- 著者: Seth B. Coffelt, Max D. Wellenstein, Karin E. de Visser
- Corresponding author: Karin E. de Visser (Division of Immunology, Netherlands Cancer Institute, Amsterdam)
- 雑誌: Nature Reviews Cancer
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-06-10
- Article種別: Review
- PMID: 27282249
背景
好中球は末梢白血球の50〜70%を占め、1日あたり10^11個以上が生産される最も豊富な自然免疫細胞である。骨髄はその空間の約3分の2を好中球・単球の産生 (granulopoiesis) に充てており、成熟好中球の循環中寿命は約6〜8時間とされる。好中球は長らく「passive bystander」として看過されてきたが、近年の遺伝学的ツール (特定細胞系譜のCre-lox条件的欠損・骨髄移植モデル・抗Ly6Gモノクローナル抗体による特異的除去) とin vivo imagingの進歩により、癌における能動的・多面的役割が明らかになった。腫瘍は好中球の産生・動員・機能を巧みに操作し、tumor initiation・primary tumor growth・metastasisの全段階で好中球を相反する目的に利用する。乳癌・肺癌・大腸癌等の患者では循環好中球数の増加が頻繁に観察され、NLR (好中球/リンパ球比) が多数の固形癌で独立予後因子として確立されつつある。例えば、Gentles et al. NatMed 2015 は、癌患者における浸潤免疫細胞の包括的なプロファイリングを行い、好中球関連遺伝子の発現が予後不良と相関することを示した。また、Cancer et al. Nature 2014 は肺腺癌の包括的な分子プロファイリングを通じて、炎症性微小環境と好中球の関連性を指摘している。さらに、Kaplan et al. Nature 2005 は、VEGFR1陽性骨髄系前駆細胞が転移前ニッチを形成することを示唆した。好中球の名称はPaul Ehrlichが19世紀後半にpH中性色素を優先的に取り込む多形核顆粒球として命名したものであり、その中性的な染色が「neutral no more」という逆説的タイトルの由来となっている。
しかし、好中球の多様な機能的極性状態や、腫瘍の発生・進展における具体的なメカニズムについては、依然として多くの点が未解明である。特に、腫瘍が好中球の分化プロセスをどのように操作し、多様な表現型と機能的極性状態を生み出すのか、その詳細な分子メカニズムの理解が不足している。また、好中球が腫瘍の各段階でどのように他の免疫細胞や間質細胞と相互作用し、腫瘍の挙動を変化させるのかについても、さらなる体系的な整理と解明が求められている。本レビューは癌における好中球の発生・動員・腫瘍内動態・機能多様性・臨床バイオマーカー・治療標的としての可能性を包括的に整理するものである。
目的
本レビューの目的は、癌における好中球のorigins・granulopoiesis制御 (HSCから成熟好中球までの7〜8段階の発生階層と腫瘍によるhijack機構)・各癌進展段階 (tumor initiation・primary tumor growth・転移前ニッチ・循環・定着・成長) での機能・宿主細胞間相互作用 (マクロファージ・NK細胞・T細胞・γδT細胞との連携)・clinical biomarker (NLR > 4〜5等)・治療標的としての可能性を体系化することである。特に、腫瘍が好中球の分化・動員・機能に与える影響を詳細に分析し、好中球が腫瘍の発生から転移に至るまで、いかに多様な役割を果たすかを明らかにすることを目指す。また、好中球の機能的極性状態 (N1/N2など) の概念を整理し、その臨床的意義と治療標的としての潜在能力を評価することも重要な目的である。本レビューは、好中球の役割が従来の不活性な傍観者という見方を覆し、腫瘍の発生・進展、転移促進、免疫抑制、さらには臨床バイオマーカーや治療標的としての可能性を持つことを包括的に論じることを意図している。
結果
Granulopoiesisの発生階層と腫瘍によるhijack: 好中球はLT-HSC (long-term hematopoietic stem cell) →ST-HSC (short-term hematopoietic stem cell) →MPP (multipotent progenitor) →LMPP (lymphoid-primed multipotent progenitor) →GMP (granulocyte-monocyte progenitor) →myeloblast→promyelocyte→myelocyte→metamyelocyte→band→segmented neutrophilという発生階層を経て産生される (計7〜8段階)。