• 著者: Coraline Radermecker, Catherine Sabatel, Céline Vanwinge, Cecilia Ruscitti, Pauline Maréchal, Fabienne Perin, Joey Schyns, Natacha Rocks, Marie Toussaint, Didier Cataldo, Sebastian L. Johnston, Fabrice Bureau, Thomas Marichal
  • Corresponding author: Fabrice Bureau; Thomas Marichal (GIGA Institute, Liege University, Liege, Belgium)
  • 雑誌: Nature Immunology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-10-07
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31591573

背景

アレルギー性喘息はHDM (house dust mite、ハウスダストマイト)・花粉・ペットアレルゲンなどの吸入アレルゲンへの感作と2型免疫応答 (TH2細胞・IL-4・IL-5 (interleukin-5)・IL-13・好酸球・杯細胞化生) によって特徴付けられる公衆衛生上の重大疾患であり、世界的に有病率が増加している。疫学研究は少なくとも3種の異なる環境リスク因子との相関を報告している:(1) 呼吸器ウイルス感染 (ライノウイルス・インフルエンザ等)、(2) 大気汚染物質 (オゾン・排気微粒子等)、(3) 衛生仮説に沿った「清潔な」都市環境 (細菌・LPS等エンドトキシンへの曝露減少)。疫学研究では、農場環境で育ちLPS曝露が豊富なアーミッシュ小児ではアレルギーが少ない一方、LPS曝露が乏しいフッテライト小児ではアレルギーリスクが高いことが示されており、低用量LPS曝露環境が喘息感受性増大と関連することが知られていた。

2型アレルギー喘息の開始機序としては、HDM化合物と上皮細胞由来アラーミン (TSLP (thymic stromal lymphopoietin)・IL-33・IL-25等) がDC (dendritic cell、樹状細胞) のうちCD11b+Ly-6C+肺DCに作用してアレルゲンのサンプリング・リンパ節への輸送・TH2細胞誘導が起きることが確立されていた。好中球は機能的多様性と可塑性を持つ免疫細胞として再評価されており (Ng et al. NatRevImmunol 2019)、NETs (neutrophil extracellular traps) —Cit-H3 (citrullinated histone H3)・NE (neutrophil elastase)・MPO (myeloperoxidase) を含む細胞外DNA構造体— が免疫病理に関与しうることも示されていた (Papayannopoulos et al. NatRevImmunol 2018)。重症喘息では好中球サイトプラストがTH17分化を促進することも示されていたが (Krishnamoorthy et al. SciImmunol 2018)、好中球の役割は主にtype 17応答関連の重症喘息のエフェクター段階での研究が中心であった。2型アレルギー喘息の「開始段階」における好中球・NETs の役割は未解明であり、多様な環境リスク因子 (低用量LPS・ウイルス・オゾン) が好中球を通じて共通の機序でアレルギー感作を促進するかどうかという基礎的な問いに答える知見が欠如していた。先行研究では好中球の役割は主に重症喘息のエフェクター段階に限られており、2型アレルギー感作の開始段階でのCXCR4hi好中球・NETsが喘息惹起に必要であるかを直接証明した証拠が不足していた。この機序解明の欠如が、環境-喘息リスク関係の共通基盤の理解と新規治療標的の同定を妨げていた。

目的

マウス肺好中球のscRNA-seq (single-cell RNA sequencing) 解析と、低用量LPS・インフルエンザウイルス感染・オゾン曝露という3種の異なる環境リスク因子を用いたHDM誘発アレルギー喘息モデルにより、環境因子が肺好中球をいかに再プログラミングして2型アレルギー気道炎症の「開始段階」を促進するか、その共通メカニズムを解明すること。特に、好中球サブセットとNETsが喘息の開始に果たす必須的役割を明らかにすることを目的とした。

