- 著者: Elizabeth Allen, Arnaud Jabouille, Lee B. Rivera, Inge Lodewijckx, Rindert Missiaen, Veronica Steri, Kevin Feyen, Jaime Tawney, Douglas Hanahan, Iacovos P. Michael, Gabriele Bergers
- Corresponding author: Gabriele Bergers (gabriele.bergers@kuleuven.vib.be) (VIB-Center for Cancer Biology, KU Leuven, Belgium; Department of Neurological Surgery, UCSF, USA)
- 雑誌: Science Translational Medicine
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-04-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 28404866
背景
腫瘍血管新生と免疫抑制はがんの二大特性であり、VEGF (vascular endothelial growth factor) はT細胞浸潤を阻害し樹状細胞 (DC) 成熟を抑制するとともに、ICAM-1 (intercellular adhesion molecule-1) およびVCAM-1 (vascular cell adhesion molecule-1) 接着分子を血管内皮で減少させてT細胞の腫瘍内浸潤を妨げることが知られている Jain et al. Science 2005。VEGFはまたneuropilin-1依存的に抗原特異的Treg細胞を活性化し、免疫抑制環境を強固にすることが報告されている。VEGF/VEGFR (vascular endothelial growth factor receptor) 阻害薬 (抗血管新生療法) は一部の患者でPFSを改善するものの、多くは再発し全生存期間 (OS) への効果は限定的である Ferrara et al. NatRevDrugDiscov 2016。腫瘍はVEGFR阻害に対して血管再新生や非血管依存性増殖などの多様な耐性機序を発達させることが知られている。一方、PD-1 (programmed cell death protein 1)/PD-L1 (programmed cell death ligand 1) やCTLA-4 (cytotoxic T lymphocyte-associated antigen-4) を標的とする免疫チェックポイント阻害 (ICI) は複数のがん種で有効性が示されているが、T細胞が腫瘍に浸潤していない「コールド腫瘍」では効果が限定的であるという課題が残されている Mellman et al. Nature 2011。
腫瘍血管新生と免疫抑制の相互作用は複雑であり、これらの治療法を組み合わせることで相乗効果が得られる可能性が指摘されている。特に、抗血管新生療法が腫瘍微小環境を変化させ、免疫療法の効果を高める可能性が注目されている。しかし、抗血管新生療法がどのように免疫応答に影響を与え、PD-L1の発現を誘導するのか、その詳細なメカニズムは未解明な点が多い。また、抗血管新生療法と免疫チェックポイント阻害剤の併用療法が、どのような腫瘍タイプで有効性を示すのか、その予測因子も十分に確立されていない。さらに、治療抵抗性腫瘍における免疫療法の効果を増強するための戦略も不足している。
Bergers/Hanahanグループの先行研究では、VEGF/VEGFR阻害の効果は腫瘍微小環境 (TME) 内の骨髄細胞を免疫刺激型 (TH1様) に再分極させる能力に依存し、この効果がPI3K (phosphatidylinositol 3-kinase) 活性化 (骨髄細胞での) によって阻害されることが示されていた。本論文では、抗血管新生療法中に免疫抑制を誘導する未知のメカニズムが存在するという仮説のもと、3つのシンジェニック腫瘍モデルを用いた包括的解析を行った。特に、抗血管新生療法がPD-L1の発現を誘導するメカニズム、およびこの誘導が併用療法にどのように影響するかについて、詳細な分子メカニズムの解明が不足していた。
目的
本研究は、膵神経内分泌腫瘍 (RT2-PNET)、乳がん (MMTV-PyMT)、膠芽腫 (NFpp10-GBM) の3種のマウスモデルを用いて、以下の3つの主要な目的を達成することを目指した。
