- 著者: Filippo Veglia, Emilio Sanseviero, Dmitry I. Gabrilovich
- Corresponding author: Dmitry I. Gabrilovich (AstraZeneca, Gaithersburg, MD, USA; Wistar Institute, Philadelphia, PA, USA)
- 雑誌: Nature Reviews Immunology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-02-01
- Article種別: Review
- PMID: 33526920
背景
MDSC (myeloid-derived suppressor cells) は強力な免疫抑制活性を持つ病理学的に活性化した好中球・単球の不均一集団であり、1990年代初頭に最初に報告され 2007 年に現在の名称が付与された。PubMed に 5,000 件超の関連研究が登録されており、癌・慢性感染症・敗血症・自己免疫疾患・妊娠・新生児における免疫応答調節への関与が広く実証されている。しかし、PMN-MDSC (polymorphonuclear MDSC) と古典的好中球が同一の表面マーカー (マウス: CD11b+Ly6G (lymphocyte antigen 6G)+Ly6Clo (lymphocyte antigen 6C low)、ヒト: CD11b+CD14 (cluster of differentiation 14)−CD15 (Lewis X antigen)+/CD66b (CEACAM8, carcinoembryonic antigen-related cell adhesion molecule 8)+) を共有するため、両者の同定と機能的区別は長年にわたる技術的課題であった。
scRNA-seq (single-cell RNA sequencing) 技術が 2018 年以降に革命的発展を遂げ、MDSC が転写・代謝プロファイルにおいて古典的骨髄系細胞とは分子的に distinct な実体である可能性が次第に示されてきた。しかし、2021 年時点では、MDSC の genomic・metabolic 特性の包括的統合、新規マーカーの臨床応用検討、治療標的としての実用化に関する体系的 review が不足していた。特に、単一細胞 era における MDSC と隣接概念の分子的区別は手薄であり、field 全体で乱立する nomenclature (PMN-MDSC / granulocytic MDSC / N2 好中球 / LDN (low-density neutrophil)) の混乱が gap in knowledge として未解決のまま残存し (Bronte et al. NatCommun 2016)、「何が足りなかったか」として単一細胞レベルの分子定義と統一命名規則の確立が急務であった。
先行する Fridlender 2009 の N1/N2 TAN 分類 (Fridlender et al. CancerCell 2009) は PMN-MDSC を N2 好中球と同一視する傾向を生み、Condamine 2016 の LOX-1 (lectin-type oxidized LDL receptor-1) 発見 (Condamine et al. SciImmunol 2016) はヒト PMN-MDSC の特異的同定に道を開いたが、MDSC の代謝・転写・治療的特性の統合的 framework は欠如していた。本 review はこれらの gap を埋めるべく設計された。
目的
本 review の目的は 8 点からなる: (1) scRNA-seq を活用した MDSC の定義精緻化と新規マーカー (LOX-1、CD84) の体系的整理、(2) PMN-MDSC vs 古典的好中球・M-MDSC (monocytic MDSC) vs 古典的単球の分子的・機能的 dichotomy の確立、(3) MDSC の master regulator (CEBPβ、Rb1、STAT3、S100A8/A9) および ER stress (endoplasmic reticulum stress) 経路の病理学的意義の整理、(4) 脂質・糖・アミノ酸代謝再プログラムの免疫抑制機能への寄与の解明、(5) 癌種別 MDSC subset 不均一性の記述 (膵癌・乳癌・多発性骨髄腫)、(6) 癌における 3 軸 MDSC 標的化治療戦略の体系化、(7) 自己免疫疾患・妊娠・COVID-19 における MDSC の新興役割の概説、(8) PMN-MDSC / granulocytic MDSC / N2 好中球 / LDN の nomenclature 統一宣言。
