• 著者: Paul J. Lee, Alison M. Taylor, Caitlin M. Taber, Thomas J. Urban, Jack J. Chen, Elaine H. Ding, Winifred M. Mak, Prabhu S. Ponnaiya, Danielle M. Dang, Jacob S. Harber, Alexandra Dos Santos, Michael F. Goldstein, Adriana Elwi, Victor F. Avila-Vargas, Susan P. Napravnik, Alexander B. Sibinga, David B. Page, Amanda Ewart Toland, Mina Sheikholeslami, Michael J. McConnell, David M. Bhatt, Joanna E. Burdette, Joanna Bhatt, Bo R. Rueda, Frank Slack
  • Corresponding author: Honami Naora (The University of Texas MD Anderson Cancer Center)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2025
  • Epub日: 2025-01-13
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 39753138

背景

卵巣癌は腹腔内播種・大網 (omentum) 転移を高頻度に引き起こし、予後不良の主因となる。大網は脂肪組織、線維芽細胞、常在マクロファージ、間皮細胞から構成され、腫瘍増殖と浸潤を促進する脂質やサイトカインを供給することが知られている (Nieman et al. Nat Med 2011)。特に、大網は腹腔内の体液を大量に吸収する機能を有し (Akasaka et al. JCI Insight 2023)、他の腹膜脂肪組織と比較して Fat-associated lymphoid clusters (FALCs) と呼ばれるリンパ様構造が豊富に存在する (Hagiwara et al. Cancer Res 1993, Bénézech et al. Nat Immunol 2015)。癌細胞は腹腔液中で大網FALCsに定着しやすいことが示されているが (Hagiwara et al. Cancer Res 1993)、これらのFALCsが癌細胞に対して効果的な防御機構を発揮しない理由は未解明であった。

好中球細胞外トラップ (NETs) は、好中球が放出するクロマチン線維の網状構造であり、DNAと顆粒タンパク質 (ミエロペルオキシダーゼ (MPO)、ヒストンなど) から構成される Brinkmann et al. Science 2004。NETsは、循環腫瘍細胞を物理的に捕捉し Cools et al. JClinInvest 2013、細胞傷害性T細胞やNK細胞との接触から保護することで転移を促進することが報告されている Teijeira et al. Immunity 2020。また、NETsは休眠癌細胞の再活性化 Albrengues et al. Science 2018、ミトコンドリア生合成の促進 Yazdani et al. CancerRes 2019、癌細胞の遊走促進 Yang et al. Nature 2020 などを通じて、様々な種類の腫瘍の転移を助長することが多数の研究で示されている。我々の先行研究では、卵巣癌モデルにおいて、転移前に好中球が大網FALCsに動員されNETsを形成することを同定しているが Lee et al. JExpMed 2019、NETsが転移前ニッチそのものの免疫環境をどのように形成するのか、特に大網におけるB細胞サブセットへの影響については不明な点が多く、知識が不足していた

自然免疫様B細胞 (innate-like B cells、B1様CD43+B細胞) は、循環血液中や二次リンパ器官のB細胞の大部分を占める従来のB2細胞とは異なり、腹腔内のB細胞の約50%を占める (Wells et al. J Immunol 1994)。B1細胞は主に自然免疫様応答に関与し、高レベルの自然IgMを産生し、細菌抗原や自己抗原に特に反応することが知られている (Baumgarth et al. Nat Rev Immunol 2011)。一部のB1細胞は構成的にIL-10を発現するが、B2細胞では発現しない (O’Garra et al. Eur J Immunol 1992)。IL-10産生性の調節性B細胞 (Bregs) は免疫寛容を促進し、Treg/Th1比を増加させることが知られている (Mizoguchi et al. Immunity 2002, Carter et al. J Immunol 2011, Ding et al. J Clin Invest 2011, Flores-Borja et al. Sci Transl Med 2013, Wang et al. Nat Med 2014) が、転移前ニッチ形成におけるその役割は未開拓であった。特に、NETsがB細胞のIL-10産生を誘導するメカニズムや、それが転移前ニッチの免疫環境に与える影響については知識が不足していた

目的

本研究は、卵巣癌における大網転移前ニッチ形成における好中球細胞外トラップ (NETs) の役割と、それに伴う免疫細胞動態の変化を解明することを目的とした。具体的には、以下の4点を検証した。

  1. NETsが大網間皮細胞のCXCL13産生を誘導し、腹腔内のCD43+自然免疫様B細胞を大網へ動員する経路を同定すること。
  2. NETsがCD43+B細胞に選択的にIL-10産生を誘導するメカニズムを、特にSHP-1不活化と活性酸素種 (ROS) 産生経路に焦点を当てて解明すること。
  3. CD43+B細胞由来のIL-10が、大網における制御性T細胞 (Treg) の拡大と転移促進に寄与することを検証すること。
  4. PAD4阻害剤によるNETs形成の薬理学的抑制が、この免疫抑制経路を遮断し、卵巣癌の大網転移を抑制するかどうかを前臨床的に評価すること。

