• 著者: Sonya J. Malavez-Cajigas, Fabiana I. Marini-Martinez, Mercedes Lacourt-Ventura, Karla J. Rosario-Pacheco, Natalia M. Ortiz-Perez, Bethzaly Velazquez-Perez, Wilfredo De Jesús-Rojas, Daniel S. Chertow, Jeffrey R. Strich, Marcos J. Ramos-Benítez
  • Corresponding author: Marcos J. Ramos-Benítez (Ponce Health Sciences University & Ponce Research Institute, Ponce, Puerto Rico; mjramos@psm.edu)
  • 雑誌: Heliyon
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-08-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 39262993

背景

好中球細胞外トラップ (NET; Neutrophil Extracellular Traps) は、DNA・histone・MPO (Myeloperoxidase)・NE (Neutrophil Elastase) などの抗菌タンパク質から構成される網状構造体であり、好中球が病原体を捕捉・殺菌するために細胞外へ放出する (Papayannopoulos et al. NatRevImmunol 2018)。NET は感染防御に寄与する一方、過剰または無制御な産生は組織傷害を引き起こし、敗血症・ARDS (Acute Respiratory Distress Syndrome)・血栓症・癌・自己免疫疾患など多様な疾患の病態形成に関与することが明らかとなっている。このため NETosis (NET を伴う好中球細胞死) の形成機構の解明と薬理的制御が重要な研究課題となっている。

NET 研究における主要な障壁は、初代末梢血好中球 (PMN; Polymorphonuclear Neutrophils) の取り扱いの困難さにある。PMN は単離後 8-24 時間という極めて短い寿命を持ち、有効な凍結保存法が存在しないため実験計画の柔軟性が著しく制限される。さらに好中球はドナー間変動が大きく、細胞の不均一性が高いことが NATRevImmunol 誌に報告されており (Ng et al. NatRevImmunol 2019)、分子機構研究における再現性確保が困難である。加えて、siRNA ノックダウンや CRISPR などの遺伝子操作も PMN では実施が困難であるため、NETosis のシグナル経路の mechanistic dissection には代替モデルが必要とされていた。

HL-60 細胞株は急性前骨髄性白血病由来のヒト白血病細胞株であり、DMSO (Dimethyl Sulfoxide)・ATRA (All-Trans Retinoic Acid)・DMF (Dimethylformamide) などの化学的分化誘導薬によって好中球様細胞 (dHL-60) に分化することが知られている。これまでの研究から dHL-60 は PMA (Phorbol 12-Myristate 13-Acetate) 刺激による NETosis については報告があったが、LPS (Lipopolysaccharide) という TLR-4 (Toll-Like Receptor 4) リガンドへの NET 応答については検討が手薄で、知識の gap が存在していた。特に DMSO 分化 dHL-60 が P. aeruginosa 由来 LPS に応答して NETosis を誘発するかどうか、および SYK (Spleen Tyrosine Kinase) 阻害薬 R406 が dHL-60 の LPS 誘導 NETosis を抑制できるかという点については「何が足りなかったか」が不明確なまま残されており、本研究はこの gap を埋めることを目的とした。LPS は P. aeruginosa などの Gram 陰性菌外膜成分で嚢胞性線維症・ICU 敗血症の主要病態因子であることから、この知識の gap を埋めることは臨床的に意義深い。

目的

DMSO 分化 dHL-60 細胞が P. aeruginosa 由来 LPS に応答して NETosis を誘発するかを確認し、その濃度-時間依存的応答を定量化する。さらに SYK 阻害薬 R406 (Fostamatinib の活性代謝物) が dHL-60 の LPS 誘導 NETosis を抑制できるかを検証し、初代好中球との並行比較により dHL-60 の NET 研究モデルとしての妥当性を評価する。

結果

LPS 誘導 NETosis の用量-時間依存的応答 (n=4):dHL-60 細胞は P. aeruginosa LPS に対して濃度・時間依存的な NETosis を示した。各ウェル n=30,000 cells を用いた 4 回の独立実験 (n=4 independent replicates) において、100 μg/mL LPS 刺激群では 2 時間時点で非刺激群との比較ですでに有意な NETosis 増加が確認された (P<0.001)。4 時間以降は 100 μg/mL 群および 75 μg/mL 群の両高用量で有意に上昇し (P<0.01 および P=0.0001)、一方で 50 μg/mL 以下では有意な NETosis 誘導は観察されなかった (Fig. 1A)。この結果は、P. aeruginosa LPS による dHL-60 の NETosis 誘発に明確な濃度閾値が存在し、75 μg/mL 以上で応答曲線が成立することを示している。NETosis 関連の形態学的変化として核分葉消失・核脱凝縮・クロマチンと細胞質成分の統合・膜崩壊後の Cytotox green 染色が観察され、非刺激細胞ではこれらの変化は認められなかった (Fig. 1E)。