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抗血管新生療法中のPD-L1誘導メカニズムの解明: 抗血管新生療法中にPD-L1が誘導される機序が、低酸素状態によるものか、あるいはIFN-γ (interferon-γ) 産生T細胞によるものかを詳細に解析する。これにより、抗血管新生療法が引き起こす適応的免疫耐性の分子基盤を明らかにする。
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抗VEGFR2および抗PD-L1併用療法の抗腫瘍効果と免疫活性化メカニズムの検証: 抗VEGFR2抗体と抗PD-L1抗体の併用療法が、各腫瘍モデルにおいてどのような抗腫瘍効果を示すかを評価する。特に、高内皮細静脈 (HEV) 形成を介したリンパ球浸潤と免疫活性化のメカニズムを詳細に検証し、腫瘍型特異的な効果の違いを解明する。
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コールド腫瘍における併用療法への感作戦略の探索: NFpp10-GBMのようなT細胞浸潤が限定的な「コールド腫瘍」において、HEV形成を誘導することで、抗血管新生療法と抗PD-L1療法の併用療法に対する感受性を高める戦略を探索する。具体的には、LTβR (lymphotoxin beta receptor) アゴニストを用いたHEV誘導が、NFpp10-GBMの治療抵抗性を克服できるかを検証する。
これらの目的を達成することで、抗血管新生療法と免疫チェックポイント阻害剤の最適な併用戦略を確立し、治療抵抗性腫瘍に対する新たな免疫療法の可能性を提示することを目指した。
結果
抗血管新生療法によるPD-L1誘導:低酸素ではなくIFN-γが主因: VEGF/VEGFR阻害により、RT2-PNETおよびMMTV-PyMTモデルにおいてPD-L1+細胞が有意に増加した。特に、RT2-PNETの再燃期では腫瘍細胞 (TC) におけるPD-L1+細胞がp=0.0061で有意に増加し、MMTV-PyMTのTCではp<0.0001で著明な増加が認められた (Fig. 1A)。低酸素マーカーであるCA9+細胞のうちPD-L1を共発現する細胞はわずか2〜6%であり、低酸素がPD-L1誘導の主要因ではないことが示唆された (Fig. 2A)。T細胞産生IFN-γの役割を評価したところ、DC101処置によりRT2-PNETとMMTV-PyMTにおいてIFN-γ+CD8+ T細胞が約2倍増加し、GzB+CD8+ T細胞も2〜3倍増加した。NFpp10-GBMにおけるIFN-γ+CD8+ T細胞の増加は約50%に留まった (Fig. 2B, C)。FACSソーティングしたPD-L1+細胞 (TC/EC/IC) のqPCR解析では、Cxcl10、Mx1、Ifit3 (いずれもIFN-γ誘導遺伝子) の発現がRT2-PNETとMMTV-PyMTで有意に増加し、T細胞産生IFN-γが適応的免疫耐性としてPD-L1を誘導することが確認された (Fig. 2D)。
DC101+抗PD-L1併用療法の腫瘍型特異的な有効性: RT2-PNETモデルでは、DC101単独療法は2週間後の奏効後に再燃し、OSの延長は認められなかった。抗PD-L1単独療法は、腫瘍が少ないナイーブ状態では効果が限定的であり、mOS (median overall survival) の改善はなかった。しかし、DC101+抗PD-L1併用療法は腫瘍の再増殖を有意に抑制し、OSを顕著に延長した (単剤群と比較してログランク検定でp有意) (Fig. 3A)。MMTV-PyMTモデルでは、併用療法が単独療法よりも腫瘍増殖を著明に抑制した。DC101単独では約30%の増殖抑制に留まるのに対し、併用療法ではより強い抑制効果を示した。対照的に、NFpp10-GBMモデルでは、全3治療群の中央生存期間が約26〜30日で有意差は認められず、併用療法の無効性が確認された (Fig. 3A)。この結果は、T細胞浸潤の程度がPD-L1遮断への応答を決定するという先行研究の知見と一致する。
