- 著者: Denis F. Noubouossie, Matthew F. Whelihan, Yuan-Bin Yu, Erica Sparkenbaugh, Rafal Pawlinski, Dougald M. Monroe, Nigel S. Key
- Corresponding author: Nigel S. Key (University of North Carolina at Chapel Hill, Chapel Hill, NC)
- 雑誌: Blood
- 発行年: 2017
- Epub日: 2016-12-05
- Article種別: Original Article
- PMID: 27919911
背景
NETs (neutrophil extracellular traps、好中球細胞外トラップ) は、NETosis (好中球が核内物質をクロマチン網状構造として細胞外に放出するプロセス) によって生成される構造体であり、DNA/ヒストン骨格に好中球顆粒由来酵素が装飾された複合体である (Brinkmann et al. Science 2004)。複数の動物モデルで NETs が血栓症を促進することが示され、静脈血栓塞栓症・敗血症・がん関連血栓症において NETs が「免疫血栓 (immunothrombosis)」の主要なプレイヤーとして注目されてきた。NETs の構成成分に関しては、精製 DNA が接触因子 FXII (factor XII) を活性化して内因系凝固を開始すること、細胞外ヒストン (特に H3・H4) が血小板 TLR2/4 (Toll-like receptor) を介して TG (thrombin generation、トロンビン生成) を増強すること、NE (neutrophil elastase、好中球エラスターゼ) が TFPI (tissue factor pathway inhibitor、組織因子経路阻害因子) を不活化することが個別に報告されてきた (Okeke et al. Biomaterials 2020)。また、in vivo で NETs に血液を灌流させると血小板が活性化されて血栓が形成されるとする観察結果も存在する。
しかし、先行研究の多くは精製された個別成分 (DNA 単独・ヒストン単独) を用いた実験であり、インタクトな NETs 全体が凝固に対していかなる直接効果を持つかについては gap in knowledge があった。さらに、NETs 存在下での TG を評価した既報 (Gould et al. 2014 Arterioscler Thromb Vasc Biol) では PPP (platelet-poor plasma、血小板乏血漿) 調製に 1,500g での単回遠心分離が用いられており、残存血小板による交絡が否定できないという方法論的問題が指摘されていた。NETs 内では DNA とヒストンがヌクレオソーム複合体として密接に結合しており、この高次構造が各成分の生物活性を変化させる可能性も手薄な検討領域であった。インタクトな NETs の直接的な凝固促進活性を精製系・欠損血漿・多段階のアセンブリ比較を用いて包括的に評価した研究はこれまで存在しなかった。
目的
ヒト好中球から生成したインタクトな NETs、精製 hnDNA (human neutrophil DNA)、個別ヒストンタンパク質 (H3・H4 を中心に)、オクタマーコアヒストン、再構成ヌクレオソーム、再構成クロマチンのそれぞれが in vitro での TG および接触系活性化に与える効果を系統的に比較し、DNA-ヒストン複合体形成が各成分の凝固促進活性に与える影響の機序を解明すること。
結果
精製 hnDNA による接触経路依存性 TG 誘導と FXI 依存的増幅: 精製 hnDNA は PFP および PRP において濃度依存的な TG を誘導した (Fig 2A-B)。hnDNA 30 μg/mL 存在下では FVII 欠損血漿で TG が観察されたが、FXII 欠損血漿と FXI 欠損血漿ではいずれも TG が観察されなかった (Fig 2C)。これにより hnDNA の凝固誘導が FXII→FXI を介する接触 (contact) 経路に依存することが確認された。SCSA でも hnDNA は FXIa-AT 複合体生成を用量依存的に増加させた (Fig 2D)。さらに、1 pM TF 低用量刺激下での増幅実験では、hnDNA 25 μg/mL が FXII 欠損 PFP において peak TG を 60%増加させた (38.9±12.3 vs 24.4±11.0 nM、n=3 独立実験、p<0.001) 一方、FXI 欠損 PFP では差を認めなかった (16.2±6.7 vs 13.4±3.4 nM、p=0.279) (Fig 4C-D)。この TF 起動 TG の増幅効果が FXI 依存性であることを示す結果であり、FXII 独立的な経路が存在することが示唆された (CTI (corn trypsin inhibitor) による完全な FXII 阻害が困難なため FXII の寄与は完全には否定できない)。さらに、hnDNA 50 μg/mL は 10 nM α-トロンビンによる FXI (30 nM) 活性化を 8〜12 倍増幅し (Fig 4E)、DNA がトロンビン依存性 FXIa 生成の補因子 (cofactor) として機能することが示された。この効果はポリアニオン (polyanion) としての DNA の陰性電荷を介したトロンビン・FXI の同時結合によるものと推定される。
