• 著者: Sunil Singhal, Pratik S. Bhojnagarwala, Shaun O’Brien, Edmund K. Moon, Alfred L. Garfall, Abhishek S. Rao, Jon G. Quatromoni, Tom Li Stephen, Leslie Litzky, Charuhas Deshpande, Michael D. Feldman, Wayne W. Hancock, Jose R. Conejo-Garcia, Steven M. Albelda, Evgeniy B. Eruslanov
  • Corresponding author: Evgeniy B. Eruslanov (University of Pennsylvania, Philadelphia, PA)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-06-30
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27374224

背景

腫瘍関連好中球 (TAN: tumor-associated neutrophil) は非小細胞肺がん (NSCLC) を含む多くの固形がんの腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) に豊富に集積する浸潤細胞集団だが、ヒトTANの機能的多様性についての理解は手薄であった。マウス腫瘍モデルでは腫瘍促進的「N2」好中球と抗腫瘍的「N1」好中球という二分法が提唱されており (Fridlender et al. CancerCell 2009)、腫瘍促進機能 (マトリクス分解・転移促進・血管新生) と抗腫瘍機能 (直接細胞傷害・免疫細胞招集) が混在することが示されていた。しかし、これらの知見の多くは急速増殖・高腫瘍量・低間質という条件のマウス移植腫瘍モデルから得られており、ゆっくりと進行するヒトがんとは状況が根本的に異なる。さらに移植腫瘍モデルはがん免疫編集 (cancer immunoediting) が完了した細胞株を用いるため (Schreiber et al. Science 2011)、免疫学的プレッシャー下で進化するヒト腫瘍のTMEへの外挿には本質的な限界がある。

Eruslanov et al. (2014) による先行研究では、早期肺がん (stage I-II NSCLC) の腫瘍内TANは免疫抑制的ではなくT細胞応答を促進すること、特に小型早期腫瘍由来TANの大部分が活性化T細胞共刺激分子を不均一に発現していることが示されていた (Eruslanov et al. JClinInvest 2014)。しかし、その中でAPC様表現型を持つ機能的に特殊なサブセットが存在するか否か、その前駆細胞はどこに由来するか、どのような腫瘍由来因子が誘導するか、実際に腫瘍抗原のクロスプレゼンテーション能を持つかという点については gap in knowledge として残されていた。腫瘍免疫抑制環境が未発達の早期がんにおいて、好中球がAPCとしての機能を獲得するほど特殊化された分化経路を持つかどうかを解明することが求められていた。

目的

stage I/II NSCLCの腫瘍内好中球集団において、好中球と抗原提示細胞 (APC: antigen-presenting cell) の複合表現型 (HLA-DR+CD14+CD66b+) を持つハイブリッドTANサブセットの存在を証明し、その抗腫瘍機能・腫瘍抗原クロスプレゼンテーション能・前駆細胞起源、および分化を制御するサイトカイン (IFNγ・GM-CSF) と転写因子IKZF1 (Ikaros family zinc finger 1) の役割を同定すること。

結果

ハイブリッドTANサブセットの同定と腫瘍特異的分布:stage I/II NSCLC患者n=50例の腫瘍組織において、CD11b+CD15hiCD66b+TANのうち0.5-25%がHLA-DR+CD14+CD86+CD206+CCR7+の複合表現型 (ハイブリッド表現型) を示した (Fig 1D)。腫瘍全細胞中の割合は0.1-4.3%であった。HLA-DR等のAPC標識は末梢血好中球では全く検出されず、腫瘍組織特異的なサブセットであることが明らかになった。腫瘍径との比較では<3 cmの小型腫瘍でハイブリッドTANが有意に高頻度であり、径>5-7 cmの大型腫瘍ではほぼ消失していた (one-way ANOVA、p<0.05、Fig 1D)。ハイブリッドTAN頻度と腫瘍径の連続値間には有意な負の相関が認められた (Spearman r=-0.45、n=50、p<0.01)。組織学的サブタイプ別では腺癌が扁平上皮癌よりハイブリッドTANの割合が高く (p<0.05)、腫瘍ステージや喫煙歴との有意な関連はなかった。IHC (immunohistochemistry) および免疫蛍光二重染色でMPO+HLA-DR+・CD66b+HLA-DR+二重陽性細胞が腫瘍内に点在することを確認し (Fig 1C)、一部患者のドレナージリンパ節にも少数のHLA-DR+CD15hiCD66b+細胞を検出した。ハイブリッドTANはcanonical TANと比較してCD14・CCR7・CD86・CD206の安定した共発現を示し、細胞形態では核の分葉が少なく卵形・円形の形状を呈した。

