• 著者: Aitian Li, Ying Wang, Haiqing Bai, et al.
  • Corresponding author: Yi Zhang, Li Yang (Zhengzhou University, First Affiliated Hospital)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42173863

背景

固形腫瘍の細胞外マトリックス (ECM; extracellular matrix) の線維化・硬化は T 細胞浸潤を物理的に阻害し、腫瘍増殖・転移・免疫逃避を促進する重要な腫瘍微小環境 (TME; tumor microenvironment) の構成要素である。ECM 硬化は従来、癌関連線維芽細胞 (CAF; cancer-associated fibroblast) が主要な担い手と考えられてきたが、腫瘍関連マクロファージ (TAM; tumor-associated macrophage) も ECM リモデリングを介して免疫抑制的ニッチの形成に寄与することが示されている (Fridlender et al. CancerCell 2009)。フィブロネクチン (FN1; fibronectin 1) は ECM の主要接着分子として細胞接着・遊走・増殖を調節し、コラーゲン等の ECM タンパク質と結合して線維形成を促進するが、マクロファージ由来 FN1 が腫瘍組織の硬化に直接寄与し、TAM の免疫抑制機能をどのように調節するかは未解明であった (Zeng et al. ACSNano 2024)。非小細胞肺癌 (NSCLC; non-small cell lung cancer) では TAM が免疫療法抵抗性の主要因となっているが、TME の力学的特性 (ECM 硬化) と TAM 代謝・免疫抑制機能を結びつける機序、特に macrophage-specific FN1 を標的とした免疫チェックポイント遮断 (ICB; immune checkpoint blockade) の増強戦略が不足していた (Chang et al. NatCommun 2023)。

目的

NSCLC における TAM 由来 FN1 の発現・免疫抑制機能との関連を scRNA-seq (single-cell RNA sequencing) で解析し、マクロファージ特異的 FN1 欠損マウス (FN1ΔLyz2) を用いて FN1 が ECM 硬化を引き起こし T 細胞浸潤を制限するメカニズムを解明し、さらに FN1-F-アクチン-RAC1-mTOR-オートファジー-解糖抑制という細胞内カスケードを同定するとともに、FN1 遮断と抗 PD-1 療法の相乗効果を検証することを目的とした。

結果

NSCLC における FN1+ マクロファージの同定と免疫抑制ニッチとの関連:

10 例の原発 NSCLC scRNA-seq 解析で 67,124 個の単細胞が同定され 12 種類の主要細胞型に分類された (Fig. 1A)。線維芽細胞に加えてマクロファージが FN1 を特異的かつ高度に発現していた (Fig. 1B)。TAM は 6 種の細胞状態に分類され、FN1 発現は特に脂質代謝関連 TAM クラスター 3 (Lyso/Fatty acid-TAM) に最も濃縮されていた (Fig. 1D)。ヒト NSCLC の 2 つの大規模 scRNA-seq データセット解析では、FN1+ マクロファージ比率と CD4+/CD8+ T 細胞浸潤の間に有意な負の相関が示され (Spearman 相関、Fig. 1I, J)、FN1- マクロファージは FN1+ マクロファージより pro-inflammatory 遺伝子を多く発現していた (Fig. 1K)。フローサイトメトリーと多重免疫組織化学 (mIHC; multiplex immunohistochemistry) で FN1 の免疫抑制 TAM への高発現が確認された (Fig. 1F-H)。

FN1 欠損 (FN1ΔLyz2) による TME 再構築と T 細胞浸潤増強:

FN1fl/fl と FN1ΔLyz2 の LLC 腫瘍 scRNA-seq (計 53,566 cells; n=3/genotype) で 9 つの主要細胞クラスター (単球・マクロファージ・DC・好中球・T 細胞・NK 細胞・線維芽細胞・腫瘍細胞・内皮細胞) が同定された (Fig. 2A)。マクロファージ・単球を 7 種のサブポピュレーションに細分すると、FN1ΔLyz2 マウスでは Lyso/Fatty acid-TAM と Matrix-TAM の割合が低下し、CXCL9/CXCL10 を高発現する IFN-TAM の割合が増加した (Fig. 2F)。mIHC では FN1ΔLyz2 マウスの TME で CXCL9/CXCL10 発現が上昇し (Fig. 2G)、CD8+ T 細胞・NK 細胞の IFN-γ・パーフォリン・グランザイム発現も増強されていた (Fig. 2J)。FN1 遮断 (FB・shFN1・FN1ΔLyz2) により CD163/CD206/TGF-β等の抗炎症マーカーが低下し、CD86/IL-6/IL-1β/TNF/CXCL9/CXCL10 等の pro-inflammatory マーカーが増加した (n=3 independent experiments)。

