- 著者: Evgeniy B. Eruslanov, Pratik S. Bhojnagarwala, Jon G. Quatromoni, Tom Li Stephen, Anjana Ranganathan, Charuhas Deshpande, Tatiana Akimova, Anil Vachani, Leslie Litzky, Wayne W. Hancock, José R. Conejo-Garcia, Michael Feldman, Steven M. Albelda, Sunil Singhal
- Corresponding author: Sunil Singhal (Division of Thoracic Surgery, Perelman School of Medicine, University of Pennsylvania, Philadelphia)
- 雑誌: Journal of Clinical Investigation
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-11-17
- Article種別: Original Article
- PMID: 25384214
背景
腫瘍微小環境 (TME) における好中球 (tumor-associated neutrophils: TAN) の役割は、腫瘍の開始と進行に伴う「くすぶり炎症」の重要な要素として認識されているが、その機能的寄与は依然として不明確な点が多い。特に、TANが腫瘍の進行にどのように関与するかについては、マウスモデルとヒトの臨床研究で異なる見解が示されてきた。マウスモデルでは、TANは抗腫瘍性のN1表現型と腫瘍促進性のN2表現型に二極化することが提唱され、TGF-βがN2表現型を誘導することが示されている (Fridlender et al. CancerCell 2009)。しかし、これらのマウスモデルにおける知見がヒトの腫瘍生物学に直接適用できるかについては、種特異的な免疫応答の違いから慎重な検討が必要であると指摘されている (Mestas and Hughes, 2004; Seok et al., 2013)。
ヒトの臨床研究では、免疫組織化学的解析により、頭頸部癌 (Trellakis et al., 2011)、腎細胞癌 (Jensen et al., 2009)、メラノーマ (Jensen et al., 2012)、肝細胞癌 (Li et al., 2011)、大腸癌 (Rao et al., 2012) などでTAN浸潤が予後不良と関連することが報告されている。一方で、胃癌では予後良好との関連が示され (Caruso et al., 2002)、肺癌では報告が分かれており (Carus et al., 2013; Ilie et al., 2012)、TANの役割は腫瘍種や病期によって多様である可能性が示唆されている。これらの先行研究は、TANの臨床的意義について一貫した見解を示しておらず、その機能的役割は未解明な点が多かった。
好中球が免疫応答を調節する機序についても、矛盾する証拠が蓄積している。一部の研究では、好中球が抗原提示細胞 (APC) として機能し、T細胞の活性化を支援することが示されている (Radsak et al., 2000; Ashtekar and Saha, 2003; Potter and Harding, 2001; Reali et al., 1996)。しかし、他の研究では、末梢血好中球 (PBN) がアルギナーゼ-1の放出や活性酸素種 (ROS) の産生を介して、抗原非特異的なT細胞増殖を抑制することが示唆されている (Pillay et al., 2012; Schmielau and Finn, 2001; Munder et al., 2006)。特に、癌患者における顆粒球性骨髄由来抑制細胞 (G-MDSC) 集団がT細胞抑制機能を持つことが広く報告されているが (Gabrilovich et al. NatRevImmunol 2009)、TANがG-MDSCとは異なる実体であるか、また腫瘍進行に伴いその機能が変化するかについては、ヒト早期肺癌におけるデータが不足しており、その実態は未解明な点が多かった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、早期非小細胞肺癌 (NSCLC) (stage I-II) の手術切除検体から腫瘍関連好中球 (TAN) を新鮮単離し、その表現型、ケモカイン受容体レパートリー、サイトカイン産生プロファイル、およびT細胞応答調節能を系統的に明らかにすることである。具体的には、以下の点を解明することを目指した。
- 早期NSCLCにおけるTANの浸潤頻度と組織学的分布を評価し、その活性化表現型を末梢血好中球 (PBN) および遠隔正常肺好中球と比較する。
- TANが獲得する新規のケモカイン受容体発現プロファイルを同定し、その機能的意義を考察する。本研究では、CCR1-7およびCXCR1-7の広範なケモカイン受容体群の発現を詳細に解析する。
