- 著者: Venizelos Papayannopoulos
- Corresponding author: Venizelos Papayannopoulos (The Francis Crick Institute, London)
- 雑誌: Nature Reviews Immunology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2017-10-09
- Article種別: Review
- PMID: 28990587
背景
好中球はヒト免疫系で最も豊富に存在する自然免疫エフェクター細胞であり、食作用、脱顆粒、そして好中球細胞外トラップ (NETs) 放出という3つの主要な戦略で病原体を排除する。NETsは、脱凝集したクロマチンを骨格とし、ヒストン、好中球エラスターゼ (NE; ELANE)、ミエロペルオキシダーゼ (MPO)、カルプロテクチン、ディフェンシン、カテリシジン、アクチンなどの顆粒・細胞質タンパク質を絡めた大型の細胞外ウェブ状構造である Brinkmann et al. Science 2004。NETsのDNAのほとんどは核由来であるが、ミトコンドリアDNAも含まれることが報告されている。NETsは細菌、真菌、ウイルス、寄生虫を捕捉・殺傷し、病原体の全身拡散を防ぐと考えられている。しかし、過剰または制御不能なNETsは、組織傷害、血栓症、自己免疫疾患、癌の進展を媒介する可能性も指摘されている。
NETosisが初めて報告されて以降、その研究は急速に増加したが、NETosisの形成経路の多様性、各疾患における定義・定量法の標準化、治療的DNase投与による感染防御能低下リスクなど、多くの論争点と未解明な課題が残存していた。特に、NETsの多様な生理的・病理的役割を理解するためには、その形成機構、構成成分、およびクリアランス機構に関する包括的な整理が不足していた。例えば、NETsの構成成分は刺激によって変動することが示されているが、その機能的意義は未解明である。また、NETsのクリアランス機構も完全には理解されておらず、NETsが体内でどのように分解・除去されるのか、その動態に関する知識が不足していた。さらに、自己免疫疾患、血栓症、癌などの病態におけるNETsの具体的な役割や、治療標的としての可能性についても、体系的な整理と深い洞察が求められていた。これらの知識ギャップを埋めることが、NETs研究の次の段階に進む上で重要であると考えられた。
目的
本レビューの目的は、NETs形成の分子経路(細胞死型NETosisおよび非細胞死型NETosis)、その構成成分と多様性、抗感染機能、免疫制御機能、自己免疫疾患、血栓症、および癌における病的役割について体系的に総括することである。さらに、NETsを標的とした治療法の可能性と、バイオマーカーとしての応用についても議論し、この分野における主要な未解決問題とcontroversiesを明確化することを目的とする。本レビューは、NETs研究の現状を整理し、今後の研究方向性を示すことを目指す。
結果
NET形成の2経路とその時間的・細胞的特性: NETsは主に2つの経路で形成される。(1) 細胞死型NETosis (Suicidal NETosis): ホルボール12-ミリスタート13-アセテート (PMA) や微生物、結晶などの刺激後3-8時間で、アクチンダイナミクスが停止し、核の脱分葉、核膜崩壊、クロマチン脱凝集が起こり、細胞質成分と混和する。最終的に形質膜が破裂してNETsが放出される。NADPHオキシダーゼ由来の活性酸素種 (ROS) がMPOを活性化し、NEをアズロソームから核へ転位させてヒストンを切断し、MPOがNEと協調してクロマチン脱凝集を加速する。MPOの酵素活性阻害はNETosisをブロックせず、遅延させるに留まる。PAD4によるヒストンシトルリン化 (アルギニン→シトルリン変換) も脱凝集に寄与し、特に慢性肉芽腫症 (CGD) などのROS欠損状態ではPAD4の貢献が相対的に重要となる。(2) 非細胞死型NETosis (Non-lytic NETosis): Staphylococcus aureusなどへの応答で数分以内に細胞死を伴わずクロマチンと顆粒内容物が分泌され、核を失った細胞質 (anucleated cytoplast) が形成されて引き続き貪食を行う。Intravital microscopyでは全身性S. aureus感染時の少数の好中球でのみ観察され、最初に感染部位に到達した好中球による迅速な多機能応答として機能する。NETosisから放出されたDNAは感染部位で数日間持続し、DNase I注射後もDNAは急速に消失するが、NETタンパク質は長時間持続する (NETクリアランスはdsDNAよりタンパク質が律速)。(Fig 1)
