- 著者: Cheesue Kim, Hyeok Kim, Woo-Sup Sim, et al.
- Corresponding author: Hun-Jun Park (The Catholic University of Korea), Byung-Soo Kim (Seoul National University)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2024
- Epub日: 2024-10-01
- Article種別: Original Article
- DOI: 10.1038/s41467-024-52812-6
背景
急性心筋梗塞 (MI) は世界的に罹病率・死亡率の主要な原因であり、成人心臓は本質的に再生能力に乏しいため、梗塞後の心筋保護と炎症制御が治療の核心となる。MI後、好中球 (neutrophil) はDAMP (damage-associated molecular patterns) や炎症性シグナルに応答して梗塞心に急速に集積し、活性化されると炎症性サイトカイン・MMP・NETs (neutrophil extracellular traps) を分泌して心筋細胞死と組織傷害を増幅する。しかしながら一方で、梗塞部位での好中球アポトーシスは心臓マクロファージのefferocytosisを介した炎症収束と修復促進型マクロファージ分極に不可欠である (Papayannopoulos et al. NatRevImmunol 2018)。この「好中球は炎症の開始者であると同時に炎症収束に必要な存在」というパラドックスが未解決のまま残されてきた。
先行研究では、小分子薬による好中球活性化抑制策や好中球枯渇抗体がMI後の心機能改善に失敗し、むしろマクロファージのM2分極を障害することが示された (Horckmans et al., Eur Heart J 2017)。好中球が好中球特異的分子を持たず他の骨髄系細胞と類似しているため、高特異的なターゲティングが困難でオフターゲット効果のリスクが高い点も課題であった。また、好中球系統を介した薬物送達の試みとして Xue et al. NatNanotechnol 2017 らの取り組みがあるが、MI特異的な時空間制御は実現されていなかった。PLGA (poly(lactic-co-glycolic acid)) ナノ粒子が好中球トロピズムを示すこと、特に350〜500 nmサイズかつ負の表面電荷を持つものが好中球に選択的に取り込まれることが判明していたが、炎症部位での選択的薬物放出との組み合わせは実現されておらず、「梗塞心局所で活性化好中球の命運をH2O2を介して時空間的に制御する」という概念は未解明であった。
目的
心筋梗塞後に好中球により産生されるH2O2を利用して梗塞心臓部位で選択的にロスコビチン (roscovitine、CDK阻害薬) を放出するROS応答性PLGAナノ粒子(RC NP: roscovitine/catalase-loaded PLGA nanoparticle)を設計・製造し、好中球のアポトーシス誘導とNETosis抑制を通じたマクロファージM2分極促進および心機能保護効果を検証すること。
結果
RC NPの設計・物理化学的特性:W/O/W二重乳化法で製造したRC NPは流体力学的直径429.7 ± 72.8 nm、PDI (polydispersity index) 0.058、ゼータ電位-25.5 ± 4.9 mV (n=7) を示し、37°Cで7日間PBS・血清中で安定した (Fig. 2a-c)。H2O2に対してカタラーゼが酸素を産生し (Fig. 2e)、100〜200 µM H2O2条件下ではH2O2非添加条件と比較してロスコビチン放出が有意に加速された (Fig. 2f)。PMA活性化好中球の細胞外H2O2濃度は~65 µM、虚血再灌流傷害後は最大100 µMに達することが報告されており、本NPのH2O2閾値は生理的状況と整合している。取込み1時間後の好中球陽性率は90%超 (Supplementary Fig. 1)、RC NP取込みは好中球の遊走能を障害しなかった (fMLP 1 µM勾配で3倍増加の遊走は不変、Fig. 2i) (Fig. 2a-k)。
in vitro好中球命運のRC NPによる制御:RC NP (50 µM) がPMA (750 nM) 活性化好中球においてTUNEL陽性アポトーシス好中球の割合をPBS対照群と比較して有意に増加させた (n=8-10/群、p<0.05 vs PBS) (Fig. 3b)。このアポトーシス誘導はカタラーゼ非含有R NPまたはロスコビチン非含有C NPでは再現されず、H2O2応答性ロスコビチン放出に依存した。RC NP処理活性化好中球ではNETosis (CitH3陽性NETs) が有意に抑制され、炎症性メディエーターTNF-α・pro-MMP-9・好中球エラスターゼの分泌もPBS群と比較して有意に低下した (n=4-5/群、p<0.05、Fig. 3d-f)。