ヒストン H3・H4 の血小板依存性 TG 誘導: リコンビナントヒトヒストン H3 は PRP において濃度依存的な TG を誘導したが、PFP では TG は誘導されなかった (Fig 2E)。同様に、ヒストン H4 も PRP 依存的に TG を増強した (Fig 2F)。この血小板依存性は血小板 TLR2/4 への直接結合またはホスファチジルセリン (phosphatidylserine) への結合を介したイオン透過性変化によるものと考えられる。一方、ヒストン H3・H4 を PAD4 (protein arginine deiminase 4) でシトルリン化処理しても、PFP・PRP のいずれにおいても凝固促進活性はほとんど変化しなかった (Fig 2G-H)。H1・H2A・H2B 単独では有意な TG 誘導は認められなかった。これにより、凝固促進活性がヒストンサブタイプ特異的 (H3・H4 が主体) であることが確認された。
インタクト NETs・再構成クロマチン・ヌクレオソームは凝固を誘導しない: PMA または A23187 で刺激した好中球由来のインタクト NETs (in situ 生成) は、PFP・PRP のいずれでも TG を誘導しなかった (Fig 3A-B)。Vital NETosis モデルである LPS 誘導 NETs も血小板存在下 (200,000/μL) で TG を誘導しなかった。同量の洗浄 NETs (washed NETs、PMA/ionophore を除去) を PFP または PRP に添加した場合も TG は誘導されなかった (Fig 3C-D)。重要なことに、同量の NETs から抽出した精製 DNA はTG を誘導した (Fig 3C-D)。NETs 量の不足ではなく、NETs 構造自体が凝固不活性であることの証拠である。SCSA でもインタクト NETs は接触系を活性化しなかった (Fig 3E)。また、1 pM TF 存在下でもインタクト NETs は TG 増幅効果を示さなかった (Fig 4F)。好中球由来 hnDNA とヒストンを塩勾配透析法で再構成したクロマチンは、PFP での TG 誘導能・SCSA での接触系活性化・トロンビン依存性 FXIa 生成増幅能のすべてを消失した (Fig 7B-D)。リコンビナントヒトタンパク質からの再構成ヌクレオソーム粒子も PFP・PRP 双方で TG を誘導せず (Fig 6A-B)、オクタマーコアヒストンおよびウシ胸腺由来天然ヒストン混合物も PRP で TG を誘導しなかった (Fig 5A-B)。アガロースゲル電気泳動では再構成クロマチンが hnDNA とは異なる泳動パターン (移動度低下) を示し、ヒストンと DNA の結合による DNA 負電荷の中和が確認された。
考察/結論
本研究の最も重要な発見は、ヒト好中球由来の精製 DNA (接触経路依存性) と個別ヒストン H3・H4 (血小板依存性) は強力な凝固促進活性を持つが、これらがヌクレオソーム・クロマチン・インタクト NETs 構造として複合体を形成すると凝固促進活性が完全に消失するという逆説的な知見である。これまでの研究では主に精製 NETs 成分を用いた実験から NETs の凝固促進が議論されてきたが、本研究で初めてインタクトな NETs 全体の直接的な凝固不活性を多段階のアセンブリ比較によって包括的に示した点で新規な知見である。
凝固活性消失の分子機序として、ヒストンの DNA への結合による DNA 陰性電荷の中和が最も重要と考えられる。hnDNA の FXII 活性化能と FXIa 生成増幅能はいずれもポリアニオン性の陰性電荷に依存しており、再構成クロマチンで DNA 移動度が低下したことはヒストン結合による電荷中和の直接的証拠である。同様に、ヒストン同士の会合によるオクタマー形成は H3・H4 の陽性荷電アミノ酸残基を遮蔽し、血小板 TLR への結合能を消失させると推定される。すなわち、ヌクレオソームユニットおよび高次クロマチン構造は、個別成分の有害な凝固促進活性に対する「天然の防御機構」として機能する可能性がある。
既報との相違として、Gould et al. 2014 は NETs 存在下での TG 増強を報告していたが、同研究では 1,500g 単回遠心で調製した PPP が用いられており残存血小板による交絡が否定できない点が本研究と対照的である。本研究では PFP を 2,500g 二重遠心 + 0.22 μm 濾過で厳密に調製し、かつ好中球単離時の血小板混入をフロー解析で確認した上で NETs 直接効果を評価しており、方法論的に優れた条件下での陰性結果である。