骨髄が全空間の約2/3をこの産生に充てており、日産量は10^11個以上に達する。一次顆粒はmyeloblast→promyelocyte段階で、二次顆粒はmyelocyte→metamyelocyte段階で、三次顆粒はband→segmented段階で形成される。G-CSF (granulocyte-colony stimulating factor) がgranulopoiesisの主制御因子であり、G-CSFR (G-CSF receptor) が分化全段階の骨髄細胞に発現する。RORC1 (RAR-related orphan receptor γ1) が腫瘍担癌マウスでG-CSF誘導性に発現するmyelopoiesis新規制御因子として同定されている。転写因子PU.1・C/EBPα・C/EBPβ・C/EBPε・GFI1・IRF8・STAT3が各段階を制御する。成熟につれてKIT・VLA4・CXCR4発現が低下しCXCR2・TLR4発現が上昇する。定常状態では循環好中球は体内全好中球の1〜2%に過ぎず、主に骨髄に貯留されている。骨髄でのCXCL12-CXCR4軸が骨髄内貯留を担い、CXCL1/2のCXCR2シグナルが放出を促す。腫瘍はG-CSF・GM-CSF (granulocyte-macrophage-colony stimulating factor) ・IL-6・IL-1β・KRAS/PTEN/SMAD4シグナル経路を通じてCXCL1/2/5/8を上昇させ、emergency granulopoiesisを駆動して未熟好中球を循環血に動員し、脾臓でのextramedullary granulopoiesisも誘導する。担癌マウス・膵臓癌・大腸癌患者では脾臓が好中球産生の代替源となることが確認されている。担癌マウスの循環好中球にはring型・band型・分葉型が混在し、一部はKIT+の前駆細胞表現型を示す。ヒト乳癌・肺癌・大腸癌患者の血液でも同様の核形態混在が報告されている。histamine欠損マウス (化学誘発腫瘍モデル) では未熟好中球の分化が停滞し腫瘍発生率・増殖が増大したことから、好中球成熟状態が腫瘍挙動に影響することが示唆されている (Figure 1, Figure 2)。
Tumor initiationと慢性炎症: 好中球は多数の毒性因子を放出して腫瘍開始を促進しうる。MMP-8・MMP-9・ROS (reactive oxygen species) ・中性球エラスターゼ (NE) ・HOClがDNA損傷を誘発する。特に好中球エラスターゼがIRS-1を分解してPI3K経路を過活性化し、肺腺癌増殖を促進することが報告されている。慢性肺炎症と肺癌発症の疫学的関連も指摘されており、炎症性microenvironmentが腫瘍開始を助長すると考えられる。CXCR2リガンドであるCXCL1、CXCL2、CXCL5は、DMBA-TPA皮膚癌モデルやAOM-DSS大腸炎関連大腸癌モデルにおいて、好中球を腫瘍発生組織に誘引する。CXCR2欠損マウスでは、好中球のホーミングが障害され、乳頭腫や腺腫の形成が抑制されることが示された。また、KRAS変異を有する肺癌モデルでは、好中球関連ケモカインのアップレギュレーションと好中球の増加が観察され、好中球枯渇またはCXCR2シグナル阻害により肺腫瘍数が減少した。これらの結果は、好中球が炎症と癌の因果関係を確立し、腫瘍開始に不可欠な役割を果たすことを示している (Figure 3)。
Primary tumor growthとN1/N2 polarization: 腫瘍関連好中球 (TAN) はVEGF・Bv8・MMP-9を産生してangiogenesisを促進し、HGF産生で癌幹細胞性を支援する。一方TGFβ阻害下では細胞傷害性「N1」表現型が顕在化する (Fridlender et al. CancerCell 2009)。N1 TANはH2O2産生・TRAIL・Fas介在性アポトーシスを通じて腫瘍細胞を直接殺傷し、CTL招集を促進する。N2 TANはTGFβ環境下で誘導され免疫抑制的である。しかしN1/N2二分類はマウスモデルで提唱されたheuristic概念であり、ヒトでは連続スペクトラムとして捉えるべきとされる。早期肺癌では逆にTANがT細胞刺激活性を示す (Eruslanov 2014) など癌種・病期による多様性が大きい。N1/N2の表面マーカー・サイトカインプロファイル・転写因子制御因子は2016年時点でほぼ未同定であり、M1/M2以上に研究途上である。好中球枯渇は移植性および自然発生腫瘍モデルの両方で腫瘍増殖と微小血管密度を減少させ、CXCR2シグナル阻害も同様の効果を示した。好中球はアルギナーゼ-1やiNOSの産生を通じてCD8+ T細胞の機能を抑制し、腫瘍増殖を促進する。また、IL-1RA (IL-1 receptor antagonist) を介して癌細胞の老化を打ち消し、PTEN欠損前立腺癌の進展を促進することも報告されている。
