- 著者: Jingjing Ji, Hanhui Zhong, Yawen Wang, Jinghua Liu, Jing Tang, Zhifeng Liu
- Corresponding author: Jing Tang (Affiliated Hospital of Guangdong Medical University, Zhanjiang, China)、Zhifeng Liu (General Hospital of Southern Theater Command of PLA, Guangzhou, China)
- 雑誌: Cell Death and Disease
- 発行年: 2024
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 38890311
背景
好中球は循環中の最多白血球として急性炎症応答の中心的役割を担い、脱顆粒・食食・好中球細胞外トラップ (NETs, neutrophil extracellular traps) 形成・サイトカイン産生によって病原体を排除する。好中球エラスターゼによるNETs形成の抑制がLPS誘発エンドトキシンショックモデルの生存率を改善することが示されており (Okeke et al. Biomaterials 2020)、好中球由来のDNAやヒストンが凝固活性化を誘導するという機能的多様性も明らかにされている (Noubouossie et al. Blood 2017)。炎症部位に動員された好中球はアポトーシスとマクロファージ貪食によって消失するとする古典的モデルが長く受け入れられてきた。しかし多光子生体イメージング技術の発展により、炎症部位へ動員された好中球が再び血流へ「逆方向」に遊走する「逆遊走 (reverse migration, rM)」現象が観察されるようになり、炎症解消の第二の経路として注目を集めた。ヒト好中球のin vitro研究では、rM-ed好中球はICAM1 (intercellular adhesion molecule 1) high CXCR1 (C-X-C motif chemokine receptor 1) lowという特徴的な表現型を示すことが示されていた。内皮側の機序としては、JAM-C (junctional adhesion molecule C) の喪失やLTB4 (leukotriene B4) の局所濃度低下による内皮透過性亢進が逆遊走を促進するとの報告があった。しかしこれらは内皮側の受動的変化のみを説明するものであり、好中球内在的な受容体変化や血中に存在する化学誘引シグナルが逆遊走を能動的に制御するかどうかに関しては gap in knowledge が存在した。特に非定型ケモカイン受容体CCRL2 (C-C motif chemokine receptor-like 2) の逆遊走における役割や、そのリガンドであるケメリン (chemerin) との関連は不明であり、in vivoでrM-ed好中球を直接追跡してその分子プロファイルを包括的に解析したシステムは手薄であった。
目的
急性肺障害 (ALI, acute lung injury) マウスモデルのscRNA-seq (single-cell RNA sequencing) と独自の気腔ポーチ (air pouch) rM追跡系を組み合わせ、逆遊走好中球に特異的に発現するケモカイン受容体を同定するとともに、CCRL2のリガンドであるケメリンとの軸が好中球逆遊走を駆動する機序を解明する。
結果
ALIモデルにおける好中球動態と逆遊走の時相: LPS気管内投与 (2 mg/kg) 後、BALF中の好中球比率は6〜24時間でピークに達し24時間以降に有意に低下した (Fig. 1A)。血中好中球比率も同様に24時間以降の低下を示した (Fig. 1B)。逆遊走マーカーとされるICAM1high CXCR1low細胞の血中比率は24時間群で有意に増加し (Fig. 1C)、好中球逆遊走が炎症後期 (解消期) に対応する時期に生じることが示された。これらの時相的データは、古典的なアポトーシス・マクロファージ貪食による好中球クリアランスに加えて、逆遊走が炎症後期の好中球消失に寄与する重要な機構であることを示す。
scRNA-seqによる逆遊走好中球のCCRL2高発現同定: 計30,324細胞 (18クラスター) のscRNA-seqにより好中球の包括的転写プロファイルを解析した。BALF好中球は血中好中球と比較して食食機能・サイトカイン産生・抗菌タンパク・アポトーシス抑制遺伝子が高発現する「活性化」型プロファイルを示し、血中好中球では走化性・遊走関連転写物 (Cxcr2・S100a6/a8/a9/a11) が高発現した (Fig. 3)。血中好中球をICAM1発現に基づきrM-ed (ICAM1陽性) とresident (ICAM1陰性) に分類すると、rM-ed好中球はBALF好中球と比較してケモカイン受容体 (Ccr1・Cxcr2)、初期接着分子 (Sell・Selplg)、後期接着分子 (Itgam・Itga4・Itgb2・Itgal)、マトリックス分解酵素 (Mmp8・Mmp9) およびアクチン重合関連因子 (Arpc2・Arpc3) が有意に高発現しており、逆遊走後も遊走能を保持していることが示された (Fig. 4B)。rM-ed好中球の高発現遺伝子のGO解析では「防御応答の正の制御」「自然免疫応答活性化シグナル伝達」が濃縮し、逆遊走好中球が活性化状態にあることを裏付けた (Fig. 4C)。rM-ed好中球とblood resident好中球の差次的発現解析 (volcano plot) において、最も有意に高発現した遺伝子として非定型ケモカイン受容体Ccrl2が同定された (Fig. 4D)。