PMA 誘導 NETosis との比較 (n=4):ポジティブコントロールとして用いた PMA では、4 時間時点で 100 nM 群が非刺激群と比較して有意な NETosis を示した (P<0.05)。5 時間以降は 25、50、75、100 nM の全濃度で有意差が確認された (P<0.05) (Fig. 1B)。LPS 100 μg/mL および PMA 100 nM の 6 時間刺激の代表蛍光画像では、核分葉消失・核脱凝縮・クロマチンと細胞質成分の統合・膜崩壊後の DNA 漏出という NETosis に特徴的な形態変化が両刺激条件で共通して観察された (Fig. 1C-D)。非刺激細胞ではこれらの変化は認められなかった (Fig. 1E)。LPS と PMA の両刺激で類似した NETosis カイネティクスと形態変化が確認されたことは、dHL-60 における NETosis 経路が PMA 依存的プロテインキナーゼ C 活性化経路と LPS 依存的 TLR-4 経路の双方で誘発可能であることを示唆する。

MPO-DNA 共局在による NETosis の形態学的確認:免疫蛍光染色により、100 μg/mL LPS および 100 nM PMA 刺激 2 時間後の dHL-60 細胞に MPO 陽性 DNA 網状構造 (NET) の共局在が確認された (Fig. 2A, D)。10 μg/mL LPS 刺激群では顕著な形態変化は観察されたが DNA 網状構造は認められず (Fig. 2C)、非刺激細胞には形態変化も NET 構造も存在しなかった (Fig. 2B)。これらの結果はライブセルイメージングの定量データを形態学的に裏付けるものであり、dHL-60 で観察された DNA 放出が NETosis 経路を介したものであることを確認した。さらに MTT assay では LPS または PMA 刺激 2 時間後に刺激群と非刺激群の間に代謝活性の差は認められず、NETosis 応答がネクローシスや進行性アポトーシスによる細胞毒性を介さないことが示された。

初代好中球との NET 産生量の比較:同一の LPS 100 μg/mL で初代好中球と dHL-60 を並行刺激したところ、6 時間後に初代好中球は非刺激群比 3000-fold の変化を示したのに対し、dHL-60 は 5-fold に留まった (Supplementary Fig. 2)。この顕著な産生量の乖離は、dHL-60 での有効 LPS 濃度 (75-100 μg/mL) が初代好中球 (10 ng/mL - 10 μg/mL) より約 1000 倍高いという感受性差と一致する。Neeli ら 2008 の報告では dHL-60 のヒストンシトルリン化は初代好中球と同程度であるものの、有効刺激濃度は顕著に高い必要があることが示されており、本研究の結果と整合した。

SYK 阻害薬 R406 による NETosis 抑制 (n=4):R406 (1 μM) を 30 分前処置した dHL-60 に LPS 100 μg/mL を添加した実験では、0 時間および 2 時間時点では R406 前処置群と LPS 単独群の間に有意差は認められなかった。しかし 4 時間後および 6 時間後において、R406 前処置群は LPS 単独刺激群と比較して有意に低い NETosis 率を示した (P<0.05) (Fig. 3)。この結果は SYK シグナル経路が dHL-60 の LPS 誘導 NETosis に機能的に関与することを示しており、Warner ら (Cell Immunol 2024) が初代好中球で報告した LPS 誘導 NET に対する R406 の抑制効果が dHL-60 でも再現されることを確認した。

考察/結論

本研究は DMSO 分化 dHL-60 細胞が P. aeruginosa LPS に応答して NETosis を誘発し、SYK 阻害薬 R406 がその抑制に有効であることを実証した。既報の研究ではdHL-60 の PMA 誘導 NETosis については検証がなされていたが、LPS 誘導 NETosis および R406 による抑制の再現性については不十分であり、本研究はこの点に対して体系的に回答した。これまでの研究と異なる点として、本研究は dHL-60 の有効 LPS 濃度が初代好中球の通常使用濃度 (10 ng/mL - 10 μg/mL) と相違し 75-100 μg/mL が必要であること、かつ 6 時間時点の NET 産生量が 5-fold 対 3000-fold と大きく乖離することを定量的に明示した。この感受性差は (1) dHL-60 の TLR-4 発現が低いこと、(2) TLR-4 非依存的 NETosis 経路が dHL-60 で相対的に優勢である可能性を反映していると解釈される。

新規性として、SYK-PI3K (PI3K: Phosphoinositide 3-Kinase) シグナル経路が dHL-60 の LPS 誘導 NETosis に機能的に関与することを本研究で初めて実証した。R406 (1 μM) の 30 分前処置が 4-6 時間の NET 形成を有意抑制したことは、dHL-60 が SYK 阻害薬の評価プラットフォームとして機能することを示す新規の知見である。ただし R406 の抑制効果は初代好中球で報告された程度と対照的に弱い可能性があり、HL-60 の好中球様分化過程で SYK 活性が増大する (Qin & Yamamura 1997) ことによる inhibitor 感受性の低下、または SYK 非依存的 NETosis 経路の並存が寄与している可能性がある。

