- 著者: Chaoxiong Wang, Xichen Zheng, Jinlan Zhang, Xiaoyi Jiang, Jia Wang, Yuwei Li, Yun Zhao, Min Luo 他
- Corresponding author: Hai Gao; Zhigang Lu; Yun Zhao; Min Luo (Fudan University / Chinese Academy of Sciences, Shanghai, China)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-09-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 37674079
背景
腫瘍微小環境 (TME) における免疫抑制は、効果的な免疫療法の主要な障害となっている。病理学的に活性化された好中球、すなわち多形核骨髄由来免疫抑制細胞 (PMN-MDSC) は、TMEの重要な構成要素であり、腫瘍進行および治療抵抗性に決定的な役割を果たすことが知られている Veglia et al. NatRevImmunol 2021。PMN-MDSCは、正常な好中球と共通の表面マーカーを持つため、機能的に区別することが困難であり Bronte et al. NatCommun 2016、その腫瘍浸潤と免疫抑制活性を制御する鍵分子は未解明であった。表面タンパク質は介入可能な治療標的として重要であるが、腫瘍内PMN-MDSCに特異的に発現し、その機能を制御する受容体やシグナル分子は体系的に探索されていなかった。これまでの研究では、アルギナーゼ1 (ARG1)、活性酸素種 (ROS)、プロスタグランジンE2 (PGE2) などがPMN-MDSCの下流エフェクターとして同定されていたが、PMN-MDSCに選択的な上流制御受容体の同定が不足していた。特に、PMN-MDSCの腫瘍へのリクルートとT細胞抑制機能を直接制御する分子メカニズムの理解は、新たな治療戦略開発の課題として残されている Jaillon et al. NatRevCancer 2020。
目的
本研究の目的は、in vivo CRISPR-Cas9スクリーニングを用いて、PMN-MDSCの腫瘍浸潤および免疫抑制機能を制御する新規表面タンパク質を同定することである。さらに、同定された分子CD300ld (CD300 molecule-like family member D) の作用機序を詳細に解析し、その治療標的としての有効性を複数の腫瘍モデルで検証することを目指した。
結果
in vivo CRISPR-Cas9スクリーニングによるCD300ldの同定: 356個の骨髄細胞発現膜タンパク質遺伝子を対象としたin vivoスクリーニングにおいて、Cd300ldがsgRNAの腫瘍内選択的枯渇の最上位ヒットとして同定された (Fig. 1b,c)。これは、CD300ld発現細胞が腫瘍部位に特異的にリクルートされることを示唆する。CD300ldはナイーブマウスでは骨髄系細胞、特に好中球に特異的に発現し、腫瘍担がん状態のPMN-MDSC (CD14+好中球) においてさらに高発現することが確認された (Fig. 1d,e,i)。B16-F10腫瘍細胞上清 (TES) 刺激によってもナイーブ好中球でのCD300ld発現が有意に増加し (Extended Data Fig. 2i,j)、腫瘍由来因子がCD300ld誘導に寄与することが示された。
CD300ld欠損による複数腫瘍モデルの増殖抑制: Cd300ld-KOマウスでは、B16-F10腫瘍重量が16日目に65%減少し、生存期間が有意に延長した (p<0.0001) (Fig. 2a,b)。TC-1、LLC、MC38、EL4の皮下腫瘍モデルでも同様に腫瘍増殖が著明に抑制された (Fig. 2c-f)。AKT-RAS誘発HCC肝内腫瘍モデルでは、肝臓重量/体重比が約50%減少し、生存期間が有意に延長した (p<0.0001) (Fig. 2g)。骨髄移植実験により、免疫細胞側のCD300ld欠損が腫瘍抑制効果を担うことが確認された (Fig. 2h)。また、Cd300ld fl/fl S100a8-creマウス (n=9) でもB16-F10腫瘍増殖が有意に抑制され (p<0.001) (Fig. 2j)、PMN-MDSCがCD300ldの主要作用細胞であることが確認された。
CD300ld-STAT3-S100A8/A9経路によるPMN-MDSC機能制御: RNA-seq解析により、Cd300ld-KO PMN-MDSCでは好中球遊走経路および免疫抑制遺伝子 (ARG1、CXCR2、Arg1、Cxcl2) の発現が有意に低下した (Fig. 4a,f)。特に、S100A8およびS100A9がCD300ld欠損により最も低下する下流因子として同定された (Fig. 4j)。野生型マウスでは腫瘍担がん状態で血清S100A8/A9ヘテロダイマーが約2倍に増加したが、KO群では変化がなかった (Fig. 4k)。STAT3リン酸化がCd300ld-KO PMN-MDSCで有意に低下し (p<0.001)、ChIP解析によりSTAT3のS100a8/a9プロモーターへの結合も消失した (Fig. 4q, Extended Data Fig. 8d)。抗CD300ld抗体 (TX69) 処置によりSTAT3リン酸化およびS100a8/a9発現誘導が確認され、STAT3阻害薬によってこの効果が消失したことから、CD300ld→STAT3→S100A8/A9の順次シグナル経路が確立された (Extended Data Fig. 8e,f)。S100A8/A9タンパク質添加はCd300ld-KO PMN-MDSCの遊走およびT細胞抑制活性を野生型レベルに回復させ (Fig. 4l,o)、S100A9阻害薬tasquinimodはCd300ld-KO群と同等レベルまでPMN-MDSCの腫瘍浸潤を低下させた (Fig. 4m)。