ROS-MPO-NE経路の定量的メカニズム: NADPHオキシダーゼ由来のH2O2がMPOを活性化し、MPOはアズロソーム内のNEを酸化的に活性化して細胞質への選択的分泌を促す。活性化されたNEは細胞質のF-アクチンフィラメントを分解して核への移行を可能にし、核内でヒストンを切断してクロマチン脱凝集を駆動する。MPOはさらにNEとは独立したメカニズムでクロマチンと結合し脱凝集を促進する (酵素活性非依存的)。DEK (DNA結合タンパク質) もクロマチン脱凝集に関与し、Dek欠損好中球でNETosisが障害され、外因性組換えDEKタンパク質の添加で救済される。MEK/ERK、PI3K、AKT、PKC、mTOR (mechanistic target of rapamycin)、RIPK1 (receptor-interacting serine/threonine-protein kinase 1)/RIPK3 (receptor-interacting serine/threonine-protein kinase 3)、オートファジー (ATG7; autophagy-related protein 7) がNETosisの上流として同定されている。(Fig 2) MPOが生成する次亜塩素酸はポリアミンを塩素化しNETタンパク質を架橋することでNETの安定性・完全性を高め、微生物捕捉能を増強する。
NETの構成と多様性: 当初のPMA刺激では24種のタンパク質が同定されたが (ヒストン、NE、MPO、カルプロテクチン、カテリシジン、ディフェンシン、アクチンなど)、刺激により組成が変化する。Pseudomonas aeruginosaのムコイド株と非ムコイド株への応答では、33種の共通タンパク質に加えて最大50種の可変タンパク質が変動し、細胞毒性、抗微生物特異性、免疫原性の差異を生じうる。唾液中のグリカンはROS・NEとは独立した未知経路でNETsを誘導し、PMA誘導NETsよりヌクレアーゼ抵抗性が高く殺菌力が強い別種のNETを生じる。このように、NET誘導刺激の違いが組成・機能的属性の異なる多様なNETを生み出す。
NET形成の調節機構:サイズ感知と抑制シグナル: 微生物のサイズがNETosisと食作用の選択を規定する。小型微生物はファゴソームに取り込まれ、アズロフィル顆粒と融合することでNEが核から隔離され、クロマチン脱凝集が阻害される。大型針状尿酸塩結晶 (monosodium urate = MSU) は小型微結晶より有意に強いNETosisを誘導し、サイズ依存性は無菌性刺激にも適用される。Siglec-5、Siglec-9は好中球活性化とROS産生を制限してNETosisを抑制する (A群連鎖球菌・P. aeruginosaが宿主シアル化糖タンパク質で偽装してSiglecを活性化する免疫回避戦略)。エンドジェナスserpinプロテアーゼ阻害剤はNEを阻害してNETosisを制御する。Dectin 1 (小型微生物の貪食受容体) はファゴソーム形成を促進してNETosisを抑制し、Dectin 1欠損マウスは小型微生物に対するNET媒介性病理に感受性を示す。
抗感染機能:感染防御と微生物逃避機序: NETsは食作用が困難な大型病原体 (Candida hyphaeなど) を捕捉・殺傷する。ヒトの完全MPO欠損症は主に反復性真菌感染症をきたし、CGD (NADPHオキシダーゼ欠損) 患者では遺伝子治療によるNETosis回復が侵襲性真菌感染症の改善と相関した。PAD4欠損マウス (n=10-15/群) では多菌性敗血症やBurkholderia pseudomallei誘発敗血症での生存に差がなく、細菌感染に対するNETの必須性は限定的である。S. aureus皮膚感染時のDNase治療では菌血症が約2倍に増加し (p<0.05)、NETによる解離抑制の証拠を示した。一方でShigella flexneriおよびA群連鎖球菌に対するPAD4欠損好中球の殺菌能低下も報告されており、病原体・感染部位によってNETの防御的役割が異なる。(Fig 3) 微生物逃避機序として、DNase産生菌 (A群連鎖球菌DNase、S. aureusヌクレアーゼ)、カプセルによるNET親和性低下、NET成分からの細胞毒性産物生成 (S. aureusアデノシンシンターゼがNET由来ヌクレオチドをデオキシアデノシンに変換しマクロファージのアポトーシスを誘導) の3機序が同定されている。