臨床応用として、dHL-60 は (i) Fostamatinib・PAD4 (Peptidylarginine Deiminase 4) 阻害薬・DNase I などの抗 NETosis 治療候補化合物の high-throughput スクリーニングプラットフォーム、(ii) P. aeruginosa 関連疾患 (嚢胞性線維症・院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎) での NET 病態解明のモデル、(iii) CRISPR/siRNA による NETosis 分子標的の functional screen に利用可能と考えられる。SYK 阻害薬 Fostamatinib は免疫性血小板減少症で FDA 承認を受けており、敗血症・ARDS における anti-NETosis 治療への橋渡し研究 (bench-to-bedside) のための前臨床プラットフォームとして dHL-60 の臨床的意義が示された。なお NET は感染症にとどまらず腫瘍免疫においても病態的役割を担うことが近年示されており (Baron et al. FrontOncol 2025)、dHL-60 モデルによる NET 形成機構の解明が広範な疾患領域への応用を支える基盤となる。

残された課題として、(1) dHL-60 での高 LPS 閾値の分子基盤の解明 (TLR-4 発現量・シグナル伝達効率・TLR-4 非依存経路の比重)、(2) 他 Gram 陰性菌 (E. coli・K. pneumoniae) LPS による再現性の確認、(3) NETosis サブタイプ (Suicidal NETosis vs Vital NETosis) の区別、(4) dHL-60 における R406 の用量最適化と選択性の評価、(5) 遺伝子操作モデル (特定遺伝子の knockout・knockdown) を用いた mechanistic validation が今後の検討課題として残されている。また本研究は初代好中球として単一健常ドナー由来細胞を用いており、ドナー間変動の評価も今後の研究課題である。

方法

細胞株と分化誘導: HL-60 細胞株 (ATCC CCL-240; RRID:CVCL_0004) を IMDM (Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium) + 20% 非熱処理 FBS (Fetal Bovine Serum) で通常培養し、分化誘導時は 1×10^6 cells/mL 密度で IMDM + 10% FBS + 1.25% DMSO に移して 37°C、5% CO2 下で 4 日間培養した。分化は光学顕微鏡による形態学的変化 (核形態の分葉化等) で確認した。初代好中球 (PMN) は健常ドナー 1 名から EDTA (Ethylenediaminetetraacetic acid) 採血後、EasySep Direct Human Neutrophil Isolation Kit (StemCell Technologies Inc.) でメーカー手順に従い単離した。IRB (Institutional Review Board) プロトコル番号 2303138796A001 (Ponce Research Institute、2023 年 5 月 23 日承認) に基づき書面同意を取得した。

刺激条件: P. aeruginosa 由来 LPS (Sigma-Aldrich製) を 10、50、75、100 μg/mL の 4 濃度、PMA (Thermo Fisher J63916) を 25、50、75、100 nM の 4 濃度で dHL-60 または PMN に添加した。コントロール群は無血清 IMDM のみで処理した。

ライブセルイメージングと NETosis 定量: 96 ウェルプレートに 30,000 cells/well (100 μL) で播種し、Incucyte SX5 装置 (Sartorius) にて 20 倍鏡で位相差・蛍光画像を 30 分毎に取得した。核を Nuclight Rapid NIR (Near-Infrared) で標識し、DNA 放出を Cytotox Green (250 nM) の緑色蛍光で可視化した。NETosis 率 = 緑色蛍光計数/細胞数 × 100 として算出した。ソフトウェア学習時の設定: 蛍光閾値 2 GCU (Green Calibrated Units)、エッジ感度 50、最小面積 40 μm2。

MPO-DNA 共局在免疫蛍光: チャンバースライド (Ibidi 80841) に 100,000 cells/chamber で播種し 2 時間刺激後に 4% パラホルムアルデヒドで固定、0.01% Triton X で透過処理し UltraCruz Blocking Reagent でブロッキングした。抗 MPO 抗体 (anti-Myeloperoxidase antibody; Thermo Fisher Scientific) を 1:100、FITC (Fluorescein Isothiocyanate) 標識二次抗体 (Abcam ab6717) を 1:1000 (2 μg/mL) で染色し、DAPI (Sigma-Aldrich D9542) で核を対比染色した。Olympus BX60 顕微鏡 (upright fluorescence microscope) で 40 倍鏡にて撮影し、スケールバーを 50 μm に設定した。

SYK 阻害実験: R406 (Invivogen inh-r406n) を 1 μM で IMDM に調製し、LPS 刺激 30 分前に細胞と 37°C、5% CO2 下でプレインキュベートした。

MTT assay: 250,000 cells/well で 2 時間刺激後に Sigma-Aldrich TOX-1 (colorimetric cell viability assay kit) を用いて 590 nm 吸光度を Synergy HT (High-Throughput microplate spectrophotometer; BioTek Instruments) で測定し、代謝活性を評価した。

統計解析: GraphPad Prism 10.2.0 を使用。LPS・PMA 用量-応答曲線の多重比較は two-way ANOVA、R406 抑制実験は paired t-test を適用し、P<0.05 を有意とした。