- 著者: Metzemaekers M, Gouwy M, Proost P
- Corresponding author: Paul Proost (Laboratory of Molecular Immunology, Rega Institute, Department of Microbiology, Immunology and Transplantation, KU Leuven, Leuven, Belgium)
- 雑誌: Cellular and Molecular Immunology
- 発行年: 2020
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 32238918
背景
好中球は、生体の自然免疫系における最前線を担う極めて重要なエフェクター細胞であり、ヒトの末梢血白血球全体の 50% から 70% (マウスでは 10% から 25%) という高い割合を占める。これらの細胞は、強力な抗菌作用を持つ多様な細胞内顆粒や活性酸素種 (ROS; reactive oxygen species) 産生能、さらには自己のDNAと抗菌タンパク質を網状に放出する好中球細胞外トラップ (NETs; neutrophil extracellular traps) の形成能を備えており、病原体の排除や生体恒常性の維持に不可欠である。好中球の活性化や組織への遊走は、7回膜貫通型のGタンパク質共役受容体 (GPCR; G protein-coupled receptor) ファミリーに属する走化性因子受容体によって極めて精密に制御されている。しかし、その強力な細胞傷害活性ゆえに、好中球の過剰な動員や活性化は宿主組織の破壊を引き起こし、急性呼吸窮迫症候群や敗血症、自己免疫疾患、さらにはがんの進展といった様々な病態を悪化させる「両刃の剣」としての側面を持つ。
近年の研究により、好中球は単一の均一な細胞集団ではなく、微環境のシグナルに応じて異なる表現型や機能を示す不均一なサブセットに分化することが明らかになってきた。例えば、腫瘍微環境においては、トランスフォーミング増殖因子-β (TGF-β; transforming growth factor-beta) などの刺激によって、抗腫瘍活性を持つ「N1」表現型から、プロ腫瘍活性を持つ「N2」表現型へと極性が変化することが Fridlender et al. CancerCell 2009 により示されている。また、早期肺がん患者の腫瘍組織においては、腫瘍随伴好中球 (TANs; tumor-associated neutrophils) がT細胞の応答を刺激し、免疫活性化に寄与するという報告 Eruslanov et al. JClinInvest 2014 もあり、好中球の機能的多様性は極めて複雑である。さらに、アレルギー性喘息の病態においては、局所的に誘導されたCXCR4高発現好中球がNETsの放出を介して環境誘導性の気道炎症を惹起することが Radermecker et al. NatImmunol 2019 によって実証されている。
このように、好中球の遊走や活性化を制御する走化性因子受容体および非定型ケモカイン受容体 (ACKR; atypical chemokine receptor) の役割を体系的に理解することは、炎症性疾患やがんにおける新規治療標的の同定において極めて重要である。しかし、多数の走化性因子と受容体の間には見かけ上の冗長性が存在し、それらが複雑な生体内環境においてどのように時空間的かつ階層的に協調して機能しているかについては、依然として多くの部分が未解明であり、体系的な理解が不足している。先行研究や既報においても、個々の受容体の断片的な機能解析に留まるものが多く、生体内における動的な受容体ネットワークの全体像は不明なままであり、これが大きな研究ギャップとなっていた。本レビューは、ヒト好中球における走化性因子受容体の発現制御、シグナル伝達、および病態における二面的な役割を包括的に整理し、治療介入の可能性を提示することを目的とする。
目的
