- 著者: Dvir Aran, Agnieszka P. Looney, Leqian Liu, Esther Wu, Valerie Fong, Austin Hsu, Suzanna Chak, Ram P. Naikawadi, Paul J. Wolters, Adam R. Abate, Atul J. Butte, Mallar Bhattacharya
- Corresponding author: Mallar Bhattacharya (Division of Pulmonary, Critical Care, Allergy, and Sleep Medicine, Department of Medicine, University of California, San Francisco)
- 雑誌: Nature Immunology
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-01-14
- Article種別: Original Article
- PMID: 30643263
背景
組織の線維化は、活性化した間葉系細胞による細胞外マトリックスの過剰な沈着に起因し、多臓器において主要な死因となっている。特に特発性肺線維症 (IPF) は、生存期間中央値がわずか3年程度と極めて予後不良な疾患であり、有効な治療選択肢が限られている。肺線維症の病態生理において、線維芽細胞の活性化や増殖、コラーゲン産生が中心的な役割を果たすことは広く認識されているが、これらの間葉系細胞を活性化させる微小環境内のシグナル伝達機構は完全には解明されていない。肺線維症の病変部には単球やマクロファージが大量に集積することが古くから知られており、これらが線維化を促進する役割を担うことが示唆されてきた。しかし、生体内 (in vivo) においてどの特定の転写サブセットが直接的に線維化を駆動しているのか、その詳細な機能的役割は未確立であった。
健康な成人の肺組織には、自己再生能を持つ胚由来の「肺胞マクロファージ」と、気道近傍や肺間質に存在する「間質マクロファージ」という2つの常在性集団が存在する。肺傷害モデルを用いた先行研究では、骨髄由来の単球が肺に動員され、線維化促進的なマクロファージへと分化することが報告されている (Gibbons et al. AmJRespirCritCareMed 2011; Misharin et al. JExpMed 2017)。しかし、これらの動員された細胞群の不均一性や、線維化を直接媒介する分子メカニズムは依然として未解明であり、病理学的なマクロファージサブセットの同定には知識ギャップが残されていた。従来のバルク転写産物シーケンス (bulk RNA-seq) アプローチでは、細胞集団全体の平均値しか得られないため、動的に変化するマクロファージの不均一性を高解像度で解析するには限界があった。また、フローサイトメトリーで用いられる限られた表面マーカーのみに依存した解析では、疾患進行過程における連続的な細胞状態の推移を捉えるには情報が不足しており、病態を駆動する特定の細胞群を定義するには情報が決定的に不足していた。
近年、単細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) 技術の進歩により、個々の細胞レベルでの遺伝子発現プロファイリングが可能となった。しかし、得られた膨大な単一細胞データから細胞タイプを客観的かつ高精度にアノテーションする計算手法が不足していた。従来の手動アノテーションは研究者の主観に依存しやすく、特にマクロファージのように単球由来から肺胞マクロファージへと連続的に状態が移行する中間細胞を正確に識別することは困難であった。したがって、客観的な参照データに基づく新しい解析フレームワークの開発と、それを用いた線維化肺におけるマクロファージ不均一性の解明、さらには同定された細胞群の in vivo における機能的因果関係の証明が強く求められていた。
目的
本研究の目的は、ブレオマイシン誘発肺線維症マウスモデルの単一細胞トランスクリプトーム解析を通じて、肺線維化を直接的に駆動する病理学的なマクロファージサブグループを in vivo で同定・特徴付けることである。この目的を達成するため、まず参照バルク転写データセットを活用して単一細胞の細胞タイプを客観的かつ非監督的にアノテーションする新規アルゴリズム「SingleR (single-cell recognition)」を開発・検証する。開発した SingleR を用いて、肺線維症におけるマクロファージの不均一性を高解像度で再定義し、単球由来から肺胞マクロファージへと分化する移行状態にある新規マクロファージサブセットを抽出する。さらに、この移行型マクロファージが線維化微小環境において果たす機能的役割を、血小板由来成長因子 (PDGF) 経路、特に Pdgf-aa 産生を介した線維芽細胞の増殖・遊走刺激メカニズムに着目して解明する。最終的に、遺伝子改変マウスを用いた細胞特異的除去実験により、この移行型マクロファージが肺線維化の成立に必須であるかを検証し、ヒト特発性肺線維症 (IPF) 患者の肺組織における相同なマクロファージ集団の存在を明らかにすることで、新たな治療標的としての臨床的有用性を提示することを目指す。