結果

LPS用量依存的な喘息促進・保護効果の確認: LPSlo-HDMマウスはvehicle-HDMおよびLPShi-HDMマウスと比較して、メサコリン気道抵抗の有意な上昇 (気道過敏性、p<0.001)、BALF好酸球数の増加、HDM再刺激によるIL-4・IL-5・IL-13産生亢進、血管周囲・気管支周囲炎症スコアの上昇、杯細胞産生増加をいずれも有意に示した (Fig. 1, n=12 per group)。対照的に、高用量LPShi前処置ではHDM誘発喘息は惹起されず、LPS用量依存的な双方向性の効果 (低用量=促進・高用量=保護) が確認された。なお、LPSloおよびLPShi投与後24時間以内にCD45+CD11bhi Ly-6Ghi好中球が大量に肺内へ動員されたことは両条件で共通していた。

scRNA-seqによるCXCR4hi好中球クラスターとLPS用量特異的シグネチャーの同定: vehicle (1,406細胞)・LPSlo (2,146細胞)・LPShi (2,746細胞) のマウス肺好中球から合計6クラスターが同定された (Fig. 2)。クラスター1はLPSloマウスにほぼ固有 (LPSlo専属)、クラスター2/3/5はLPShiマウスにほぼ固有、クラスター0はvehicle肺の安定状態好中球を代表した。LPSlo特異的シグネチャー (97転写産物) には小胞体ストレス (Atf3, Atf4, Bax)、ROS (reactive oxygen species、活性酸素種) 産生 (Ptgs2, Arg2, Il1b)、ERK1/2 (extracellular signal-regulated kinase 1/2) シグナリング (Cd74, C3, Hmgb1) に関与する転写産物が濃縮されており、これらはいずれもNETs形成に関与することが知られている経路であった。LPShi特異的シグネチャー (25転写産物) には補体受容体シグナリング (Fpr1, Fpr2) とI型/II型インターフェロン応答 (Ifitm1, Ifitm3) 関連遺伝子が濃縮された。Cxcr4とLamp-1転写産物はLPSloクラスター1で有意に高発現していた。

CXCR4hiCD49dhi好中球の肺局所プログラミングとNETs自発放出: フローサイトメトリー解析で、LPSlo処置後24時間後の肺好中球においてvehicleおよびLPShi群と比較してCXCR4・CD49d・Lamp-1発現が有意に上昇した (Fig. 3)。経時的解析では、CXCR4発現は肺好中球でLPSlo投与後18時間から増加し24時間にピークに達し、48時間後に基準値へ復帰した。重要なことに、CXCR4発現変化は肺局所のみに認められ、血液中・骨髄中の好中球ではいずれの用量でも変化がなかった。これは低用量LPSが骨髄や末梢血ではなく肺局所で好中球を再プログラムしていることを示す。FACSソートしたCXCR4hiCD49dhi肺好中球はex vivoで自発的にNETsを放出したのに対し、CXCR4loCD49dlo好中球 (vehicle・LPShi由来) は放出しなかった。LPSloマウスBALF中の遊離dsDNA量はvehicle群と比較して有意に増加 (p<0.05) し、NE-DNA複合体量も約2-fold以上の増加を示し、肺組織でのCit-H3量増加と共焦点顕微鏡によるMPO+Cit-H3+ NETs構造の可視化も確認された (n=8 per group)。Ly-6G抗体による好中球枯渇でNETsは完全消失し、NETs源が好中球であることが証明された。

CXCR2阻害・養子移入による好中球・NETs必須性の直接証明: CXCR2アンタゴニストSch527123 (3 mg/kg) 投与によってLPSlo後の肺好中球動員を有意に抑制すると、好酸球増多・TH2応答・炎症スコア・杯細胞産生が全て有意に低下した (Fig. 4)。養子移入実験では、LPSlo由来好中球5×10^5個をナイーブマウス気管内にHDMと同時投与すると単独で喘息 (好酸球増多・TH2免疫・炎症・杯細胞増加) を誘導した一方、PBS由来・LPShi由来好中球では誘導されなかった (n=9 per group)。DNase・GW-311616・Cl-amidine (10 mg/kg) によるNETs標的化は、LPSlo-HDMマウスで好酸球増多・TH2応答・炎症・杯細胞産生を有意に低減させ、NETs(好中球細胞外トラップ)が喘息開始を媒介することが確認された (Fig. 5)。