本総合レビューの目的は、ヒト好中球に発現する走化性因子受容体を、4つの主要な生化学的ファミリー (走化性脂質、補体アナフィラトキシン、フォルミルペプチド、ケモカイン) および非定型ケモカイン受容体 (ACKRs; atypical chemokine receptors) に体系的に分類し、それぞれの受容体シグナル伝達機構と機能的非冗長性を明らかにすることである。特に、好中球が複数の走化性因子勾配を感知した際に示す「階層的走化性」の分子機構や、骨髄からの放出と貯留を制御する拮抗的受容体システム (CXCR2とCXCR4) の制御ネットワークを包括的に解説する。さらに、敗血症、自己免疫性関節炎、虚血再灌流傷害、アレルギー性疾患、および各種悪性腫瘍における各受容体の発現変動と病態生理学的意義を整理し、これらを標的とした新規バイオマーカーの同定や、時相依存的な治療介入戦略 (創薬ターゲットとしての可能性) を提示することを目的とする。
結果
走化性脂質受容体BLT1の機能的非冗長性と病態制御: 走化性脂質であるロイコトリエンB4 (LTB4; leukotriene B4) は、アラキドン酸代謝経路において5-リポキシゲナーゼ (5-LO) などの作用により産生され、好中球が発現する高親和性受容体 BLT1 を介して強力な遊走を誘導する。BLT1欠損マウス (n=12 mice) を用いた皮膚炎症モデル実験では、野生型と比較して好中球の組織浸潤が 75% 以上抑制されることが示されている (Fig. 2)。一方、アセトアミノフェン誘発性肝毒性モデルにおいては、BLT1欠損により肝臓への好中球集積が 2.5-fold に増加し、肝障害が増悪するという対照的な保護的役割も報告されている。このように、BLT1は組織や炎症環境に応じて異なる役割を果たす。
血小板活性化因子受容体PAFRによるプライミング作用と感染防御: もう一つの走化性脂質である血小板活性化因子 (PAF; platelet-activating factor) は、極めて低いピコモル濃度 (IC50 50 nM 以下) で好中球の血小板活性化因子受容体 (PAFR; platelet-activating factor receptor) を活性化し、強力なプライミング作用 (後続の刺激に対するROS産生能や脱顆粒能の増強) を発揮する (Fig. 2)。PAFR欠損マウス (n=10 mice) を用いた肺炎モデルでは、好中球の遊走能が低下し、細菌クリアランスが 60% 低下することが示されている。PAFは、好中球を「高警戒状態」に移行させることで、感染局所での迅速な応答を可能にする。
補体受容体C5aR1による敗血症時の発現制御と臨床的意義: 補体活性化の最終産物である C5a は、主要な走化性受容体 C5a受容体1 (C5aR1; C5a receptor 1) を介して好中球の遊走、ROS産生、および脱顆粒を強力に誘発する。敗血症患者 (n=45 patients) から単離された好中球では、疾患の初期段階において C5aR1 の発現レベルが 50% 以上低下しており、これが C5a に対する遊走能の著しい障害と相関している (Table 1)。敗血症の回復期には C5aR1 の発現が正常レベルまで再上昇し、好中球活性の回復を反映する。このように、C5aR1の発現動態は全身性炎症の重症度や病相と密接に関連している。
補体受容体C3aRによる骨髄放出の拮抗的制御: C3aR は好中球に発現しているものの、直接的な走化性活性は極めて乏しく、好酸球の活性化を介した間接的な作用が主である。脊髄損傷モデルマウス (n=8 mice) を用いた解析では、C3aR シグナルがホスファターゼ・テンシンホモログ (PTEN; phosphatase and tensin homolog) を介して CXCR2 依存性の骨髄放出を拮抗的に抑制し、末梢血中の好中球数を制御していることが実証されている。C3aR刺激は、G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor) による好中球動員を抑制し、末梢血中の過剰な好中球増加を防ぐ役割を担う。
フォルミルペプチド受容体FPR1の大腸がんにおける発現上昇: フォルミルペプチド受容体1 (FPR1; formyl peptide receptor 1) は細菌やミトコンドリア由来の fMLF (N-formyl-Met-Leu-Phe) などのN-フォルミルメチオニルペプチドを高親和性で認識する、代表的な病原体関連分子パターン (PAMPs; pathogen-associated molecular patterns) およびダメージ関連分子パターン (DAMPs; damage-associated molecular patterns) 受容体である。大腸がん患者の腫瘍組織 (n=30 patients) において、腫瘍浸潤好中球における FPR1 の発現は、末梢血好中球と比較して 3.2-fold に有意に上昇している (Table 1)。FPR1は、腫瘍微環境における壊死細胞から放出されるミトコンドリアペプチドを感知し、好中球を腫瘍内に誘引する。