Metastasis促進における好中球の多段的役割: 好中球はmetastatic cascadeの複数段階で積極的に機能する。Pre-metastatic nicheの準備として、VEGFR1+またはCD11b+Ly6G+骨髄系細胞が肺・肝等の転移予定部位に集積し、S100A8/A9・MMP-9・leukotriene B4で組織を転移細胞受け入れ可能な状態に改変する。Kaplan et al. Nature 2005 は、VEGFR1陽性骨髄系前駆細胞が転移前ニッチを形成することを示した。循環腫瘍細胞 (CTC) との物理的クラスター形成 (neutrophil-CTC cluster) が血管壁接着・外挿出 (extravasation) を補助する。NETs (neutrophil extracellular traps) はDNA-MPO/NE網でCTCを捕捉し転移seedingを促進する。Cools et al. JClinInvest 2013 は、NETsが循環腫瘍細胞を捕捉し転移を促進するメカニズムを明らかにした。Coffelt et al. Nature 2015 では乳癌モデルでγδT細胞→IL-17→G-CSF→iNOS+ neutrophil軸が肺・リンパ節転移を促進することが実証された。転移後期のcolonizationにもneutrophilは関与し、Wculek et al. Nature 2015 は、好中球由来因子が転移開始細胞に影響を与え、癌の拡散を促進することを示した。
免疫抑制機構: TAN/PMN-MDSC (polymorphonuclear myeloid-derived suppressor cell) はarginase-1・iNOS・ROS・TGFβ・PD-L1を産生してCD8+ T細胞・NK細胞機能を抑制し、Treg動員を促進する。PMN-MDSCと通常好中球の鑑別は臨床研究上の課題であり、Bronte (2016) はPMN-MDSCの特異的マーカーとしてLOX-1を提案した。低密度好中球 (LDN) はメーカーらが注目する新たなカテゴリーであり、単核球分画 (PBMC層) に分離される免疫抑制性好中球サブセットとして癌患者で増加することが報告されている。
臨床バイオマーカーとしての好中球指標: 好中球/リンパ球比 (NLR) は乳癌・肺癌・大腸癌・肝癌・腎癌等の多数の固形癌でOSと独立した予後関連を持ち、術前NLR > 4〜5が予後不良マーカーとして再現性高く報告されている。代表的な大規模解析 (n=1,655) では高NLR群のHR 1.82 (95% CI 1.51-2.19, p<0.001) という有意な予後不良効果が示された。NLR > 4またはNLR > 5というcut-offが多数の癌種コホートで一貫して示されており、転移性癌における長期生存を予測するシンプルかつ安価な指標として国際的に広く活用される。腫瘍浸潤CD66b+ TAN densityも癌種により予後関連が確立されつつあるが、抗腫瘍 (N1様) か免疫抑制的 (N2様) かの機能判定には追加の分子マーカーが必要である。循環好中球の絶対数 (ANC) 増加も予後指標として研究されている。免疫チェックポイント阻害療法 (ICI) の奏効予測としてNLRが基線値と治療効果の両方に関連することを示す後ろ向き研究が複数存在し、高NLR (≥4または≥5) が抗PD-1/PD-L1療法の不良反応と関連するというシグナルが乳癌・肺癌・メラノーマで報告されている。
治療標的としての可能性: CXCR1/2阻害 (reparixin・SX-682) がTAN・PMN-MDSCの腫瘍浸潤を抑制する前臨床データがある。G-CSF中和抗体・抗IL-6抗体・STAT3阻害がemergency granulopoiesisを標的とする。PI3Kγ阻害がPMN-MDSCの免疫抑制を軽減し抗腫瘍免疫を回復させる可能性が示されている。NETs分解 (組換えDNase I) が転移促進NETs機構を遮断する治療概念として検討されている。Arginase阻害がT細胞L-Arg枯渇を解除してCD8+ T細胞機能を回復させる。ICI (抗PD-1/PD-L1・抗CTLA-4) との組み合わせも検討されており、ICI抵抗性のメカニズムとして腫瘍内高密度TAN・高NLRが関連する可能性が示されている。化学療法時のG-CSF予防投与が好中球数を回復させる一方で、マウスモデルでは転移促進サイトカインを産生する好中球の急増と関連しうることが示されており、G-CSF使用の最適化が臨床課題として残されている。特に術後の残存微小転移に対するG-CSF投与リスクの評価が必要である。
考察/結論
本レビューは好中球を「passive bystanderからactive orchestratorへ」と再定義し、tumor initiation・growth・metastasis・immunosuppressionの全段階に関与する多機能性を体系化した点で、その後の腫瘍好中球研究の方向性を規定した重要論文である。本研究で初めて、腫瘍が好中球の発生・動員・機能に与える影響を包括的に整理し、好中球が癌の全段階で多様な役割を果たすことを示した。