結果
MDSC の 2 亜型と新規マーカーの同定:MDSC には PMN-MDSC (granulocyte 系) と M-MDSC (monocyte 系) の 2 主要亜型があり、ヒトのみに確認される early MDSC は全 MDSC の < 5% を占める少数集団である (Table 1)。現行の標準マーカーはマウスで PMN-MDSC・好中球ともに CD11b+Ly6G+Ly6Clo と同一であり機能的抑制活性のみで区別されるが、新規マーカーとして マウス PMN-MDSC: CD11b+Ly6G+CD84+ (SLAMF5, signaling lymphocyte activation molecule family member 5) が同定された。ヒトでは PMN-MDSC は密度勾配 1.077 g/ml で分離 (好中球は 1.1-1.2 g/ml) されるが、より特異的に LOX-1 (lectin-type oxidized LDL receptor-1) が血液・腫瘍内の PMN-MDSC 特異マーカーとして確立され、古典的好中球では発現しない。ヒト PMN-MDSC の新規マーカー: CD15+/CD66b+CD14-LOX1+ または CD15+/CD66b+CD14-CD84+、ヒト M-MDSC の新規マーカー: CD14+/CD66b-CXCR1 (C-X-C motif chemokine receptor 1)+ または CD14+/CD66b-CD84+ が Table 1 にまとめられた (Fig. 1)。PMN-MDSC 主要抑制メカニズムは ROS (reactive oxygen species)・peroxynitrite・ARG1 (arginase 1)・PGE2 (prostaglandin E2) であり、M-MDSC は NO・IL-10・TGFβ・PD-L1 を主力とする点で functional dichotomy が存在する。
scRNA-seq と転写プロファイルによる PMN-MDSC の独立性確定:ヒト研究において、NSCLC (non-small cell lung cancer)・頭頸部癌患者の同一検体から密度勾配で分離した PMN-MDSC と好中球の遺伝子発現プロファイルは「vastly different (大きく異なる)」とされ、PMN-MDSC では ER stress 応答・MAPK 経路・M-CSF・IL-6・IFNγ・NF-κB 関連遺伝子が濃縮された (Fig. 1)。乳癌 scRNA-seq モデル (Alshetaiwi 2020 Sci Immunol) では腫瘍担癌マウスの脾臓・腫瘍から分離した PMN-MDSC と M-MDSC が IL1B / ARG2 / CD84 / WFDC17 遺伝子を共有しつつ、それぞれ好中球・単球とは遺伝子シグネチャーが大きく異なることが確認された。CD84high MDSCs は T 細胞抑制能と ROS 産生が増強した機能的 subset であり、マウスでは一次腫瘍と脾臓の PMN-MDSC で高発現する一方、腫瘍由来 M-MDSC は脾臓 M-MDSC と比較して CD84 発現が顕著に増加した。早期 NSCLC n=4例の scRNA-seq (Song 2019) では MDSC マーカー陽性細胞が monocyte-to-M2 macrophage transition に沿って検出されたが root/branch-level enrichment を示さず、M1/M2 macrophage とは分子的に distinct であることが示された。大腸癌では PMN-MDSC が DNA 損傷応答・化学走性・MAPK・TGFβ・JAK/STAT シグナル経路を upregulate し、PMN-MDSC・M-MDSC 両者でアセチル化関連遺伝子が upregulate されており epigenetic 修飾が複数の腫瘍促進遺伝子制御に関与することが示唆された。