- TANが産生するサイトカインおよびケモカインのプロファイルを明らかにし、腫瘍微小環境における炎症応答への寄与を評価する。特に、MCP-1、IL-8、MIP-1α、IL-6などの炎症性因子とIL-1Rアンタゴニストの産生を定量的に測定する。
- 早期NSCLC患者の末梢血における顆粒球性骨髄由来抑制細胞 (G-MDSC) の頻度を健常人と比較し、早期癌における全身性免疫抑制の状況を把握する。
- TANがT細胞の増殖およびサイトカイン産生に与える影響をin vitroで詳細に解析し、その免疫調節機能が免疫抑制的であるか、あるいは免疫賦活的であるかを判断する。CFSE希釈法とBrdU取り込みアッセイを用いてT細胞増殖能を評価する。
- TANと活性化T細胞との相互作用が、TAN表面の共刺激分子発現にどのような変化をもたらすかを検討し、T細胞応答の調節における共刺激経路の役割を解明する。特に、CD54、CD86、OX40L、4-1BBLの発現変化に注目する。
- T細胞刺激における直接的な細胞接触の必要性を評価し、共刺激分子の阻害実験を通じて主要な共刺激経路を特定する。トランスウェルシステムとブロッキング抗体を用いて、OX40L/OX40および4-1BBL/4-1BB経路の重要性を検証する。
結果
TAN浸潤の頻度と組織学型差 — SCC で AC の約2倍の密度: 腫瘍関連好中球 (TAN) (CD15^hi CD11b+ 細胞) は、検討した全86例の非小細胞肺癌 (NSCLC) 組織に存在し、生細胞の2%〜25%を占めた。免疫組織化学的解析では、ミエロペルオキシダーゼ (MPO) 陽性細胞密度が扁平上皮癌 (SCC) の腫瘍小島 (197 cells/mm^2) および間質 (269 cells/mm^2) において、腺癌 (AC) (それぞれ40 cells/mm^2および97 cells/mm^2) と比較して有意に高かった (p<0.02) (Figure 1E)。フローサイトメトリー解析でも、SCCにおけるTAN頻度 (約15% vs ACの約7%、p=0.001) とTAN対CD15-CD11b+細胞比 (SCC: 2.6 vs AC: 1.4) がSCCで有意に高かった (Figure 1F, G)。TANはHLA-DR+ APCsおよびCD3+ T細胞と共局在を示し、間質および腫瘍小島の双方に存在した (Figure 1B, C)。腫瘍由来馴化培地 (TCM) は、末梢血好中球 (PBN) の走化性を高濃度IL-8と同程度に誘導した (Figure 1H)。腫瘍サイズや喫煙歴との相関は認められなかった。
TAN の活性化表現型と新規ケモカイン受容体レパートリーの獲得: 末梢血好中球 (PBN) はCD62L^hi CD54- CXCR1^hi CXCR2^hi のナイーブ表現型を示したのに対し、TANはCD62L^lo CD54^hi CXCR1^lo CXCR2^lo の高活性化表現型を呈した (Figure 2D, E)。新規発現として、ほぼ全てのTANがCCR5を高発現し (PBNでは不在)、さらにCCR7、CXCR3、CXCR4がTANのサブポピュレーションに発現していた (PBNでは不在) (Figure 2F)。遠隔正常肺好中球は中間的な活性化状態 (CCR5, CCR7, CXCR3の発現はPBNより高く、TANより低い、ともにp<0.01) であった (Figure 2E, F)。健常人PBNをTCMで培養すると同様にCD62L^lo CD54^hi へ転換することから、腫瘍由来因子がin vivoでのTAN活性化を駆動することが示唆された (Figure 2C)。PD-L1、galectin-9、CD200R、CD301などの免疫抑制リガンドはTANで上昇していなかった (Figure 3A)。
早期癌ではG-MDSCが増加していない: 早期NSCLC患者 (n=20 patients) の末梢血PBMC中のlow-density CD11b+CD14-CD15+CD33+ G-MDSC頻度は、健常人 (n=20 donors) と有意差がなかった (0.9% ± 0.17% vs 0.7% ± 0.18%, p=NS)。この結果は、進行癌で報告されるG-MDSC増加が早期癌では見られないことを示唆し、早期TAN機能が晩期の抑制性G-MDSCとは異なる可能性を示唆する。
TAN はT細胞増殖および IFN-γ 産生を有意に促進 — 免疫抑制は非支配的: CFSEアッセイでは、対照T細胞の約50%がCFSE^lo (1〜6回分裂) であったのに対し、TANとの共培養では分裂T細胞比率が最大95%まで増加した (Figure 5A)。自己T細胞とのBrdU取り込みアッセイ (72時間) では、TAN共培養でCD4+ T細胞の79%・CD8+ T細胞の69%がS期にあったのに対し、対照T細胞またはPBN共培養では15%〜30%のみであった (Figure 5B)。抗CD3抗体の複数濃度でのTAN共培養実験では、CD4+ T細胞増殖を15%から64% (p<0.01)、CD8+ T細胞増殖を12%から61% (p<0.01) へ有意に増強した (Figure 5D)。混合リンパ球反応 (MLR) でも、同種異系DC誘導T細胞増殖がTANの添加でさらに増強された (Figure 5C)。アルギナーゼ阻害薬やROSスカベンジャー添加では増殖促進効果に大きな変化がなく、免疫抑制機構ではなく共刺激機構が支配的であることが示唆された。IFN-γ産生も8例のNSCLC患者でTAN共培養群がPBN共培養群より有意に高かった (p=0.02) (Figure 6C)。