免疫活性化プロファイルとPI3Kシグナル: DC101+抗PD-L1併用療法により、PNETおよびPyMTモデルにおいてCD8+T細胞数、GzB+/IFN-γ+活性が増大し、DC数とCd40/Il10/Il12発現が増加した (Fig. 3C, Fig. 4A, B)。PI3K活性化を示すpS6K+CD11b+細胞は、DC101単独で再燃したPNETで増加したが、併用療法により対照群と同程度に抑制されており、PI3K活性化がICI耐性の一因であることが裏付けられた (Fig. 3B)。腫瘍アポトーシス (cleaved caspase 3+細胞) も、応答性腫瘍でのみ有意に増加した (Fig. 3D)。NFpp10-GBMではこれらの免疫指標に有意な変化は認められなかった。例えば、NFpp10-GBMにおけるCD8+T細胞数は、IgG群 (n=15 mice) とB20S+抗PD-L1併用群 (n=14 mice) の間で有意な差は認められなかった。
併用療法によるHEV誘導とT細胞浸潤のメカニズム: DC101+抗PD-L1療法後、RT2-PNETとMMTV-PyMTの腫瘍内にMECA79+高内皮細静脈 (HEV) が形成された (Fig. 5C, D)。RT2-PNETでは未治療時のMECA79+血管は0%であったが、併用療法後に有意に増加した。MMTV-PyMTでは未治療時の約20%から併用療法で約3倍に増加した。しかし、NFpp10-GBMではいずれの治療でもHEVは誘導されなかった (Fig. 5C)。血管密度はPNETの応答期で50%減少したが、再燃期で回復し、併用療法は低密度を維持した (Fig. 5A)。全3腫瘍型でVEGF/VEGFR2阻害はpericyte coverage (NG2+およびdesmin+) を増加させたが、この血管正常化効果はNFpp10-GBMよりもPNETとPyMTで顕著であった (Fig. 5B)。MECA79+血管周囲にT細胞およびDCクラスターの集積が確認され、HEVがリンパ球浸潤の通路として機能することが示された (Fig. 6A)。MECA79+HEVの周囲では、MECA79-血管と比較してT細胞およびB細胞が3〜10倍増加した。
LTβRシグナルとHEV形成:コールド腫瘍NFpp10-GBMの感作: HEVはリンパ節の高内皮細静脈と同様にLTβR (lymphotoxin beta receptor) シグナルによって維持される。NFpp10-GBMに対してLTβRアゴニスト抗体を単独投与するとMECA79+HEVが誘導され、CTL活性の増強と腫瘍内T細胞クラスター形成が認められた (Fig. 7H, I)。さらに、LTβRアゴニスト+DC101+抗PD-L1の3剤組み合わせにより、NFpp10-GBMでも免疫活性化と腫瘍アポトーシス・壊死が増強され、本来は抗血管新生/抗PD-L1療法に抵抗性であるNFpp10-GBMをHEV誘導を通じて感作させることが可能であることが示された (Fig. 7J)。LTβRアゴニストの追加により、PyMT-BCではHEV形成が2倍に、RT2-PNETでは4倍に増加した (Fig. 7B, Fig. S8A)。NFpp10-GBMではLTβR活性化により約15%の腫瘍血管がHEVに変化し、GzB+CD8+細胞が約10倍増加した。
考察/結論
本研究は、抗血管新生療法中に抗腫瘍免疫が活性化されると同時に、そのネガティブフィードバックとしてPD-L1誘導 (適応的免疫耐性) が起きるという「両刃の剣」機序を解明し、PD-L1遮断によりこのブレーキを解放して抗血管新生療法の持続的効果を引き出せることを実証した。IFN-γ産生T細胞がPD-L1誘導の主要原因であるという知見は、腫瘍細胞が免疫攻撃を察知してPD-L1を盾として使うという「適応的免疫耐性」概念 (Herbst et al. Nature 2014) の機序的証拠を強化するものである。これは、これまでの研究で示唆されてきた免疫抑制メカニズムの詳細を分子レベルで明らかにした点で新規性が高い。
より重要な発見は、HEV形成がT細胞浸潤の主要メカニズムであり、T細胞浸潤のある腫瘍型 (PNET・PyMT) でのみ組み合わせ療法が有効であるという知見である。NFpp10-GBMではT細胞浸潤が不十分なためHEVが誘導されず、組み合わせ療法も無効だったという腫瘍型特異性の発見は、「ICI有効性の必要条件はTME内の既存T細胞浸潤であり、それを規定する要因が血管構造 (HEV) である」という重要な原則を示す。この点は、Jain et al. Science 2005が提唱した腫瘍血管正常化の概念をさらに発展させ、免疫細胞浸潤との関連性を明確にした点で、これまでの研究と異なる視点を提供している。
