- 著者: Liliang Yang, Piaopiao Sun, Jing Wang, Mengjie Xu, Binyan Zhu, Keqing Yu, Yi Rong, Ruiqing Mao, Shuangfeng Zi, Chi Liu, Jie Huang, Jianmei Ma, Hanbin Chen, Wei Luo, Wei Zhang, Xinxin Zhang, Shencun Fang, Jie Chao
- Corresponding author: Jie Chao (Southeast University), Shencun Fang (Nanjing Chest Hospital)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2025
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 41298466
背景
肺線維症 (PF) は、慢性的な免疫調節不全と過剰な細胞外マトリックス (ECM) リモデリングを特徴とする進行性かつ致死的な疾患である。特にケイ肺症 (silicosis) は、SiO2 (結晶性シリカ) 粉塵の吸入による職業性肺疾患であり、世界的な健康問題となっている。米国で約 220 万人、中国で 2300 万人以上の労働者が影響を受けると推定され、その罹患率は増加傾向にある。ケイ肺症は単純結節性ケイ肺症、進行性大塊型線維症、びまん性間質性線維症と段階的に進行し、大多数の患者は不可逆的な線維化が形成された病期 II/III で診断される。現時点では有効な薬物療法が存在せず、早期診断マーカーと特異的治療標的の開発が急務とされている。好中球は急性炎症における早期防御機能で知られるが、慢性線維化の後期 (不可逆段階) での役割は未解明であった。逆行経内皮遊走 (reverse transendothelial migration; rTEM) 好中球は ICAM1high CXCR1low 表現型で特徴づけられる活性化サブセットであり、古典的アポトーシス運命と異なり組織から血流へ逆行遊走して長寿命・高活性化状態を維持する。しかし、ケイ肺症における rTEM 好中球の役割は未探索であり、その病態生理学的意義は不明な点が多かった。これまでの研究では、好中球の急性炎症における役割に焦点が当てられてきたが、線維化におけるその関与は十分に理解されていなかった Coffelt et al. Nature 2015。また、好中球の不均一性に関する研究は進んでいるものの Ng et al. NatRevImmunol 2019、特定のサブセットが線維症にどのように寄与するかについては、さらなる詳細な解析が不足していた Salcher et al. CancerCell 2022。これらの知見のギャップを埋めることが、本研究の重要な課題であった。
目的
本研究の目的は、ケイ肺症マウスモデルにおいて、rTEM 好中球が細胞外マトリックス (ECM) と相互作用して肺線維症を促進するメカニズムを、シングルセル RNA シーケンス (scRNA-seq)、空間的トランスクリプトミクス (ST)、および ECM プロテオミクスを統合して解明することである。特に、マクロファージ由来カテプシン C (CTSC) による細胞間接着分子 1 (ICAM1) 切断と可溶型 ICAM1 (sICAM1) を介した線維芽細胞活性化の分子機序を明らかにすることを目的とした。
結果
scRNA-seq および空間的トランスクリプトミクスによる rTEM 好中球の同定と線維化領域への局在: SiO2 モデル肺から 5,386 個の好中球が 4 サブポピュレーションに分類された。rTEM 好中球 (ICAM1high CXCR1low) の割合は NS 群と比較して SiO2 群で有意に増加し、絶対数は 7 日から 56 日にかけて増加した (Fig. 1c, d)。scRNA-seq の初期定義 (ICAM1 counts > 0 かつ CXCR1 = 0) では rTEM が約 20% と推定されたが、フローサイトメトリーでは約 4% であり、MAD ベース閾値では約 2% と保守的な推定となった。ST との統合解析により、rTEM 好中球は炎症・線維化領域に選択的に局在し、他の好中球サブセットには明確な空間的パターンがなかった (Fig. 1f)。Pseudotime 解析は NC 好中球から rTEM 好中球への移行を示唆したが、rTEM の最終的運命は不明のままである (Fig. 1e)。ヒトケイ肺症患者の肺組織と BALF でも rTEM スコアと線維化スコアが有意に相関することが確認された (R² = 0.45, p < 0.0001) (Fig. 1h, i)。