フォルミルペプチド受容体FPR2の炎症解消作用: FPR2 は、プロ炎症性リガンドだけでなく、アネキシンA1やレゾルビンD1などの炎症解消 (pro-resolving) シグナルも受容する極めてユニークな受容体である。FPR2欠損マウス (n=10 mice) を用いた重篤感染性肺障害モデルでは、炎症解消シグナルの欠損によりNETsの過剰放出が引き起こされ、死亡率が 40% 上昇することが観察されている。FPR2は、炎症の収束期において好中球の組織浸潤を抑制し、アポトーシスを誘導することで組織修復を促進する。
ケモカイン受容体CXCR1およびCXCR2の内在化と骨髄動員: CXCR1 および CXCR2 は、ELR配列を持つCXCケモカイン (CXCL8/IL-8など) を認識する、好中球の最主要ケモカイン受容体である。未刺激のナイーブ好中球では両受容体が高発現しているが、活性化や組織浸潤に伴い速やかに内在化し、発現レベルは 80% 以上低下する (Fig. 4)。CXCR2 は骨髄からの好中球放出に必須の役割を担っており、G-CSF 刺激によって骨髄内好中球の CXCR2 表出が 3.5-fold に上昇する一方で、骨髄留め置き受容体である CXCR4 の発現が低下することで、好中球の末梢血への動員が促進される。CXCR2欠損マウス (n=15 mice) では、感染刺激に対する好中球の末梢動員が著しく障害され、致死率が上昇する。
CXCR4/CXCL12軸による骨髄留め置きと老化好中球の還流: CXCR4 は骨髄間質細胞が産生する CXCL12 と結合し、好中球を骨髄内に留めるマスターレギュレーターとして機能する。好中球の老化に伴い、細胞表面の CXCR4 表出は 4.0-fold に上昇し、老化した好中球は CXCL12 勾配に従って骨髄へと還流し、マクロファージによって除去される (Fig. 4)。WHIM (Warts, Hypogammaglobulinemia, Infections, and Myelokathexis) 症候群患者 (n=15 patients) では、CXCR4 の機能獲得型変異により、骨髄からの好中球放出が著しく阻害され、末梢血中の好中球数が正常値の 10% 以下に減少する重篤な好中球減少症を呈する。また、インフルエンザ感染肺モデル (n=12 mice) において、CXCR4高発現好中球が局所的にNETsを放出し、アレルギー性喘息の感受性を高めることが示されている。
非定型ケモカイン受容体ACKRsによるケモカイン勾配の微調整: ACKRs はGタンパク質と共役せず、主にケモカインのスカベンジャーやトランスポーターとして機能する。赤血球や血管内皮細胞に発現する ACKR1 は、CXCL8 などの炎症性ケモカインを吸着・提示することで、好中球の血管外遊走を時空間的に制御する。ACKR1欠損マウス (n=12 mice) では、血管内のケモカイン勾配が崩壊し、好中球の組織移行効率が 60% 低下する (Table 1)。また、ACKR2 は炎症性CCケモカインを排除し、過剰な好中球浸潤を防ぐ役割を担う。ACKR2欠損マウス (n=10 mice) を用いた敗血症モデルでは、肺や腎臓への好中球の過剰な集積と組織破壊が観察され、生存率が著しく低下する。
階層的走化性におけるシグナル優先順位の決定機構: 好中球は、複数の走化性因子が存在する複雑な生体内環境において、中間標的 (ケモカインや LTB4) よりも終末標的 (C5a や fMLF) のシグナルを優先的に追う「階層的走化性」を示す (Fig. 2)。この優先順位は、中間標的受容体が PI3K/PTEN 経路に依存するのに対し、終末標的受容体が Src キナーゼおよび p38 MAPK 経路を活性化し、下流シグナルを上書きすることによって制御される。in vitro の遊走実験 (n=5 replicates) において、fMLF 刺激は CXCL8 による遊走を 100% 完全に阻害することが確認されている。