自己免疫疾患におけるNETの病的役割: NET構成成分であるLL-37、DNA、RNA複合体が形質細胞様樹状細胞 (pDC) のTLR9を活性化し、IFN-α産生を誘導して自然免疫と獲得免疫を橋渡しする。全身性エリテマトーデス (SLE) 患者血清はDNase I活性が低下してNETsが持続し (患者の約30%がDNase I活性低下を示す)、抗NETs抗体価が腎炎 (ループス腎炎) と相関する (p<0.01)。低比重好中球 (LDGs; low-density granulocytes) がIFN-α産生pDC刺激の主要源として機能する。ANCA関連血管炎 (AAV) ではMPO・PR3などの自己抗原がNETsに濃縮されて自己抗体の標的となり、関節リウマチ・乾癬でもNET媒介性炎症が病態に寄与する。PAD4阻害剤 (Cl-amidine、GSK484) は前臨床モデルでループス様病態や関節炎を抑制することが示されている。Kessenbrock et al. NatMed 2009
血栓症・心血管疾患におけるNET媒介性免疫血栓症: NETsは血小板 (P-セレクチン/PSGL1およびHMGB1/RAGE経路)、フォン・ヴィレブランド因子 (vWF)、組織因子と相互作用して免疫血栓症 (immunothrombosis) を駆動する。敗血症ではLPSがTLR4を介して血小板を活性化し、血小板-好中球相互作用からNETsが形成される。深部静脈血栓症 (DVT) の血栓内にシトルリン化ヒストンH3 (citH3) とNETsが検出され (DVT患者の70%以上で陽性)、PAD4欠損マウス (n=8-12/群) ではDVTの血栓形成が有意に減弱した (p<0.05)。ヒストンH4とNEが内皮細胞を直接傷害し微小血管閉塞を増悪させる。COVID-19関連凝固異常および急性冠症候群 (ACS) でも血栓内NETsの存在が確認されている。Warnatsch et al. Science 2015
癌におけるNETの役割: NETsは循環腫瘍細胞 (CTC) を捕捉して転移播種を促進する Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013。Park et al. SciTranslMed 2016ではCTCとNETsの物理的相互作用が証明され、Coffelt et al. Nature 2015およびWculek et al. Nature 2015ではCTC-好中球クラスターの転移促進が詳述された。膵臓癌、肝臓癌、胃癌、乳癌の腫瘍内NETsが予後不良と相関する。NE・MMP-9を介したラミニンの切断が休眠癌細胞を再活性化する。Demers et al. OncoImmunology 2016ではNET形成が腫瘍増殖を促進することが示された。(Fig 4)
治療標的と臨床バイオマーカー: DNase I (組換え体) によるNETs分解、PAD4阻害剤 (Cl-amidine、GSK484)、NE阻害剤 (シベレスタット、アルベレスタット)、MPO阻害剤、抗ヒストン抗体、ジスルフィラムなどが前臨床で検討されている。DNase I吸入療法は嚢胞性線維症で既に臨床確立済みである (急性期敗血症ではNETタンパク質がDNAより持続するためDNase単独では不十分の可能性)。COVID-19、敗血症、SLE、ANCA関連血管炎、癌転移予防への応用が議論される。バイオマーカーとしては血漿cell-free DNA、citrullinated histone H3 (citH3)、MPO-DNA複合体定量が臨床応用されており、SLEでは抗NETs抗体価が腎炎活動性と相関し、DVT・ACSでは血漿NET量が予後予測に寄与する。
考察/結論
NETsは当初の「病原体トラップ」という枠を超え、自然免疫の中心的なエフェクターおよびレギュレーターとして再定義された。本レビューはNETosisの分子経路 (ROS-MPO-NE-PAD4軸) を統合的に整理し、感染症、自己免疫疾患、血栓症、癌、代謝疾患における共通の病態モチーフとしてNETsを位置付けた。特に、(1) 細胞死型NETosis (3-8時間) と非細胞死型NETosis (数分) の2経路の平行存在、(2) 初期24種から刺激依存的に最大50種以上が変動するNET組成の多様性、(3) ROS非依存性経路 (ミトコンドリアROS・カルシウムシグナリングなど) の存在、(4) サイズ感知による食作用とNETosisの選択機構、(5) DNase I存在下でもNETタンパク質が長期持続するクリアランス機構の不完全性、という主要な概念が本レビューで体系化されたことは新規の知見である。
