IL-3 + atRA 処理前は 94% がブラスト/前骨髄球であったものが、day 2 で 78% ブラスト + 13% 分節/桿状核好中球 + 9% マクロファージへと変化し、day 4 で 50% + 35% + 15%、day 6 で 34% + 44% + 22% と IL-3 依存的に骨髄系細胞の割合が増加した (Table 3)。IL-3 を除いた SCF + atRA 条件では day 6 でも形態変化は観察されず IL-3 が分化誘導の必須ドライバーであることを確認した。軟寒天 CFU-c assay では、100,000 EML 細胞あたりの GM-CSF 応答性コロニー数が day 0 の 12 個から day 3 の最大 2,000 個 (167-fold 増) へ劇的に増加し (Fig 5A)、EPO 応答性コロニーは day 4 に最大 850 個に達した (SCF + atRA のみでは 0 個) (Fig 5B)。SCF 応答性コロニーは IL-3 + SCF + atRA 条件で経時的に一定を保った一方、SCF + atRA 条件では 25,000 から 200,000 個へ増加した (Fig 5C)。これらのデータは D3 発現動態と GM-CSF / EPO 応答性 CFU-c の出現とが時間的に整合することを定量的に示した。

cell line panel および正常造血細胞における lineage restriction の確立:n=18 株のハマトポエティック cell line panel で D3 発現を Northern blot で解析した結果 (Table 2)、promyelocyte 段階の MPRO・EPRO は高発現を示し、それより未分化な myeloid progenitor 6 株 (FDC-P1/IL-3、32D-Cl3、32D-Cl23、DA-3、M-NFS-60、FDC-P1/IL-4) は陰性であった。例外として NFS-58 のみ MPRO 同等の高発現を示した。T 細胞 (CTLL-2/EL4)・赤血球系 (HCD-57)・線維芽細胞 (NIH 3T3) は全て陰性で、myelomonocytic leukemia の Wehi-3b と IFNγ 刺激 GG2EE macrophage は陽性であった。正常 Lin-lo c-Kit+ Sca-1+ BMC (EML 細胞の生体内対応) は IL-3 + SCF で 7 日培養後に D3 RNA の誘導が確認され、Cla I 消化により D3 (完全消化) であって p204 (非切断) ではないことを証明した (Fig 3B)。正常造血細胞では Gr-1+ 顆粒球が D3 + p204 双方を発現し、B220+ B 細胞は p204 のみを発現し、MPRO/EPRO は D3 のみを発現するという lineage-specific な分布が示された。さらに正常 BMC を M-CSF で培養するとマクロファージ分化とともに D3 RNA が 1 日以内に誘導され day 1-2 にピークに達し、day 5 (>90% 成熟マクロファージ) には基礎レベルへ低下した (Fig 4)。正常組織では肺で最高発現、心臓・脾臓・骨格筋で低発現、脳・肝臓・腎臓・精巣で陰性であり、肺の活性化マクロファージ含量との整合が認められた (Fig 2A)。

考察/結論

本研究は EML/MPRO cell line ペアが骨髄系分化制御に関わる新規遺伝子同定の有効なモデルとなることを実証し、interferon-inducible 200 family 遺伝子 D3 が IFN とは独立した SCF + IL-3 シグナルにより正常骨髄系分化過程で誘導される lineage-restricted な制御遺伝子であることを新規に示した。D3 が EML では発現せず MPRO で高発現するという段階特異的パターンは、既報の IFN 刺激による macrophage での誘導とは対照的であり、これまでの研究では IFN 非依存の骨髄系前駆細胞での D3 制御は未報告であった。特に IL-3 + SCF の組み合わせのみが D3 を誘導し、GM-CSF を含む 15 種の HGF では代替できないという発見は、IL-3 欠損マウスの表現型が軽微であることを踏まえると生体内には IL-3 様機能を持つ未同定の分子が存在する可能性を示唆し、既知のサイトカイン依存性制御とは異なる制御機構の存在を提示した。