これらの目的を達成することで、NETsが大網の転移前ニッチにおいて免疫抑制的な微小環境を形成するメカニズムを明らかにし、新たな転移予防戦略の開発に繋がる知見を提供することを目指した。

結果

NETsが大網FALC周囲に蓄積し、間皮細胞のCXCL13産生を誘導する: 卵巣限局性腫瘍を持つ担癌Padi4+/+マウス (n=10 mice) の大網では、健常群およびPadi4-/-担癌マウスと比較してNETsが有意に増加し、FALC周囲に集積した。大網のWT1+/CD45-/PDPN+間皮細胞を精製し、NETsでex vivo刺激すると、Cxcl13 mRNAが3時間以内に顕著に増加した (p<0.0001)。Padi4ノックアウトまたはPAD4阻害剤GSK484の投与により、このCXCL13誘導は著明に抑制された。担癌Padi4+/+マウスとPadi4-/-担癌マウスの大網における好中球数は同程度に7~10倍に増加しており、好中球数の差異ではなくNETs形成の有無がCXCL13産生を規定することが示された (Fig 3H-M)。

CXCL13-CXCR5軸を介したCD43+B細胞の大網選択的動員: 担癌Padi4+/+マウスの大網FALCでは、腫瘍非担癌群と比較してCD43+(innate-like) B細胞が約4倍に増加したが、Padi4-/-担癌マウスではこの増加が著明に減弱した (p<0.0001)。一方、CD43-B細胞 (B2様) はPadi4ノックアウトに依存せず両腫瘍群で同程度に増加し、腫瘍由来因子で主に誘導されることが示された。CXCR5 (CXCL13受容体) はCD43-B細胞よりCD43+B細胞に有意に高発現しており (Fig 3G)、muMTマウス (n=5 mice) へのCXCL13中和抗体投与実験でCD43+B細胞の大網動員が特異的に阻害された。CD43+B細胞はCD45.1ドナー由来を用いた養子移植実験で腹腔 (peritoneal cavity) から大網へNETs依存的に移行することが確認された (Fig 3D-F)。ヒト高悪性度漿液性卵巣癌 (HGSOC) 患者の大網組織 (n=10 patients) では、非癌対照と比較してCD19+CD43+B細胞の割合が有意に高かった (p<0.001) (Fig 2H)。

NETsはCD43+B細胞に選択的にIL-10産生を誘導し、ヒトHGSOC組織でも確認された: Il10-eGFP VertXマウス (n=6 mice) を用いた解析では、担癌Padi4+/+マウスの大網ではCD43+B細胞の約30%がIL-10陽性であったのに対し、健常マウスおよびPadi4-/-担癌マウスでは約13%に留まった (p<0.05)。精製NETsでex vivo刺激した腹腔B細胞では、CD43+B細胞のIl10-eGFP陽性率がPBS群約25%からNETs刺激群約49%へ増加したが、CD43-B細胞では変化がなかった (5回の独立実験で再現)。DNase I処理NETsはIL-10誘導能をほぼ保持したが、プロテイナーゼK処理NETsではこの誘導能が消失し、NETsタンパク質 (MPO・ヒストン) が主たる刺激因子であることが示された (Fig 5G-I)。ヒトHGSOC患者大網 (n=10 patients) では10例中7例でIL-10+CD43+B細胞が検出されたが、非癌対照では10例中1例のみであった (Fig S7A-B)。GSK484投与VertXマウス (n=6 mice) では大網CD43+B細胞のIl10-eGFP陽性率が有意に低下した (p<0.0001) (Fig 5B-C)。

SHP-1不活化によるIL-10産生機序: NETs刺激後のCD43+B細胞では、コンフォーカル顕微鏡でCD22のホモクラスタリングが顕著に増加したが、CD43-B細胞では最小限であった。免疫沈降法では、NETs刺激によりCD43+B細胞におけるCD22-SHP-1相互作用の減弱と、SHP-1のTyr564リン酸化の有意な低下 (SHP-1活性低下) が確認された (n=3独立実験、p<0.001) (Fig 6B-E)。SHP-1の下流基質であるBLNK (Tyr84)・SLP-76 (Tyr145)・STAT3 (Tyr705) のリン酸化がNETs刺激後のCD43+B細胞で増加した (Fig 6F)。SHP-1作動薬SC-43で事前処理すると、NETs誘導性IL-10産生が部分的に抑制され、SHP-1不活化がIL-10誘導に必要なことが確認された (n=5独立実験、p<0.001) (Fig 6I)。

