• 著者: Mareike Ohms, Sonja Möller, Tamás Laskay
  • Corresponding author: Tamás Laskay (Department of Infectious Diseases and Microbiology, University of Lübeck, Germany; tamas.laskay@uksh.de)
  • 雑誌: Frontiers in Immunology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-04-28
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32411122

背景

好中球は末梢血中で最も豊富な免疫細胞であり、侵入病原体に対する生体防御の第一線として機能する。しかし、近年では非感染性疾患、特にがんの微小環境における好中球の重要性が注目されている。腫瘍組織に浸潤した好中球は腫瘍随伴好中球 (TAN; tumor-associated neutrophil) と呼ばれ、微小環境内の因子に応じて抗腫瘍性の N1 表現型、または前腫瘍性(腫瘍促進性)の N2 表現型を可塑的に獲得することが、Fridlender et al. CancerCell 2009Coffelt et al. NatRevCancer 2016 によって報告されている。例えば、TGF-β (transforming growth factor-beta) や G-CSF (granulocyte-colony stimulating factor) への曝露は N2 極性化を誘導し、一方で TGF-β シグナルの阻害や I 型インターフェロン (IFN) 治療は N1 極性化をもたらすことが示されている。しかし、これら好中球の異質性や極性化に関する知見の多くはマウス腫瘍モデルに依存しており、ヒトの primary 好中球を用いた in vitro での極性化モデルは未確立であった。好中球は本来、寿命が極めて短い細胞であるため、長期的な in vitro 培養や極性化アッセイを行うこと自体が技術的に困難であり、ヒト好中球における N1/N2 表現型を定義する特異的な表面マーカーや機能プロファイルも十分に整理されていなかった。この translational gap を埋めるためのヒト好中球極性化プロトコルが不足していることが、がん免疫研究や慢性感染症研究における大きな課題として残されていた。このように、ヒト primary 細胞を用いた極性化の評価系が未確立であり、実験系としての技術的基盤が不足しているという knowledge gap が存在していた。

目的

本研究の目的は、ヒト末梢血由来の primary 好中球を in vitro で抗腫瘍性(炎症促進性)の N1 様表現型、および前腫瘍性(抗炎症性/免疫抑制性)の N2 様表現型へと明確に極性化させる実行可能な培養プロトコルを確立することである。さらに、確立された極性化好中球の細胞表面マーカー、サイトカイン・ケモカイン分泌プロファイル、活性酸素種 (ROS; reactive oxygen species) 産生能、および細胞内寄生原虫である Leishmania donovani に対する抗菌・駆除能を評価し、ヒト N1/N2 好中球の機能的特徴を詳細に定義することを目指した。特に、好中球の短寿命性を克服するため、パンカスパーゼ阻害剤である QVD-OPh (quinolyl-valyl-aspartyl-difluorophenoxymethylketone) を用いて細胞生存率を維持し、48時間までの長期的な極性化解析を可能にする技術的基盤を検証することも重要な目的である。

結果

細胞表面マーカーによる N1/N2 表現型の識別: in vitro で極性化されたヒト好中球は、明確に異なる表面マーカープロファイルを示した。N1 極性化カクテルで処理された好中球では、典型的な N1 マーカーである CD95 (FasR) および CD54 (ICAM-1) の表面発現が、N0 および N2 好中球と比較して極めて有意に上昇した (Figure 1)。24時間時点において、N1 好中球 (n=3 donors) における CD95 の平均蛍光強度 (MFI) は N0 の約 4.0-fold に達し (p<0.0001)、CD54 の発現も同様に顕著な高値を示した (p<0.0001)。これに対し、N2 極性化好中球では、典型的な N2 マーカーである CXCR2 (CD182) の表面発現が 24 時間時点で N1 好中球と比較して有意に高く維持されていた (p<0.01) (Figure 1)。これにより、in vitro 極性化系が in vivo の TAN で観察される表面マーカーの特徴を忠実に再現できることが示された。

活性化状態および脱顆粒プロファイルの相違: 好中球の活性化および脱顆粒マーカーの解析から、N1 様好中球が高度に活性化された状態にあることが裏付けられた。活性化に伴い脱落する CD62L (L-selectin) の発現をフローサイトメトリーで評価したところ、N2 好中球では CD62L の脱落が有意に抑制されており、N0 や N1 と比較して高発現を維持していた (p<0.01) (Figure 2)。一方、脱顆粒マーカーである CD66b および CD11b の表面発現は、N1 好中球 (n=3 donors) において N0 および N2 と比較して有意に上昇した (p<0.0001)。さらに、アズール顆粒から放出される MPO の分泌量を ELISA で測定した結果、N1 好中球の培養上清中 MPO 濃度は N0 および N2 と比較して極めて有意に高値であった (p<0.0001) (Figure 2)。