ハイブリッドTANの優れたT細胞刺激活性:LPS刺激後のサイトカイン産生においてハイブリッドTAN (HLA-DR+) はcanonical TAN (HLA-DR-) よりTNFαおよびIL-12を有意に多く産生した (n=5実験、p≤0.01、Fig 1E)。E. coli bioparticle貪食能もハイブリッドTANが優れており、機能的疲弊ではなく高活性状態にあることを示した。CFSE増殖アッセイ (n=6) では、ハイブリッドTAN共培養によりCD4+・CD8+T細胞増殖がcanonical TANに比べ著明に増強された (Wilcoxon matched-pairs、p≤0.02、Fig 1F)。ウイルス由来ペプチドプールを用いたIFNγ-ELISpot (n=3) では、ハイブリッドTANがHLAクラスI・II両制限のメモリーCD8+・CD4+T細胞応答を誘導したのに対し、canonical TANと末梢血好中球はCD8+応答のみ弱く誘導しCD4+応答は誘導できなかった (p≤0.01、Fig 1G)。BM由来ハイブリッド好中球もcanonical好中球より有意に強いT細胞増殖促進・IFNγ産生増強活性を示し (n=8、p≤0.02、Fig 6B)、これらの共刺激効果はOX40L (OX40 ligand)・4-1BBL (4-1BB ligand)・CD86・CD54に対する中和抗体により部分的に阻害された (Fig 7A)。

IFNγ・GM-CSFによるハイブリッド好中球誘導機構:TCMスクリーニング (n=20例) の多重ビーズアッセイにより、ハイブリッドTAN高頻度腫瘍 (>10%) は非誘導腫瘍に比べIFNγおよびGM-CSF濃度が有意に高値であった (Mann-Whitney、p<0.05、Fig 3E/F)。各因子を低用量 (50 pg/ml) で単独添加した場合にはBMNのハイブリッド分化誘導効率が低かったが、IFNγ (50 pg/ml) とGM-CSF (50 pg/ml) を同時添加した場合には>40%のBMNがHLA-DR+CD14+ハイブリッド表現型を獲得した (協調的相乗効果、Fig 3B)。IFNγまたはGM-CSFに対する中和抗体による片方のブロックだけでハイブリッド形成が完全に阻害され (Fig 3C)、両サイトカインが必須であることが確認された。IFNγ濃度依存性解析では、50 pg/mlから20 ng/mlへの増量でハイブリッドBMNの割合が40%から96%へ拡大したが、1 ng/ml以上でPD-L1発現ハイブリッドが出現し (Fig 3D)、これらPD-L1hiハイブリッド (5 μg/ml PD-L1中和抗体で逆転) との共培養ではT細胞増殖が著明に抑制された (Fig 6C)。また低酸素条件 (5% O2) または塩化コバルト (HIF-1α [hypoxia-inducible factor 1-alpha] 模倣剤) 添加でハイブリッド分化が著明に阻害されており (Fig 3A)、大型腫瘍での消失機序を示唆した。

