• 著者: Szilvia Baron, Yoav Binenbaum, Ronny Maman, Victoria Fidel, Anna Shusterman, Dmitry Vaisman, Osnat Sher, Michal Manisterski, Rachel Shukrun, Claudia Rössig, Ronit Elhasid
  • Corresponding author: Ronit Elhasid (Pediatric Hemato-Oncology Research Laboratory, Tel Aviv Medical Center; School of Medicine, Tel Aviv University; ronite@tlvmc.gov.il)
  • 雑誌: Frontiers in Oncology
  • 発行年: 2025
  • Epub日: 2025-03-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 40177239

背景

骨肉腫 (osteosarcoma, OS) は小児・若年成人における最も頻度の高い原発性悪性骨腫瘍であり、全小児がんの約3%を占める。高用量 MAP (Methotrexate, Doxorubicin, Cisplatin) 術前化学療法、外科的切除、術後補助化学療法が標準治療であるが、局所疾患患者の長期無イベント生存率は70%に留まり、転移性疾患の治癒率は20-30%と依然低い。現行パラダイムの重要な欠点として、術前化学療法に対する反応性の事前予測が困難であることが挙げられる。反応不良患者 (Salzer-Kuntschik分類で壊死率<90%) は2-3ヶ月の無効な治療を継続せざるを得ず、代替戦略への転換が遅れる。治療強化レジメン MAPIE (MAP plus Ifosfamide and Etoposide) を評価したEURAMOS-1 (European and American Osteosarcoma Study 1) 試験でも反応不良患者の予後改善は示されず、非効果患者を早期に同定するバイオマーカーの開発が急務とされている。

腫瘍微小環境 (TME, tumor microenvironment) における免疫細胞の役割は近年広く研究されており、TILs (tumor-infiltrating lymphocytes, 腫瘍浸潤T細胞) や TINs (tumor-infiltrating neutrophils, 腫瘍浸潤好中球) の予後的意義が複数の固形がんで示されている。特に NETs (neutrophil extracellular traps) は、活性化好中球が放出するDNA線維・ヒストン・抗菌タンパク質からなる細胞外構造体であり、乳癌において休眠がん細胞の再活性化を促し転移形成に寄与することが示されている (Albrengues et al. Science 2018)。さらに、がん細胞がNETs形成を誘導して前転移性ニッチ (pre-metastatic niche) を形成するメカニズムも明らかにされ (Park et al. SciTranslMed 2016)、化学療法施行中のNETs形成がTGF-β活性化を介して治療抵抗性を付与するという報告もある (Mousset et al. CancerCell 2023)。しかし、小児骨肉腫TMEにおけるNETs形成の定量的解析と化学療法反応性・予後との関連は全く知識の不足しており、これが本研究が着手する中心的な gap in knowledge である。

目的

小児骨肉腫患者の診断時生検におけるNETs形成を免疫蛍光定量法により評価し、(1) MAP術前化学療法への組織学的反応性との相関、(2) OS (overall survival, 全生存期間) および PFS (progression-free survival, 無増悪生存期間) との関連、(3) 原発巣と転移巣でのNETs burden比較、(4) 骨肉腫患者血清による健常好中球NETosis誘導能の検証を行う。

結果

NETs形成は良性骨腫瘍より骨肉腫診断時生検で選択的に高値: OS (n=21) と対照OB (n=9) の診断時生検における免疫細胞浸潤を比較した。腫瘍浸潤好中球数 (TINs)、CD3+ T細胞数、CD8+ T細胞数はOS対OB間で統計的有意差を認めなかった (P=0.965、P=0.337、P=0.638; Fig 1A, C, D)。一方、NETs形成好中球の割合はOS診断時生検においてOBより有意に高値であった (P=0.0018; Fig 1B)。特筆すべき点として、好中球数とNETs割合の間には相関が認められず (R square=0.01030、P=0.67)、好中球の絶対数ではなくNETs形成能という機能的特性が骨肉腫TMEに特異的に亢進していることが示された。共焦点顕微鏡画像 (Fig 1) ではNE (緑) とH3 (赤) の共局在を示す黄色矢印がOS生検に多く観察され、OBではNE高輝度に対してH3シグナルが低い (NETs非形成) 好中球が主体であった。