MDSC の代謝再プログラムと免疫抑制機能の連関:MDSC の代謝は古典的好中球・単球と大きく異なり、脂質蓄積増加・FAO (fatty acid oxidation) 亢進・glycolysis 亢進・OXPHOS (oxidative phosphorylation) 低下を特徴とする (Fig. 2)。脂質代謝の側面では、CD36 を介した脂質取り込み亢進が FAO へのスイッチを促進し、この変化が suppressive function に直結する。CD36 欠損または FAO 阻害は MDSC の免疫抑制機能を低下させ、腫瘍増殖を遅延させ、化学療法・免疫療法の有効性を増強した。最も重要な発見の一つとして FATP2 (fatty acid transport protein 2) が PMN-MDSC 特異的代謝マーカーとして同定され、アラキドン酸取り込みと後続の PGE2 合成に不可欠であることが示された (Veglia et al. Nature 2019)。FATP2 inhibitor lipofermata の投与で PMN-MDSC の抑制機能が消失し、anti-CTLA4 との相乗効果で腫瘍体積が約3-fold 縮小し腫瘍増殖が顕著に抑制された (p<0.05, Fig. 4)。糖代謝では phosphoenolpyruvate の抗酸化活性が glycolysis upregulation を通じた ROS 介在性アポトーシスを防ぎ MDSC の生存を促進した。低酸素条件下では HIF1α (hypoxia-inducible factor 1α) が OXPHOS から glycolysis へのスイッチを誘導し、M-MDSC の腫瘍関連マクロファージへの分化を CD45 チロシンホスファターゼ活性・STAT3 活性低下を介して促進した。肝細胞癌組織 M-MDSC では methylglyoxal 蓄積により dormant 代謝表現型が生じ、methylglyoxal の T 細胞への移行が L-arginine の化学的枯渇と glycation による蛋白不活化を介して T 細胞機能を抑制した。アミノ酸代謝では ARG1 による arginine 枯渇・NOS2 (nitric oxide synthase 2) 経由の peroxynitrite 産生・IDO (indoleamine 2,3-dioxygenase) 依存性 tryptophan 代謝が主要抑制メカニズムとして確認されている。
ER stress が MDSC の共通 hallmark として確立:ER stress と UPR (unfolded protein response) が MDSC の共通特性であり、古典的好中球・単球と区別する機能的 hallmark として確立された (Box 1、Fig. 2)。UPR は ATF6 (activating transcription factor 6)・IRE1α (inositol requiring enzyme 1α)・PERK (PKR-like endoplasmic reticulum kinase) の 3 経路で構成される。CHOP (C/EBP-homologous protein) は PERK 経路の critical mediator であり腫瘍浸潤 MDSC の蓄積・抑制機能を正に調節する。IRE1α/XBP1 依存経路が LOX-1 の upregulation と好中球から PMN-MDSC への変換に関与することが示された。重要な発見として、PERK 欠損が腫瘍 MDSC を CD8+ T 細胞依存的抗腫瘍免疫を誘導できる骨髄系細胞に reprogramming することが確認された。このとき NRF2 (nuclear factor erythroid 2-related factor 2) 駆動型抗酸化能が低下してミトコンドリア DNA の細胞質蓄積が生じ、STING (stimulator of interferon genes) 依存的 type I インターフェロン産生が誘導された。臨床応用として ER stress が DR5 (death receptor 5, TRAIL receptor) を MDSC 上に upregulate し、agonistic DR5 抗体 DS-8273a の phase I 試験 (進行固形癌) では MDSC の選択的減少 (循環 PMN-MDSC 比率が最大 50% 低下、p<0.05) と PFS 延長がサブセット解析で確認された。
前転移ニッチ形成と CTC (circulating tumor cell) との相互作用:PMN-MDSC は主に CXCR2 (C-X-C motif chemokine receptor 2, CXCL1/CXCL2 応答) と CXCR4 (C-X-C motif chemokine receptor 4) を介して前転移ニッチに動員され、免疫細胞抑制・基質リモデリング・血管新生促進を通じて CTC の定着を促進する (Fig. 3)。腫瘍早期の骨髄好中球は転写的に PMN-MDSC 様だが抑制活性を持たず、高い自発的遊走能と OXPHOS・glycolysis 亢進 (ATP 産生増加) を示す一方、ER stress 関連経路が濃縮されていた (Patel 2018 Nat Immunol)。