- 著者: Maximilien Evrard, Immanuel W.H. Kwok, Shu Zhen Chong, Karen W.W. Teng, Etienne Becht, Andrés Hidalgo, Florent Ginhoux, Lai Guan Ng
- Corresponding author: Maximilien Evrard (University of Melbourne); Lai Guan Ng (Singapore Immunology Network, A*STAR)
- 雑誌: Immunity
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-02-20
- Article種別: Original Article
- PMID: 29466759
背景
好中球はヒト末梢血で最も豊富な免疫細胞であり、半減期がわずか19時間と極めて短いため、骨髄での恒常的な大量補給が不可欠である。古典的には GMP (granulocyte-monocyte progenitor) → myeloblast → promyelocyte → myelocyte → metamyelocyte → band cell → segmented neutrophil という形態学的段階区分が確立されているが、GMPから成熟好中球に至る各段階の分子マーカー、転写プログラム、機能特性、特に増殖期から末梢移行へと専門化する中間集団は未定義であった。近年、好中球の多様性を示す報告が増加しているが、その発生軌跡の高解像度解析は欠如していた。例えば、腫瘍微小環境における好中球の機能的多様性や、未熟好中球の動員が腫瘍進行と関連することが示唆されているが (Coffelt et al. NatRevCancer 2016、Coffelt et al. Nature 2015)、これらの細胞集団が骨髄内でどのように発生し、分化するのかは未解明な点が多かった。また、循環好中球の表現型多様性に関する研究も進んでいるが (Sagiv et al. CellRep 2015)、その発生学的起源や分化経路における機能的特化については、依然として知識のギャップが残されている。Fucci-(S-G2-M) マウス (S・G2・M期の細胞を蛍光標識) と質量分析サイトメトリー (CyTOF) の組み合わせにより、このギャップを埋める解析が可能になると考えられた。特に、好中球の発生経路における増殖能力の喪失と機能獲得の正確なタイミングは、これまで十分に解明されておらず、この点が好中球の多様性を理解する上で不足していた。
目的
CyTOF、細胞周期ベース解析 (Fucci マウス・IdUパルス)、RNA-seq、養子移入実験を組み合わせ、骨髄好中球の発生階層を機能・転写プロファイルとともに再定義し、感染ストレスおよび腫瘍ストレス下での各サブセットの挙動を明らかにすること。特に、増殖能を持つ前駆細胞から、遊走能やエフェクター機能を持つ成熟細胞への分化過程における分子メカニズムと機能的変化を詳細に解析し、ヒトにおける対応する細胞集団の同定を目指す。
結果
3つの骨髄好中球サブセットの同定と養子移入による分化軌跡の実証: CyTOFとFucci/IdUによる細胞周期解析を組み合わせることで、CD11b+Ly6G+骨髄好中球内に3つの別個の集団が同定された (Fig 1C, 2B)。これらは、増殖能を持つcommitted precursor「preNeu」(cKit^int CXCR4^hi Ly6G^lo CXCR2^-)、非増殖性「immature neutrophil」(CXCR4^hi Ly6G^int CXCR2^+)、成熟した「mature neutrophil」(CXCR4^lo Ly6G^hi CXCR2^hi CD62L^hi) の3群である。HSCやGMPでは40%以上の細胞がS-G2-M期に存在したのに対し、成熟白血球では10%未満であった (Fig 1B)。preNeuを養子移入した受容者マウス (n=5 mice) では、移入後に順次immature→matureへと分化する線形経路が実証された。preNeuは約1.5日でimmatureを経てmatureに到達することが推定された (Fig 4D)。BrdUパルス実験では、preNeuのみがBrdU陽性であり、24時間後にはimmature Neuに、48時間後にはmature Neuに分化することが示された (Fig 4E)。