ROS誘導によるSHP-1酸化とIL-10産生増強: NETs刺激後のCD43+B細胞では、総ROS (CellRox染色) およびミトコンドリアROS (MitoQ感受性) が有意に上昇したが (p<0.0001)、CD43-B細胞では変化がなかった (n=5独立実験) (Fig 7A-B)。biotin-switch法でタンパク質S-ニトロシル化の増加と酸化型SHP-1の増加がNETs刺激CD43+B細胞で確認された (Fig 7D-F)。ROSスカベンジャーNAC投与により、CD43+B細胞へのNETs誘導性IL-10産生が有意に抑制された (p<0.0001) (Fig 7G)。MPOまたはヒストン単独刺激でもROS上昇・S-ニトロシル化・IL-10産生の誘導が再現され、NACで阻害された (n=5独立実験) (Fig 7H-J)。

CD43+B細胞由来IL-10によるTreg拡大と転移促進: 担癌Padi4+/+マウスの大網ではTreg/Th1比が有意に増加したが (p<0.0001)、Padi4-/-マウス、muMTマウス、GSK484投与群では増加が阻止された (Fig 4B, S6E)。muMTマウス (n=6 mice) へのCD43+B細胞移植群ではTreg数・Treg/Th1比が有意に増加し、大網でのルシフェラーゼ転移シグナルが有意に亢進した (p<0.0001) (Fig 4H-K)。一方、Il10-KOマウス由来CD43+B細胞を移植した群ではTreg/Th1比増加と転移シグナルの増加がいずれも認められず、IL-10の必須性が確認された (Fig 5J-L)。CD43-B細胞移植群でも大網転移はCD43+B細胞移植群と比較して有意に低かった (p<0.01)。

考察/結論

本研究は、卵巣癌における大網転移前ニッチ形成の新規免疫回路を初めて体系的に解明した。NETsが大網間皮細胞のCXCL13産生を誘導し、CXCR5を高発現するCD43+自然免疫様B細胞を腹腔から大網へ動員するという経路が明確に示された。このCD43+B細胞は、NETsタンパク質(特にMPO・ヒストン)によってSHP-1が不活化され(CD22クラスタリング促進とROS依存的酸化)、BCRシグナルが増強されることでIL-10産生を促進することが明らかになった。最終的に、CD43+B細胞由来のIL-10がTregの拡大を誘導し、大網の転移許容環境を形成するという多段階の因果連鎖が示された。

先行研究との違い: これまでの研究では、NETsが癌細胞と直接相互作用することで転移を促進するメカニズムが主に報告されてきた (例: Cools et al. JClinInvest 2013Park et al. SciTranslMed 2016Albrengues et al. Science 2018Yazdani et al. CancerRes 2019Yang et al. Nature 2020Teijeira et al. Immunity 2020Xiao et al. CancerCell 2021)。本研究は、NETsが転移前ニッチの免疫環境を間接的に形成し、特にB細胞サブセットの動態と機能に影響を与えるという点で、これまでの知見と異なる新規の転移促進経路を提示した。また、B2様CD43-B細胞が腫瘍由来因子で大網に拡大するのに対し、CD43+B細胞はNETs依存的に拡大・活性化されるという、2種類のB細胞サブセットが転移前ニッチで異なる誘導機構を持つことは、これまで報告されていない新しい知見である。

新規性: 本研究で初めて、NETsタンパク質(MPO・ヒストン)が直接B細胞の免疫抑制性IL-10産生を誘導するという細胞間クロストーク機構を同定した。このメカニズムは、NETsがB細胞受容体(BCR)シグナル伝達を増強するために、SHP-1の不活化とROS産生を介してIL-10産生を誘導するという新規の分子経路を明らかにした。特に、SHP-1がCD22との相互作用を減弱し、Tyr564リン酸化が低下することで活性が抑制されること、およびNETsがCD43+B細胞に選択的にミトコンドリアROSを誘導し、SHP-1の酸化と不活化を促進することが示された点は、B細胞免疫学における重要な新規知見である。

臨床応用: ヒトHGSOC患者大網におけるIL-10+CD43+B細胞の高頻度検出(10例中7例対非癌対照10例中1例)は、本研究のトランスレーショナルな妥当性を支持する。この細胞集団は、卵巣癌の腹腔内転移リスクの予測バイオマーカーとなる可能性を示唆する。また、PAD4阻害剤GSK484によるNETs阻害が、この免疫抑制経路を遮断し転移を抑制することが示されたことから、NETs阻害が卵巣癌腹腔内転移予防の新たな治療標的となりうる。GSK484自体は臨床応用段階にないが、次世代PAD4阻害薬の開発が進んでおり、これらの薬剤が卵巣癌治療に導入される可能性は高い。従来のBregターゲティングが表面マーカーによる選択的除去の困難さという限界を抱えていたのに対し、NETs阻害によって間接的にIL-10+CD43+B細胞を抑制できる点は、実用上重要な戦略的利点である。