T細胞との接触によるTANの共刺激分子発現増強 — 正のフィードバックループ: 活性化T細胞との接触によって、TANのCD54 (ICAM-1)、CD86、OX40L (CD252)、4-1BBL (CD137L) が顕著に上方制御された (Figure 7E)。PBNではCD86とCD54のみ発現が増加した。トランスウェルを用いた分離実験では、直接接触非存在下でも増殖促進効果の一部が維持されたが、最大効果には細胞接触が必要であった (Figure 6B)。ブロッキング抗体を用いた実験では、抗CD54抗体と抗CD86抗体はTANのT細胞刺激効果を部分的に減弱させたが、抗OX40L抗体または抗4-1BBL抗体はT細胞の増殖促進活性を完全に阻害した (Figure 7F)。これらの結果は、OX40L/OX40および4-1BBL/4-1BB経路を介した共刺激が、TANの主要な免疫促進機構であることを示唆している。この細胞間相互作用は、T細胞の活性化をさらに増幅する正のフィードバックループを形成すると考えられる。
考察/結論
本研究は、早期ヒト非小細胞肺癌 (NSCLC) (stage I-II, 86例) の腫瘍関連好中球 (TAN) が、マウスN2モデルから想定される免疫抑制性ではなく、OX40L/4-1BBLを介したT細胞応答の増幅器として機能することを初めて体系的に示した点で新規である。CD4+ T細胞増殖を15%から64% (p<0.01)・CD8+ T細胞を12%から61% (p<0.01) へ増大させるという定量的なT細胞促進効果は、TANが早期NSCLCの抗腫瘍免疫において積極的な役割を担うことを示す。この知見は、マウスモデルから得られたN1/N2二分論をヒト早期癌に機械的に適用することの危険性を強調し、疾患進行度に依存した好中球機能シフトの存在を示唆する。
先行研究と異なり、本研究はTGF-βによる腫瘍部位でのN2表現型誘導が示唆されていた先行研究 (Fridlender et al. CancerCell 2009) とは対照的に、ヒト早期NSCLCのTANには抑制的特性はなく免疫賦活的であることを実証した。早期NSCLC患者の末梢血G-MDSC頻度が健常人と差がない (0.9% ± 0.17% vs 0.7% ± 0.18%) という知見は、全身性の免疫抑制システムが早期癌では未だ確立されていないことと、TANの腫瘍局所免疫賦活機能が共存していることを示す。Distant neutrophilが中間的な活性化状態にあることは、腫瘍由来因子が全肺組織へ波及効果を持つ可能性を示唆する。
臨床応用として、本研究の知見は、OX40L/4-1BBL経路の維持・活用や、外科切除後の免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 併用の臨床的有用性に新たな展望をもたらす。TANがT細胞応答を増強する能力は、抗腫瘍免疫を強化するための新たな治療戦略開発の基盤となる可能性がある。例えば、OX40Lや4-1BBLを標的としたアゴニスト抗体や、これらの共刺激分子の発現を誘導する薬剤を併用することで、T細胞応答をさらに増強し、早期NSCLC患者の予後改善に繋がる可能性がある。
残された課題として、以下の点が挙げられる。第一に、進行病期でのTAN機能変化、特にN1からN2への移行を駆動する分子トリガーの同定が必要である。本研究では、腫瘍サイズが大きいほどTANのT細胞刺激能が低い傾向が示されており、腫瘍の進行に伴いTANの機能が変化する可能性が示唆される。第二に、TANとG-MDSCの発生学的関係の解明、特に両集団が共通の前駆細胞から分化するのか、あるいは異なる経路で発生するのかを明らかにすることが重要である。第三に、OX40L/4-1BBL経路強化とICI (抗PD-1/PD-L1抗体) との相乗効果の前臨床・臨床検証が必要である。これらの経路を組み合わせることで、より強力な抗腫瘍免疫応答を誘導できる可能性がある。最後に、縦断的なTAN表現型追跡研究により、治療介入や疾患進行がTANの機能に与える影響を評価する必要がある。本研究が示した早期癌でのTAN免疫賦活機能は、早期NSCLC手術後補助療法や免疫療法適応選択の基礎的根拠として重要な位置づけを持つ。
方法
本研究は、stage I–II の手術切除非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者86例 (腺癌 [AC] 45例、扁平上皮癌 [SCC] 25例、その他16例) を対象に実施された。患者は術前化学療法や放射線療法を受けておらず、他の悪性腫瘍も有していなかった。研究はペンシルベニア大学のInstitutional Review Board (IRB no. 813004) の承認を得ており、全ての患者からインフォームドコンセントを取得した。
