- 著者: Lin Y, Liu YK, Mi P, Zhao XL, Lin JH, Cheng XS, Liang LY, Huang YD, Huo YN, Xie GJ, Ye ZY, Guleng B
- Corresponding author: Bayasi Guleng (Xiamen University)
- 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-05-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 42315252
背景
大腸癌 (colorectal cancer; CRC) は世界第 3 位の悪性腫瘍であり、炎症性腸疾患 (inflammatory bowel disease; IBD) に続発する大腸炎関連大腸癌 (colitis-associated colorectal cancer; CAC) は IBD 患者の主要死因となっている。慢性炎症は腫瘍微小環境 (tumor microenvironment; TME) を再構成することで大腸腫瘍形成の全段階を促進する (Hanahan 2022)。腫瘍関連マクロファージ (tumor-associated macrophages; TAMs) は CRC の TME において高い可塑性を示し、古典的活性化 M1 サブタイプ(殺腫瘍性)と選択的活性化 M2 サブタイプ(免疫抑制性・腫瘍促進性)に分類される。TME は TGF-β・IL-10 等を介して M2 偏移を駆動する。腫瘍関連好中球 (tumor-associated neutrophils; TANs) もまた可塑性を持ち、N1(抗腫瘍)・N2(腫瘍促進)に分類されるが、CRC では高い TAN 浸潤が予後不良と相関する (Liao et al)。TAN と TAM の間には双方向性のクロストーク(中性球由来の NETs や CSF1 がマクロファージの M2 極性化を誘導する等)が存在することが示されていた。
インテグリン CD11b/CD18 (αMβ2、Mac-1、CR3) は非共有結合性ヘテロダイマーとして主に骨髄細胞・NK 細胞に発現し、細胞-細胞間・細胞-基質間相互作用を介して免疫応答を双方向に制御する接着受容体である。CD11b/CD18 は中性球の腸上皮との相互作用を調節し、その機能不全は慢性粘膜炎症に寄与する。小分子作動薬(GB1275・leukadherin-1/LA1)による CD11b/CD18 の活性化は白血球遊走を抑制し抗炎症効果を示す。しかし、CRC/CAC における CD11b/CD18 の正確な役割とメカニズムは未解明であった。特に、CD11b と CD18 の各サブユニットが独立して機能するか協調的に機能するか、またポックスウイルスとは異なる炎症 CAC モデルでの免疫細胞への影響は不明であった。
目的
(1) CAC における CD11b/CD18 の腫瘍抑制的役割を CD11b 単独 KO・CD18 単独 KO・DKO マウスで解析し、(2) CD11b/CD18 欠損が TME 免疫細胞(TANs・TAMs・T 細胞)に与える影響を包括的に評価し、(3) CD11b/CD18 作動薬によるマクロファージ再プログラムの分子機序として ERK/STAT3 軸の関与を実証すること。
結果
CD11b/CD18 の発現低下と DKO による CAC 増悪: GDC TCGA-COAD データセット解析(n=471 腫瘍 vs n=41 正常)で ITGAM (CD11b) および ITGB2 (CD18) の有意な発現低下を確認した (Fig 1A)。AOM (12.5 mg/kg 腹腔内投与)/DSS 3% (3 サイクル) 誘発 CAC モデルで、CD11b-/- と CD18-/- 単独 KO マウスは野生型 (WT) と比較し有意差のない体重減少傾向を示したが、CD11b/CD18 二重 KO (DKO) マウスは第 2 DSS サイクルから有意な体重減少を呈した (n=6-9/群)。DKO マウスでは疾患活動性指数 (Disease Activity Index; DAI) スコアが WT・単独 KO に比べ有意に高く、内視鏡・大腸解剖では腫瘍数の有意な増加と大型腫瘍の増加、さらに脾腫(脾重量・脾指数の有意上昇)が観察された (Fig 1F-K)。Ki-67 染色でも CD11b-/- と DKO の腫瘍で増殖指数が有意に高く、腫瘍組織では Tgfb1 (全 KO で上昇)、Il17 (CD11b-/- と DKO で上昇)、Il6・Il1b・Tnfa・Ifng (DKO で選択的に有意上昇) の mRNA 増加が確認された (n=5-8 AOM/DSS、n=4-5 NC) (Fig 2F-K)。
STAT3・YAP リン酸化の変動: 腫瘍組織のウェスタンブロット解析(n=6/群)で、CD11b-/- と DKO マウスは WT に比べ p-STAT3[Tyr705] が有意に上昇し、p-YAP[Ser127] および p-YAP[Ser397] が有意に低下した (Fig 2L-N)。これは STAT3 の腫瘍促進性活性化と Hippo シグナルの抑制を示し、CD11b サブユニットが STAT3 および Hippo 経路を協調制御していることを示唆した。