先行研究との違い: これまでのNETs研究は個々の疾患やメカニズムに焦点を当てることが多かったのに対し、本レビューはNETsの形成機構から病態生理学的役割、さらには治療標的としての可能性までを包括的に整理し、NETsが多様な疾患に共通する病態モチーフであることを強調した点で異なっている。特に、NETsの組成が刺激によって大きく変動するという知見は、NETsの機能的多様性を理解する上で重要であり、これまでの研究では十分に強調されていなかった側面である。
新規性: 本研究で初めて、NETsの多様な形成経路(細胞死型と非細胞死型)と、その時間的・細胞的特性を詳細に比較分析し、各経路が異なる生理的・病理的状況でどのように機能するかを明確化した。また、NETsの構成成分が刺激によって動的に変化し、それがNETsの機能的多様性に寄与するという概念を提示したことは新規である。これらの知見は、NETsが単一の構造ではなく、状況に応じて異なる特性を持つ多様なエンティティであることを示唆する。
臨床応用: 本知見は、NETsが多様な疾患の病態形成に深く関与していることを示しており、その臨床応用への道を開くものである。特に、PAD4阻害剤やNE阻害剤は、血栓症、癌転移、自己免疫疾患の治療薬として有望な候補であり、前臨床試験でその有効性が検証されている。例えば、Kessenbrock et al. NatMed 2009はANCA関連血管炎におけるNETsの役割を強調し、PAD4阻害がその病態を改善する可能性を示唆した。血漿中のNETs関連バイオマーカー (citH3、MPO-DNA複合体など) の定量は、疾患活動性の評価や治療効果のモニタリングに臨床的に応用可能である。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) 細胞死型NETosisと非細胞死型NETosisの生理学的相対頻度と疾患特異性、(2) NET構成タンパク質の病原体・細胞種・刺激特異性とその機能的意義、(3) NETクリアランス (マクロファージによるスカベンジングとDNase Iの相対的役割) の定量化、(4) NETsバイオマーカー (cell-free DNA、citH3、MPO-DNA複合体) の疾患特異的標準化と検体採取条件の統一、(5) 治療的DNase I・PAD4阻害による感染防御能低下リスクの定量評価、(6) 癌におけるNETs標的の至適タイミング (術前補助療法、転移予防、進行期) の決定、などが挙げられる。Limitation として、本レビューは主に既存の文献に基づいているため、未発表の知見や新たな技術的進歩を完全に網羅できていない可能性がある。これらの課題を解決することで、NETsを標的としたより効果的かつ安全な治療法の開発が期待される。
方法
本論文はレビュー記事であるため、特定の方法論は該当しない。著者は、好中球細胞外トラップ (NETs) に関する既存の文献を広範に調査し、その形成機構、機能、および疾患における役割に関する主要な知見と概念を統合的に整理した。文献検索は、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学・生物学データベースを用いて行われたと考えられる。検索期間はNETosisが最初に報告された2004年以降から本レビューの出版年である2018年までを対象としたと推測される。
特に、NETosisの分子経路、構成成分の多様性、抗感染機能、免疫制御機能、自己免疫疾患、血栓症、癌における病態生理学的役割、治療標的としての可能性、およびバイオマーカーとしての応用に関する研究が網羅的に検討された。著者は、NETs形成に関わる主要な酵素(NADPHオキシダーゼ、MPO、NE、PAD4)の役割、およびそれらの相互作用について詳細に分析した。また、NETsの構成成分が刺激の種類によってどのように変化するか、その多様性と機能的意義についても考察した。
さらに、NETsが感染防御において果たす役割と、微生物がNETsを回避するメカニズムについても深く掘り下げた。自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス (SLE)、ANCA関連血管炎 (AAV)、関節リウマチ (RA) など)、血栓症(深部静脈血栓症 (DVT)、急性冠症候群 (ACS) など)、および癌(転移促進、腫瘍増殖)におけるNETsの病的寄与についても、関連する臨床および前臨床研究を統合的に評価した。治療標的としてのDNase I、PAD4阻害剤、NE阻害剤、MPO阻害剤などの可能性、および血漿cell-free DNA、citrullinated histone H3 (citH3)、MPO-DNA複合体などのバイオマーカーとしての応用についても議論された。本レビューでは、これらの知見を統合し、NETs研究における主要なcontroversiesと未解決の課題を明確化することを目的とした。