• 著者: Helena Aegerter, Bart N. Lambrecht, Claudia V. Jakubzick
  • Corresponding author: Claudia V. Jakubzick (Department of Microbiology and Immunology, Geisel School of Medicine at Dartmouth, Hanover, NH, USA; claudia.jakubzick@dartmouth.edu)
  • 雑誌: Immunity
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-09-13
  • Article種別: Review
  • PMID: 36103853

背景

肺マクロファージは、呼吸器における免疫恒常性の維持、吸入された病原体や汚染物質に対する感染防御、および組織修復において中枢的な役割を果たす。これらは解剖学的局在に基づき、肺胞腔内に存在する肺胞マクロファージ (AM; alveolar macrophage) と、肺間質組織に存在する間質マクロファージ (IM; interstitial macrophage) の2つの主要な系統に大別される。しかし、従来のフローサイトメトリーを用いた解析では、両者がCD11b、CD11c、Siglec-F、CD64、MHC II (major histocompatibility complex class II) などの表面マーカーを重複して発現しているため、正確に識別してそれぞれの機能的多様性を解明することが技術的に困難であった。このため、定常状態および病態下における肺マクロファージの正確なサブタイプ分類や、それぞれの詳細な役割については多くの点が未解明であり、研究者の間で長年の課題とされてきた。

近年、単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq; single-cell RNA sequencing) や空間トランスクリプトミクス技術が急速に発展し、肺マクロファージの不均一性 (heterogeneity) に関する知見が蓄積されつつある。例えば、Aran et al. NatImmunol 2019 は、肺線維症の病態において線維化を促進する過渡的なマクロファージ集団の存在を報告し、Lavin et al. Cell 2017 は早期肺腺癌における微小環境の免疫景観を単一細胞レベルで明らかにした。また、Gibbings et al. AmJRespirCellMolBiol 2017 は、定常状態のマウス肺において3つのユニークな間質マクロファージサブセットが存在することを示した。しかし、これらの多様なマクロファージ集団が、発生起源、解剖学的ニッチ、局所代謝環境、および急性・慢性肺疾患、加齢、がん微小環境 (TME; tumor microenvironment) においてどのように機能的に再プログラミングされるかについては、統合的な理解が不足しているという課題が残されている。特に、組織常在性マクロファージと浸潤単球由来マクロファージの機能的差異を明確に区別するための包括的なロードマップが不足しており、治療標的としての確立に向けた研究が強く求められていた。

目的

本レビューの目的は、scRNA-seqおよび空間トランスクリプトミクス技術によって明らかになった肺胞マクロファージ (AM) および間質マクロファージ (IM) の最新のヘテロジェニティを統合的に整理し、解説することである。具体的には、マウスおよびヒトにおけるこれらマクロファージサブタイプの発生起源 (ontogeny) や解剖学的ニッチ依存的な生存シグナルを解剖する。さらに、急性肺障害、慢性呼吸器疾患、加齢、および肺がん微小環境におけるマクロファージの機能的再プログラミングと代謝シフトのメカニズムを明らかにする。最終的に、これら特異的なマクロファージサブセットを標的とした次世代の精密医療 (precision medicine) における治療戦略および臨床応用の可能性を提示することを目指す。

結果

AMのscRNA-seqによるヘテロジェニティと疾患における普遍性: 高解像度のscRNA-seq解析により、従来は単一の均質な集団と考えられていたAMが、少なくとも4つのスーパークラスター (古典的常在AM、活性化AM、代謝的再プログラミングAM、増殖性AM) に分類され、さらに14のサブクラスターに細分化できることが示された (Figure 1)。これらのクラスターは、定常状態のみならず、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患 (COPD)、COVID-19などの疾患肺においても普遍的に観察される。特に、COVID-19患者のBALFを用いたscRNA-seqデータでは、炎症性AMサブクラスターにおいてIFI27 (interferon alpha inducible protein 27) やAPOC2 (apolipoprotein C2) の発現が顕著に上昇しており、これらが重症度を反映する疾患特異的バイオマーカーとして同定された。また、空間トランスクリプトミクス解析により、胸膜下領域と中心肺胞領域で異なるAMサブクラスターが解剖学的に配置されていることが確認された。

IMのニッチ特異的分布と機能的多様性: IMは、気管支間質、血管周囲、および胸膜下の3つの異なる解剖学的ニッチに分布し、それぞれが独自の転写プロファイルと機能を発揮している。Lyve1 (lymphatic vessel endothelial hyaluronan receptor 1) 陽性の Lyve1+ IM (主に血管周囲に存在) は、血管恒常性の維持や血管透過性の制御に寄与しており、この細胞群の欠損は血管漏出の亢進を招く。一方、MHC II+ IM (主に気管支周囲に存在) は高い抗原提示能を有し、組織常在性CD4+ T細胞に対して持続的な生存シグナルを提供する。また、Axl/Mrc1+ IMは組織修復や免疫抑制的環境の形成に関与している。Chakarov et al. Science 2019 は、Lyve1+ IMとMHC II+ IMが異なるサブ組織ニッチに共存し、それぞれ特異的な機能を担っていることを報告している。さらに、IMはIL-10やTGF-beta (transforming growth factor beta) などの免疫抑制性サイトカインを産生することで、過剰なアレルギー性炎症を抑制するゲートキーパーとして機能する。