診断時NET高値がMAP術前化学療法反応不良を選択的に予測: MAP術前化学療法に対する組織学的反応 (Salzer-Kuntschik分類) により分類したOS患者の良好反応群 (壊死率≥90%、n=10) と反応不良群 (<90%、n=11) を比較した。腫瘍浸潤好中球数、CD3+ T細胞数、CD8+ T細胞数はいずれも両群間で有意差がなかった (P=0.643、P=0.906、P=0.872; Fig 2A, D-E, H-I)。しかしNETs形成好中球の割合は反応不良群で良好反応群より有意に高値であった (P<0.001; Fig 2B, F, G)。回帰分析ではNETs割合と術後壊死率の有意な相関が確認され (F比=28.58、P<0.0001; Fig 2C)、NETs割合が高い症例ほど術前化学療法に対する組織学的反応が不良であることが定量的に示された。円の大きさでNETs burdenを表した散布図では、>50% NETs症例 (赤点) が壊死率の低い (反応不良) 領域に集中していた。多変量解析では、全臨床的・病理学的パラメータの中でNETsのみが術前化学療法反応と独立して相関した (LR ChiSquare=149.63、P<0.0001、FDR Longworth=5.8; Supplementary Table 3)。NLR (neutrophil-to-lymphocyte ratio) を含む他の免疫学的パラメータとNETsの間には相関がなかった。

NET高値群で全生存期間が有意に短縮、NLR・TINsは予後予測能なし: 21例 (生存解析n=20) を対象にKaplan-Meier生存分析を実施し、各パラメータのカットオフ値を最小二乗誤差和最小化法で決定した。NLR (カットオフOS=5.5、PFS=4.28)、TINs (カットオフOS=40.5、PFS=58.0)、CD3+ TILs (カットオフOS/PFS共通=89.3) はいずれもOSおよびPFSに対する予測能を示さなかった (Fig 4A-C)。一方、診断時NET高値 (カットオフOS=52.8%、PFS=51.5%) は有意に短い全生存と関連した (P=0.007; Fig 4D)。高NET群の平均OS 53.7ヶ月 vs 低NET群71.5ヶ月 (差18ヶ月、p=0.007) であった。CD8+ T細胞低値 (カットオフOS=13.0、PFS=17.1) も短いOS (P=0.02) および不良PFS (P=0.045) と関連した (Fig 4E)。転移性疾患を競合リスクとして除外したparametric survival fitでもNETsとCD8sの予後予測能が確認され (Wald検定 chi-square=4.29、P=0.0381; 効果尤度比検定 chi-square=5.78、P=0.0162)、FDR解析ではNETsがPFSと関連した。既知の予後因子 (化学療法反応、再発、診断時転移) でも有意な生存差が再現され (P=0.033、P=0.047、P=0.022; Supplementary Fig 1A-C)、コホートの代表性が確認された。

転移巣での免疫細胞浸潤全般の増強とNETs形成の特異的集中: 肺転移再発を来したOS患者において診断時原発巣と転移巣生検を比較した。転移巣では好中球数 (P=0.034)、CD3+ T細胞数 (P=0.006)、CD8+ T細胞数 (P=0.019) がいずれも有意に増加した (Fig 3A-C, G-H)。NETs形成好中球の割合も転移巣で有意に高値であったが (P=0.035; Fig 3D)、他の免疫細胞指標が幅広い範囲にわたって変動したのに対し、転移巣のNET割合は57.1-64.1%という極めて狭い範囲に集中していた。外部検証コホート (n=4) における肺転移3例でも、原発巣と比較して転移巣のTINs (P=0.018) およびNETs (P=0.036) が有意に高値であった (Fig 5A-B)。縦断的解析では経時的なNETs割合の増加傾向が認められた (Supplementary Table 2、第3回目再発を除く大部分の時点で一致)。一方、骨転移の1例ではTINs (P=0.836) およびNETs (P=0.336) に有意差を認めず (Fig 5C-D)、転移臓器特異的な免疫微小環境の差異が示唆された。

