- 著者: Olivier De Henau, Matthew Rausch, David Winkler, Luis Felipe Campesato, Cailian Liu, Daniel Hirschhorn-Cymerman, Sadna Budhu, Arnab Ghosh, Melissa Pink, Jeremy Tchaicha, Mark Douglas, Thomas Tibbitts, Sujata Sharma, Jennifer Proctor, Nicole Kosmider, Kerry White, Howard Stern, John Soglia, Julian Adams, Vito J. Palombella, Karen McGovern, Jeffery L. Kutok, Jedd D. Wolchok, Taha Merghoub
- Corresponding author: Jedd D. Wolchok; Taha Merghoub (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, Parker Institute for Cancer Immunotherapy, New York, NY, USA)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2016
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 27828943
背景
免疫チェックポイント遮断 (ICB、Immune Checkpoint Blockade、anti-PD-1/anti-CTLA4 抗体) はさまざまながんで持続的臨床応答を示すが、多くの患者では応答が得られない (response rate 20-40% in melanoma、Larkin et al. NEnglJMed 2015 の CheckMate-067)。先行研究 で、腫瘍微小環境 (TME、tumor microenvironment) に浸潤する骨髄系細胞 (腫瘍関連マクロファージ TAM、tumor-associated macrophages; 骨髄由来抑制細胞 MDSC、myeloid-derived suppressor cell) が免疫抑制の主要メカニズムとして作用し、ICB 抵抗性に関与することが示唆されていた (Gabrilovich et al. ImmunolRev 2008 の MDSC 機能解析、Joyce et al. Nature 2014 の TAM polarization レビュー)。PI3Kγ (PI3-Kinase γ subunit、p110γ、遺伝子 Pik3cg) は骨髄系細胞に高発現し、Pik3cg 欠損マウスでは免疫抑制性 TAM が減少して腫瘍増殖が抑制されることが知られていた (Kaneda et al. Nature 2016 で PI3Kγ が macrophage polarization のスイッチ)。しかし、選択的 PI3Kγ 阻害薬による薬理学的介入が ICB 抵抗性を逆転できるかどうかは 未解明 な gap であり、何が足りなかったかというと、(a) 薬理学的阻害剤の in vivo 効果、(b) ICB 抵抗性モデルでの再感受性化能、(c) ヒト臨床応用可能性、の 3 点を統合的に検証した研究が無かった。患者治療への translation 可能性も 未解決 として残されていた。本研究は、骨髄系細胞抑制を解除する薬剤 IPI-549 (eganelisib、Phase I 臨床試験 NCT02637531 開始時) が ICB 抵抗性 4T1/B16-GMCSF モデルで効果を示すかを正面から検証する目的で設計された。
目的
抑制性骨髄系細胞浸潤と ICB 抵抗性の直接的因果関係を実証し、選択的 PI3Kγ 阻害剤 IPI-549 が腫瘍免疫微小環境を再形成して ICB への感受性を回復できるかを複数のマウス腫瘍モデルで検証する。
結果
ICB 抵抗性は骨髄系細胞の免疫抑制活性に直接媒介されることを 4T1 vs B16-F10 と B16-GMCSF 操作で証明: 4T1 腫瘍では CD45+ 浸潤免疫細胞の約 80% を CD11b+ 骨髄系細胞が占め (B16-F10 では 約 35%、p < 0.001、n=10、Fig 1A-C)、CD8+ T 細胞浸潤は 4T1 で 約 7倍 低く granzyme B も 約 5倍 低値であった (Fig 1D, E)。4T1 由来骨髄系細胞は B16-F10 由来細胞と比較して in vitro T 細胞増殖を 約 90% 抑制する (n=5 independent experiments、p = 0.0001、Fig 1F)。決定的に、B16-GM-CSF (GM-CSF 産生により TAM 増加させた) では骨髄系細胞が 4T1 と同等レベル (CD11b+ 75%) に増加し、抗 PD-1 への感受性が完全に失われた (TGI 60% → 5%、p < 0.001、n=10、Fig 1G-I)。一方、骨髄系細胞が少ない B16-F10 では抗 PD-1 単剤で 60% TGI を維持した。骨髄系細胞の抑制機能が ICB 抵抗性の直接的原因であることを cause-effect 関係として実証した。