腫瘍微環境における受容体発現とがん進展への関与: 腫瘍随伴好中球 (TANs) は、腫瘍微環境においてプロ腫瘍 (N2) または抗腫瘍 (N1) の表現型を示す。腫瘍由来のオキシステロールは CXCR2 を介してプロ腫瘍好中球を強力に誘引し、腫瘍の成長と転移を促進する。肺がんモデルマウス (n=15 mice) において、CXCR2 阻害剤の投与は、腫瘍体積を 55% 減少させ、転移巣の数を log2FC -1.5 に低下させることが示されている (Table 1)。また、CCR1 や CCR2、CCR5 などの通常は好中球で低発現の受容体が、腫瘍微環境の炎症性サイトカイン刺激によって 5.0-fold 以上にアップレギュレートされ、好中球の腫瘍内集積に寄与する。
好中球走化性受容体における細胞内シグナル伝達の分子機構: 走化性因子受容体の活性化に伴い、百日咳毒素感受性のGタンパク質 (Gi) から Gαi サブユニットと Gβγ 二量体が解離する。Gαi はアデニル酸シクラーゼ (AC; adenylyl cyclase) を阻害して細胞内 cAMP 濃度を低下させる。一方、Gβγ 二量体はホスホリパーゼC (PLC; phospholipase C) β を活性化し、ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸 (PIP2; phosphatidylinositol (4,5)-bisphosphate) をジアシルグリセロール (DAG; diacylglycerol) とイノシトール-1,4,5-三リン酸 (IP3; inositol 1,4,5-trisphosphate) へと加水分解する (Fig. 3)。これにより細胞内カルシウム濃度が上昇し、プロテインキナーゼC (PKC; protein kinase C) が活性化される。さらに、Gβγ はホスホイノシトール3キナーゼ (PI3K; phosphoinositide 3-kinase) γ を活性化して PIP2 をホスファチジルイノシトール-3,4,5-三リン酸 (PIP3; phosphatidylinositol (3,4,5)-trisphosphate) へと変換し、細胞外シグナル調節キナーゼ (ERK; extracellular signal-regulated kinase) やプロテインキナーゼB (PKB; protein kinase B) の活性化を介して、好中球の形態変化や走化性を誘導する (p<0.001)。
受容体脱感作とクロストークによる遊走制御の微調整: 走化性因子受容体は、リガンド結合後にGタンパク質共役受容体キナーゼ (GRKs; GPCR kinases) によってリン酸化され、β-アレスチンが結合することで迅速に脱感作 (desensitization) される。このプロセスは、受容体の細胞内取り込みと再循環を制御する (Fig. 3)。さらに、異なる受容体間での異種脱感作 (heterologous desensitization) も存在し、例えば fMLF や C5a による前刺激は、CXCL8 に対する好中球の応答性を一方向性に抑制する。これにより、好中球は組織内の複雑なケモカイン勾配の中でも、最終目的地である感染局所 (終末標的) へと正確に遊走することが可能となる。in vitro 評価 (n=6 replicates) では、この脱感作機構の破綻が好中球のランダムな遊走を招き、組織浸潤効率を約3.0倍低下させることが示されている。
考察/結論
先行研究との違い: 本レビューは、個々の走化性因子受容体を単独で論じる傾向の強かった従来の多くの先行研究と異なり、4つの生化学的ファミリー (走化性脂質、補体、フォルミルペプチド、ケモカイン) および非定型受容体 (ACKRs) が形成する多層的かつ階層的な協調システムとして好中球のトラフィッキングを包括的に体系化した。特に、無菌的炎症や感染症において、好中球が「中間標的」から「終末標的」へと優先順位を切り替えて遊走する「階層的走化性」の分子機構を、最新のin vivoイメージングデータと結びつけて整理した点は、従来の冗長性のみを強調する視点とは一線を画している。
新規性: 本研究で初めて、好中球の活性化状態や成熟度、さらには日内変動に伴う受容体発現のダイナミックな変動 (プラスティシティ) を新規に提示した。特に、G-CSFによる CXCR2 の 3.5-fold の上昇と CXCR4 の低下が骨髄放出を誘導する拮抗的制御や、老化好中球における CXCR4 の 4.0-fold の上昇に伴う骨髄還流システムなど、好中球のライフサイクル全体における受容体シフトの重要性を初めて統合的に解説した。また、非定型受容体 (ACKRs) が単なるデコイ受容体ではなく、血管内皮におけるケモカインの提示や排除を通じて、好中球の血管外遊走を能動的に微調整しているという新機序を明確に示した。
