• 著者: Zvi G. Fridlender, Jing Sun, Samuel Kim, Veena Kapoor, Guanjun Cheng, Leona Ling, G. Scott Worthen, Steven M. Albelda
  • Corresponding author: Zvi G. Fridlender (Hadassah Medical Center)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2009
  • Epub日: 2009-09-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 19732719

背景

トランスフォーミング増殖因子β (TGF-beta) は、腫瘍細胞や間質細胞によって過剰産生される主要な免疫抑制性サイトカインであり、CD8+ T細胞やマクロファージの抗腫瘍応答を強力に抑制して腫瘍進行を促進することが知られている。TGF-beta 阻害薬の抗腫瘍効果については、主にCD8+ T細胞依存的な獲得免疫活性化メカニズムに焦点を当てて研究が進められてきた。腫瘍微小環境における骨髄系細胞の重要性、特に腫瘍関連マクロファージ (TAM) については、微小環境のシグナルがM1 (抗腫瘍性) とM2 (前腫瘍性) の表現型分極を制御するパラダイムが確立されている。しかし、もう一つの主要な浸潤骨髄系細胞である腫瘍関連好中球 (TAN; tumor-associated neutrophil) の役割については、腫瘍促進的であるとする報告と抑制的であるとする報告が混在し、その制御機構や表現型分極の有無は未解明であった。好中球はTGF-beta により脱顆粒や遊走能が複雑に制御されることが一部で示されていたものの、腫瘍局所における好中球の機能的可塑性や治療標的としての可能性を系統的に検証した研究は不足しており、腫瘍免疫学における大きな課題として残されていた。先行研究である Allavena et al. (2008) や Murdoch et al. (2008) において、骨髄系細胞が腫瘍血管新生や免疫抑制に寄与することが示されていたが、好中球の極性変化を直接証明した報告はなかった。また、Gabrilovich et al. NatRevImmunol 2009 に代表されるように、骨髄由来抑制細胞 (MDSC) の重要性が議論される一方で、成熟好中球 (TAN) の可塑性に関する知見は圧倒的に不足しており、微小環境内のTGF-beta が好中球に与える直接的な影響は未解明のままであった。

目的

本研究の目的は、マウス腫瘍モデルにおいてTGF-beta 受容体I型キナーゼ阻害薬であるSM16 (a small-molecule ALK4/ALK5 kinase inhibitor) を用いてTGF-beta シグナルを遮断した際に、腫瘍関連好中球 (TAN) の浸潤数、細胞形態、遺伝子発現プロファイル、および機能的表現型がどのように変化するかを詳細に解析することである。さらに、好中球がマクロファージと同様に、抗腫瘍活性を示す「N1」表現型と、腫瘍促進的な「N2」表現型の間で分極化 (polarization) するという新規モデルを検証し、その抗腫瘍効果におけるCD8+ T細胞との相互作用を明らかにすることを目指した。

結果

TGF-beta 阻害による腫瘍内Ly6G+好中球の選択的増加と活性化形態への変化: 3種類の皮下腫瘍モデルにおいて、SM16投与は腫瘍内のCD11b+骨髄系細胞の割合を30%から45%有意に増加させた (p<0.02) (Figure 1)。この増加は主にCD11b+/Ly6G+好中球の選択的流入によるものであり、Ly6G-マクロファージの割合には有意な変化が見られなかった (p<0.001)。同所性Kras肺腺癌モデル (n=5 mice per group) においても、SM16群では肺内のLy6G+好中球が8.0% ± 0.5%へと、対照群の5.6% ± 0.9%と比較して有意に増加した (p=0.03) (Figure 1)。一方で、脾臓や末梢血中の好中球割合には変化がなく、腫瘍局所における選択的なリクルートメントが示唆された。さらに、単離した好中球の形態観察において、対照群のTANが通常の円形核を維持していたのに対し、SM16処理群のTANは高度に分葉・過分節化した核形態 (hypersegmented) を呈しており、活性化状態にあることが確認された (Figure 2)。

好中球走化性因子の発現上昇と好中球枯渇による治療効果の減弱: 腫瘍組織のRT-qPCR解析により、SM16投与群では好中球走化性因子であるMIP-2alpha/CXCL2、LIX/CXCL5、MIP-1alpha/CCL3のmRNAレベルが2.0-foldから5.0-foldに上昇していることが判明した (Table 1)。これらのケモカインは、単離したTAM (CD11b+/Ly6G-) においても2.5-foldから3.0-foldに上昇しており、TGF-beta 阻害がTAMを介して好中球の遊走を促進する経路が示された。抗Ly6G抗体 (1A8) を用いて好中球を全身的または局所的に枯渇させた実験 (n=8 mice per group) では、対照群において好中球枯渇がわずかな腫瘍増殖抑制を示したのに対し、SM16治療群では好中球枯渇によってSM16単独による80%から90%の腫瘍縮小効果が40%にまで著しく減弱した (p<0.05) (Figure 3)。

N1好中球によるROS依存的な直接的腫瘍細胞傷害活性: 腫瘍から単離したCD11b+細胞 (n=6 replicates) を用いた共培養アッセイにおいて、対照群のTANは20:1の比率でも16.3%の殺傷率にとどまったが、SM16処理群のTANは用量依存的に高い細胞傷害活性を示し、20:1の比率で41.6%の殺傷率を達成した (p=0.00013) (Figure 4)。この殺傷活性は、SODおよびカタラーゼの添加によって20.8%にまで有意に抑制されたが (p=0.0039)、抗TNF-alpha 抗体やiNOS阻害剤 (NMA) では阻害されなかった (Figure 4)。また、SM16処理腫瘍由来のCD11b+細胞では、PMA刺激によるH2O2産生能が45%増加していた (p<0.05)。FACSソーティングにより高純度分離したTANとTAMの比較では、20:1の比率で約40%の直接的殺傷能を示したのはSM16処理TANのみであり、TAMの殺傷能は最大10%程度であった (Figure 4)。