サイトカイン・ケモカイン分泌における相反する極性: 極性化された好中球は、それぞれ特徴的な可溶性因子の分泌パターンを示した。N1 極性化好中球は、炎症促進性サイトカインである TNF および T 細胞や NK 細胞を誘引するケモカインである IP-10 (CXCL10) を特異的かつ大量に放出した。24時間および48時間において、N1 好中球 (n=3 donors) からの TNF および IP-10 分泌は極めて高値であったが (p<0.0001)、N0 および N2 好中球ではこれらの放出は完全に検出限界以下であった (Figure 3)。対照的に、N2 極性化好中球は、好中球の動員に関与する IL-8 (CXCL8) を 24 時間時点で N1 好中球と比較して有意に高いレベルで分泌した (p<0.0001) (Figure 3)。

ROS およびスーパーオキシド産生能の時間依存的変化: ルミノール化学発光法を用いた MPO 由来 ROS の測定では、24時間および48時間の両時点において、N1 好中球が N0 および N2 と比較して高い ROS 産生傾向(PMA 刺激下)を示したものの、統計的な有意差には至らなかった (Figure 4)。一方、ルシゲニン化学発光法を用いた細胞外スーパーオキシド産生の測定では、24時間時点で N1 好中球が有意な上昇を示した (p<0.05) (Figure 5)。しかし、48時間培養後においては、PMA 刺激下でのスーパーオキシド産生能が N2 好中球において N0 および N1 と比較して有意に逆転上昇する現象が認められ、N2 好中球は N1 に対し約 2.5-fold の高いスーパーオキシド産生能を示した (p<0.01) (Figure 5)。

N2 極性化好中球における Leishmania donovani の生存促進: N1 および N2 極性化好中球の抗菌活性を評価するため、細胞内寄生原虫 L. donovani を用いた感染実験を行った。感染 3 時間後の初期感染率はほぼ 100% であり、すべての好中球が原虫を取り込んでいた (Figure 6)。感染後に極性化カクテルを添加して 24 時間および 48 時間培養した結果、N2 極性化好中球 (n=4 replicates) 内の生存原虫数は、N1 極性化好中球と比較して有意に高値を示した (p<0.05) (Figure 6)。N2 好中球における原虫生存率は N1 好中球の約 2.0-fold に達しており、N2 極性化が好中球の原虫駆除能を著しく低下させ、原虫の細胞内寄生および持続感染を許容する環境を提供していることが明らかになった。

考察/結論

本研究は、ヒト末梢血由来の primary 好中球を in vitro で N1 様および N2 様の異なる機能的表現型へと極性化させる堅牢なモデルを初めて確立した。QVD-OPh によるアポトーシス抑制下で 48 時間にわたり維持された好中球は、表面マーカー、サイトカイン分泌、および抗菌活性において明確な二面性を示した。N1 様好中球は CD95/CD54 高発現、TNF/IP-10 分泌、および高い原虫駆除能を特徴とする抗腫瘍・炎症促進性プロファイルを示した。一方、N2 様好中球は CXCR2 高発現、IL-8 分泌、および L. donovani に対する駆除能低下を伴う免疫抑制・許容的プロファイルを示した。

先行研究との違い: これまでの好中球極性化に関する知見は、主に Fridlender et al. CancerCell 2009Casbon et al. ProcNatlAcadSciUSA 2015 などのマウス腫瘍モデルに依存していた。ヒト好中球を用いた研究は、その短寿命性ゆえに長期培養が困難であり、in vitro での極性化系の構築はこれまで報告されていなかった。本研究は、パンカスパーゼ阻害剤 QVD-OPh を用いることで好中球の自発的アポトーシスを効果的に阻害し、細胞の活性化や ROS 産生に影響を与えることなく 48 時間以上の生存率を 90% 以上に維持した点で、従来の短期的な好中球研究プロトコルと大きく対照的である。