気腔ポーチ追跡系によるCCRL2高発現の直接確認: CMFDAトレーサーを用いた気腔ポーチrM追跡系において、LPS誘発6時間後の血中FITC陽性細胞の大多数はCD45+Ly6G+好中球であり (n=6)、逆遊走細胞の主体が好中球であることを確認した (Fig. 5B)。フローサイトメトリーによるCCRL2発現解析では、rM-ed好中球のCCRL2 MFI (mean fluorescence intensity、平均蛍光強度) はblood resident好中球と比較して~2.4-fold高値を示した (n=6, p<0.05, t-test) (Fig. 6A)。scRNA-seqデータで3種のケメリン受容体の細胞タイプ別発現を解析したところ、Cmklr1は単球・マクロファージ・樹状細胞 (DC, dendritic cell)・NK細胞に主発現し、Gpr1は全白血球で検出されなかった。したがってCCRL2が好中球における主要ケメリン受容体として機能することが示された (Fig. 6B)。
ケメリン-CCRL2軸の時相的動態と逆遊走への機能的役割: ELISA経時測定では、古典的好中球動員ケモカインCXCL1 (C-X-C motif chemokine ligand 1)・CXCL2はLPS投与後12時間でair pouch lavage液・血漿ともに有意上昇し (p<0.05、一元ANOVA、n=6)、好中球の炎症部位への動員と一致した (Fig. 7A)。一方で24・48時間にはCXCL1/CXCL2が基準値へ低下したのと対照的に、血漿ケメリン濃度は24・48時間において有意に上昇した (p<0.05)。ケメリンは白血球に転写物が検出されず好中球培養上清でも検出されなかったことから、非白血球 (上皮・内皮・線維芽細胞) 由来の液性因子であることがscRNA-seqデータで確認された。全身性ケメリン中和 (抗ケメリン抗体10 μg 尾静脈投与) によりrM-ed好中球の血中比率は有意に低下した (p<0.05、t検定、n=3) (Fig. 7B)。時系列全体を通じた血漿ケメリン濃度とrM-ed好中球比率の増加はSpearman相関係数で正相関した (Spearman r=0.84, n=6)、ケメリン上昇と逆遊走の時相的な連動を定量的に裏付けた。これらの結果は、炎症後期に血中で上昇したケメリンがCCRL2を発現する好中球を循環へ誘引し逆遊走を駆動するという機序を直接的に裏付けるものである。
考察/結論
本研究は急性炎症における好中球逆遊走の分子機序として、炎症後期の循環ケメリン上昇-好中球CCRL2という新規シグナル軸を同定した。先行研究ではWoodfin et al.(Nat Immunol 2011)が示したJAM-C (junctional adhesion molecule C) の機能喪失モデルやLTB4 (leukotriene B4) の局所濃度低下など内皮側の透過性亢進が逆遊走の主因とされてきた。これと異なり、本研究は好中球内在的なCCRL2発現上昇と非白血球由来の循環性ケメリンというシグナルが逆遊走を能動的に制御することを示した。炎症部位においてCXCR2 (C-X-C motif chemokine receptor 2) が内在化 (desensitization) を起こして局所ケモカイン感受性を失うのとは対照的に、CCRL2は炎症後期に発現が増加して循環ケメリンに応答するという動的対称性が、逆遊走の方向決定において重要な機構として提案される。内皮透過性モデルと本研究のCCRL2-ケメリン軸は相補的な関係にあり、逆遊走の統合的理解に新たな次元を加えるものである。
本研究で初めて明らかにされた点は、CMFDAを用いたin vivo気腔ポーチ追跡系とscRNA-seqの組み合わせによって逆遊走好中球を直接同定しCCRL2発現を両手法で確認したことである。ケメリンが白血球由来でなく (scRNA-seqで全白血球で転写物未検出・好中球培養上清でも未検出)、炎症後期に血中でのみ上昇することは、ケメリンが炎症のamplification loopを増幅させるのではなく主に逆遊走誘引シグナルとして機能するというこれまで報告されていない新規の炎症制御回路である。