この「第一段階の病理学的活性化」が組織移行を促進し、到達後に PMN-MDSC へ変換されると考えられる。Szczerba 2019 では好中球-CTC クラスターが乳癌患者の血中で確認され、クラスター内好中球が PMN-MDSC 様の遺伝子発現プロファイルを示し、好中球含有クラスターが CTC 単独と比較して細胞周期を促進してより速く転移を形成した (Szczerba et al. Nature 2019)。NET (neutrophil extracellular trap) は CCDC25 を介した CTC 動員に加え (Yang et al. Nature 2020)、卵巣癌の大網転移・大腸癌の肝肺転移促進が前臨床モデルで示された。PMN-MDSC は MMP8 (matrix metalloproteinase 8)・MMP9 (matrix metalloproteinase 9) の高産生を介して CTC の血管外遊出と定着を促進する。多発性骨髄腫 TME では成熟好中球サブセット (CD11b+CD13+CD16+) の腫瘍内頻度が診断時の臨床転帰と有意に逆相関し (成熟好中球/T 細胞比高値が PFS 短縮と関連、n=22例、Spearman r=-0.62)、これらの細胞は STAT1/STAT3/STAT6 高発現を示す最強 T 細胞免疫抑制活性を持つ PMN-MDSC 様集団であった。高血清 IL-8 は腫瘍内好中球浸潤増加と ICI 臨床的有益性低下と相関した (Schalper et al. NatMed 2020)。
癌における MDSC 標的化 3 軸治療戦略:MDSCs は組織内寿命が短い (数時間) が continuous recruitment により長期効果を発揮するため、治療戦略として (i) 骨髄内分化 block、(ii) 組織移行阻害、(iii) TME modulation の 3 軸が体系化された (Fig. 4)。これらの戦略は MDSC の蓄積機序・免疫抑制メカニズムに基づいて設計されており、免疫チェックポイント阻害薬 (immune checkpoint inhibitor) との相乗的な組み合わせが複数の前臨床および初期臨床試験で検討されている。
(i) 骨髄分化 block: ATRA (all-trans retinoic acid) が M-MDSC をマクロファージ・DC に分化させ PMN-MDSC を除去する。作用機序として ATRA は ER stress の遮断を介して ROS 産生を抑制し、CEBPβ (CCAAT/enhancer-binding protein beta) 依存的な正常顆粒球系・単球系分化プログラムを回復させる。乳癌前臨床モデルで ATRA + VEGFR2 (vascular endothelial growth factor receptor 2) 阻害剤 + 化学療法の 3 剤併用で腫瘍増殖遅延が有意に示された (p<0.05)。メラノーマ患者では ATRA + anti-CTLA4 で循環 MDSC 数が 4 週後に約 40% 減少し、免疫抑制遺伝子発現の低下と CD8+ T 細胞機能の回復が確認された。
(ii) 組織移行阻害: CXCR2 antagonist (AZD5069、SX-682、navarixin、reparixin) が PMN-MDSC の腫瘍内移行を遮断し、肉腫・頭頸部癌・膵癌・転移性肝癌モデルで抗 PD-1 との相乗効果が示された (腫瘍体積縮小 40-60%, p<0.05 前臨床)。エピジェネティック療法 (メチルトランスフェラーゼ + HDAC (histone deacetylase) 阻害剤の低用量) が CCR2 (C-C motif chemokine receptor 2)・CXCR2 介在性 MDSC の前転移ニッチへの蓄積を抑制し、原発腫瘍切除後の OS を有意に改善した。SX-682 は CXCR1/CXCR2 dual antagonist であり、転移性黒色腫での早期臨床試験で腫瘍内 PMN-MDSC 比率の低下 (約 50%) が確認された。
(iii) TME modulation: FATP2 inhibitor lipofermata が PMN-MDSC の PGE2 産生を遮断して腫瘍増殖を顕著に抑制し anti-CTLA4 との相乗効果を示した。LXR (liver X receptor) agonist RGX-104 が APOE (apolipoprotein E) シグナルを介して MDSC にアポトーシスを誘導し、phase I 試験の初期結果では PMN-MDSC・M-MDSC の循環数減少と T 細胞活性化が確認された。PERK 阻害が腫瘍関連 M-MDSC を抗腫瘍骨髄系細胞に reprogramming し前臨床でチェックポイント阻害薬との相乗効果を発揮した。CD33 標的 (gemtuzumab ozogamicin, phase II) と CD33/CD16 tri-specific killer engager GTB-3550 (NCT03214666 phase II) も MDSC 除去戦略として評価中である。