骨肉腫患者血清による健常好中球の ex vivo NETosis誘導: OS診断時患者血清 (n=3) と健常小児対照血清 (n=3) を健常ドナー由来好中球 (n=25,000 cells/well) に添加したex vivo実験 (n=3 independent biological replicates) では、健常対照血清は無視できる程度のNETs誘導にとどまった。一方、OS患者血清は3時間後に有意なNETs増加を示し (P=0.0247)、4時間後にはベースラインと比較して4-fold増加に達した (P=0.0087; Fig 6A-B)。IncuCyte S3のlive-cell imagingでは、0分では散在していた緑色蛍光 (細胞外DNA結合Cytotox Green) が180分後には著明に増加しており、NETsの形成過程が時系列で可視化された。これにより、腫瘍細胞との直接接触なく血清中の可溶性因子のみでNETosisが誘導されることが証明された。なお、U2-OS細胞株の条件培地では同様のNETs誘導は認められなかった (data not shown)。

考察/結論

本研究は小児骨肉腫の診断時生検NETs定量が術前MAP化学療法反応性および長期生存を独立に予測することを本研究で初めて示したものである。これまでの研究ではOSのTME研究がTILsやT細胞機能に集中していたのに対して対照的に、本研究は腫瘍浸潤好中球の機能的特性 (NETsの形成能) を初めて小児OSの臨床予後と定量的に連結した。特筆すべき点として、好中球総数・CD3+ TILs・NLRといった従来の免疫指標が化学療法反応に対して予測能を示さなかったのに対し、NETs割合のみが多変量解析でも独立した予測因子として機能した。これは既報との相違点として重要であり、「免疫細胞の量」ではなく「機能的活性化状態」を評価することの意義を示す。

新規な知見と機構的示唆: 診断時NET高値が化学療法反応不良を先行予測するという本研究で初めて確立された知見は、いくつかの機構的仮説につながる。まず、NETs自体が化学療法薬を内包・分解して薬効を低下させる可能性がある。多発性骨髄腫においてNETsが化学療法薬を取り込み、DNase治療でこの効果が解除された (Mousset et al. CancerCell 2023) ことから、OSにも同様のメカニズムが関与すると考えられる。次に、NETs成分であるシトルリン化ヒストン、細胞外DNA、MPO (myeloperoxidase) がTGF-βや免疫抑制性サイトカインを活性化してがん細胞の化学療法抵抗性を誘導する可能性も考慮される。さらに、患者血清中の可溶性因子であるIL-6、IL-8、GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)、DAMPs (damage-associated molecular patterns)/HMGB1 (high mobility group box 1) 等が全身的に好中球をNETosis-primed状態にするという血清誘導実験の結果は、腫瘍局所のTINsのみならず循環好中球のプライミングが疾患進行に関与するという新規の概念を提示する。

転移微小環境との関連: 転移巣でNET割合が57.1-64.1%という狭い範囲に収束した観察は、肺微小環境が特定のNETosis促進因子を高濃度で提供している可能性を示唆する。先行研究においてNETsが休眠がん細胞の再活性化を促すことが示されており (Albrengues et al. Science 2018)、また一次腫瘍がNETs誘導を通じて前転移性ニッチを形成することも報告されている (Park et al. SciTranslMed 2016)。骨転移例でNETs増加が認められなかったことは、転移臓器特異的な免疫微小環境の差異を反映しており、骨と肺では腫瘍促進的なNETsis活性化のメカニズムが異なる可能性がある。

臨床応用の可能性: 診断時NET密度はMAP術前化学療法反応の独立予後因子として機能し、臨床的意義の高いバイオマーカー候補である。実臨床への臨床応用として、(1) 診断時生検のNETs定量に基づくリスク層別化と化学療法レジメンの個別化、(2) 血清NETosis誘導能を血液バイオマーカーとして活用した非侵襲的モニタリング、(3) MAP化学療法に対する反応不良予測患者への早期代替治療として免疫チェックポイント阻害薬 (ICI, immune checkpoint inhibitor)、CAR-T療法 (chimeric antigen receptor T-cell) の導入検討が考えられる。DNase I (dornase alfa)、PAD4 (peptidylarginine deiminase 4) 阻害薬、好中球エラスターゼ (NE) 阻害薬など既存のNETs標的薬剤と化学療法の併用試験設計への臨床的含意も大きい。