転写・機能プロファイルの段階的特化 — 増殖から effector 機能へのスイッチ: RNA-seq解析では、preNeuが細胞周期遺伝子 (Ccna2, Cdk1等) とリボソーム生合成遺伝子を高発現する一方、抗菌・脱顆粒関連遺伝子 (Mpo, Elane, Ltf, Mmp9) はimmature/matureで段階的に蓄積された (Fig 3E, 3F)。GMPでは40%以上の細胞がS-G2-M期にある一方で、成熟白血球では10%未満と増殖活性が急減する (Fig 3H)。CXCR2 (末梢動員受容体)、TLR4、selectinリガンドの発現もmature段階で上昇した。機能アッセイでは、preNeuはROS産生 (ジヒドロローダミン法) ・貪食能 (FITCビーズ取り込み) をほぼ持たず、immature/matureで段階的に獲得された (Fig 5D, 5E)。matureでは十分なeffector機能 (貪食・脱顆粒・ROS産生) が実証された。PMA刺激によるROS産生能はmature Neuで有意に高く (p<0.01)、細菌貪食能も優れていた (p<0.05)。CXCR4高発現のpreNeu/immatureは骨髄niche内に保持され、CXCR2発現増大とCXCR4低下によって末梢への移行能を獲得することが確認された。preNeuはGMPからの下流集団として養子移入後約1.5日でimmatureへ、さらにmatureへ進む線形経路が実証された。
C/EBPε はpreNeuのマスター制御因子: Cebpe欠損マウス (Cebpe-/- mice, n=5 mice) では骨髄のCD11b+Ly6G+集団を解析するとpreNeu集団が消失し、下流のimmature/mature好中球が著減した (Fig 6A)。C/EBPαとGfi1はGMP段階での分化に必要であることが既知であったが、本研究はC/EBPεがGMPからpreNeuへのコミットメント (proliferative granulocytic precursorへの特化) に必須であることを同定した (Fig 5A)。Cebpe-/-マウスは好中球減少による感染脆弱性を呈し、RPA (reverse passive Arthus) 反応モデルにおいて好中球浸潤の減少と血管透過性の亢進 (p<0.001) が認められた (Fig 6D, 6E)。CLP (cecal ligation and puncture) 敗血症モデルでは、Cebpe-/-マウスは野生型と比較して血液および腹腔内の細菌クリアランスが不良であった (Fig 6F, 6G)。このことはC/EBPε変異が先天性好中球減少症の一因として機能しうることを示唆する。
ストレス応答での動態 — 感染・腫瘍ストレスでpreNeuが拡大し未熟好中球が末梢に動員される: LPS投与 (4 mg/kg) では骨髄内preNeuが顕著に拡大 (emergency granulopoiesis) し、新規mature好中球の末梢供給を増大させた。Candida albicans感染 (2×10^6 CFU) モデルでも同様のpreNeu拡大が確認された (Fig 7A, 7B)。B16メラノーマ皮下移植マウスおよびLLC肺癌皮下移植マウス (n=15-16 mice per group) では、preNeu拡大に加えてimmature好中球 (CD11b+Ly6G+CXCR4^hi) が末梢血・脾臓・腫瘍組織に異所性に動員され、健常マウスと比較して腫瘍担持マウス末梢血での未熟好中球 (Ly6G^int CXCR4^hi) 比率が有意に増加した (健常マウスの末梢血では10%未満、腫瘍担持マウスでは30〜50%程度に増加)。この異所性動員は血漿G-CSF濃度の上昇および骨髄CXCL1産生増大と一致した。Cebpe-/-マウスでは骨髄内のCD11b+Ly6G+細胞数が野生型と比較して約80%減少し、LPS投与後の骨髄での好中球緊急産生が著明に障害された。
ヒトカウンターパートと固形癌患者での循環未熟好中球増加: ヒト骨髄でのCyTOF解析でLin-CD66b+CD11b+CD49d+CD101- の集団がマウスpreNeuのカウンターパートとして同定され、その表現型的特徴 (増殖マーカー陽性、CXCR4^hi) がマウスpreNeuと共通していた (Fig S4H-K)。固形癌患者 (n=複数例) の末梢血では未熟好中球 (CD10-CD16^low) の割合が健常人より有意に高く、進行癌で増加する傾向が観察された (Fig 7N)。特に、循環 immature Neu の数は膵臓腫瘍重量と高い相関 (Pearson r^2=0.7316, p<0.0001) を示した (Fig 7O)。これはマウス腫瘍担持モデルの知見とヒト臨床データが整合することを示し、循環未熟好中球が腫瘍進行のバイオマーカー候補であることを支持する。
考察/結論