RC NP処理アポトーシス好中球によるマクロファージefferocytosisとM2分極促進:RC NP処理PMA活性化好中球はPBS・C NP・R NP処理群と比較してマクロファージによるefferocytosis割合が有意に高く (フローサイトメトリー・共焦点顕微鏡で確認、n=3-4/群、Fig. 4a-b)、その後のマクロファージではM1マーカーCD80・CD86・iNOS・TNF-α・IL-12 p40・IL-6の発現・分泌が有意に低下し (Fig. 4c-i)、M2マーカーMertk mRNA・TGF-β1・CD206が有意に増加した (Fig. 4j-l)。これはRC NP誘導アポトーシス好中球がMertK介在efferocytosisを促進しpro-resolving表現型への分極を駆動することを示す。
in vivo体内動態とMI心臓への選択的集積:RC NPの静脈内注射後、投与10・30分後に循環中のCD45+Ly6G+CD11b+好中球への取込み率が55%超、30分後の循環RC NP+細胞中の好中球比率は正常マウスとMIラット双方で47%超、単球は14%未満だった (Fig. 5a-b)。DiD標識RC NPのMIラット心臓への集積はshamラットの3.0倍高く (Fig. 5d)、MIラット心臓のRC NP+細胞のうち35.1%が好中球・13.4%が単球だったのに対し、shamラットでは好中球5.4%・単球7.7%にとどまり (Fig. 5f)、MI特異的な好中球トロピズムが確認された。
in vivoでの免疫細胞動態制御:MI誘導1時間後のRC NP単回投与により、梗塞心臓内のTUNEL+好中球が24時間後に有意に増加し (n=3 for sham、6 for other groups)、CitH3+NETosis好中球は72時間後に有意に減少した (Fig. 6a-b)。さらに3日後のiNOS+マクロファージが有意に減少し、CD206+・Arg1+マクロファージが対照群より有意に増加した (Fig. 6c-d)。血清S100A9 (NET関連タンパク)・LL-37 (好中球顆粒タンパク) もRC NP群で有意に低下した (n=3、Fig. 6f-g)。
心機能保護効果と抗リモデリング:Masson三色染色でRC NP群の線維性瘢痕面積が有意に減少し生存心筋が保護された (n=3 for sham、6/group、Fig. 7b)。心エコー検査では1週間後から有意な駆出率 (ejection fraction) と短縮率 (fractional shortening) の保護が4週間維持され、LVIDd (left ventricular internal dimension at diastole、左室拡張末期内径)・LVIDs (left ventricular internal dimension at systole、左室収縮末期内径)・前壁厚も有意に保存された (n=3 for sham、7-9/group、Fig. 8c-g)。4週間後の侵襲的PV (pressure-volume) カテーテル評価でも心拍出量・1回拍出量・ESPVR (end-systolic pressure-volume relationship、収縮末期圧容積関係)・EDPVR (end-diastolic pressure-volume relationship、拡張末期圧容積関係)・dP/dtmax・dP/dtminが全てRC NP群で有意に改善し、Vmaxが有意に低下した (Fig. 8h-o)。フリーのロスコビチン (Free R) も一定の効果を示したが、RC NPはほぼ全パラメータで有意に上回った。好中球枯渇実験ではRC NP効果が有意に減弱し、好中球介在メカニズムが主要であることが確認された (Fig. 9)。
安全性・生体適合性:循環好中球数は対照と有意差なく好中球減少症は認めず (Fig. 10a)。肝臓・脾臓への細胞周期停止・アポトーシス誘導なく (Fig. 10c-d)、主要臓器の組織学的毒性なし (H&E染色、Fig. 10e)。血液生化学は肝逸脱酵素・腎機能マーカーに有意差なく (RC NP群ではLDHのみ有意低下、心筋保護を示唆)、良好な安全性プロファイルが確認された。
考察/結論
① 先行研究との違い:好中球枯渇抗体や小分子による好中球活性化全体的抑制という従来のアプローチと異なり、RC NPは活性化好中球の「アポトーシス誘導」という新しい機序を採用した。先行研究 (Horckmans et al. 2017) では好中球がMI後の心臓修復に必要であり、その枯渇がマクロファージM2分極を障害することが示されていた。RC NPはこれと対照的に、好中球の梗塞部位アポトーシスを促進することでM2分極に必要なefferocytosisシグナルをむしろ強化した。また、フリーのロスコビチンは循環中の未活性化好中球にも作用して全身性好中球アポトーシスを誘導するリスクがあるが、RC NPはH2O2応答性放出により梗塞部位の活性化好中球に選択的作用する点が相違する。