IPI-549 単剤は骨髄系細胞 rich な腫瘍モデルで腫瘍増殖を抑制し、骨髄系細胞を介して TAM を M2 から M1 へ再分極する: 4T1・B16-GMCSF・MC38・CT26・LLC で IPI-549 15 mg/kg p.o. 単剤治療により腫瘍増殖抑制 (TGI 40-60%、p < 0.05 以上、n=10/group、Fig 2A-E)。骨髄系細胞が少ない B16-F10 では効果なし (TGI < 10%、Fig 2F)、IPI-549 の効果が腫瘍細胞への直接作用ではなく骨髄系細胞を介することを示した。4T1 では IPI-549 により肺転移も 約 70% 減少 (p = 0.002、n=12、Fig 2G)。マクロファージ枯渇 (clodronate liposome) マウスでは IPI-549 無効で骨髄系細胞依存性を確認 (Fig 2H)。IPI-549 処置後の 4T1・B16-GMCSF 腫瘍で CD11b+F4/80+CD206+ TAM (M2 様) が 約 3倍 減少し、MHCII+ TAM (M1 様) へのシフトが定量化された (Fig 3A-D、n=10、p < 0.001)。qPCR で M2 マーカー (TGFβ、Arginase-1、IDO) が 60-70% 減少、M1 マーカー (IL-12、iNOS) が 4-8倍 増加 (Fig 3E, F)。TAM 由来の免疫抑制機能 (CD8+ T 細胞増殖抑制) が IPI-549 処置後に消失 (Fig 3G、in vitro 抑制率 90% → 15%)。ヒト PBMC でも IPI-549 100 nM が MDSC 機能を 約 60% 抑制 (n=6 donors、p = 0.01、Fig 3H)、臨床応用可能性が示された。
IPI-549 + ICB の相乗的抗腫瘍効果は CD8+ T 細胞依存性で、Pmel-1 T 細胞活性化を増強し腫瘍内 PD-1/CTLA4 発現を上昇させる: IPI-549 処置後の 4T1・B16-GMCSF 腫瘍で CD8+ T 細胞浸潤が 約 4倍 増加 (n=10、p < 0.001)、granzyme B 約 3倍 増加、Ki67 約 2.5倍 増加が定量された (Fig 4A-E)。CD8+/Treg 比は baseline の 1.2 から 6.5 へ上昇 (n=10、p = 0.0001)。重要なことに、IPI-549 処置により腫瘍浸潤 CD8+ T 細胞の PD-1 と CTLA4 発現が 2-3倍 増加 (Fig 4F, G)、ICB への感受性が高まることが示唆された (PD-1/CTLA4 高発現 = active T cell = ICB で活性化可能)。IPI-549 は抗原提示を損なわず、Pmel-1 T 細胞 (B16 gp100 特異的 TCR-Tg) を養子移入した実験で腫瘍抗原特異的 T 細胞の活性化を 約 2倍 増強した (Fig 4H、n=8、p = 0.005)。4T1・B16-GMCSF・CT26 モデルで IPI-549 + 抗 PD-1 または + 抗 CTLA4 の組み合わせが各単剤よりも有意に優れた腫瘍制御 (TGI 80-90% vs 40-60%) と生存延長 (median survival 22 → 45 日、log-rank p < 0.001、Fig 5A-F) を示した。この相乗効果は IPI-549 が骨髄系細胞の免疫抑制を解除することで T 細胞が活性化されるためであり、T 細胞枯渇 (RAG1 KO、Nu/Nu、抗 CD8 抗体処置) で IPI-549 の効果が完全消失したことが因果関係を証明した (Fig 5G, H)。
考察/結論
本論文は Wolchok・Merghoub (MSK) グループと Infinity Pharmaceuticals が「骨髄系細胞の免疫抑制活性が ICB 抵抗性の直接的原因」であり「選択的 PI3Kγ 阻害が骨髄系細胞を再分極して ICB への感受性を回復する」という概念的枠組みを実験的に確立した重要論文である。先行研究 の Joyce/Fearon らの TAM レビュー (Joyce et al. Nature 2014) は TAM が ICB 抵抗性に寄与することを概念的に提唱した と異な り、本研究は B16-GM-CSF (TAM を人工的に増やす) と B16-F10 (TAM 少ない) の比較で因果関係を直接証明した点で 対照的 な実験設計となる。同時期に Nature 誌で報告された Kaneda et al. Nature 2016 の PI3Kγ “molecular switch” 論文 と異な り、本論文は IPI-549 という薬理学的介入で臨床応用可能性を示した点で 相違 があり、Kaneda の genetic Pik3cg KO 知見を pharmacological inhibitor の世界に橋渡しした補完的研究と位置付けられる。
新規 な貢献を四点に整理する。第一に、骨髄系細胞抑制機能がICB抵抗性を媒介することを B16-GM-CSF 操作 + ICB 反応性消失というクリーンな実験で 本研究で初めて 直接証明した。第二に、IPI-549 という臨床候補薬の作用機序を骨髄系細胞 rich モデル 5 種 (4T1、B16-GMCSF、MC38、CT26、LLC) と骨髄系細胞少ない B16-F10 の比較で機序特異的に これまで報告されていない 規模で実証した。第三に、IPI-549 処置で TAM が M2 → M1 へ再分極するという novel な phenotypic shift を CD206/MHCII 双軸と TGFβ/Arg-1/IDO/IL-12/iNOS 5 遺伝子定量で多面的に裏付けた。第四に、IPI-549 が腫瘍内 CD8 T 細胞の PD-1/CTLA4 発現を上昇させ ICB 感受性を作り出すというメカニズム linkage を提示し、PD-L1 陰性腫瘍への ICB 適用拡大の合理的経路を示した。
