- 著者: Yun Chang, Xuechao Cai, et al.
- Corresponding author: Multiple corresponding authors (Penn State / Ohio State / Michigan / Purdue)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-04-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 37080958
背景
GBM (glioblastoma multiforme; 膠芽腫) は最も悪性度の高い原発性脳腫瘍であり、外科切除・放射線・テモゾロミド化学療法を組み合わせた標準治療でも診断後中央生存期間は 15 ヶ月前後に過ぎない。主要な治療障壁として、BBB (blood-brain barrier; 血液脳関門) が大半の抗がん剤の脳内移行を阻むことと、TME (tumor microenvironment; 腫瘍微小環境) の強い免疫抑制状態が挙げられる。CAR (chimeric antigen receptor) -T 細胞療法は血液悪性腫瘍で成果を上げてきたが、GBM では腫瘍抗原の不均一性・T 細胞の BBB 通過困難・TME 内 T 細胞枯渇が有効性を制限しており (Goswami et al. NatCancer 2023)、新たな免疫エフェクター細胞の活用が求められていた。好中球は全末梢血白血球の 50-70% を占める自然免疫細胞であり、炎症シグナルに応答して速やかに腫瘍部位へ遊走し BBB を通過できる固有の能力を有する。腫瘍関連好中球 (TAN; tumor-associated neutrophil) は N1 (抗腫瘍) 型と N2 (腫瘍促進) 型に分類されることが示されており (Fridlender et al. CancerCell 2009)、好中球の走化性と BBB 通過能力を薬物送達に活用する戦略の可能性が示唆されていた。さらに好中球由来 EV (extracellular vesicle) が BBB に影響を与えることも報告されており (Tang et al. BrainRes 2023)、好中球を基盤とした脳腫瘍治療研究の基礎が積み上げられてきた。しかし、CAR を発現させた好中球が TME 応答性ナノ粒子を積載して in vivo で GBM 治療に応用できるかは未解明であり、化学療法と免疫療法を統合した能動的送達系の構築に必要な技術基盤が不足していた。
目的
CLTX-CAR (chlorotoxin-chimeric antigen receptor) を発現する遺伝子改変好中球を、TME の高 GSH (glutathione) 環境に応答して TPZ (tirapazamine) を選択的に放出する R-SiO2-TPZ (right-handed mesoporous silica-tirapazamine) ナノ粒子の生体内能動輸送担体として確立し、GBM に対する化学免疫複合療法の有効性と機序を明らかにすることを目的とした。
結果
CLTX-CAR コンストラクトの最適化と高効率ノックイン:
CLTX (chlorotoxin) に 4 種類の細胞内シグナルドメイン (CD4 TM + CD3ζ / CD8 TM + CD3ζ / CD4 TM + DAP10 (DNAX-activating protein of 10 kDa) / CD8 TM + DAP10) を組み合わせた CAR 1-4 を比較したところ、CLTX + CD4 TM (transmembrane domain) + CD3ζ を持つ CAR #1 が U87MG GBM 細胞に対し最も高い選択的細胞毒性を発揮した (Fig. 1)。CRISPR-Cas9/AAV による AAVS1 へのノックイン効率は >90% (主にヘテロ接合性挿入) に達し、CAR の安定発現が確認された (Fig. 2)。CAR-NE は非改変好中球と同等の生存率・ROS (reactive oxygen species; 活性酸素種) 産生能・走化性を維持しており、CLTX が MMP-2 (matrix metalloproteinase 2; マトリックスメタロプロテアーゼ 2) 依存的に GBM 細胞へ結合することで腫瘍特異性が付与された。CAR-NE の U87MG に対する細胞毒性は正常グリア細胞への毒性を大幅に上回り、in vitro での選択的な殺傷能が示された (Fig. 1)。
GSH 応答性 R-SiO2-TPZ ナノ粒子の物性とドラッグリリース:
逆マイクロエマルション法で合成した R-SiO2 ナノ粒子のポアサイズは 25 nm であり、Si 搭載量は R (右旋性) 型が 19.1 ng Si/μg タンパク質、S (左旋性) 型は 11.3 ng Si/μg タンパク質と低く (Fig. 3)、立体構造 (キラリティー) が細胞内取込み効率に寄与することが示された。腫瘍細胞内 GSH 濃度は ~10 mM と高く、正常細胞内の ~1 mM および細胞外の ~10 μM と比較して 10-1,000 倍の勾配が存在し、この勾配が腫瘍選択的な TPZ 放出の駆動力となる。R-SiO2-TPZ は GSH 10 mM 条件下で S 型と比較して約 2 倍高い TPZ 放出速度を示し、低酸素腫瘍環境と相乗的に細胞毒性ラジカルを産生した (n=3 independent experiments)。細胞外の低 GSH 環境 (~10 μM) では TPZ 放出が抑制されており、全身毒性を最小化するシステムが構築されていた。
CAR-NE へのナノ粒子搭載と能動的細胞毒性機序:
ナノ粒子搭載実験では CAR-NE の >95% が R-SiO2-TPZ を保持し、NP は好中球内の顆粒に局在した (Fig. 4)。U87MG との共培養 24 時間後には腫瘍細胞の 95% に蛍光標識 NP が移行しており、CAR-NE が能動的に腫瘍細胞へ NP を転送する優れた能力を持つことが実証された (Fig. 5)。細胞毒性機序を解析するため、細胞骨格阻害剤 cytochalasin D (5 μM)・抗酸化剤 NAC (N-acetylcysteine; N-アセチルシステイン; 5 mM)・NOX2 (NADPH oxidase 2; NADPHオキシダーゼ 2) 阻害剤 GSK2795039 (100 nM) を使用したところ、それぞれ細胞毒性を 40-50% 阻害した (n=5 independent samples; Fig. 6)。この結果から、CAR-NE による腫瘍細胞殺傷には (a) actin 依存的な細胞運動・NP 転送、(b) ROS 産生、(c) NOX2 活性化 の 3 機序が複合的に関与することが明らかになった。