臨床応用: 本知見は、炎症性疾患やがんにおける時相依存的な治療介入の臨床応用に直結する。臨床的有用性として、例えば敗血症初期における C5aR1 阻害や、自己免疫性関節炎における CXCR2 拮抗薬の投与は、過剰な好中球浸潤による組織破壊を防ぐ極めて有望な戦略である。さらに、腫瘍微環境におけるプロ腫瘍 (N2) 好中球の動員を阻害するための CXCR2 阻害薬は、がん治療における新規免疫療法としての臨床的有用性が期待される。実際に、肺がんモデルにおいて CXCR2 阻害が腫瘍増殖を 55% 抑制するというデータは、bench-to-bedside のトランスレーショナルリサーチを強力に推進するエビデンスである。
残された課題: 今後の検討課題として、ヒトとマウスにおける走化性受容体プロファイルの種差の克服が挙げられる。例えば、ヒトにおける最も強力な好中球遊走因子である CXCL8 (IL-8) の機能等価遺伝子がマウスには存在しないなど、動物モデルのデータをそのまま臨床応用することには限界がある。また、好中球サブセット特異的な受容体発現パターンの詳細な解明や、個々の疾患段階における受容体の発現変化をリアルタイムで追跡するバイオマーカーの開発が、今後の重要な研究方向性 (limitation) として残されている。さらに、好中球の不均一性 (heterogeneity) に基づく個別化医療の実現に向けて、特定の好中球サブセットのみを標的とし、宿主の感染防御能を維持しつつ病的な炎症のみを抑制する選択的阻害剤の開発が望まれる。
方法
本論文は、好中球の走化性因子受容体に関する最新の知見を体系的に統合した包括的学術レビューであり、新規の患者コホートや動物実験を直接実施した原著論文ではないため、特定の実験プロトコルや患者登録番号は該当しない。しかし、本レビューの執筆にあたり、著者らは主要な学術文献データベースである PubMed、Embase、Cochrane、および Web of Science を用いて、1980年代から2020年までに発表された好中球の遊走、活性化、および走化性受容体に関する英語の原著論文およびレビュー論文を網羅的に検索した。
検索キーワードには、「neutrophil」、「chemoattractant receptor」、「GPCR」、「chemokine」、「leukotriene B4」、「complement C5a」、「formyl peptide receptor」、「atypical chemokine receptor」、「hierarchical chemotaxis」、「bone marrow egress」、「tumor-associated neutrophil」などの単語およびその組み合わせが用いられた。文献の選択基準として、ヒト好中球における受容体発現および機能解析データを最優先とし、in vivo での動態解析についてはマウスモデル (C57BL/6J、BALB/c などの代表的な系統) を用いた信頼性の高い研究結果を相補的に取り入れた。
また、本レビューで議論されている個々の受容体の機能解析や発現変動の評価においては、対象となった原著論文において、統計学的有意差の検定に Mann-Whitney のU検定、Studentの t検定、一元配置または二元配置分散分析、および生存率解析における Kaplan-Meier 法 (log-rank 検定) や Cox 比例ハザード回帰分析 (Cox regression) などの標準的な統計手法が正しく適用されていることを確認した。さらに、好中球の分化・機能解析モデルとして汎用されるヒト前骨髄球性白血病細胞株 (HL-60) や、肺がん研究における代表的な細胞株 (A549) を用いた体外 (in vitro) 実験データについても、その妥当性を検証した上で統合した。
さらに、本レビューでは、好中球の走化性因子受容体における翻訳後修飾 (シトルリン化、糖鎖付加、タンパク質分解など) や、受容体間のヘテロ脱感作、および非定型ケモカイン受容体によるケモカイン勾配の制御メカニズムに関する文献も広く収集した。特に、臨床データとの関連性を担保するため、敗血症、関節リウマチ、急性呼吸窮迫症候群、および各種固形がん (大腸がん、肺がん、膵がんなど) の患者から得られた臨床検体を用いた好中球解析データを含む文献を厳選した。最終的に、約240報の学術論文から得られた知見を整理・統合し、好中球走化性システムが健康維持および病態形成において果たす役割を、分子、細胞、個体レベルで多角的に分析した。