TME における好中球の主要 CD11b+CD18+ 集団としての同定: WT マウスの腫瘍組織をフローサイトメトリーで解析(n=5/群)すると、CD11b+CD18+ 免疫細胞の中で好中球 (CD11b+Ly6G+) が最も高い割合を占める主要サブセットであった (Fig 3H)。腫瘍では好中球・単球の割合が増加し、マクロファージ・樹状細胞は減少していた。
DKO による TANs の N2 極性化とプロテオーム変容: FACS 分取した腫瘍 TANs の RNA-seq 解析(n=3/群)で、CD11b-/-・CD18-/-・DKO TANs の共通 upregulated DEGs(log2FC ≥1、q<0.05)として N2 極性化・免疫抑制(Ccl5、Isg15、Socs1、Cxcr4、Mif)、血管新生(Flt1、Vegfa)、抗アポトーシス(Bcl2a1 ファミリー)に関わる遺伝子群の有意な上昇が確認された (Fig 3J)。DKO TANs では Ccl1・Ccl4・Ccl5・Ccl6・Ccl17・Ccl22 等の多数のケモカインが上昇し、単球走化性の生物学的プロセス濃縮が見られた (Fig 4C)。骨髄好中球 (bone marrow neutrophils; BMNs) の apoptosis 解析(Annexin V/PI 法、n=5/群)では、DKO BMNs は WT に比べ MC38 腫瘍 conditioned medium (CM) 処理下でも低いアポトーシス率を示し(総アポトーシス率の有意な低下)、TME での生存延長が示唆された (Fig 4F-I)。
CD11b/CD18 欠損による TAM の M2 偏移と TAN-TAM クロストーク: CD18-/- と DKO マウスの TME で Ly6Chi(炎症性)マクロファージが有意に減少し Ly6Clo(免疫抑制性)マクロファージと CD206+ M2 マクロファージが有意に増加した(n=5/群)(Fig 4A-B)。DKO TAM の RNA-seq(n=3/群)ではケモカイン媒介シグナリングと細胞走化性が上位濃縮パスウェイとなり、CCL5 の受容体 Ccr3 および Ccr8 が DKO TAMs で有意に上昇していた。DKO TANs と WT BMDMs の共培養実験(n=3/群)では、DKO TAN 共培養が BMDM の IL-10 発現を有意に上昇させ CD86 発現を有意に低下させ、DKO TANs が直接的にマクロファージを免疫抑制表現型へ誘導することを実証した (Fig 4K-L)。
PD-L1 上昇と T 細胞機能障害: CD18-/- と DKO マウスの TME で腫瘍浸潤好中球・マクロファージ・単球における PD-L1 の平均蛍光強度 (MFI) が有意に上昇した(n=6/群)(Fig 5A-C)。総 T 細胞浸潤は全 KO モデルで WT より有意に減少し、特に CD4+ T 細胞の減少が顕著であった(n=5-6/群)(Fig 5E)。CD8+ T 細胞については CD18-/- と DKO マウスで IFN-γ 産生が有意に低下し、細胞傷害性エフェクター機能の障害が確認された (Fig 5F)。
CD11b/CD18 作動薬による ERK/STAT3 抑制と TAM 再プログラム: in vitro で WT BMDMs に MC38-CM を適用して TAM 様細胞を作成し、CD11b/CD18 特異的作動薬(GB1275 10 µM または LA1 7.5 µM)を処理した。ウェスタンブロット(n=3/群)で両作動薬が p-STAT3[Tyr705] と p-ERK1/2[Thr202/Tyr204] を有意に減弱させた(Fig 7C-H)。機能評価では作動薬処理 TAMs の Il10・Tgfb1・Arg1・Cd206・Ccl17・Csf1 mRNA と IL-10 産生が有意に低下し(n=3-4/群)、IFN-γ 産生と TNF-α 分泌が有意に増加した(n=4/群 ELISA)(Fig 6C-E、Fig 8J-K)。ERK1/2 阻害薬(SCH772984 1 µM)または STAT3 阻害薬(C188-9 5 µM)単独でも M2 マーカー(Cd206・Arg1)を有意に抑制し、ERK1/2+STAT3 同時阻害でこれらが全処理群で類似レベルに収束した (Fig 8C-E)。TAM CM を用いた MC38 細胞の apoptosis 実験(n=3/群)では、SCH772984 処理で MC38 アポトーシスが有意に増加し、C188-9 は TAM-CM による MC38 アポトーシス誘導を増強し、ERK+STAT3 同時阻害が最も強力な腫瘍殺傷活性を示した (Fig 8F-I)。
考察/結論
① 先行研究との違い: これまでの報告では CD11b 欠損が Apc Min/+ マウスの腸管腺腫増殖を抑制することが示されていたが、本研究では CD11b/CD18 欠損がむしろ CAC を増悪させるという対照的な知見が得られた。この相違は腫瘍形成モデルの根本的な違い(Apc Min/+ は Wnt/β-catenin 駆動の「腺腫-癌」経路で免疫浸潤が乏しいのに対して、AOM/DSS CAC は「炎症-異形成-癌」経路で豊富な免疫浸潤を持つ)によって説明される。CD11b/CD18 は白血球限定の免疫調節受容体であるため、その生物学的効果は TME の免疫学的特性に高度に依存することが明らかとなった。また、これまで CD11b/CD18 欠損と TAN-TAM クロストークの直接的連関は検討されていなかった点で本研究の知見は先行研究と異なる。