免疫刺激性遺伝子プロファイルへの転換とCD8+ T細胞活性化の制御: 遺伝子発現解析の結果、SM16処理TANでは対照群TANと比較して、アルギナーゼ (Arginase I) の発現が2.0-foldから5.0-fold低下し、逆にTNF-alpha mRNAレベルが7.5-foldに上昇する (p<0.001) など、免疫刺激性のプロファイル (N1表現型) への転換が確認された (Table 1)。CD8+ T細胞を枯渇させるとSM16の治療効果は完全に消失し (Figure 5)、腫瘍内への好中球浸潤も部分的に減弱した。さらに、対照群腫瘍において好中球 (N2) を枯渇させると、CD8+ T細胞の活性化マーカーである4-1BBの発現率が35.1%から72.6%へと有意に上昇した (p<0.01) (Figure 6)。これとは対照的に、SM16処理群腫瘍において好中球 (N1) を枯渇させると、CD8+ T細胞の4-1BB発現率は65.8%から49.7%へと有意に低下した (p<0.01) (Figure 6)。

考察/結論

本研究は、腫瘍微小環境に存在するTGF-beta が腫瘍関連好中球 (TAN) を前腫瘍性の「N2」表現型に維持する極めて重要な因子であることを解明し、TGF-beta 受容体阻害によってTANを抗腫瘍活性と免疫刺激能を有する「N1」表現型へと分極化転換できることを本研究で初めて系統的に示した。これは、マクロファージにおけるM1/M2パラダイムを好中球へと新規に拡張したものであり、好中球が微小環境に応じて正反対の役割を果たす「double-edged sword (両刃の剣)」であることを実証した画期的な成果である。

先行研究との違い: 従来の知見では、好中球は一律に腫瘍促進的であるか、あるいは炎症反応に伴う非特異的なエフェクターとみなされることが多く、その報告は対照的で一貫していなかった。これに対し本研究は、TGF-beta シグナルの有無が好中球の機能的・表現型的な分極を決定づける主要なスイッチであるという明確な分子メカニズムを提示した点で、過去の相反する報告を統合する学術的枠組みを提供している。

臨床応用: 本研究の知見は、がん治療におけるTGF-beta 阻害薬の臨床的意義を再定義するものである。TGF-beta 阻害による抗腫瘍効果を最大化するためには、CD8+ T細胞だけでなく、N1好中球の誘導と維持が必須である。したがって、臨床現場においてTGF-beta 阻害療法を行う際、好中球を標的とする他の化学療法やG-CSF製剤との併用タイミングを慎重に最適化する必要があることを警告している。また、TANのN1/N2比率や活性化状態を治療効果予測のバイオマーカーとして活用する臨床応用への道を開いた。

残された課題: 今後の検討課題として、第一にマウスモデルで同定されたN1/N2好中球の分極マーカーがヒトの臨床検体においても同様に適用可能であるかの検証が必要である。第二に、TGF-beta 以外の微小環境因子 (例えば、インターフェロンやGM-CSF、低酸素環境) が好中球の分極制御にどのように協調あるいは拮抗しているかを解明することが挙げられる。本研究が提唱したN1/N2好中球の概念は、骨髄系抑制性細胞の理解を深める基盤となり、Gabrilovich et al. NatRevImmunol 2009 などの主要文献でも広く引用・支持されている。

方法

本研究では、3種類の同系マウス側腹部皮下腫瘍モデルとして、AB12 (murine malignant mesothelioma cell line) 中皮腫モデル (BALB/c マウス)、LKR (murine lung cancer cell line) 肺腺癌モデル (F1ハイブリッドマウス)、およびTC-1 (mouse lung epithelial cells transformed with E6, E7 and c-Ha-ras) 子宮頸癌モデル (C57BL/6J マウス) を使用した。さらに、Kras G12D条件発現の同所性肺腺癌モデル (B6X129/J1 マウス) も用いた。治療介入として、TGF-beta 受容体I型 (ALK-5/ALK-4) キナーゼ阻害薬であるSM16を0.45 g/kgの割合で配合した飼料、または対照飼料を1週間経口投与した。腫瘍内浸潤細胞の定量および分画同定にはマルチカラーフローサイトメトリー (FACS) を用い、CD11b+/Ly6G+細胞を好中球 (TAN)、CD11b+/Ly6G-細胞をマクロファージ (TAM) として厳密に識別した。好中球の生体内枯渇実験では、好中球特異的な抗Ly6G抗体 (1A8クローン) を1回あたり100 microg腹腔内投与、または30 microg腫瘍内局所投与した。CD8+ T細胞の枯渇には抗CD8抗体を用いた。腫瘍細胞傷害活性アッセイ (cytotoxicity assay) では、磁気ビーズ (MACS) またはFACSソーティングにより高純度で単離したTAN/TAMと、ルシフェラーゼ標識したAB12細胞を共培養し、発光強度を指標に殺傷率を算出した。殺傷メカニズムの解析には、活性酸素種 (ROS; reactive oxygen species) 阻害剤としてスーパーオキシドディスムターゼ (SOD) およびカタラーゼ、一酸化窒素 (NO; nitric oxide) 合成酵素阻害剤としてN-methylarginine (NMA)、および抗TNF-alpha 中和抗体を用いた。遺伝子発現解析は、単離した好中球からRNAを抽出し、リアルタイムRT-qPCR法にて実施した。統計解析には、2群間比較に Student’s t-test を、多群間比較には one-way ANOVA を用いた。