NETs-DC軸によるアレルゲン取込み促進機序: AF647標識HDMを用いたin vivoアレルゲン取込み実験で、LPSloマウス肺ではCD11b+Ly-6C+ DCによるHDM取込みがvehicleおよびLPShi群と比較して有意に増加した (Fig. 6)。DNase・NEi・Cl-amidine処置によりこの増加は有意に抑制され、NETs依存性が確認された。BMDC (bone marrow-derived DC) とのex vivo共培養実験では、LPSlo好中球がCD11b+Ly-6C+ BMDCのHDM取込みをNETs依存的に直接増強し、pro-TH2共刺激分子CD86の発現をNETs非依存的に上昇させた。

インフルエンザ・オゾンモデルでのCXCR4hi好中球-NETs機序の普遍性の検証: PR8 H1N1インフルエンザ (5 PFU) 感染後7日目およびオゾン (2 ppm) 曝露後のマウス肺で、LPSloモデルと同様にCXCR4hiCD49dhi Lamp-1hi好中球が肺局所のみに誘導され (血液・骨髄には変化なし)、NETs産生が確認された (Fig. 7)。PR8-HDMおよびozone-HDMマウスでのアレルギー喘息 (好酸球増多・TH2免疫・杯細胞化生・CD11b+Ly-6C+ DC HDM取込み増加) も、DNase・NEi・Cl-amidine処置によって有意に抑制された (Fig. 8)。3種の異なる環境リスク因子を通じて共通のCXCR4hi好中球-NETs-DC軸が機能することが証明された。

考察/結論

本研究は「環境因子 (低用量LPS・インフルエンザウイルス・オゾン) →肺局所でのCXCR4hi好中球誘導→NETs放出→CD11b+Ly-6C+ DC活性化・アレルゲン取込み促進→TH2感作→2型アレルギー喘息開始」という統一的な好中球-NETs主導の喘息開始機序を確立した。3種の全く性質の異なる環境リスク因子が共通の細胞軸を通じて喘息を誘発するという発見は、環境-喘息リスク関係の普遍的基盤を提示する。

これまでの研究との違い: 既報において好中球はtype 17応答によって特徴付けられる重症喘息のエフェクター段階での役割が主に報告されてきたが、本研究はCXCR4hi好中球がtype 2アレルギー応答の「開始段階」においても中心的役割を持つことを示した。低用量LPS曝露によるCXCR4hi誘導が骨髄・血液ではなく肺局所のみで起こる点も、CXCR4hi血液好中球 (いわゆる老化好中球) とは対照的に、組織環境固有のプログラミングによる一過性の活性化状態であることを示しており、既報の「CXCR4hi好中球=サブセット」という相違点を提示する。さらにこれまでの研究はNETs主に重症喘息の増悪局面で論じてきたが、本研究はNETsが初回感作の「開始段階」に必要であることを示した。

本研究で初めて示された新規な知見: scRNA-seqによりLPSlo特異的好中球シグネチャー (97転写産物) がERストレス・ROS産生・ERK1/2シグナリングという3系統のNETs関連経路に集中的に濃縮されることが新規に明らかにされた。また、異なる環境リスク因子 (微生物産物・ウイルス・化学汚染物質) が共通のCXCR4hi-NETs-DC軸を通じて喘息を開始させるという統一機序はこれまで報告されていない、新規な概念的枠組みである。養子移入による「5×10^5個のLPSlo好中球が単独でHDM感作喘息を誘導しうる」という直接証明も本研究で初めて示された知見である。

臨床的意義: CXCR4hi好中球誘導とNETs産生の抑制 (CXCR4アンタゴニスト・DNase・PAD4阻害剤等) が喘息予防・治療の新たな臨床応用の方向性として注目される。ヒトでの支持的証拠として、LPS曝露が乏しいフッテライト小児はLPS豊富環境のアーミッシュ小児と比較して血液好中球でCXCR4高発現を示すという疫学観察は、環境-CXCR4hi好中球-喘息リスクの軸がヒトにも存在する可能性を示唆し、bench-to-bedside への橋渡し研究の必要性を示している。