② 新規性:本研究で初めてH2O2応答性ROS-triggered PLGAナノ粒子を用いて好中球の命運 (炎症的NETosisから免疫学的に沈黙したアポトーシスへ) を時空間的に制御するという概念が実証された。この「殺すのではなく死に方を変える」アプローチは、好中球の炎症開始機能と炎症収束機能の両方を温存しつつ、前者の過剰を抑制し後者を促進するという新規の二面的制御を初めて示した。梗塞心への選択的RC NP集積 (3.0倍) と好中球特異的取込み (>47%) の組み合わせが標的指向性を実現した新規な送達設計である。
③ 臨床応用:RC NPは静脈内投与可能なoff-the-shelfナノ粒子製剤であり、既に臨床試験で安全性が確認されているロスコビチンを内包する。MI後の血栓溶解・再灌流療法と組み合わせた同時投与、または病院搬送中の投与が臨床現場での実用性から有望な経路である。CANTOS試験でIL-1β抗体が心血管イベントを抑制したことと合わせ、免疫調節療法がMI治療の新たな柱として臨床的意義を持つと期待される。また、RC NPの標的指向的ROS-triggered薬物放出戦略は、好中球が病態に関与する他の急性炎症性疾患 (敗血症・虚血再灌流傷害・関節リウマチなど) への応用も考えられ、臨床に翻訳できる橋渡し研究として意義深い。
④ 残された課題:今後の検討として、齧歯類と人間では好中球の集団・表現型が異なる点、雌雄差、概日リズムによる変動があり、より多様な前臨床モデルでの検証が必要である。また、好中球由来小胞が補体活性化を介して炎症収束に寄与する経路 (Hsu et al. Cell 2025) との相互作用など、RC NPが他の炎症収束機構に与える影響の解明も残された課題である。非ステルス性PLGAナノ粒子による補体活性化など潜在的副作用の評価も求められる。好中球枯渇実験でRC NPの効果が完全には消失しなかったことから、マクロファージ等への副次的作用が存在し、その機序解明も今後の研究として必要である。また、RC NP投与の最適なタイミング、用量、複数回投与プロトコルの最適化、ならびにロスコビチン以外の薬物との組み合わせについても今後の方向性として重要である。
方法
研究デザイン:基礎実験 (in vitro) + 動物実験 (in vivo、ラットMIモデル) の橋渡し研究。F344ラット (雄、8-10週齢、Orient Bio、Korea) とBALB/cマウス (雌、6-10週齢、Orient Bio) を使用。MIはLAD (left anterior descending coronary artery、左前下行枝) を7-0 Prolene縫合糸で1時間閉塞後再灌流で誘導 (n=3 for sham、6-9/group)。IACUC (Institutional Animal Care and Use Committee) 承認番号:CUMC-2022-0081-02 (The Catholic University of Korea)。
ナノ粒子製造:W/O/W二重乳化法でPLGA (MW 7000-17000)・ロスコビチン (MedChemExpress、8 mg/2 mL DCM (dichloromethane)) ・カタラーゼ (Sigma-Aldrich、2.3 mg/1 mL PVA (polyvinyl alcohol)) からRC NPを製造。RC NP投与量:2 mg/kg roscovitine/400 µL PBS IV (intravenous)。
in vitro実験:骨髄由来好中球 (CD11b+Ly6G+、純度>90%) とマクロファージ (F4/80+) を使用。PMA (750 nM) 活性化好中球アポトーシス評価はTUNEL法、NETosisはSYTOX Green染色、フローサイトメトリー・共焦点顕微鏡。ELISAによるTNF-α・IL-12・IL-6・TGF-β1測定。qRT-PCRはSYBR Green法。
in vivo評価:心エコー (経胸壁、15 MHz L15-7io、4h/3d/1w/2w/4w post-MI)、PV catheteter (4週後、2F conductance catheter、ESPVR/EDPVR/dP/dt測定)、組織学的評価 (Masson三色染色・TUNEL・IHC)、フローサイトメトリー。体内動態:IVIS near-IR in vivo imaging system。統計:one-way ANOVA (Bonferroni補正)、two-way ANOVA (Bonferroni補正)、unpaired t-test、p<0.05を有意差あり。