FN1 が ECM 硬化と T 細胞浸潤制限を引き起こす機序:

AFM 計測では FN1ΔLyz2 マウスの固形腫瘍は FN1fl/fl マウスより低い剛性を示し (Fig. 3B)、FN1 欠損 BMDM はコラーゲンゲルの力学的特性の硬化能が FN1fl/fl BMDM より弱かった (n=3 independent experiments, Fig. 3C)。OC-Plex 32 臓器チップを用いた 3D 共培養では、CXCL9 (50 ng/mL) を添加した条件でも FN1 欠損群で CD8+ T 細胞の浸潤が多く、腫瘍細胞が T 細胞を排除することが可視化された (Fig. 3E)。CM-DiI 標識 CD8+ T 細胞の生体内投与実験では FN1ΔLyz2 腫瘍での 24-48 h 後の T 細胞蓄積が FN1fl/fl より多く (Fig. 3G)、CD4+ T 細胞・NK 細胞の浸潤も増加していた (Fig. 3H)。

FN1-F-アクチン-RAC1-mTOR 軸が TAM 解糖を抑制する細胞内機序:

scRNA-seq の KEGG/GO 解析では FN1fl/fl TAM がアクチン細胞骨格・焦点接着・ECM 受容体相互作用経路に富み、FN1ΔLyz2 TAM は解糖・ケモカイン活性・NF-κB 経路が増強されていた (Fig. 4A, B)。FN1 遮断/欠損により解糖速度制限酵素 ホスホフルクトキナーゼ (PFKP; phosphofructokinase P-type) タンパク質が増加したが mRNA は増加せず、post-transcriptional 制御が示唆された (Fig. 4C-F)。ECAR 上昇・OCR 低下・乳酸蓄積が FN1 欠損マクロファージで確認され、F-アクチン凝集の減少が PFKP 活性増加と相関した (Fig. 4G-I)。オートファジー-リソソーム経路阻害剤 CQ は FN1 欠損マクロファージの PFKP/p62/p-mTOR 増加を更に増強し、RAPA はこれを逆転させた (Fig. 5C-F)。共焦点顕微鏡で PFKP がリソソームとオートファゴソームに共局在し、FN1 欠損でリソソーム共局在が減少した (Fig. 5G)。FN1-インテグリン相互作用が F-アクチン bundle に RAC1 を捕捉し、cytoplasm で RAC1 と mTOR の共局在が減少することで mTOR リン酸化が阻害された (Fig. 5J-N)。RAC1 阻害剤 NSC-23766 で FN1ΔLyz2 と FN1fl/fl の p-mTOR 差異が消失し (n=3 independent experiments)、FN1 → F-アクチン → RAC1 捕捉 → mTOR 不活化 → オートファジー促進 → PFKP 分解 → 解糖抑制 → 免疫抑制維持の軸が実証された。

考察/結論

① 先行研究との違い:

TAM が ECM リモデリングに関与することは先行研究で示されていたが、マクロファージ産生 FN1 が直接腫瘍組織の力学的特性 (硬化) を制御し T 細胞を排除するという直接的な機序を in vivo で示した点が既存報告と異なる。また ECM 硬化が CD8+ T 細胞疲弊を促進するという報告と対照的に、本研究は TAM-ECM 硬化の連鎖を機械生物学的シグナルとして捉え、FN1-インテグリン-RAC1 という新たな上流経路を同定した。

② 新規性:

本研究で初めて、TAM 由来 FN1 が ECM 硬化を引き起こすだけでなく、FN1-インテグリン相互作用が F-アクチン凝集を介して RAC1 を隔離し mTOR リン酸化を阻害することでオートファジーを誘導し、解糖の律速酵素 PFKP をオートファゴリソソームで分解することで免疫抑制的 TAM の表現型を維持するという新規な力学-代謝連関が解明された。これまでに報告されていない FN1-F-actin-RAC1-mTOR-autophagy-glycolysis の完全なシグナルカスケードが基礎データとして示された。