残された課題: ヒト肺好中球においてNETs産生CXCR4hi好中球が環境因子によって誘導される条件と2型喘息開始への直接的寄与の検証が今後の検討課題である。上皮細胞由来アラーミン (IL-33・IL-25・TSLP) やHIF-1α (hypoxia-inducible factor 1-alpha) がCXCR4hi誘導に果たす分子機序の解明も重要な今後の展望として残されている。DNase・NEi・Cl-amidineはいずれもNETs完全特異的な手法ではないことがlimitationとして挙げられ (Cl-amidineはPAD4活性全般を抑制し、DNaseは細胞外DNA全般を分解する)、より特異的なNETs操作手段による再検証が求められる。また、他の環境因子 (排気微粒子・煙草煙・真菌プロテアーゼ等) や異なる遺伝的背景 (C57BL/6等) での普遍性についても更なる検討が必要である。

方法

マウスモデル: 雌性BALB/c (BALB/cAnNCrl, inbred strain) mice (6〜10週齢) に、LPSlo (low-dose LPS、100 ng) またはLPShi (high-dose LPS、10 μg) を鼻腔内投与し、1日後・8日後にHDM (40 μg・10 μg、鼻腔内投与) で感作・追加刺激。Day 11にFlexiVentシステムによる気道過敏性 (メサコリン気道抵抗)、BALF (bronchoalveolar lavage fluid) 細胞分画、IL-4/IL-5/IL-13産生 (ELISA)、組織炎症スコア、杯細胞産生 (PAS (Periodic acid-Schiff) 染色) を評価した (主要実験: n=12 per group)。

scRNA-seq解析: PBS・LPSlo・LPShi処置24時間後のマウス肺好中球 (MACS (magnetic-activated cell sorting) 陰性選択→FACS (fluorescence-activated cell sorting) CD45+ソート、各条件3マウスプール) を10x Genomicsプラットフォームでシーケンス。Cell Ranger v1.2.0でGRCm38 (Genome Reference Consortium Mouse Build 38, mouse reference genome)/mm10ゲノムへのアライメント、Seurat v2.1.0で解析。統計的に有意な11主成分 (JackStraw法で選択) を用いてtSNE (t-distributed stochastic neighbor embedding) およびgraph-based clusteringを実施。差次発現解析はlikelihood ratio test (ゼロ過剰データ対応)、GO (Gene Ontology) エンリッチメント解析はPANTHER 13.1 (Protein ANalysis THrough Evolutionary Relationships database) で実施。

NETs定量: BALF中遊離dsDNA (double-stranded DNA) (PicoGreen法)・NE-DNA複合体 (ELISA)、肺Cit-H3 Western blot、Zeiss LSM 880 Airyscan蛍光共焦点顕微鏡によるMPO+Cit-H3+ NETs可視化、Imaris 3D再構成によるNET体積定量 (n=8 per group)。

機能実験: CXCR2アンタゴニストSch527123 (small-molecule CXCR2 receptor antagonist; 3 mg/kg、経口投与) による好中球動員阻害実験;LPSlo/LPShi/PBS由来好中球 (5×10^5個) の気管内養子移入 (ナイーブレシピエントにHDMと同時投与);NET分解 (DNase 1,000 IU/day、i.p.) またはNET形成抑制 (NE阻害剤GW-311616 (neutrophil elastase inhibitor, small-molecule) 2.5 μg/g bid・PAD4 (peptidyl arginine deiminase 4) 阻害剤Cl-amidine 10 mg/kg bid、i.p.) による因果関係検証。

代替環境モデル: インフルエンザウイルスH1N1 (influenza A, Hemagglutinin type 1 Neuraminidase type 1) PR8/34 (5 PFU (plaque-forming units)、鼻腔内投与) 感染後7日+HDM感作、またはオゾン (2 ppm × 3時間 × 3日間) 曝露+HDM感作。統計解析はone-way ANOVAとTukey事後検定 (主解析)、mixed-effects model with Geisser-Greenhouse correction (気道抵抗反復測定)、Mann-Whitney U-test (2群比較) を用いた。