臨床的意義として、ケメリン-CCRL2軸は急性肺障害・敗血症など急性炎症疾患における好中球動態制御の新標的となりうる。敗血症患者では健常者と比較してケメリン濃度が有意に増加するとの横断的研究との一致は、臨床現場でこの軸が実際に機能している可能性を示唆する。臨床応用へ向けた次のステップとして、ケメリン・CCRL2の測定値と急性炎症疾患の予後との関連評価が重要である。rM-ed好中球がICAM1high・Mmp8/Mmp9高発現など活性化状態で循環に入ることは、がんにおける腫瘍関連好中球 (TAN, tumor-associated neutrophils) の亜集団が腫瘍免疫において多様な役割を担うことと関連し (Singhal et al. CancerCell 2016)、活性化好中球の遠隔組織への再動員が臓器傷害や転移に寄与する可能性もある。bench-to-bedside の観点からCCRL2を標的とした阻害薬の開発が今後の方向性として示唆される。
残された課題として、①CCRL2の機能的結合部位と細胞内シグナル伝達の同定 (本研究はin vivoでの直接的な機能証明には至っていない)、②rM-ed好中球が遠隔臓器 (肺など) で実際に行使する機能的役割の解明 (12時間以降に肺でのFITC陽性好中球が増加する予備データが示されているが詳細解析は行われていない)、③ヒト急性炎症疾患患者サンプルでのケメリン-CCRL2軸の検証、④敗血症・急性膵炎など他の炎症モデルへの一般化が今後の検討として必要である。
方法
実験動物とALIモデル: 雄性C57BL/6Jマウス (strain: C57BL/6J、8〜10週齢、Southern Medical University) を使用し、リポ多糖 (LPS, lipopolysaccharide) (2 mg/kg、Sigma L2630) を気管内 (i.t.) 投与してALIを誘発した。LPS投与後0・6・12・24・48時間の時点で気管支肺胞洗浄液 (BALF, bronchoalveolar lavage fluid) および血液を採取した。フローサイトメトリー (BD LSRFortessa、7AAD-CD45+Ly6G+ゲーティング) で好中球比率を測定し、ICAM1high CXCR1low細胞をrM-ed好中球のマーカーとして同定した。
scRNA-seqと解析: ALI誘発後0・6・24時間の時点でBALFと血液からCD45+細胞をフローサイトメトリーでソートし、10×Genomics Chromiumシステムで1細胞キャプチャを行いscRNA-seqライブラリを作製してIllumina機器で解読した (データベース登録: Gene Expression Omnibus (GEO) GSE263953)。Seurat v3 (Stuart et al. Cell 2019、Butler et al. NatBiotechnol 2018) でデータ統合・処理を実施し、ミトコンドリア遺伝子比率0.05%未満・feature遺伝子数100〜3,000の品質基準を通過した計30,324細胞 (21,326遺伝子) を解析した。t-SNE (t-distributed stochastic neighbor embedding) 次元削減後に18クラスターに分類し、Csf3rマーカーで好中球クラスターを同定した。gene ontology (GO) 解析はRパッケージclusterProfiler・ggplot2・GOplotを使用した。
気腔ポーチモデルとrM追跡系: マウス背部皮下に0.22 μmフィルター滅菌空気3 mlを注射して気腔ポーチを形成 (3日間)。LPS (2 mg/kg) をポーチに注射して炎症を誘発し、24時間後にCMFDA (5-chloromethylfluorescein diacetate) 細胞トレーサー (1 μg、C7025、Thermo Fisher Scientific、励起/発光: 488/517 nm) をポーチ内に注射してポーチ内細胞を標識した。6時間後に血中FITC (fluorescein isothiocyanate) 陽性細胞 (ポーチから逆遊走した細胞) をフローサイトメトリーで検出した (n=6/group)。CMFDA漏出の対照実験でFITC+血中細胞は検出されず、FITC+血中好中球がポーチからの真の逆遊走好中球であることを確認した。
ELISA・中和実験: CXCL1・CXCL2・ケメリン濃度をELISA (R&D Systems) でair pouch lavage液 (PBS 2 ml) と血漿から経時測定した (12・24・48時間)。ケメリン中和実験では抗ケメリン抗体 (10 μg、MAB2325、R&D Systems) を尾静脈注射して全身性ケメリン中和を実施し、6時間後のrM-ed好中球比率への影響を評価した (n=3)。
統計解析: 2群間比較は無対応両側Student’s t検定、4群間比較は一元配置分散分析 (one-way ANOVA)、相関はSpearman相関係数を使用した。R version 3.4.0またはGraphPad Prism v5.0で解析し、p<0.05を有意とした。