rTEM 好中球の線維芽細胞活性化能と CellChat 解析: 機能解析により、rTEM 好中球は線維芽細胞の増殖、活性化、遊走に関連するパスウェイに最も豊富に連結していることが示された (Fig. 1g)。rTEM 特異的マーカー遺伝子と公知の線維化関連遺伝子セットの交差解析により 74 個の候補線維化促進遺伝子が同定され、ST でこれらが炎症・線維化領域に濃縮することが確認された。CellChat 解析では、SiO2-56d 群で rTEM 好中球と線維芽細胞間の相互作用が増加していた (Fig. 2c)。in vitro では、in vitro rTEM 好中球の conditioned medium が MLg 線維芽細胞での COL1A2 と ACTA2 の発現増加、増殖、遊走を有意に促進した (Fig. 2f-i)。BrdU 取り込みは対照群と比較して約 20% から約 40% に増加し (p < 0.001)、wound healing assay ではギャップ面積が有意に減少した (p = 0.0014)。これらの実験は n=5 独立した実験で実施された。
ICAM1 の線維化 ECM への固定とインテグリン経路: rTEM 好中球は他のサブセットと比較して ECM 関連遺伝子を最も高発現していた (Fig. S4a)。線維化 ECM (Fib-ECM) では正常 ECM と比較して好中球マーカー Ly6G の平均蛍光強度 (MFI) が有意に高値 (ECM への保持増大) であった一方、ICAM1 の MFI は有意に低値であった (p=0.0032, p=0.0077) (Fig. 4b, c)。組換え ICAM1 (rmICAM1) は MLg 線維芽細胞での COL1A2/ACTA2 発現増加、BrdU 取り込み増加、scratch wound healing 促進を誘導した (Fig. 3c-g)。ICAM1 シグナルは ITGAM、ITGAL、ITGAX、ITGB2 のインテグリンファミリーを介して ECM との相互作用を媒介することが示され、これらのインテグリンは ECM プロテオミクスで SiO2 曝露群で有意に上昇していた (log2FC > 2, p < 0.001) (Fig. 3i)。分子ドッキング解析により、ICAM1 と各インテグリンタンパクとの直接結合が確認された (Fig. 3k-n)。これらの実験は n=5 独立した実験で実施された。
マクロファージ由来 CTSC による ICAM1 切断と sICAM1 産生: ECM プロテオミクスとタンパク質解析により、カテプシン C (CTSC) が主にマクロファージ由来で線維化 ECM に蓄積することが同定された (Fig. 4e, f)。CTSC は rTEM 好中球上の ICAM1 を細胞外ドメインで切断し、可溶型 sICAM1 を産生した (Fig. 4j, k)。sICAM1 は in vitro で線維芽細胞の alpha-SMA 発現、コラーゲン産生、増殖を有意に促進し、線維芽細胞活性化 (筋線維芽細胞化) を誘導した (Fig. 6k-p)。
in vivo 機能検証 — 好中球/マクロファージ枯渇および CTSC 遺伝子欠損の効果: 好中球枯渇 (抗 Ly6G 抗体) およびマクロファージ枯渇 (クロドロネートリポソーム) は、肺組織での ICAM1 タンパクおよび CTSC レベルを有意に低下させ、コラーゲン沈着の減少と肺機能の改善をもたらした (Fig. 7d, e, j, k)。CTSC 遺伝子欠損マウス (CTSC⁻/⁻) では、SiO2 誘発性肺線維症が有意に減弱し、高密度線維化領域の減少、肺組織構造の改善、コラーゲン沈着の低下が認められた (Fig. 5b-d)。CTSC⁻/⁻ マウス (n=5 mice) では、肺のヒドロキシプロリン含有量が野生型と比較して約 50% 減少し (p < 0.0001)、線維化マーカー COL1A2 および ACTA2 の発現が有意に低下し (Fig. 5e-g)、可溶型 ICAM1 (sICAM1) レベルも肺組織および BALF で有意に減少した (p < 0.0001) (Fig. 5h, i)。
考察/結論