結果
SingleR の開発と細胞アノテーション精度の検証: 参照トランスクリプトームデータを利用して単一細胞のアイデンティティを決定する計算ツール SingleR を開発した。検証として、GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor) で培養した骨髄由来樹状細胞 (BMDC) と線維芽細胞の公開 scRNA-seq データセットを解析した。従来の CD11c 表面マーカー選別では混入を避けられなかったマクロファージと樹状細胞 (DC) を、SingleR は高い精度で客観的に識別することに成功した。さらに、ヒト末梢血単核細胞 (PBMC) の scRNA-seq データセット (Zheng et al. NatCommun 2017) に適用した結果、従来のマーカー遺伝子依存的なクラスタリングでは困難であった、ナイーブT細胞とメモリーT細胞、制御性T細胞 (Treg) などの詳細な免疫細胞サブタイプを明瞭に分類できた (Fig. 1c)。50以上の公開 scRNA-seq データセットを用いた検証においても、一貫して高いアノテーション精度が維持されることが確認された。
肺線維症における移行型マクロファージ (クラスター C2) の同定: ブレオマイシン投与後14日目のマウス肺組織から得られた scRNA-seq データを解析し、マクロファージ集団を SingleR スコアに基づいて階層的クラスタリングした結果、3つの明確なサブクラスター (C1, C2, C3) が同定された (Fig. 3a)。クラスター C1 は定常状態および傷害肺の両方に存在し、SiglecF, CD11c, Marco, Fabp4, Car4 などの肺胞マクロファージ (AM) マーカーを高発現していた。クラスター C3 は間質マクロファージ (IM) に対応し、Cx3cr1, Ccr2, Mafb, MHCII (major histocompatibility complex class II) 関連遺伝子を発現し、ブレオマイシン傷害肺において顕著に増加していた。興味深いことに、クラスター C2 は C1 と C3 の中間的な遺伝子発現プロファイルを示す「移行型マクロファージ」であった。詳細な遺伝子発現解析により、C2 細胞の 45% が、C1 特異的遺伝子の少なくとも 33% 以上、かつ C3 特異的遺伝子の少なくとも 33% 以上を同時に発現していることが判明した (Fig. 3c)。これは、C1 (7.3%) や C3 (4.7%) と比較して極めて高い割合であり、C2 が真の中間状態にあることを示している。さらに、ブレオマイシン投与後2週目と4週目の肺胞マクロファージを分取して bulk RNA-seq を行った時系列解析では、2週時点で C2/C3 マーカー (MHCII^hi) を発現していた細胞群が、4週時点では C1 様の定常状態肺胞マクロファージプロファイルへと収束していく動態が示された (Fig. 3d)。この結果は、C2 クラスターが単球由来細胞から肺胞マクロファージへと分化する一過性の「移行状態」であることを強く支持している。
移行型マクロファージの線維化ニッチへの局在とヒト IPF との関連: Cx3cr1-CreERT2/TdTomato レポーターマウスを用いた lineage tracing 実験において、定常状態では全肺細胞のわずか 6% であった TdTomato+ 細胞が、ブレオマイシン投与後7日目で 23%、14日目には 38% まで増加した (Fig. 5a)。この TdTomato+ 細胞における SiglecF の平均蛍光強度 (MFI) は時間経過とともに上昇し、単球由来細胞が肺胞マクロファージの表現型を漸次獲得していく過程が in vivo で実証された。肺組織の免疫蛍光染色により、TdTomato+ SiglecF+ の移行型マクロファージ (C2) が、Pdgfrb+ 線維芽細胞が密集する「線維化ニッチ」に直接接触して局在していることが明らかになった (Fig. 5b)。一方で、TdTomato- SiglecF+ の正規肺胞マクロファージ (C1) は線維化領域から排除されていた。ヒト IPF 患者の肺組織マイクロアレイデータ (n=167 donors) を解析した結果、健常対照群 (n=50 donors) と比較して CX3CR1 mRNA の発現が有意に上昇しており (p<0.0001)、さらに免疫蛍光染色において、C2/C3 マーカーである MAFB (V-maf musculoaponeurotic fibrosarcoma oncogene homolog B) 陽性の CD68+ マクロファージが、コラーゲンが沈着した活動性の線維化領域 (第二高調波発生シグナル陽性領域) に特異的に集積していることが確認された (Fig. 4c, Fig. 5c)。