新規性: 本研究で初めて、ヒト primary 好中球を in vitro で N1 様および N2 様表現型に誘導する具体的なカクテル組成と培養条件(低酸素・低 pH を含む腫瘍微小環境の模倣)が提示された。さらに、N2 極性化好中球において L. donovani の生存が有意に維持されることを新規に実証した。これは、N1/N2 パラダイムががん微小環境のみならず、細胞内寄生原虫感染症などの慢性感染組織においても機能し、病原体の排除を免れるための「トロイの木馬」戦略に寄与している可能性を強く示唆するものである。

臨床応用: 本 in vitro 極性化モデルは、がん患者の腫瘍組織内において前腫瘍性(N2)に傾いた好中球を、薬理学的に抗腫瘍性(N1)へと再極性化させるための治療薬スクリーニングプラットフォームとして高い臨床的有用性を持つ。また、内臓リーシュマニア症 (VL; visceral leishmaniasis) などの重症感染症において、免疫抑制性好中球を標的とした新規の免疫調節療法の開発や、臨床現場における好中球バイオマーカーの同定に貢献する translational な意義を有している。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で用いた N1/N2 マーカーは機能的評価に依存する部分が大きく、ヒト好中球に特異的な単一の表面極性化マーカーの同定には至っていない点が挙げられる。また、本モデルは健常ドナー由来の好中球を用いて構築されたため、実際のがん患者や慢性感染症患者から分離された好中球が同様の可塑性や応答性を示すかについては、さらなる検証が必要である。さらに、N1 と N2 表現型間の相互転換(可塑性の限界)や、より長期的な極性化状態の持続性についても今後の研究方向性として残されている。

方法

細胞分離と培養: 健常ドナーから採取したリチウムヘパリン全血から、Histopaque-1077 および Histopaque-1119 を用いた不連続密度勾配遠心分離により顆粒球画分を回収した。さらに Percoll 勾配遠心分離(65%, 70%, 80%, 85%)を用いて高純度(99% 以上の顆粒球、95% 以上の好中球、好酸球 1-4%、単球・リンパ球混入 1% 未満)のヒト末梢血好中球を分離した。細胞は complete medium (RPMI 1640) に懸濁し、5 × 10⁶ cells/ml の濃度で培養した。

極性化カクテル: N1 極性化は、LPS (lipopolysaccharide) 100 ng/ml、IFN-γ 50 ng/ml、および IFN-β 10,000 U/ml を添加し、37℃、5% CO₂ 条件下で行った。N2 極性化は、腫瘍微小環境を模倣するため、TGF-β 20 ng/ml、IL-10 10 ng/ml、PGE2 (prostaglandin E2) 20 ng/ml、G-CSF 100 ng/ml、L-lactate 25 mM、および adenosine 10 μM を添加し、培地 pH を 6.7 に調整した上で、低酸素(2% O₂、5% CO₂、37℃)の hypoxic chamber 内で培養した。すべての培養系には、好中球の自発的アポトーシスを抑制して 48 時間までの長期培養を可能にするため、パンカスパーゼ阻害剤 QVD-OPh を 3 μM 添加した。QVD-OPh 単独で処理した好中球を未極性コントロール(N0)とした。

評価項目と統計解析: 細胞表面マーカー(CD95/FasR、CD54/ICAM-1、CD182/CXCR2、CD62L、CD66b、CD11b)はフローサイトメトリーで測定した。サイトカイン(TNF、IP-10/CXCL10、IL-8/CXCL8)および MPO (myeloperoxidase) の分泌量は ELISA で定量した。ROS およびスーパーオキシド産生は、ルミノールおよびルシゲニン増幅化学発光アッセイを用いて、PMA (phorbol 12-myristate 13-acetate) 20 nM 刺激下または未刺激下で測定した。Leishmania donovani プロマスティゴート(MHOM (Malaria and Hemoparasites Opportunistic Mycoses) 分類体系に基づく MHOM/IN/82/Patna 1 株)を用いた感染実験では、好中球と原虫を 1:10 の比率で 3 時間共培養して感染させた後、細胞外原虫を洗浄除去し、24時間および48時間後の生存原虫数を限界希釈アッセイ (limiting dilution assay) により定量した。統計解析は GraphPad Prism 6 を使用し、一元配置分散分析 (one-way ANOVA) に続く Sidak の多重比較検定、または Welch 補正を伴う unpaired t-test を用いて行い、p<0.05 を統計的有意とした。