本研究は骨髄好中球を「増殖特化 (preNeu)」→「trafficking準備 (immature)」→「effector機能発揮 (mature)」という機能的に特化した3段階階層として再定義し、各段階の表面マーカー・転写プログラム・機能を系統的に実証した。CyTOF (40パラメータ) と細胞周期マーカー (Fucci-474 / IdUパルス) の組み合わせという解析アプローチは、形態学的分類を超えたgranulopoiesisの高解像度再定義に有用なフレームワークを提供した。腫瘍担持マウス末梢血での未熟好中球比率が健常マウスの<10%から30〜50%程度へ有意に増加するという定量的知見は、臨床バイオマーカーとしての妥当性を示す。
先行研究との違い: 先行研究では好中球の骨髄内発生段階は形態学的な記述に留まり、分子的特徴と機能との対応が不明であった。本研究は、C/EBPεをpreNeuのマスター制御因子として同定した点で、これまでの研究とは異なる新規性を持つ。Cebpe-/-マウスで骨髄の好中球が約80%減少し感染脆弱性を呈するという機能的エビデンスが示されている。C/EBPε変異は先天性好中球減少症 (severe congenital neutropenia) の原因としても知られており、本研究はその分子病態理解を発生学的に深め、将来的な治療標的となりうる。
新規性: 本研究で初めて、増殖能を持つpreNeu集団を同定し、その分化経路、転写プロファイル、機能特性を詳細に解析した。また、CD101が未熟好中球と成熟好中球を区別する新規マーカーとして機能することを発見し、腫瘍担持マウスおよびヒト固形癌患者の末梢血で循環未熟好中球 (CD10-CD16^low分画) が増加することを示した。この知見は、循環未熟好中球の増加が腫瘍進行のバイオマーカーとなりうるという新規の臨床的含意を持つ。
臨床応用: 腫瘍担持マウスとヒト固形癌患者で循環未熟好中球 (CD10-CD16^low分画) が増加する所見は、その後の研究 (G-MDSC vs 未熟好中球の境界議論、Coffelt et al. NatRevCancer 2016等) の発生学的基盤を提供した。臨床的には、循環未熟好中球比率が腫瘍進行のバイオマーカーや免疫療法応答予測因子となる可能性が示された。本知見は、好中球関連疾患の新規治療介入の基盤となる可能性を秘めており、特に癌患者における好中球の動態を理解し、臨床応用へと繋がる重要なステップである。
残された課題: 今後の検討課題として、preNeu/immature neutrophilの腫瘍内での免疫抑制機能 (PMN-MDSCとの関係)、ヒトpreNeuの機能的検証、CXCR4/CXCR2シグナル操作による好中球成熟段階制御の治療的応用可能性の検討が挙げられる。本研究はマウスのin vivoデータが中心であり、ヒトpreNeuの機能的特性は限定的にしか検証されていない点がlimitationである。
方法
マウス骨髄からCD45+細胞を単離し、40種マーカーを用いたCyTOF解析を実施した。細胞周期標識にはFucci-(S-G2-M) レポーターマウスおよびIdU (ヨードデオキシウリジン) パルスを用い、増殖細胞と非増殖細胞を識別した。Cytofkit Rパッケージを用いたt-SNE (t-distributed stochastic neighbor embedding) 次元削減とクラスタリングにより、細胞集団の類似性を2Dマップ上で可視化した。分化軌跡の確認には、精製した各サブセットのGFP陽性細胞を野生型マウス (C57BL/6) の骨髄へ養子移入する実験を実施し、その後の分化をフローサイトメトリーで追跡した。RNA-seq (各サブセット n=3 mice) で転写プロファイルを解析し、遺伝子発現パターンに基づいて階層的クラスタリングと遺伝子オントロジー (GO) 解析を行った。C/EBPεのpreNeuへのコミットメント依存性を検証するため、Cebpeノックアウトマウス (Cebpe-/-) を用いて骨髄細胞集団を解析し、キメラマウスを用いた競合的再構築実験も実施した。感染モデルにはLPS投与 (4 mg/kg) とCandida albicans感染 (2×10^6 CFU) を、腫瘍モデルにはB16メラノーマおよびLLC肺癌の皮下移植、さらにKPCマウス由来FC1242腫瘍細胞の膵臓への同所性移植を使用した。ヒトカウンターパートの同定は、ヒト骨髄および固形癌患者の末梢血サンプルに対してCyTOF解析を行い、マウスで同定されたマーカーのヒトにおける発現パターンを評価した。統計解析にはStudent’s t検定または一元配置分散分析 (ANOVA) をBonferroni補正付きで用い、相関分析にはPearson相関検定を実施した。