③ 臨床応用:

FN1ΔLyz2 マウスや FB (5 mg/kg i.p.) と抗 PD-1 抗体 (200 μg/マウス) を組み合わせると、LLC 腫瘍増殖が遅延し生存が延長し、CyTOF では CX3CR1+ CD8+ T 細胞の IFN-γ/TNF/パーフォリン/グランザイム B が最高値を示した。このデータは FN1 遮断が既存の ICB 療法を増強する補完的免疫療法戦略として臨床応用できる可能性を示し、NSCLC 患者における臨床現場での免疫療法増強戦略の方向性を提示している。

④ 残された課題:

本研究は主に LLC マウスモデルで検証されており、他の固形腫瘍 (肝細胞癌・神経膠腫等の組織常在マクロファージ豊富な腫瘍) への一般化は今後の研究課題として残されている。FN1 欠損によるマクロファージ解糖亢進が腫瘍細胞との glucose 競合を通じて抗腫瘍効果を強化するかどうか、また解糖亢進による低酸素環境が抗腫瘍免疫応答を逆に制限する可能性についても今後の検討が必要である。RAPA と FN1 遮断の組み合わせが単剤を上回る効果を示さなかった点は、mTOR 阻害が T 細胞機能も抑制するという二面性を示しており、細胞種特異的なターゲティング戦略の開発が今後の方向性として重要である。

方法

NSCLC 患者 16 名 (第一附属病院鄭州大学、倫理承認 No. 2019-KY-256) を登録し、10 例の原発腫瘍から scRNA-seq ライブラリーを作製 (SeekOne Digital Droplet 5’ kit、Illumina NovaSeq 6000)、9 例をフローサイトメトリーに供した。解析は Seurat v4.0 (CCA バッチ補正、UMAP 次元削減) で実施した。マウスモデルは FN1fl/fl × Lyz2-Cre の掛け合わせでマクロファージ特異的 FN1 ノックアウト (FN1ΔLyz2) マウスを作製し、Lewis 肺癌 (LLC; Lewis lung carcinoma) 細胞を皮下移植した。マウス腫瘍 scRNA-seq は MobiCube 3’-RNA-seq kit (MobiVision v3.0 解析) を使用した (FN1fl/fl = 3、FN1ΔLyz2 = 3)。細胞モデルは THP-1 (ヒト単球細胞株)・ヒト末梢血単球由来マクロファージ (MDM; monocyte-derived macrophage)・骨髄由来マクロファージ (BMDM; bone marrow-derived macrophage) を IL-4/IL-13 刺激で M2 極性化し使用した。FN1 遮断は FB (fibronectin blocker; RGD ペプチド、5-10 μM または 5 mg/kg i.p.)・shRNA (shFN1 THP-1) で実施した。ECM 硬化は AFM (atomic force microscopy; 原子間力顕微鏡) で腫瘍切片・コラーゲンゲルを測定した。T 細胞浸潤は OC-Plex 32 臓器チップ (3D コラーゲン I ハイドロゲル、CXCL9 50 ng/mL) と生体内顕微鏡 (intravital microscopy、CM-DiI 標識 CD8+ T 細胞) で評価した (n=3 independent experiments)。代謝解析は ECAR (extracellular acidification rate; 細胞外酸性化速度) と OCR (oxygen consumption rate; 酸素消費速度) で実施した。薬理学的介入はラパマイシン (RAPA; 0.75 mg/kg または 2 μM)・クロロキン (CQ; 20 μM)・ブレビスタチン (blebbistatin; 20-40 μM)・リゾホスファチジン酸 (LPA; 20 μM)・2-デオキシ-D-グルコース (2-DG; 10 mM)・NSC-23766 (RAC1 GTPase 阻害剤; 100 nM)・ATN-161 (インテグリン α5β1/αVβ3 拮抗剤; 10 μM) で実施した。腫瘍免疫プロファイルは CyTOF (cytometry by time of flight; 飛行時間型質量細胞計測) で 28 表面マーカー + 13 細胞内マーカーを解析した (X-shift クラスタリング)。統計は Spearman 相関解析を実施した。