LTβRアゴニストによってNFpp10-GBMのような「コールド腫瘍」にHEVを人工的に誘導して免疫浸潤を可能にするという概念は、T細胞非浸潤型腫瘍への免疫療法拡張戦略として重要な先行研究となった。HEVは三次リンパ組織 (TLS) の中心的構造であることから、本研究はTLS形成を標的とした癌免疫療法の理論的基盤を提供し、後のTLS研究の拡張に大きく貢献した。この観点から本論文は、腫瘍血管正常化と免疫チェックポイント遮断の相乗効果をHEV/TLS軸から理解する現代的枠組みの基礎的研究として位置づけられる。
臨床的示唆として、抗VEGFと抗PD-L1/PD-1の組み合わせ (アテゾリズマブ+ベバシズマブ、ペムブロリズマブ+アキシチニブなど) が複数のがん種で承認されている現在、その効果が腫瘍型のHEV形成能に依存する可能性があり、MECA79+HEVやLTβRシグナル活性化がバイオマーカーとなりうるという予測は今後の検討課題として残されている。特に、Topalian et al. NEnglJMed 2012やTumeh et al. Nature 2014で示されたPD-1/PD-L1阻害の有効性が、HEV形成とどのように関連しているのかを臨床的に検証することは、今後の重要な方向性である。また、DeHenau et al. Nature 2016で示されたPI3Kγ経路の関与も、本研究で示された免疫抑制メカニズムと関連付けてさらに深く探求する必要がある。
残された課題としては、治療終了後の腫瘍内HEVの安定性、およびHEV周囲のリンパ球組成と性質の変化が挙げられる。HEVが単なるリンパ球エントリーゲートである場合、浸潤した免疫細胞が再び免疫抑制性になる可能性も考慮する必要がある。また、免疫刺激性環境がHEV形成とそれに続くTLS形成の鍵となるのか、そのメカニズムをさらに解明する必要がある。
方法
本研究では、3種類のシンジェニック腫瘍マウスモデルを用いた。具体的には、Rip1-Tag2膵神経内分泌腫瘍モデル (RT2-PNET)、MMTV-PyMT乳がんモデル、およびNFpp10-GBM (NF1/PTEN/p53欠損) 膠芽腫モデルである。RT2-PNETモデルでは、13週齢のC57BL/6マウスにDC101 (抗VEGFR2抗体) を4週間投与し、治療応答期 (15週齢) と再燃期 (17週齢) の両フェーズを評価した。MMTV-PyMT乳がんモデルでは、FVB/nマウスの第4乳腺脂肪パッドにPyMT乳がん細胞 (100,000 cells) を移植し、腫瘍が250 mm³に達した時点で治療を開始した。NFpp10-GBMモデルでは、C57BL/6マウスの脳内にNFpp10-GBM細胞 (200,000 cells) を頭蓋内接種後10日目から治療を開始し、DC101の代わりにB20S (抗VEGF抗体) を使用した。
主要な解析手法として、以下の技術を駆使した。
- フローサイトメトリー (FACS): CD45+細胞、腫瘍細胞 (TC)、内皮細胞 (EC) におけるPD-L1発現、IFN-γ+CD8+/CD4+ T細胞比、GzB+ (granzyme B+) CD8+細胞、およびpS6K+ (phosphorylated S6 kinase+) CD11b+細胞の定量を行った。
- 免疫組織化学 (IHC)/免疫蛍光 (IF): PD-L1、CA9 (carbonic anhydrase IX) (低酸素マーカー)、CD31 (血管マーカー)、MECA79 (HEV特異的マーカー)、CD8、CD11cの発現および局在を評価した。
- FACSソーティング後のqPCR: PD-L1+細胞 (TC/EC/IC) からCxcl10、Mx1、Ifit3 (いずれもIFN-γ誘導遺伝子) の発現を定量した。また、DC活性化遺伝子 (Cd40、Il10、Il12) やCD8+ CTL (cytotoxic T lymphocyte) のperforin発現も評価した。
治療プロトコルは、DC101+抗PD-L1またはB20S+抗PD-L1の組み合わせを各群n=6〜34のマウスに投与し、腫瘍負荷および生存期間を主要なエンドポイントとして評価した。LTβRアゴニスト実験では、NFpp10-GBMモデルにおいてLTβRアゴニスト抗体 (2 mg/kg) を単独またはDC101+抗PD-L1との3剤組み合わせで投与し、HEV誘導効果と抗腫瘍効果を評価した。
統計解析は、GraphPad Prismソフトウェアを用いて行った。マウスの生存期間解析にはログランク検定を適用した。腫瘍負荷、免疫染色、および多色フローサイトメトリーのデータには、サンプルサイズが小さい (n < 30) ため、ノンパラメトリックなMann-Whitney検定を用いた。統計的有意性はP < 0.05 (両側検定) と定義した。データは平均値 ± 標準誤差 (SEM) で示した。