CD300ld-ECD競合ブロックと抗PD-1との相乗効果: CD300ld細胞外ドメイン (ECD) 融合タンパク質 (CD300ld-ECD-hFc) を腫瘍確立後 (day 7) に腹腔内投与すると、B16-F10腫瘍増殖が有意に抑制され (p<0.0001)、PMN-MDSCの腫瘍浸潤低下とCD8+T細胞浸潤増加が確認された (Fig. 5d,e, Extended Data Fig. 9f)。CD300ld-ECD-hFcはCd300ld-KOマウス (n=5) では追加効果を示さず (Fig. 5f)、競合機序が確認された。HCC (AKT-RAS) およびMMTV-PyMT (乳がん) の自然発症腫瘍モデルでもECDブロックが有効であった (Fig. 5g-i, Extended Data Fig. 9i,j)。CD300ld欠損と抗PD-1抗体の併用では、野生型およびKOマウスともに抗PD-1単独よりも有意に腫瘍増殖が抑制され、生存期間が延長した (Fig. 5k,l)。この相乗効果は、CD300ld-ECDと抗PD-1の併用療法でも確認された (Fig. 5m-o)。
ヒトがんでの臨床的意義: ヒトがんデータベース解析により、CD300LD発現が複数のがん種で腫瘍内好中球/PMN-MDSCに上昇しており (Fig. 6e)、CD300LD高発現が患者生存率と逆相関することが確認された (p<0.0001) (Fig. 6f)。CD300ldヒト化マウスモデル (huLDマウス) では、ヒトCD300ldがマウスと同様に腫瘍促進機能を持つことが示され (Fig. 6g-i)、ヒトCD300ld-ECDによる治療が腫瘍増殖を抑制し、生存期間を延長することが示された (Fig. 6j)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、大規模in vivo CRISPR-Cas9スクリーニングという系統的アプローチにより、CD300ldをPMN-MDSC機能の新たな必須制御因子として同定した。これまでのMDSC研究ではARG1、ROS、PGE2などの下流エフェクターへの介入が主に検討されてきたと異なり、本研究はPMN-MDSCに選択的な上流受容体分子を同定することで、より特異性の高い治療標的を提示した。このアプローチは、PMN-MDSCの機能的異質性を考慮し、一般的な好中球との区別を可能にする点で、これまでの研究とは一線を画すものである。
新規性: 本研究で初めて、CD300ldがSTAT3-S100A8/A9という新規なシグナル軸を介してPMN-MDSCの腫瘍浸潤とT細胞免疫抑制の両方を制御することを示した。この経路の同定は、PMN-MDSCの病態生理学におけるこれまで報告されていない重要なメカニズムを明らかにするものである。CD300ld欠損がTMEを免疫抑制から免疫活性化へと再構築する知見は、PMN-MDSCの機能制御ががん免疫療法において極めて重要であることを示唆する。
臨床応用: CD300ldの細胞外ドメインを用いた競合ブロック戦略は、抗体医薬開発に適したアプローチであり、HCC、乳がん、黒色腫など複数の腫瘍種での有効性は、その広い臨床応用可能性を示唆する。抗PD-1抗体との相乗効果は、PMN-MDSCが免疫療法抵抗性の主因の一つであることと整合し、CD300ld標的とチェックポイント阻害の組み合わせが臨床現場で有望な治療戦略となる可能性を示唆する。ヒトがんにおけるCD300LDの発現上昇と予後不良の関連性も、その臨床的意義を裏付ける。
残された課題: 今後の検討課題として、CD300ldの内因性リガンドの同定(どのような腫瘍由来シグナルがCD300ldを活性化するか)、CD300ldとSTAT3との直接的なシグナル接続機序の解明、およびCD300ld-ECD製剤の臨床試験における安全性と有効性の検証が残されている。これらの課題を解決することで、CD300ldを標的としたがん免疫療法の開発がさらに加速すると考えられる。
方法
in vivo CRISPR-Cas9スクリーニングのために、骨髄由来免疫細胞に対するリンパ球比発現比が高い356個の膜貫通タンパク質遺伝子を対象にsgRNAライブラリを構築した。このsgRNAプールをCas9マウス由来の造血幹前駆細胞に導入後、致死照射したC57BL/6マウスに移植し、B16-F10腫瘍を接種した。腫瘍および骨髄からsgRNAのエンリッチメントを深層シーケンシングにより解析した (Fig. 1a)。
Cd300ld-KO (CD300ldノックアウト) マウスおよびコンディショナルKOマウス (Cd300ld fl/fl Lyz2-cre、Cd300ld fl/fl S100a8-cre) を作製し、B16-F10 (メラノーマ)、TC-1 (HPV誘発がん)、LLC (肺がん)、MC38 (結腸がん)、EL4 (リンパ腫) の皮下腫瘍モデル、およびAKT-RAS誘発肝細胞がん (HCC) 肝内腫瘍モデルにおいて腫瘍増殖を評価した。骨髄移植およびin vivo競合移行アッセイを用いて、Cd300ld-KO PMN-MDSCの腫瘍浸潤能を定量的に評価した。
腫瘍微小環境 (TME) の免疫細胞組成を解析するため、シングルセルRNAシーケンシング (scRNA-seq) を実施した。PMN-MDSCのシグナル伝達経路を解明するため、RNAシーケンシング (RNA-seq) およびクロマチン免疫沈降 (ChIP) 解析を行った。統計解析にはStudentのt検定、一元配置分散分析 (one-way ANOVA)、およびログランク検定を用いた。
治療的介入の可能性を評価するため、CD300ldの細胞外ドメイン (ECD) を用いた競合阻害剤 (CD300ld-ECD-hFc) の抗腫瘍効果を評価した。さらに、抗PD-1抗体との併用効果をB16-F10およびMMTV-PyMT乳がんモデルで検証した。ヒトがんにおけるCD300ldの発現と予後との関連性を、がんゲノムアトラス (TCGA) データベースを用いて解析した。