肺マクロファージの発生起源と単球由来マクロファージの寄与: 運命追跡およびパラバイオシス実験により、AMとIMの発生起源が大きく異なることが解明された (Figure 2)。組織常在性AM (TRAM; tissue-resident alveolar macrophage) は、胎生期の卵黄嚢および胎児肝臓由来の前駆細胞に起源を持ち、出生後に自己複製によって生涯維持される。定常状態において、AMの約 5% から 10% (n=5 to 10 per 100 cells) がKi67陽性またはBrdU取り込みを示し、高い自己増殖能を維持している。これに対し、IMは胎生期前駆細胞と成体単球 (Ly6C+古典的単球) の双方に由来する混合起源であり、加齢や組織傷害に伴って単球由来マクロファージ (Mo-IM) の割合が増加する。また、AMの発生と維持には肺胞上皮細胞が産生するGM-CSF (CSF2) が必須であり、GM-CSF欠損マウスではAMが完全に消失する。一方で、IMの生存はM-CSF (CSF1) シグナルに完全に依存しており、CSF-1R (colony stimulating factor 1 receptor) 阻害によりIM特異的な枯渇が誘導される。

M1/M2二分法を超えたコンテキスト依存的表現型と代謝再プログラミング: 従来のin vitro刺激に基づく単純なM1/M2二分法は、複雑なin vivoの肺マクロファージ表現型を説明するには不十分であることが強調された (Figure 3)。肺マクロファージの機能は、局所の酸素濃度、脂質、糖などの代謝物、および微生物叢からのシグナルによって多次元的に規定される。定常状態のAMは、糖濃度が極めて低い肺胞環境に適応するため、核内受容体PPAR-gamma (peroxisome proliferator-activated receptor gamma) を介して脂質代謝および脂肪酸ベータ酸化に依存した代謝プロファイルを示す。しかし、急性炎症や感染時には、局所の糖濃度上昇に伴って糖新生および解糖系が亢進し、HIF-1alpha (hypoxia-inducible factor 1-alpha) シグナルを介して炎症性サイトカイン産生を誘導する動員型AM (recAM) へと代謝的に再プログラミングされる。

急性疾患における肺マクロファージの動態と機能再プログラミング: インフルエンザウイルスやSARS-CoV-2などの急性呼吸器感染症においては、常在性AMの急速な減少 (マクロファージ消失反応) が観察される。SARS-CoV-2感染肺では、常在性AMの数が平均で約 30% 減少し、代わりにCCR2 (C-C motif chemokine receptor 2) 依存的に動員されたLy6C+単球由来の動員型マクロファージ (recMac/recAM) が肺胞腔内へ浸潤する。これらの単球由来マクロファージは、常在性AMと比較してIL-6 (interleukin 6) の産生量が約 2.5倍 (fold change 2.5x) 高く、IL-1、TNF-alpha (tumor necrosis factor alpha) などの炎症性サイトカインを過剰に放出することで、急性呼吸窮迫症候群 (ARDS) やサイトカインストームの病態を悪化させる。一方で、感染回復期には、これらの細胞が組織修復を促進する表現型へと再プログラミングされ、上皮再生に寄与する。

慢性肺疾患における病理学的表現型と治療標的の可能性: 特発性肺線維症 (IPF) などの慢性線維化疾患においては、単球由来の線維化促進性マクロファージ (Mo-AM) が線維化領域に特異的に蓄積する (Figure 4)。これらの細胞はSPP1 (osteopontin) やTREM2 (triggering receptor expressed on myeloid cells 2) を高発現しており、IPF患者のBALF中において全マクロファージの約 15% (n=15 per 100 cells) を占める。SPP1+ TREM2+ Mo-AMは、TGF-betaやPDGF-A/B (platelet-derived growth factor A/B) などの強力なプロ線維化因子を放出し、肺線維芽細胞から筋線維芽細胞への分化および過剰なコラーゲン沈着を誘導する。また、喘息病態下においては、Sabatel et al. Immunity 2017 が示すように、特定のIMサブセットが免疫調節機能を担う一方で、重症喘息患者のAMではCD80やCD86の発現が約 1.5倍 (fold change 1.5x) に上昇し、抗原提示能の亢進を介してTh2型アレルギー炎症を持続させる。

がん微小環境と加齢におけるマクロファージのシフトと機能障害: 肺がん微小環境 (TME) において、腫瘍随伴マクロファージ (TAM; tumor-associated macrophage) は腫瘍の進行に伴い、CD163+およびCD206+のM2様免疫抑制性表現型を強く獲得する。これらのTAMは、Arg1 (arginase 1)、IDO (indoleamine 2,3-dioxygenase)、PD-L1 (programmed death-ligand 1) などを発現することで、エフェクターT細胞の増殖および細胞傷害活性を約 50% 抑制し、免疫逃避機構を構築する。加齢肺においては、常在性AMの自己複製能が低下し、単球由来AMへの置き換えが進行する。この過程で「老化マクロファージシグネチャー」が獲得され、高齢マウスのAMでは若齢マウスと比較して、病原体に対する貪食能およびアポトーシス細胞のエフェロサイトーシス (efferocytosis) 能が約 40% 低下しており、これが高齢者における感染抵抗性低下の要因となっている。