前駆細胞の同定とIkaros制御機構:CD11b+CD15hiBMNをCD10・CD16発現で成熟度別に分離し、IFNγ (50 pg/ml) +GM-CSF (50 pg/ml) 下で培養した結果、成熟分葉核好中球 (CD16hiCD10+) は分化不能であったが、バンド細胞 (CD10-CD16intの未熟好中球) ・メタミエロサイト・ミエロサイトはいずれもハイブリッドへ分化可能であった (n=4実験、Fig 4C)。中でもCD11b+CD15hiCD10-CD16intバンド細胞が最も高いHLA-DR発現 (MFI [mean fluorescence intensity]=144) を示す効率的な前駆細胞であった。CD14発現は培養24時間以内に出現し、HLA-DR・CD86・CCR7・CD206は4日目以降に発現するというAPC受容体のde novo合成を示す時間的動態が確認された。転写因子Ikaros (IKZF1) は未熟好中球で高発現し成熟好中球・末梢血好中球で低下するが、ハイブリッドBMNではcanonical BMNよりさらに低発現であった (Fig 5A/B)。レナリドマイド (10 μM) によるIkarosプロテアソーム分解を誘導すると、TCM存在下でのハイブリッド形成が劇的に促進された。さらにレナリドマイドとGM-CSFの組み合わせでは80-90%のBMNがハイブリッドへ分化したが、レナリドマイドとIFNγの組み合わせでは効率が低かった (Fig 5D)。IFNγ+GM-CSFによるIkarosダウンレギュレーションは両サイトカインが5日間以上共存する条件でのみ生じ、相乗的・時間依存的な機序を示した。

腫瘍抗原クロスプレゼンテーション能力の証明:DQ-オバルブミン取込みアッセイではハイブリッドBMNがcanonical好中球より高い抗原取込み・処理能を示した (Fig 7D)。Ly95 T細胞システムを用いた評価では、NY-ESO-1ペプチド直接パルス条件でハイブリッドBMNがcanonical好中球より有意に高いIFNγ産生を誘導した (n=6、p≤0.01、Fig 7C)。クロスプレゼンテーション評価では、NY-ESO-1タンパク質単独ではハイブリッド・canonical双方で誘導が不十分であったが、NY-ESO-1をIgG抗体と免疫複合体 (IgG-IC) として提示した場合にハイブリッドBMNのみがNY-ESO-1エピトープのクロスプレゼンテーションを実行し、Ly95 CD8+T細胞のNY-ESO-1特異的IFNγ産生を誘導した (canonical好中球では誘導なし、n=6、p≤0.01、Fig 7E)。このFcγR (Fc gamma receptor) 介在クロスプレゼンテーションはハイブリッド上に高発現するFcγRI・FcγRIIを介することが示唆された。同種異系T細胞増殖実験 (mixed-lymphocyte reaction) でもハイブリッドBMNのみがCD4+・CD8+T細胞増殖を誘導し (BrdU取込み、n=6実験、Fig 6D)、canonical好中球は誘導できなかった。

考察/結論

本研究は、早期ヒト肺がん (stage I/II NSCLC) の腫瘍内好中球集団においてAPC様ハイブリッド表現型・機能を持つTANサブセットが存在し、腫瘍抗原のクロスプレゼンテーションを含む抗腫瘍T細胞応答の増強に寄与することを本研究で初めてヒト臨床検体を用いて体系的に実証した。これはTANが主として腫瘍促進・免疫抑制機能を担うという従来のイメージと異なり、少なくとも早期がんにおいては免疫賦活型TANサブセットが機能的に重要な役割を担うという新たなパラダイムを提示する知見である。

既報の知見との比較において特筆すべき点がある。好中球がAPC様表現型を示す現象はGosselin et al. (1993) 以来の非がん炎症モデルで報告されていたが、既報は多くが1 ng/ml以上という非生理的高濃度サイトカインを用いており、in vivo妥当性に問題があった。これに対照的に、本研究では腫瘍内に実際に検出される低用量 (50 pg/ml) のIFNγとGM-CSFの相乗作用により生理的に意味のある条件でハイブリッド好中球が誘導されることを示した。また、Matsushima et al. (2013) のマウス好中球-DC (dendritic cell) ハイブリッドはCD11c・MHC (major histocompatibility complex) II・CD80・CD86を共発現するのに対し、本研究のハイブリッドTANはCD14+CD206+でありながらCD209・CD83・CD163・CCR6陰性という部分的APC表現型を示し、ヒト腫瘍特有のサブセットとしての新規性が際立っている。さらにIkaros (IKZF1) がヒト好中球のハイブリッド分化を負に調節するという知見は、これまで主にリンパ球分化の文脈で理解されていたIkarosの役割を造血幹細胞分化全般に広げるものとして新規の概念的貢献である。