in vivo における選択的薬物送達と抗腫瘍効果:
NRG マウス U87MG-Luc 脳内異種移植モデルにおいて、CAR-NE 投与群では脳腫瘍部位へのナノ薬物集積が >20% に達したのに対し、フリーナノドラッグ投与群では ~1% に留まり (Fig. 7)、能動的送達による 20 倍以上の効率向上が示された。治療効果の比較では、PB (peripheral blood; 末梢血) 好中球 (非 CAR 修飾) 投与群が腫瘍増殖を促進して最短 day 23 に死亡例が生じたのに対し、CAR-NE + R-SiO2-TPZ 群は最も優れた腫瘍退縮と生存延長を示した (Fig. 8)。生物発光イメージングによる腫瘍体積は CAR-NE + R-SiO2-TPZ 群で最も低値を維持し、5×10^6 CAR-NE/週の反復静脈内投与においても全身血液毒性を示す異常は認められなかった。フリー R-SiO2-TPZ 単独投与群と比較しても CAR-NE 積載群の腫瘍制御は優れており、化学療法と能動的免疫送達の相乗効果が確認された (Fig. 8)。
考察/結論
① 先行研究との違い
従来の GBM 免疫療法は CAR-T 細胞療法を中心に展開されてきたが、本研究は CAR-T 細胞と異なり、固有の BBB 通過能と腫瘍走化性を持つ好中球を CAR エフェクター細胞として採用した点で根本的に異なる戦略を提唱した。CAR-T 細胞は GBM への浸潤効率が低く TME の免疫抑制に感受性が高い (Goswami et al. NatCancer 2023) が、好中球は生来の炎症走化性により能動的に腫瘍微小環境へ到達できる。また既存のナノ粒子送達研究がパッシブな EPR (enhanced permeability and retention; 血管透過性と滞留性の亢進) 効果に依存するのとも異なり、CAR 好中球が NP を能動的に腫瘍へ輸送するアクティブターゲティング機構を in vivo で実証した。PB 好中球が N2 型へ分極して腫瘍促進的に作用するという先行知見 (Fridlender et al. CancerCell 2009) と対照的に、CLTX-CAR 改変により腫瘍選択的細胞毒性を付与した点も重要な知見である。
② 新規性
本研究で初めて、CLTX-CAR 発現好中球と TME-GSH 応答性ナノ粒子を統合した化学免疫複合療法プラットフォームを構築し、in vivo GBM モデルで有効性を実証した。AAVS1 セーフハーバーへの高効率 CAR ノックイン (>90%) と好中球前駆細胞からの大量分化系の組み合わせは、これまでにない CAR 好中球製造基盤として新規な貢献を持つ。さらに、右旋性メソポーラスシリカという立体化学的に特定の NP が好中球への搭載効率を高めるという新規な知見も本研究が初めて示したものである。
③ 臨床応用
CAR-NE は静脈内投与で >20% の脳腫瘍への薬物到達を達成しており、侵襲的な開頭術や定位注入を要しない点で臨床応用への橋渡しが期待される。好中球は GMP (good manufacturing practice; 製造品質管理基準) 施設での大量培養が可能であり、同種ドナーソースを用いた off-the-shelf 製剤化の検討が今後の方向性として重要である。本戦略は GBM 以外の脳転移腫瘍 (肺がん・乳がん由来) においても臨床的意義を持つと考えられる。
④ 残された課題
好中球の生体内寿命が 12-24 時間と短く繰り返し投与が必要となる点は臨床的制約となる。本研究は免疫不全 NRG マウスモデルを用いており、免疫適格モデルにおける CAR-NE と宿主免疫系の相互作用は今後の研究課題として残されている。CLTX の MMP-2 依存的な結合が患者間での腫瘍抗原不均一性に対してどの程度頑健かについても、ヒト GBM の多様な分子サブタイプを対象にした検証が今後の検討事項である。R-SiO2 の長期的な生体内分解動態と安全性プロファイルの評価も、臨床移行前に必要な残された課題である。
方法
健常ドナー末梢血由来 CD34+ 好中球前駆細胞を G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor; 顆粒球コロニー刺激因子) 含有培地で in vitro 分化誘導し、CRISPR-Cas9/AAV (adeno-associated virus) システムにより AAVS1 (adeno-associated virus integration site 1) セーフハーバーへ CLTX-CAR コンストラクトをノックインした (4 種設計を比較)。ナノ粒子は逆マイクロエマルション法で R-SiO2 (right-handed mesoporous silica; ポアサイズ 25 nm) を合成し TPZ を担持した R-SiO2-TPZ として調製した。Si 含量は ICP-MS (inductively coupled plasma mass spectrometry) で定量し、TPZ 放出は HPLC (high-performance liquid chromatography) で解析した (n=3 independent experiments)。細胞毒性は WST-1 (water-soluble tetrazolium salt) アッセイで U87MG・U251 GBM 細胞株を用いて測定した (n=5 independent samples)。走化性は Transwell (8 μm) 法で評価した (n=20 independent experiments)。in vivo 実験では NRG (NOD-Rag1 null IL2rg null; 免疫不全) マウスの線条体に U87MG-Luc を定位移植し、5×10^6 CAR-NE (CAR neutrophil; CAR 好中球)/週を 3 週間静脈内投与した。腫瘍体積は生物発光イメージングで追跡し、薬物送達効率は脳組織蛍光測定と ICP-MS で定量した。