臨床的含意として、NETs が血栓症を促進する場合、直接的な凝固活性化よりも NETs の分解によって遊離した DNA やヒストンが主たる経路である可能性がある。また、プラスミンや DNase などの核分解酵素による NETs 分解が DNA・ヒストンの遊離を招き凝固を促進するというシナリオは、臨床応用として DNase1 投与や PAD4 阻害の血栓抑制戦略を設計する際に重要な視点を提供する。さらに、hnDNA の FXI 依存的な TG 増幅効果は、FXIa またはその生成を標的とした治療が NETs 関連血栓症に有効である可能性を示す。敗血症・がん・自己免疫疾患・鎌状赤血球症のように炎症と TF 発現が亢進した状態では、遊離 DNA が FXI 活性化を増幅し外因系・内因系の相乗的な凝固促進が生じると推測される (Thalin et al. ArteriosclerThrombVascBiol 2019)。
本研究の limitation として、in vitro 系であるため内皮細胞・血流・TF 含有微粒子などの in vivo 要素が考慮されていない点が挙げられる。また、動物モデルの NETs は NETs 分解を防ぐ DNase 処理により血栓が抑制されることが示されており、これは動物 NETs 成分と凝固系の相互作用に種間差が存在する可能性を示唆する。今後の検討課題として、内皮細胞・赤血球・血流条件を含むより完全な in vitro 系での NETs-凝固相互作用の評価、in vivo での NETs 形成・分解の時系列と遊離 DNA・ヒストン濃度の変化の定量、ならびに各疾患状態における FXI 標的治療の有効性検証が重要である。更なる検討により、NETs 成分の遊離を標的とした抗血栓戦略の実用化に向けた基盤が整うと考えられる。
方法
好中球単離と NETs 誘導: 健常成人ボランティア末梢血から MACSxpress (magnetic-activated cell sorting) Neutrophil Extraction Kit (Miltenyi Biotec) を用いた magnetic bead 陰性選択法で好中球を精製した (純度≥97%、トリパンブルー除外法による生存率≥98%)。残存赤血球はグリコフォリン A 抗体コートビーズによる追加陰性選択で除去した。精製好中球を 2,500/μL・5,000/μL・12,000/μL の細胞密度に調整し、PFP (platelet-free plasma、血小板除去血漿) または RPMI (Roswell Park Memorial Institute) 培地に再懸濁後、600 nM PMA (phorbol myristate acetate) または 5 μM A23187 (calcium ionophore) で 37°C・5% CO2、3時間刺激し NETs を誘導した。NETs 形成は Cit-H3 (citrullinated histone H3) 抗体 (Abcam) および Sytox Green DNA 染色 (2.5 μM) の蛍光・免疫蛍光顕微鏡で確認した (Fig 1)。洗浄 NETs は PMA/ionophore 除去のため 300g・10 分と 20,000g・30 分の 2 段階遠心で精製した。LPS (lipopolysaccharide, 5 μg/mL) 誘導 vital NETosis も比較対象とした。PFP は 2,500g・15 分の二重遠心と 0.22 μm フィルタ濾過で調製した。
精製成分と再構成: hnDNA は QIAamp DNA Blood Midi Kit (Qiagen) で精製した。リコンビナントヒトヒストン H3・H4 (New England Biolabs) と組換えヒトヒストンオクタマー・ヌクレオソーム (EpiCypher) を使用した。クロマチンは好中球から個別に精製した DNA とヒストンを 1:1.2 質量比で混合し、塩勾配透析法 (1M NaCl から 0M NaCl への段階的透析) で再構成した。ヌクレオソーム形成は nucleosome ELISA (Roche) で確認した。
凝固測定: TG アッセイは蛍光基質 Z-GGR-AMC を用いた CAT (calibrated automated thrombogram) 法で PFP・PRP (platelet-rich plasma) 両方に対して実施した。PCPS (phospholipid vesicles) ±1 pM リコンビナント TF (tissue factor) で凝固を開始した。FXII 欠損・FXI (factor XI) 欠損・FVII (factor VII) 欠損血漿を用いた凝固経路解析も実施した。接触系の定量は SCSA (synthetic contact system activation assay) で生理的濃度に再構成した FXII・プレカリクレイン・HMWK (high molecular weight kininogen)・FXI を用い、FXIa (activated factor XI)-AT (antithrombin) 複合体を in-house ELISA で測定した。トロンビン依存性 FXIa 生成アッセイでは 10 nM α-トロンビンに±hnDNA/再構成クロマチン/ヒストンを添加し FXIa 生成量を発色基質 S-2366 で定量した。統計解析は KolmogorovSmirnov 検定で正規分布を確認後、2 群比較に t 検定、3 群以上の比較に ANOVA 検定と Tukey 多重補正を適用した (GraphPad Prism 5、有意水準 p<0.05)。