自己免疫疾患での保護的役割と逆説的側面:MDSC は MS (多発性硬化症)・関節リウマチ・SLE・炎症性腸疾患・自己免疫性肝炎等で蓄積し、病期・疾患部位・亜型によって重症度と正相関・負相関の両方が報告される逆説的側面を持つ。MS では再燃期に PMN-MDSC・M-MDSC が増加し、二次進行型 MS では減少した。EAE (experimental autoimmune encephalomyelitis) モデルでは PMN-MDSC が発症時に中枢神経系に蓄積して病原性 B 細胞蓄積を抑制し、cannabidiol と IFNβ が MDSC 蓄積・抑制活性を促進して EAE 重症度を軽減した。喘息モデルでは PMN-MDSC が COX1 (cyclooxygenase-1) 依存経路を介して ILC2 (group 2 innate lymphoid cells) の炎症性サイトカイン産生を抑制し、抗体による PMN-MDSC 除去が ILC2 駆動性炎症を増悪させた。コラーゲン誘発性関節炎モデルでは total MDSC・M-MDSC・PMN-MDSC の 3 種の移入が全て炎症性関節炎を顕著に改善した。
COVID-19・妊娠・新生児での新興役割:重症 COVID-19 では HLA-DRlo (HLA-DR-low, human leukocyte antigen-DR isotype low expression) 単球 (M-MDSC 特性) と免疫抑制プロファイルの未熟好中球 (PMN-MDSC 様) が血液・肺に蓄積し、S100A8/A9 の血漿高値が重症 COVID-19 と有意に相関し (n=76例, p<0.001, Silvin 2020 Cell)。軽症では炎症性 HLA-DRhi 単球が増加するのに対し、重症では MDSC 様集団が優位となり、単球での arginase 1 発現が免疫制御特性と相関した。重症 COVID-19 患者における単球・好中球の免疫抑制喪失が致死的転帰と関連するという逆説的知見も示された。妊娠では MDSC が T 細胞応答抑制を介して母胎免疫寛容に必須の役割を担い、MDSC 枯渇が自然流産マウスで decidual NK 細胞の細胞傷害性増加と関連した。新生児では腸内細菌定着に伴う炎症から保護する役割が示され、MDSC 欠乏が超低出生体重早産児の壊死性腸炎 (necrotizing enterocolitis) と関連した。これらは MDSC の生理的・保護的機能を示す重要な知見であり、MDSC が cancer context 以外でも幅広い生物学的役割を担うことを示す。
考察/結論
本 review は MDSC 概念の創始者 Gabrilovich (2021 年 AstraZeneca 移籍後の最初の major review) による scRNA-seq era における MDSC の field-defining synthesis であり、先行研究では PMN-MDSC と古典的好中球の区別が表面マーカー依存的手法のみに留まり機能的抑制活性の測定が必須であったが、本 review はそれら先行研究とは根本的に異なる分子的・代謝的定義の枠組みを提供した。複数の scRNA-seq データセットに基づいて PMN-MDSC が古典的好中球とは転写・代謝・機能的に明確に異なる独立した実体であることを確定し、LOX-1 (ORL1)・CD84 という 2 種の新規マーカーを体系的に整理した。先行研究が MDSC の概念的枠組みや nomenclature の整理にとどまっていた局面と異なり、本 review は ER stress・脂質代謝・epigenetic 修飾という分子機構レベルの統合と 3 軸治療戦略の体系化までを一貫して提示した点が新規な点として挙げられる。また、FATP2 が PMN-MDSC の特異的代謝マーカーであり治療標的となること、ER stress が MDSC 全体に共通する hallmark であることを novel な知見として整理した。