臨床的意義は多岐にわたる。ハイブリッドTANは腫瘍径<3 cm (早期stage IA相当) で豊富に存在し、径の増大とともに消失することから、早期外科切除後の免疫賦活戦略における標的として臨床応用が検討しうる。特にIFNγ・GM-CSFの腫瘍内低用量投与によるハイブリッドTAN誘導増強、あるいはレナリドマイド類似体を用いたIkaros標的療法との組み合わせが、腫瘍内免疫賦活の新規アプローチとしての臨床的含意を持つ。また高用量IFNγによるPD-L1hiハイブリッドへの転換という知見は、IFNγシグナル過活性化がTANを介した免疫抑制へ転化するリスクを示唆し、免疫療法設計上の重要な注意点を提供する。さらにFcγR経路を利用した腫瘍抗原クロスプレゼンテーション能の実証は、抗体ベース薬剤との組み合わせによる免疫応答増強という戦略に根拠を与える。

残された課題として、本研究はex vivo解析・in vitro培養系を主体としているため、ハイブリッドTANの生体内での動態・腫瘍内への遊走経路・所属リンパ節でのT細胞活性化への直接的貢献については今後の検討が必要である。肺がん以外の固形がんにおけるハイブリッドTANの存在確認、腫瘍免疫編集の進行に伴うハイブリッドTAN消失の分子機序 (低酸素以外の阻害因子の特定)、およびレナリドマイド+IFNγ+GM-CSFの組み合わせによるハイブリッドTAN誘導最適化戦略の前臨床・臨床的検証が future research の主要課題として挙げられる。加えて、ハイブリッドTAN頻度を予測するバイオマーカーの同定や、腫瘍内IFNγ・GM-CSF産生源の解明 (CD8+T細胞か腫瘍細胞か) も重要な研究課題として残されている。

方法

stage I/II NSCLCで外科切除を受けた患者計109例 (ペンシルバニア大学病院およびフィラデルフィア退役軍人病院のIRB [Institutional Review Board] 承認プロトコル) から同意取得の上、腫瘍・隣接正常肺組織・末梢血を採取した。表現型解析にはn=50例、TCM (tumor-conditioned medium: 腫瘍条件培地) スクリーニングにはn=20例を用いた。酵素誘発ex vivo活性化・表現型変化を最小化した最適化単細胞懸濁液調製プロトコル (Quatromoni et al., 2015) を使用した。

フローサイトメトリーによるTANの定義はCD11b+CD15hiCD66b (cluster of differentiation 66b)+生細胞とし、「canonical TAN」[HLA-DR (human leukocyte antigen DR)陰性] と「APC-like hybrid TAN」[HLA-DR+CD14 (cluster of differentiation 14)+CD86+CD206+CCR7+] をFACS (fluorescence-activated cell sorting) ソートで分離した。機能解析は1×10^5 cells/wellのCFSE (carboxyfluorescein succinimidyl ester) 標識PBMCとの共培養によるT細胞増殖測定、CMV (cytomegalovirus)・EBV (Epstein-Barr virus)・インフルエンザ・破傷風菌由来ペプチドプールを用いたIFNγ-ELISpotアッセイで評価した。BMN (bone marrow neutrophil: 骨髄由来好中球) をTCMまたはIFNγ・GM-CSF低用量で最長7日間培養し、in vitroハイブリッド分化モデルを確立した。TCM中のサイトカイン・ケモカイン濃度測定には多重ビーズアッセイを使用した。

腫瘍抗原特異的T細胞応答の評価にはHLA-A*0201制限NY-ESO-1 (157-165, SLLMWITQV) ペプチドを認識するLy95 TCR発現CD8+T細胞と、NY-ESO-1発現A549ヒト肺腺癌細胞株 (A549 A2-NY-ESO-1) を用いた系を使用した。クロスプレゼンテーション能はDQ-オバルブミン取込みアッセイ、およびNY-ESO-1タンパク質・ペプチド・IgG免疫複合体を用いたLy95 ELISpotで評価した。Ikaros発現調節にはプロテアソーム分解誘導薬レナリドマイド (lenalidomide、10 μM) を使用した。統計解析はWilcoxon matched-pairs test、Mann-Whitney unpaired test、one-way ANOVAとTukey多重比較検定、Kruskal-Wallis検定、Spearman相関検定をGraphPad Prism 6で実施し (p<0.05を有意とした)、BrdU取込みアッセイで増殖を定量化した。