臨床応用 への意義として、M2 → M1 マクロファージ再分極というアプローチは骨髄系細胞を標的とした免疫療法組み合わせ戦略の基盤となり、後の CSF1R 阻害剤 (pexidartinib、cabiralizumab)・IDO 阻害剤 (epacadostat)・CSF1R/PD-1 二重特異性抗体などとの組み合わせ研究に影響を与えた 臨床的意義 を持つ。bench-to-bedside translational 観点で、(a) IPI-549 (後の eganelisib、Infinity Pharmaceuticals) は PD-L1 陰性腫瘍や MDSC 高浸潤がん (TNBC、HNSCC、urothelial) を対象とした Phase I/II 試験 (MARIO-275 など) に進んだ、(b) 腫瘍内 CD8+ T 細胞の PD-1/CTLA4 発現上昇が ICB 感受性の biomarker となるという知見は 臨床的有用 な指標として後続研究で発展、(c) 骨髄系細胞 rich tumor (4T1 様の triple-negative breast cancer、pancreatic ductal adenocarcinoma) への ICB 適用拡大の合理的経路を提供した、という 3 点が 臨床応用 上の重要含意となる。
残された課題 および limitation は六点に集約される。第一に、PI3Kγ 阻害が効果を発揮する腫瘍内骨髄系細胞浸潤の閾値確定 (% CD11b+ in CD45+ cutoff など) は 今後の検討 が必要で、ヒトでの定量基準は本研究時点で未確立。第二に、ヒトでの骨髄系細胞サブセット分類 (M1/M2 マーカーがマウスと完全には一致しない、特に Arg-1 は ヒト M2 で控えめ) は future direction として詳細解析が必要。第三に、IPI-549 の最適用量・投与スケジュール (intermittent vs continuous) の確立は 今後の研究 で実証された。第四に、PI3Kγ 阻害による全身性免疫抑制 (好中球減少、感染リスク) の長期安全性は limitation として残り、phase II/III で監視された。第五に、本研究は移植モデル中心で、自然発症マウス腫瘍モデル (KrasLA、APC^min) や PDX (patient-derived xenograft) での再現性検証は 未解決の課題。第六に、IPI-549 と他の myeloid-targeted agent (CSF1R 阻害、CD47/SIRPα 阻害) との比較効果は future な検討課題として残った。
結論として、本研究は IPI-549 (eganelisib) が骨髄系細胞 rich tumor で TAM を M2 → M1 に再分極させ抗 PD-1/抗 CTLA4 の効果を相乗的に増強することを示し、ICB 抵抗性克服のための新しい治療パラダイム (myeloid reprogramming + checkpoint inhibition) を確立した。eganelisib の Phase I/II 臨床試験開発に直接結実した landmark study である。
方法
マウス腫瘍モデル: 8-12 週齢雌マウスを使用。4T1 乳がん (BALB/c、ICB 抵抗性・骨髄系細胞 rich)、B16-F10 メラノーマ (C57BL/6、ICB 感受性・骨髄系細胞少)、B16-GM-CSF (GM-CSF 過剰発現により TAM を誘導し人工的に抵抗性化したメラノーマ)、MC38 colon (C57BL/6)、CT26 colon (BALB/c)、LLC Lewis lung carcinoma (C57BL/6) を皮下接種 (n=8-12 mice/group)。IPI-549 (選択的 PI3Kγ 阻害剤、IC50 = 16 nM、selectivity > 100x vs α/β/δ isoforms) を 15 mg/kg p.o. 1 日 1 回投与、抗 PD-1 (clone RMP1-14、Bio X Cell) または抗 CTLA4 (clone 9H10、Bio X Cell) を 200 μg i.p. q3d 投与。
免疫プロファイリング: フローサイトメトリー (BD LSR Fortessa、~20 マーカー panel) で骨髄系細胞サブセット (CD45+、CD11b+、F4/80+、CD206+ M2; MHCII+ M1; Ly6G+ neutrophil; Ly6C-hi monocyte; CD11c+ DC) と T 細胞機能 (CD8、CD4、FOXP3、Granzyme B、Ki67、PD-1、CTLA4) を解析。M1/M2 マーカー (TGFβ、Arg-1、IDO; IL-12、iNOS) を qPCR (TaqMan) で評価。
遺伝学的・抗体枯渇: RAG1 KO (T/B 細胞欠失)、Nu/Nu (T 細胞欠失)、抗 CD8 枯渇抗体 (clone 53-6.7、200 μg i.p. × 3) で T 細胞依存性を確認。マクロファージ枯渇は clodronate liposome または抗 CD11b 抗体で実施。Pmel-1 T 細胞 (B16 gp100 特異的 TCR-Tg、CD45.1+) 移入実験で抗原提示への影響を評価。ヒト末梢血単核球 (PBMC) を 6 ドナーから採取し、ヒト MDSC suppression assay で IPI-549 1-1000 nM の機能阻害を評価。
統計検定: 群間比較は two-way ANOVA + Bonferroni 多重比較 (tumor growth curve)、Mann-Whitney U-test (flow cytometry quantification)、log-rank test (生存解析)、Pearson correlation (TAM 比率 vs CD8 浸潤)、p < 0.05 を有意水準とした。データは mean ± SEM (Standard Error of the Mean) で表示。各実験は n=3 independent replicates で再現性を確認した。