腫瘍組織の処理と細胞単離: 手術切除された新鮮な肺腫瘍組織は、切除後20分以内に処理された。組織は細かくスライスされ、低濃度の酵素カクテル (collagenase type IおよびIV、collagenase type II、DNase I、elastase) を含む血清フリーのHyclone Leibovitz L-15培地で1時間、37°Cで振盪しながら消化された。赤血球溶解後、トリパンブルー排除法またはFixable Viability Dye eFluor 450染色により細胞生存率が測定された。生存率が80%未満の場合は、Dead Cell Removal Kit (Miltenyi Biotec Inc.) を用いて死細胞が除去された。
好中球の単離: 腫瘍関連好中球 (TAN) は、腫瘍細胞懸濁液からCD15陽性またはCD66b陽性細胞の陽性選択により、磁気ビーズ (Miltenyi Biotec Inc.) を用いて単離された。一部の実験では、フローサイトメトリー細胞ソーティング (BD FACSAria II) により、CD45^hi CD11b^hi CD66b^hi CD15^hi の表現型に基づいてTANが単離された。末梢血好中球 (PBN) は、EDTA抗凝固末梢血から密度勾配遠心分離法により単離された。単離されたTANおよびPBNの純度と活性化状態は、フローサイトメトリーによりCD66b, CD15, アルギナーゼ-1 (Arg1), ミエロペルオキシダーゼ (MPO), CD11b, CD62L, CD54などのマーカーを用いて評価された。純度が90%未満のサンプルは破棄された。
フローサイトメトリー解析: 好中球の表現型、活性化マーカー (CD62L, CD54, CXCR1, CXCR2)、新規ケモカイン受容体 (CCR1-7, CXCR1-7)、および免疫抑制性リガンド (PD-L1, galectin-9, CD200R, CD301) の発現は多色フローサイトメトリーで解析された。T細胞の活性化マーカー (CD25, CD62L, CD107a) およびFOXP3の発現も評価された。
サイトカイン・ケモカイン測定: 精製されたTANおよびPBN、ならびに消化された腫瘍組織由来の全細胞の24時間培養上清中のサイトカイン、ケモカイン、成長因子は、Cytokine Human Magnetic 30-Plex Panel (Luminexプラットフォーム、Invitrogen) を用いて測定された。IFN-γ、IL-10、GM-CSFは市販のELISAキット (BD Bioscience) で測定された。
T細胞増殖アッセイ: T細胞増殖は、CFSE希釈法またはBrdU取り込みアッセイを用いて評価された。健常ドナーまたは患者由来のPBMCまたは精製T細胞をCFSE標識し、抗CD3抗体および/または抗CD28抗体で刺激し、TANまたはPBNと共培養した。混合リンパ球反応 (MLR) では、健常ドナー由来のT細胞を同種異系樹状細胞 (DC) と共培養し、TANまたはPBNの添加効果を評価した。共刺激分子の役割を評価するため、CD54, CD86, OX40L, 4-1BBL, CD80, CD40に対するブロッキング抗体を添加した実験も実施された。トランスウェルシステムを用いて、細胞接触の必要性も検討された。
その他の機能アッセイ: 好中球の生存率は、アネキシンV/PI染色によるフローサイトメトリーで評価された。活性酸素種 (ROS) 産生はAmplex Red Hydrogen Peroxide/Peroxidase Assay Kit (Invitrogen) を用いて測定された。食細胞活性はpHrodo Red E. coli BioParticles Phagocytosis Kit (Life Technologies) を用いて評価された。走化性は、Neuro Probe ChemoTxシステムを用いたトランスウェルアッセイで評価された。
免疫組織化学: 腫瘍マイクロアレイ (TMA) を用いて、MPO, HLA-DR, CD3の二重免疫染色によりTANの密度と局在が評価された。画像解析はVectra自動画像解析ロボットとInform解析ソフトウェアを用いて行われた。
統計解析: 全てのデータは正規分布の検定が行われた。2群間の比較には、正規分布データに対しては対応のある/ないStudentのt検定、非正規分布データに対してはWilcoxon符号順位検定またはMann-Whitney U検定が用いられた。多群比較には、正規分布データに対しては一元配置ANOVAとTukeyの多重比較検定、非正規分布データに対してはKruskal-Wallis検定とDunnの多重比較検定が用いられた。相関解析には非パラメトリックSpearman検定が用いられた。全ての統計解析はGraphPad Prism 6で実施され、p値が0.05未満を有意差ありとした。