新規性の観点では、本研究で初めて D3 が IFN 非依存的に HGF シグナルで骨髄系分化過程において誘導されることが確立された。200 family タンパク質 (p202) は pRB / 53BP-1 / NF-κB / AP-1 / E2F と結合して転写・細胞周期を制御することが示されており (Evrard et al. Immunity 2018)、D3 も核局在化シグナルを持つ 425 アミノ酸塩基性タンパク質として同様の蛋白質間相互作用を介して granulocyte・macrophage 分化の転写プログラムに参加する候補と考えられる。また D3 発現が promyelocyte 以降の分化段階に限定されるという知見は、正常造血における段階特異的な gene expression program の一端を解明するものである。

臨床的意義として、AML (急性骨髄性白血病) などの骨髄系腫瘍における 200 family の aberrant 発現の解釈、および atRA を用いた分化療法 (APL) の分子基盤理解に新たな視点を提供する可能性がある。IL-3 + SCF が D3 誘導の必須要件であるという発見は臨床現場での myeloid 系サイトカイン療法の効果予測において参照価値を持ちうる。また IFN の immunomodulatory 作用と HGF 依存的な myelopoiesis における D3 の役割の相互関係が解明されれば、感染応答と正常造血の統合制御の理解が深まることが期待される。

残された課題として、今後の研究では D3 の DNA 結合活性・蛋白質相互作用パートナーの同定、および myeloid 分化における D3 発現の因果的役割の検証 (knockdown / overexpression) が必要である。D3 発現と myeloid 分化が相関するという観察は確立されたが、D3 が obligatory regulator か secondary effector かは不明のままである (limitation)。200 family 全メンバーが機能未知のまま残されており、future research によって各メンバーの固有の生物学的役割が解明されることが期待される。

方法

EML 細胞 (SCF 依存、Sca-1+/CD34+/c-Kit+/Thy-1+ の多能性 Lin-lo 前駆細胞株) および MPRO 細胞 (GM-CSF 依存、Mac-1+/8C5+ の promyelocyte 細胞株) から RNA を抽出し、12 primer pair を用いた DDRT-PCR を実施して差次発現 cDNA を同定、pCR II ベクターにクローニングして自動シーケンシング (ABI Model 373) で配列決定した。EML への分化誘導は SCF + IL-3 (30 ng/mL) + atRA (all-trans-retinoic acid; 10 μM) で行い、MPRO は atRA (10 μM) 単独で granulocyte 分化を誘導した。D3 発現解析は Northern blot (1% アガロース/ホルムアルデヒドゲル、D3 3’UTR 特異的 probe でハイブリダイゼーション、β-actin / G3PDH で loading 補正し走査型濃度計で定量) と RT-PCR (D3 と高相同性 family member p204 の判別は Cla I 制限酵素処理で D3 のみを消化; 505-bp 産物を確認) の 2 手法で実施した。正常骨髄細胞 (BMC; bone marrow cells) は 12 週齢 Balb/c 雌マウスの大腿骨から採取し、磁気ビーズ (40:1 ビーズ/細胞) による系譜枯渇 (Ly-6G/CD4/CD45R/CD11b/CD8 抗体) と 2 色 FACS (FITC-c-Kit + PE-Sca-1 MoAb) で Lin-lo c-Kit+ Sca-1+ 細胞を精製した。HGF (hematopoietic growth factor) 応答性は 3H-thymidine (1 μCi/ウェル、6-8 時間) 取り込み assay で評価し、形態学的解析は Wright-Giemsa 染色サイトスピン標本で 100-500 細胞を計数した。CFU-c (colony-forming units-culture) の定量は 0.3% agarose 軟寒天コロニー形成 (100,000 EML 細胞を GM-CSF / EPO / SCF 含有培地でプレーティング、37°C/5% CO2 で 7-10 日、>50 細胞コロニーを計数) で実施した。データの定量値は 3 回の独立した実験 (n=3) の平均 ± 標準誤差 (SEM; standard error of the mean) で示し、群間比較は Student’s t-test (両側) で解析して p<0.05 を統計的有意差とした。Northern blot のバンド強度は β-actin および G3PDH (glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase) に対する比として走査型濃度計で定量した。