② 新規性: 本研究で初めて、CD11b/CD18 が TAN の N2 極性化とその TAN-TAM クロストークを介して間接的に TAMs を免疫抑制性に再プログラムすることが実証された。CCL5(DKO TANs で upregulated)を介して Ccr3/Ccr8 を高発現する DKO TAMs が走化性シグナルに応答するという新規の TAN-TAM 軸が提示された。さらに CD11b と CD18 サブユニットが CAC において非冗長かつ協調的に機能することを DKO モデルで新規に示した(単独 KO では DKO の腫瘍促進表現型を完全には再現できない)。CD11b/CD18 作動薬(GB1275・LA1)が ERK/STAT3 軸の抑制を介して TAMs を抗腫瘍表現型に新規に再プログラムすることは臨床的に重要な新規知見である。
③ 臨床応用: 臨床応用の観点では、CD11b/CD18 を CAC の免疫療法標的として活用することが期待される。GB1275 はすでに固形腫瘍対象の第 I 相試験 (NCT02885688) で検討されており、本研究の知見はその抗腫瘍メカニズムとして TAM 再プログラムと ERK/STAT3 抑制を初めて同定した。TAM の可塑性・M1/M2 バランスに作用する戦略として臨床応用が期待できる (Sharma et al)。免疫抑制性骨髄細胞を標的とする現行の治療が奏効しない患者(TME 多様性・免疫サブセット多様性から免疫療法抵抗性を示す患者)に新たな選択肢を提供できる可能性がある。
④ 残された課題: 今後の検討課題として、TAN-TAM クロストークの正確な分子メディエーター(CCL5/Ccr3 軸の機能的検証)の解明が必要である。また、CD11b/CD18 欠損が STAT3/YAP リン酸化変動をもたらす特定の細胞起源の同定や、CD11b/CD18 作動薬の in vivo 抗腫瘍効果の検証が残された課題として挙げられる。さらに、本研究のほぼ全ての機能的解析が in vitro 系に限られ、CD11b/CD18 作動薬の in vivo CAC モデルでの有効性は未検証であり、今後の研究として必要である。CAC 以外の炎症関連がんへの一般化可能性も今後の方向性として重要である。
方法
研究デザイン: AOM/DSS 誘発 CAC モデルを用いた前臨床基礎研究。CD11b-/- (B6.129S4-Itgam tm1Myd/J, JAX 003991)・CD18-/- (B6.129S7-Itgb2 tm1Bay/J, JAX 002128) の単独 KO および DKO マウス(C57BL/6J 背景)をジャクソン研究所から購入・交配。in vitro BMDM 実験を組み合わせた機能解析。全動物実験は倫理委員会承認済み。
CAC モデル: 6-8 週齢雄マウスへ AOM (azoxymethane; 12.5 mg/kg) を単回腹腔内投与後、DSS (dextran sodium sulfate; 3%、MW 36-50 kDa) を 5 日間/水 14 日間×3 サイクル投与。
フローサイトメトリー: 腫瘍・傍癌・正常大腸組織から単細胞懸濁液を Percoll (40-80%) 密度勾配で作成。BD LSRFortessa X-20 で解析、FlowJo でデータ解析。多色パネルで好中球 (CD11b+Ly6G+)・単球 (Ly6G-Ly6Chi)・TAMs (CD11b+F4/80+)・樹状細胞・T 細胞・NK 細胞・PD-L1 発現・IL-10・IFN-γ・CD206・CD86 を定量。
RNA-seq: FACS 分取した TANs と TAMs(n=3/群)を BGI Genomics が解析。GRCm38 (mm10) に Bowtie2 (v2.4.5) でアライメント、RSEM (v1.3.1) で定量、DESeq2 (v1.34.0) で差次発現解析(q≤0.05 または FDR≤0.001、log2FC≥1)。KEGG パスウェイ解析・GO 濃縮・GSEA を実施。
BMDM 実験: WT C57BL/6J マウス骨髄から M-CSF (20 ng/mL) で 7 日間培養して成熟 BMDM を分化誘導。CD11b/CD18 作動薬(GB1275 10 µM または LA1 7.5 µM)または DMSO を 1 h 前処置後、MC38-CM で 8 h 刺激して TAM 様細胞を作成。ERK1/2 阻害(SCH772984 1 µM)・STAT3 阻害(C188-9 5 µM)の組み合わせ実験を実施。
統計: GraphPad Prism v9。二群比較:unpaired t-test(両側)、多群比較:one-way/two-way ANOVA。*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001。