臨床応用の観点では、LOX-1+ PMN-MDSC の血中 biomarker としての前向き標準化、CD84+ MDSC の乳癌 ICI 応答予測因子としての開発、S100A8/A9 の血中予後 biomarker 活用、ATRA + pembrolizumab の肺癌・メラノーマ phase I/II、CXCR2 antagonist (AZD5069、SX-682) + ICI 併用、FATP2 阻害剤 lipofermata の bench-to-bedside への橋渡し、LXR agonist RGX-104 の phase I/II (Inspirna 社)、PERK 阻害剤 + ICI の前臨床データが clinical translation の重要性を強調する。DS-8273a (anti-DR5) の phase I 試験では進行癌でのサブセット的 MDSC 減少と PFS 延長という実証データが得られており、臨床的意義の高い標的検証結果として評価される。多発性骨髄腫での成熟好中球 CD11b+CD13+CD16+ は BCMA 標的療法 context での biomarker として有望である。
残された課題として、(i) MDSC / granulocytic MDSC / PMN-MDSC / N2 好中球 / LDN の nomenclature 統一は今後の検討における最優先事項であり、異なる研究グループが同一細胞集団を異なる名称で記述し続けることが field の進歩を妨げている、(ii) MDSC の組織内寿命が極めて短い (数時間) という特性と、連続的 recruitment による長期的免疫抑制効果との時間的解離の解明が必要、(iii) PMN-MDSC が機能的に均一な単一集団か細分化可能な subset の集合かを scRNA-seq で解明することが今後の研究課題として残る、(iv) ヒト LOX-1+ 細胞の pro-tumor 機能の直接的検証 (マウス LOX-1 は種特異的 biology が異なるため転外不能)、(v) ICI 治療中の LOX-1 発現動態モニタリング、(vi) ER stress 経路の薬理学的 tractability が臨床開発初期段階にあること、が future research として指摘された。また scRNA-seq の結果がプロトコール・タイミングに依存するため慎重な評価が必要である点も limitation として認識されている。
Gabrilovich 1996 (MDSC 概念)、Gabrilovich 2012 Nat Rev Immunol (初期 review)、Bronte 2016 Nat Commun (nomenclature consensus)、Condamine 2016 Sci Immunol (LOX-1 発見) という MDSC 系譜の 2021 年時点 flagship review として、2021 年以降の MDSC 臨床開発 (CXCR2 antagonist、ATRA、FATP2 阻害剤、LXR agonist、STAT3 阻害剤) の conceptual framework reference として頻繁に引用される基盤論文である。
方法
本 review は PubMed 登録の 5,000 件超の MDSC 関連論文を対象とした系統的文献統合として設計された。統合対象として (i) 2018 年以降の scRNA-seq pan-cancer atlas および単一細胞解析研究、(ii) Gabrilovich group 自身の LOX-1・FATP2・ER stress に関する原著論文 (Condamine 2016 Sci Immunol、Veglia 2019 Nature 等)、(iii) PMN-MDSC vs 好中球の transcriptomics 比較研究 (microarray および bulk RNA-seq、scRNA-seq)、(iv) 癌・自己免疫疾患・COVID-19 における MDSC の役割を示す臨床・前臨床研究、(v) MDSC 標的化の臨床試験データ (DS-8273a phase I、RGX-104 phase I、GTB-3550 NCT03214666 phase II) を包含した。転写プロファイル比較には microarray 解析・RNA-seq・trajectory analysis・gene ontology enrichment analysis・GSEA (gene set enrichment analysis) が用いられ、代謝研究には seahorse 解析・flux 解析・リピドミクスが活用された。統計解析では Cox 比例ハザードモデル、log-rank 検定が臨床転帰評価に、Spearman 相関・Mann-Whitney 検定が分子マーカー比較に使用された。