Pdgf-aa 産生を介した線維芽細胞の増殖・遊走促進: scRNA-seq データの解析から、線維化促進因子である Pdgfa (Pdgf-aa をコードする遺伝子) が、線維化関連マクロファージクラスター C2 および C3 に特異的に発現していることが見出された (Fig. 6a)。bulk RNA-seq においても、SiglecF+ CD11c+ MHCII^hi マクロファージ (C2) は MHCII^lo マクロファージ (C1) と比較して Pdgfa を有意に高発現していた (p<0.01)。免疫蛍光染色により、Pdgf-aa タンパク質は TdTomato+ 移行型マクロファージに特異的に検出され、隣接する Pdgfra+ 線維芽細胞と物理的に接触していた (Fig. 6b)。3T3 マウス線維芽細胞を用いた in vitro アッセイにおいて、C2 マクロファージの条件培地は線維芽細胞のギャップ閉鎖 (遊走) を著しく促進し、この効果は抗 Pdgf-aa 中和抗体の添加によって有意に消失した (p<0.0001) (Fig. 6c)。また、TdTomato+ マクロファージと 3T3 線維芽細胞の共培養系において、抗 Pdgf-aa 中和抗体は線維芽細胞の EdU 取り込み (増殖) を約 1.5-fold 有意に抑制した (p<0.01) (Fig. 6d)。
CX3CR1+ 移行型マクロファージの除去による肺線維化の抑制: 線維化期における移行型マクロファージの機能的因果関係を証明するため、Cx3cr1-CreERT2/Rosa26-LSL-DTA マウスを用い、ブレオマイシン投与後 8-21 日目にタモキシフェンを投与して線維化期に特異的に CX3CR1+ 細胞を除去した。その結果、対照群 (n=7 mice) と比較して、CX3CR1+ 細胞除去群 (n=10 mice) では肺組織における Pdgfra+ および Pdgfrb+ 線維芽細胞の数が劇的に減少した (p<0.001、約 2.5-fold decrease) (Fig. 7a)。さらに、ヒドロキシプロリンアッセイによる肺組織コラーゲン量の定量評価において、CX3CR1+ 細胞除去群は有意なコラーゲン蓄積の低下を示した (p=0.003、約 1.8-fold decrease) (Fig. 7b)。最後に、ヒト IPF 患者3例の肺移植肺組織を用いた検証において、PDGF-AA+ CD68+ マクロファージは、非線維化領域と比較して、高度に線維化した領域に極めて高密度に局在していることが定量的に示された (p<0.001) (Fig. 7c)。
考察/結論
本研究は、新規に開発した参照ベースの単一細胞アノテーションツール SingleR を用いることで、ブレオマイシン誘発肺線維症モデルにおけるマクロファージの高度な不均一性を解き明かし、線維化を直接駆動する病理学的な「移行型マクロファージ (クラスター C2)」を in vivo で同定した。この C2 マクロファージは、単球由来の間質マクロファージ (C3) から常在性の肺胞マクロファージ (C1) へと分化する中間状態にあり、この移行期において特異的に Pdgf-aa を高分泌して線維芽細胞の増殖と遊走を刺激するという、極めてユニークな時間的・空間的制御機構を明らかにした。
先行研究との違い: 従来の肺線維症研究では、単球由来マクロファージ全体が線維化促進的に働くという大まかな概念は示されていたが (Hashimoto et al. JClinInvest 2010; Misharin et al. JExpMed 2017)、どの具体的なサブセットが線維芽細胞活性化因子を供給しているのかは不明であった。本研究は、単球から肺胞マクロファージへの「移行途上」にある特定の CX3CR1+ SiglecF+ MHCII^hi 分画が、線維化ニッチにおいて Pdgf-aa を局所分泌するという具体的なパラクリン作用機序を突き止めた点で、これまでの大雑把な細胞分類に基づく報告と異なり、対照的な精密性を持っている。
新規性: 本研究で初めて、肺傷害後の線維化微小環境において、単球由来から肺胞マクロファージへの移行状態にある CX3CR1+ SiglecF+ 移行型マクロファージを新規に同定した。また、この細胞集団を特異的に除去することで、in vivo において線維芽細胞の蓄積とコラーゲン沈着が劇的に抑制されることを初めて実証した。さらに、開発した SingleR は、従来の主観的な手動アノテーションを排し、確立されたバルク転写データ (ImmGen 等) を参照して単一細胞のアイデンティティを客観的に決定する画期的なツールであり、scRNA-seq 解析分野における新規な技術的貢献となった。