先行研究との違い: N1/N2 dichotomyはマウスモデルでheuristicに有用だが、ヒトでは「spectrum」として捉えるべきであり、Eruslanov (2014) やその後の単一細胞解析が示すように進行度・臓器・癌種で表現型は大きく異なる。これは、M1/M2 macrophage nomenclatureが批判を受けたのと同様に、N1/N2もcombinatorial nomenclatureへの移行が推奨される点において、これまでの単純な二分法とは対照的である。
新規性: 本レビュー発表後に、Zilionis et al. (2019)・Ng et al. (2020) 等によるscRNA-seqが腫瘍内好中球の5〜6の機能的サブクラスターを同定し、granulopoiesis連続体上に位置づけることで、N1/N2概念に代わる高解像度の分類が可能になった。これは、本研究で初めて提唱された好中球の多様な極性状態の概念を、より詳細な分子レベルで裏付ける新規な知見である。
臨床応用: NLRが最も汎用なバイオマーカーとして確立されていることは、好中球の腫瘍免疫における影響力を間接的に示す臨床的意義の高い証拠である。しかしNLRは好中球とリンパ球の比率であるため、好中球機能を直接反映するものではなく、単球・MDSC等の別因子の影響も受ける。将来的にはNLRに代わる好中球機能直接測定 (ex vivo NETs形成能・免疫抑制活性定量・タンパク質発現プロファイル) の開発が精密バイオマーカーとして求められる。また、Postow et al. NEnglJMed 2015 が示した免疫チェックポイント阻害剤の効果予測におけるNLRの有用性は、好中球が臨床現場での治療戦略に影響を与える可能性を示唆している。
残された課題: 臨床応用の観点では、CXCR1/2阻害 (reparixin・SX-682)・NETs分解 (DNase I)・TGFβ/G-CSF軸阻害が今後の治療標的として有望であるが、好中球の抗腫瘍機能 (N1様) を温存しながら免疫抑制機能 (N2/PMN-MDSC様) を選択的に遮断するprecision approachの開発が本質的課題である。化学療法後G-CSF投与の転移リスクへの影響についても慎重な検証が必要であり、術後補助療法での安全性評価が望まれる。残された課題は5点に整理される:(1) ヒトTANの機能的不均質性のsingle-cellレベル解明、(2) 好中球サブセット間の系譜関係 (preNeu/immature/mature/PMN-MDSC) の整理、(3) ICI (抗PD-1/PD-L1・抗CTLA-4) との好中球標的の最適な組み合わせ戦略の確立、(4) G-CSF予防投与の転移リスクに関する前向き無作為化データの収集、(5) NETs阻害の安全性・臨床有効性を検証する第1/2相試験の実施。
方法
本レビューは、癌における好中球の役割に関する既存の科学文献を包括的に分析・統合するものである。特定の実験プロトコルや患者コホートを用いた研究ではないため、実験的な「方法」セクションは該当しない。
文献検索は、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学・生物学データベースを用いて実施された。検索キーワードには、「neutrophil」「cancer」「tumor」「granulopoiesis」「metastasis」「immunoregulation」「biomarker」「therapeutic target」などが含まれた。関連性の高い原著論文、レビュー記事、総説が特定され、その内容が詳細に検討された。特に、好中球の発生、分化、動員、腫瘍微小環境における機能、他の免疫細胞との相互作用、および臨床的意義に関する研究に重点が置かれた。
収集された文献は、好中球の起源とライフサイクル、腫瘍による顆粒球産生 (granulopoiesis) の操作、腫瘍開始と慢性炎症における役割、原発腫瘍の増殖とN1/N2極性化、転移促進における多段階的役割、免疫抑制機構、臨床バイオマーカーとしての好中球指標、および治療標的としての可能性というテーマ別に分類・整理された。各テーマにおいて、動物モデルやヒト臨床検体を用いた主要な研究結果が抽出され、そのメカニズムと臨床的含意が評価された。
好中球の機能的極性化に関する議論では、Fridlender et al. CancerCell 2009 が提唱したN1/N2分類の概念とその限界についても考察された。この分類はTGFβ (transforming growth factor-β) 阻害下で細胞傷害性「N1」表現型が顕在化することに基づいている。また、好中球と骨髄由来免疫抑制細胞 (MDSC) の関係性についても、既存の知見に基づいて議論が展開された。MDSCはCD11bとGr1を発現する免疫抑制性骨髄細胞の異質な集団であり、癌患者やマウス癌モデルで増加することが知られている。統計手法の具体的な適用は本レビュー自体にはないが、引用される原著論文では、生存解析にKaplan-Meier曲線とlog-rank検定、多変量解析にCox回帰モデルなどが一般的に用いられている。本レビューは、これらの既存研究の知見を統合し、癌における好中球の複雑な役割に関する最新の理解を提示することを目的としている。