残された課題: 今後の検討課題として、NETsがCD43+B細胞に選択的にミトコンドリアROSを誘導する分子メカニズム(TLR4/BCR経路の相対的寄与)のさらなる解明が残されている。また、NETsがCD43+B細胞で選択的にCD22クラスタリングを促進し、SHP-1不活化を誘導する細胞種特異的機構の同定も重要である。ヒトHGSOCにおけるIL-10+CD43+B細胞数と術後腹腔内再発・予後との相関を前向きに検証し、バイオマーカーとしての有用性を確立する必要がある。さらに、大腸癌、胃癌、膵癌など他の腹膜播種性腫瘍においても、同様のNET-CD43+B細胞-Treg免疫抑制回路が存在するかどうかの普遍性の検証が求められる。次世代PAD4阻害薬の卵巣癌前臨床・臨床試験への展開と、白金製剤、PARP阻害薬、抗PD-1抗体などの既存治療との最適な併用戦略の確立も今後の重要な研究方向性である。

方法

動物モデルと腫瘍形成:C57BL/6J (B6) マウスをベースとし、ID8卵巣癌細胞株またはBRCA1欠損BPPNM卵巣癌細胞株を卵巣内 (i.b.) に注射し、卵巣限局性腫瘍モデルを確立した。NETs形成を遺伝学的に抑制するため、好中球特異的Padi4欠損マウス (Mrp8-Cre; Padi4fl/fl、Padi4-/-と表記) を使用した。また、B細胞欠損muMTマウス、Padi4-/-; muMT二重欠損マウス、およびIL-10レポーターマウス (VertX Il10-eGFP) を作製し、これらのマウスをPadi4-/-マウスと交配させて、IL-10産生のin vivo動態を追跡した。各実験群はn=5〜10匹のマウスで構成された。

薬理学的介入:PAD4阻害薬GSK484を腹腔内 (i.p.) 投与し、NETs形成を薬理学的に抑制した。GSK484投与群とPadi4-/-遺伝学的欠損群の表現型を比較した。

B細胞養子移植実験:B細胞欠損muMTマウスまたはCD45.2発現B6マウスをレシピエントとして、B6マウスまたはCD45.1発現B6マウスから単離した腹腔B細胞を養子移植した。腹腔B細胞はCD43+とCD43-サブセットに磁気ビーズで精製し、等数をレシピエントマウスにi.p.移植した。IL-10の機能的役割を評価するため、Il10ノックアウト (KO) マウス由来のCD43+B細胞と野生型CD43+B細胞の比較移植実験を実施した。移植後、大網および腹腔内のB細胞サブセット、Treg、Th1細胞数をフローサイトメトリーで定量した。

NETsの単離とex vivo刺激:好中球からNETsを誘導し、精製した。精製NETsを用いて、単離した大網間皮細胞 (CD45-PDPN+) および腹腔B細胞をex vivoで刺激した。DNase I (DNA消化) およびプロテイナーゼK (タンパク質消化) 処理したNETsを用いて、IL-10誘導に必要なNETs成分を同定した。

分子メカニズム解析:NETs刺激後のB細胞において、IL-10産生 (eGFPレポーター、ELISA)、B細胞受容体 (BCR) シグナリング経路 (ERK1/2、p38 MAPK、NFkB p65のリン酸化)、SHP-1のリン酸化 (Tyr564) とCD22-SHP-1相互作用 (免疫沈降)、活性酸素種 (ROS) 産生 (CellRox染色、MitoQ阻害)、タンパク質S-ニトロシル化 (biotin-switch法) を評価した。SHP-1作動薬SC-43を用いて、SHP-1不活化のIL-10産生への寄与を検証した。

免疫組織化学とフローサイトメトリー:大網組織のNETs形成 (MPO+cit-H3+細胞)、B細胞サブセット (CD19+CD43+)、T細胞サブセット (CD4+、CD8+、Treg (CD4+CD25+FOXP3+)、Th1 (CD4+CXCR3+T-BET+)) を免疫組織化学染色およびフローサイトメトリーで解析した。CXCL13産生細胞を同定するため、WT1 (間皮細胞マーカー) とCXCL13の共染色を実施した。

ヒト検体解析:高悪性度漿液性卵巣癌 (HGSOC) 患者10例と非癌対照10例の大網組織を免疫組織化学的に解析し、IL-10+CD43+B細胞の存在を確認した。統計解析には、Tukeyの多重比較検定、対応のない両側Studentのt検定、Mann-Whitney U検定が用いられた。