臨床応用: 本研究の知見は、肺線維症に対する新たな治療戦略の臨床応用に直結する。現在、IPF 治療薬として承認されているマルチキナーゼ阻害薬ニンテダニブは PDGF 受容体シグナルを阻害するが、本研究により、その主要なリガンドである Pdgf-aa の供給源がこの移行型マクロファージであることが特定された。したがって、移行型マクロファージそのもの、あるいは CX3CR1/PDGF-AA 軸を標的としたピンポイントな治療介入は、正常な常在性肺胞マクロファージの免疫機能を維持しつつ、線維化のみを抑制する副作用の少ない画期的な translational な治療アプローチとなる可能性を秘めている。
残された課題: 今後の検討課題として、この移行型マクロファージが線維化の「開始」段階において必須なのか、それとも線維化の「維持・進行」段階において持続的に必要なのかという、より詳細な時間的フェーズにおける役割の解明が挙げられる。また、本研究で使用した Cx3cr1-CreERT2 システムは、移行型マクロファージ (C2) だけでなく間質マクロファージ (C3) も同時に除去・標識してしまうため、C2 クラスター単独の機能を完全に分離して評価するには特異性の面で limitation がある。今後は、C2 クラスターにさらに特異的な単一マーカー、あるいは複数マーカーの組み合わせを用いた遺伝学的アプローチにより、この移行動態をより精密に制御・解析する今後の研究方向性が重要となる。
方法
マウス実験モデルとして、成熟雄性 129S1 マウス (10-12週齢) を使用した。肺線維症を誘導するため、ブレオマイシン (3 U kg⁻¹) または対照として水を一回気管内投与した。投与後14日目の線維化期において肺組織を採取し、PBSによる還流後、Liberase TM (0.13 U) および gentleMACS を用いて単一細胞懸濁液へと解離した。DAPI (4,6-diamidino-2-phenylindole) 陰性の生存細胞を FACS (fluorescence-activated cell sorting) により分取し、10X Genomics法またはDrop-seq法を用いて scRNA-seq を実施した。Drop-seq デバイスはソフトリソグラフィー技術を用いて自作し、バーコード付きビーズと単一細胞を液滴内に封入してライブラリを調製した。
scRNA-seq データの客観的アノテーションのため、新規アルゴリズム SingleR を開発した。SingleR は、ImmGen (Immunological Genome Project) などの純化された細胞タイプのバルク転写データセットを参照として使用する。各単一細胞の遺伝子発現プロファイルと参照データの各サンプルとの間で Spearman 相関係数を計算し、参照細胞タイプ間で発現変動の大きい遺伝子 (variable genes) のみを反復的に絞り込むことで、客観的な細胞同定を行う。マクロファージのサブクラスタリングには、SingleR スコアに基づく Ward法による階層的クラスタリングを適用した。
生体内における細胞系譜解析 (lineage tracing) のため、タモキシフェン誘導性 Cre レポーターマウスである Cx3cr1-CreERT2 マウスと Rosa26-loxp-STOP-loxp-TdTomato マウスを交配した。タモキシフェン (2 mg) を隔日腹腔内投与し、CX3CR1 発現細胞を TdTomato で標識した。CX3CR1+ 細胞の機能的寄与を検証するため、Cx3cr1-CreERT2/Rosa26-loxp-STOP-loxp-DTA (diphtheria toxin A:ジフテリア毒素A) マウスを用い、ブレオマイシン投与後 8-21 日目にタモキシフェンを投与して線維化期に特異的に CX3CR1+ 細胞を除去した。線維化の評価は、肺組織中のコラーゲン量を定量するヒドロキシプロリンアッセイ、および Pdgfra+ / Pdgfrb+ 線維芽細胞の免疫蛍光染色により行った。
in vitro 機能解析として、3T3 マウス線維芽細胞を用いたギャップ閉鎖アッセイ (細胞遊走評価) および EdU (5-ethynyl-2’-deoxyuridine) 取り込みアッセイ (細胞増殖評価) を実施した。選別したマクロファージサブセットの条件培地 (conditioned medium) または TdTomato+ マクロファージとの共培養系において、抗 Pdgf-aa 中和抗体 (0.05 µg ml⁻¹) を添加して効果を検証した。ヒト臨床データとの関連性検証のため、167例の IPF 患者および50例の健常対照者の肺組織マイクロアレイデータ (GSE32537) を解析し、ssGSEA (single-sample gene set enrichment analysis) を用いて遺伝子セット発現をスコア化した。統計解析には、DESeq2 による Wald検定、および2群間比較のための両側 Wilcoxon 符号付き順位和検定を用いた。