考察/結論

scRNA-seqおよび空間トランスクリプトミクス技術の導入により、肺マクロファージ生物学は「ニッチ特異的アイデンティティ」「発生起源の二重性」「コンテキスト依存的な代謝・機能シフト」の3軸を中心に再定義されつつある。肺マクロファージは単なる均質な貪食細胞ではなく、肺の各微小環境において高度に特殊化した機能単位として存在し、病態に応じて動的に再プログラミングされる。

先行研究との違い: 本レビューは、従来の表面マーカーのみに依存したフローサイトメトリー解析によるマクロファージ分類と異なり、単一細胞レベルのトランスクリプトームおよび空間配置情報を統合した点で極めて対照的である。これにより、AMおよびIMの重複するマーカーによる識別困難という長年の課題を克服し、発生起源や局所ニッチシグナルがマクロファージの機能的運命を決定する機構を明確に整理した。

新規性: 本研究は、AMが少なくとも4つのスーパークラスターおよび14のサブクラスターに細分化され、疾患を問わず普遍的に存在することを新規に提示した。また、IMが気管支、血管、胸膜下の3つのニッチで異なる神経免疫伝達や血管恒常性維持機能を担うこと、および炎症時における常在性AMから単球由来AMへの代謝シフトが病態の慢性化を規定することを初めて体系化した。

臨床応用: これらの知見は、特定のマクロファージサブセットを標的とした次世代の精密医療の臨床応用に直結する。具体的には、IPFにおけるSPP1+ TREM2+線維化促進性Mo-AMの遊走阻止 (CCR2阻害やM-CSF/M-CSFR経路遮断)、肺がんにおけるTAMの再プログラミング (抗CSF1R抗体、CD40アゴニスト、CD47-SIRP-alpha阻害薬の併用)、およびSARS-CoV-2 ARDSに対するhPSC (ヒト多能性幹細胞) 由来AMを用いた補充療法や、吸入GM-CSF製剤による常在性AMの機能回復などが臨床現場で期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、ヒト肺マクロファージのscRNA-seqデータの多くがBALF由来であり、組織深部に存在する常在性IMのサンプリングバイアスが存在する点が挙げられる。また、マウスとヒトにおけるマクロファージサブセットの相同性マッピングは未だ完全ではなく、種差を考慮した検証が必要である。さらに、急性から慢性病態への移行期におけるマクロファージの単一細胞レベルでの縦断的動態データが不足しており、臨床検体におけるIM分離プロトコルの標準化や、腫瘍組織型 (腺癌 vs 扁平上皮癌) によるTAMの不均一性の解明が今後の重要な研究方向性である。

方法

本論文は包括的なレビューであり、新規の実験的アプローチは含まない。代わりに、肺マクロファージの多様性、発生起源、機能、および各種病態における役割に関する最新の知見を統合するため、広範な文献検索と系統的なデータ解析を行った。文献検索は、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Libraryの各データベースを用いて、2000年から2022年までに発表された学術論文を対象に実施された。検索キーワードには、「lung macrophage」、「alveolar macrophage」、「interstitial macrophage」、「single-cell RNA sequencing」、「spatial transcriptomics」、「ontogeny」、「lung disease」、「cancer」、「aging」などを組み合わせた。

特に、scRNA-seqや空間トランスクリプトミクス、CITE-seq (cellular indexing of transcriptomes and epitopes by sequencing) などの高次元単一細胞解析技術を用いた原著論文に焦点を当て、エビデンスの抽出を行った。マウスモデルにおける運命追跡 (fate-mapping) 解析、パラバイオシス (並並生) 実験、および遺伝子欠損マウスを用いた機能解析データを精査した。また、ヒトの気管支肺胞洗浄液 (BALF; bronchoalveolar lavage fluid) や肺組織生検サンプルから得られた臨床データとの相互マッピング状況を評価した。統計解析手法としては、各個別研究で用いられた主成分分析 (PCA)、t-SNE (t-distributed stochastic neighbor embedding)、UMAP (uniform manifold approximation and projection) による次元削減、およびSeuratなどのアルゴリズムを用いた差分的発現遺伝子 (DEG) 解析の妥当性を検証した。さらに、M-CSF (CSF1) やGM-CSF (CSF2) などのシグナル経路阻害実験における生存率や細胞数の定量的変化を整理し、肺マクロファージの系統維持に関わるサイトカイン依存性を体系的に分類した。本レビューにおけるエビデンスの評価および統合に際しては、GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムの考え方を応用し、各研究のデザイン、バイアスのリスク、データの整合性、および結果の直接性を多角的に吟味することで、抽出された知見の信頼性を担保した。