本研究は、rTEM 好中球をケイ肺症における肺線維症の新規ドライバーとして初めて同定し、ECM 固定 (ICAM1 依存) → マクロファージ由来 CTSC による切断 → sICAM1 産生 → 線維芽細胞活性化という多細胞相互作用の線形的メカニズムを解明した。scRNA-seq で 5,386 個の好中球を 4 サブセットに分類し、rTEM の割合が SiO2-56d 群で有意に増加すること、74 個の線維化促進遺伝子が線維化領域に空間的に濃縮することを多オミクス統合で実証した。
先行研究との違い: これまでの研究では好中球の急性炎症段階 (炎症誘発・病原体除去) への寄与に焦点が当てられてきたが、本研究は慢性線維化の後期・不可逆段階においても好中球が積極的な線維化ドライバーとして機能することを示した点が大きな概念的貢献である。また、NETs 形成 (DNA/タンパク質放出) とは根本的に異なる「組織内空間的固定」という新しい好中球の病態形成様式が提示された。これは、従来の好中球機能の理解と対照的な知見である。
新規性: 本研究で初めて、rTEM 好中球が ICAM1 依存的に線維化 ECM に固定され、マクロファージ由来 CTSC が ECM 内で ICAM1 を切断し、可溶型 sICAM1 を産生することで線維芽細胞を活性化し、線維症を悪化させるという新規メカニズムを明らかにした。この rTEM 好中球と ECM の相互作用軸は、IPF (特発性肺線維症) や放射線肺炎、COVID-19 後線維症など他の慢性肺線維性疾患への応用可能性を持つ。
臨床応用: 本知見は、CTSC (カテプシン C 阻害剤) と ICAM1-ECM 結合遮断が肺線維症の治療標的候補として有望であることを示唆する。また、ケイ肺症患者の BALF や血清における sICAM1 および CTSC のレベルが、早期診断および病期マーカーとして臨床応用される可能性が期待される。ヒトケイ肺症患者 BALF での rTEM スコアと線維化スコアの相関は、臨床的検証の基点として重要である。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) ヒト IPF・ケイ肺症での同機序の大規模検証、(2) rTEM 好中球の起源 (特定の骨髄サブセットか局所誘導か) と pseudotime 解析で示唆された NC→rTEM 移行の分子機序の解明、(3) CTSC 阻害が線維化抑制と免疫機能 (感染防御) の間に与えるバランスの評価、(4) bleomycin 以外のマウスモデルでの再現性の確認が挙げられる。また、抗 Ly6G 抗体による好中球枯渇は rTEM 好中球に特異的ではないため、より標的特異的な rTEM 好中球操作法の開発が今後の研究方向性となる。
方法
雄性 C57BL/6J マウスに気管内 SiO2 投与を行い、ケイ肺症モデルを作製した。CT 撮影と H&E 染色により、56 日時点でグリッド状陰影と肺胞構造崩壊が確認され、モデルの確立が検証された。肺組織から scRNA-seq を実施し、t-SNE により 20 種類の細胞クラスターを同定した。好中球は ICAM1/CXCR1 発現に基づき、rTEM (ICAM1high CXCR1low)、NC (ICAM1⁻CXCR1⁺)、TR (ICAM1low CXCR1low)、および unknown (ICAM1high CXCR1high) の 4 サブポピュレーションに分類された。空間的トランスクリプトミクス (ST) と scRNA-seq の統合解析により、rTEM 好中球の線維化領域への局在を確認した。ECM プロテオミクスでは、線維化 ECM と正常 ECM の組成変化を網羅的に解析した。in vitro 実験では、transwell チャンバー(マウス肺内皮細胞 mpEC monolayer)を用いて rTEM を模倣する実験系を構築し、経内皮電気抵抗 (TEER) 測定により単層の完全性を確認した。さらに、好中球枯渇 (抗 Ly6G 抗体) およびマクロファージ枯渇 (クロドロネートリポソーム) による in vivo 機能検証を実施し、CTSC 遺伝子欠損マウス (CTSC⁻/⁻) を用いて CTSC の役割を評価した。統計解析には、二群間比較に Student’s t-test、多群間解析に one-way または two-way ANOVA を適用した。scRNA-seq データは NCBI Gene Expression Omnibus (GEO) データベースの GSE183682 に、空間的トランスクリプトミクスデータは GSE183683 に、プロテオミクスデータは ProteomeXchange Consortium の PRIDE パートナーリポジトリ (PXD028194) にそれぞれ寄託されている。