残された課題: 本研究の主要なlimitationとして、(1) 単施設小規模コホート (n=21) であり大規模前向き多施設研究による外部検証が今後の検討として必要、(2) NETs形成と化学療法反応の関係は現状相関解析にとどまり因果性の証明にはDNase介入などの機能的試験が必要、(3) NETosis誘導血清因子 (HMGB1、IL-8、補体、Uric acid等) の同定が未完成で標的化治療への橋渡し研究が求められる、(4) OS組織サブタイプ (骨芽細胞型・軟骨芽細胞型・線維芽細胞型) 別のNETs予後影響は未検討、が挙げられる。これらの更なる検討により、NETs標的治療の小児骨肉腫への導入に向けた科学的根拠がさらに強化される。

方法

試験デザイン: 後ろ向きコホート研究 (retrospective cohort study)。主コホートと外部検証コホートの2コホート構成で実施した。

主コホート: Tel Aviv Medical Center (2012-2019年) にて診断されたOS患者n=21例 (男性10例・女性11例、年齢中央値13歳、範囲5.4-23.0歳)。全例AOST0331プロトコルに従いMAP化学療法と外科的切除を施行、平均追跡期間62.2ヶ月。良好反応 (壊死率≥90%) 10例 (48%) と反応不良 (<90%) 11例 (52%) を含む。対照として OB (osteoblastoma, 骨芽細胞腫) 患者9例 (年齢中央値17.9歳、範囲8.6-21.7歳) の生検を使用した (Table 1)。

外部検証コホート: Münster University Hospital, Germany (2012-2017年) で診断されたOS患者4例 (男性2例・女性2例)。全例COSS (cooperative osteosarcoma study group) レジストリ登録、MAP化学療法と外科治療施行。肺転移再発を来した3例と骨転移1例を含む (Table 2)。

免疫蛍光染色プロトコル: パラフィン包埋4μm切片を使用。NETs検出には、抗NE (Neutrophil Elastase, EMD Millipore 48001、ウサギ、1:1000希釈) および抗Histone H3 (Abcam 128012、ヒツジ、1:500希釈) を使用し、クエン酸バッファーpH6.0・50℃で抗原賦活化した。T細胞マーカー (CD15, CD3, CD8) はOmniprep pH9.0・95℃で1時間処理した。Zeiss LSM700レーザー走査型共焦点顕微鏡で各切片10視野を撮影し、ImageJにてNE高輝度とH3高密度の共局在をNETs形成好中球として定量化した。NETs形成率は (NETs形成好中球数/総好中球数) として算出した。

血清NETs誘導試験: OS診断時患者血清n=3例 (年齢11.26-17.5歳) と健常小児対照n=3例の血清を使用した (Table 3)。健常成人ドナー (年齢51-64歳) 末梢血からEasySep Direct Human Neutrophil Isolation Kit (StemCell Technologies) による免疫磁気陰性選択で好中球を単離し、最終濃度10^7個/mlに調整した。健常好中球 (25,000個/ウェル) にOS患者血清または対照血清を最終濃度50%で添加し、IncuCyte S3 Live-Cell Analysis System (Sartorius、37℃、5% CO2) でCytotox Green蛍光色素 (50 nM) によるNETs形成を30分毎・4時間にわたり測定した。

統計解析: データはmean ± SEM (standard error of mean) で表示した。統計検定にはStudent’s t検定、一元配置ANOVAにTukeyの多重比較post-hoc検定、名義ロジスティック回帰 (nominal logistic regression) を用いた。Kaplan-Meier曲線はlog-rank検定で評価し、多重比較に対してFDR (false discovery rate) 補正を適用した後にparametric survival fitを行い、診断時転移を競合要因として除外した解析を実施した。JMP Pro 17 (JMP Statistical Discovery LLC) を使用し、有意水準p<0.05とした。