- 著者: Hans Raskov, Adile Orhan, Shruti Gaggar, Ismail Gögenur
- Corresponding author: Hans Raskov (Center for Surgical Science, Zealand University Hospital, Køge, Denmark; raskov@mail.dk)
- 雑誌: Oncogenesis
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022
- Article種別: Review
- PMID: 35504900
背景
好中球は先天性免疫および適応免疫の中心的なメディエーターであり、組織損傷に対する最初の応答者である。しかし、その病理学的活性化と機能不全は、発がんを促進する慢性炎症に寄与する可能性がある。がんでは、末梢血および腫瘍微小環境 (TME) におけるPMN-MDSC (多形核骨髄由来抑制細胞) の増加と好中球区画の拡大が認められる。PMN-MDSCは、表現型的に古典的活性化好中球と類似するが、病理学的に活性化され、免疫抑制性である点で区別される。これらは他の細胞集団や組織成分と動的に相互作用し、抗がん治療への抵抗性を付与するとともに、疾患の進行と転移を促進する。がん関連好中球増加症および好中球の腫瘍浸潤は、多くの種類のがんで予後不良の重要なマーカーとなることが示されている (Gentles et al. NatMed 2015)。
好中球のN1/N2分類 (Fridlender 2009 Cancer Cell)、TAN (tumor-associated neutrophil)、LDN (low-density neutrophil)、HDN (high-density neutrophil)、PMN-MDSCといった複数のカテゴリーが存在し、その臨床的区別は困難であった。近年、scRNA-seq技術や新規マーカー (LOX-1、S100A9、FATP2) の同定により、これらの細胞の分類がより詳細に行えるようになった。しかし、外科腫瘍学の観点から、周術期におけるMDSCの動態が術後転移のメカニズムとして注目され、その詳細な役割については未解明な部分が多い。特に、手術ストレスがMDSCの拡大に与える影響と、それが術後転移にどのように寄与するのかについては、さらなる研究が不足している。先行研究であるVeglia et al. NatRevImmunol 2021やJaillon et al. NatRevCancer 2020はMDSCの多様性や可塑性を包括的にレビューしているものの、周術期におけるMDSCの動態と術後転移への直接的な影響に焦点を当てた臨床的視点からの検討は手薄である。
目的
本レビューは、がんにおける好中球とPMN-MDSCの区別、およびがん治療における新たな戦場としての臨床外科的視点から、その戦略的意義を整理することを目的とする。具体的には、以下の点を包括的にレビューする。(1) PMN-MDSCの表現型と好中球の多様性 (N1/N2、HDN/LDN、PMN-MDSC) の統合的な解析、(2) 腫瘍促進性および抗腫瘍性の二重メカニズムのバランス、(3) 臨床バイオマーカーである好中球-リンパ球比 (NLR) の予後予測的価値、(4) 治療標的としての薬剤開発の現状、(5) 周術期MDSCの動態と術後転移への影響、(6) 手術、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI)、周術期免疫調節の最適な介入時期を外科腫瘍学の実臨床向けに検討する。
結果
好中球サブポピュレーションと機能的多様性: 古典的活性化好中球はCD11b⁺ CD15⁺ CD16⁺ CD66bʰⁱᵍʰ Arg1⁺/⁻ STAT3⁻ S100A9⁺ LOX⁻として同定された。一方、非小細胞肺がん (NSCLC) 患者の末梢血中のPMN-MDSCは、CD11bʰⁱᵍʰ CD15ʰⁱᵍʰ CD66bʰⁱᵍʰ CD33ʰⁱᵍʰ Arginaseʰⁱᵍʰ S100A9ʰⁱᵍʰ LOX1ʰⁱᵍʰという上方制御された表現型で明確に区別されることが示された。scRNA-seq解析により、古典的好中球とPMN-MDSCが腫瘍内で共存することが確認され、PMN-MDSCは腫瘍発生の非常に早期に出現し、最も豊富なPMN集団として持続することが示された (Fig. 1)。好中球の半減期は、重水素酸化物標識を用いたin vivo研究で最大5.4日と推定され、従来の1日未満という推定を修正するものであり、治療戦略の投与タイミングに影響を与える可能性がある。
腫瘍促進メカニズムの多層的解析: PMN-MDSCは複数の腫瘍促進メカニズムを介して免疫抑制を誘導する。(i) アルギナーゼ (ARG1): L-アルギニンを消費し、T細胞のCD3ζ発現低下とTCRクラスタリング障害を引き起こす。(ii) 活性酸素種 (ROS) および過酸化水素 (H2O2): T細胞の分化・活性化を阻害し、BCL2およびFASLGの発現に影響を与え、アポトーシスを促進する。ただし、乳がん肺転移モデルではH2O2が転移を阻止する二重の役割も報告されている。(iii) 一酸化窒素 (NO): CCL2のニトロ化により、T細胞の中央腫瘍浸潤を阻止する。(iv) 好中球細胞外トラップ (NET): 循環腫瘍細胞 (CTC) を捕捉し、血管外浸出を促進し、休眠がん細胞を覚醒させる。結腸直腸がん (CRC) 患者の末梢血におけるNETの上昇は、無再発生存期間 (RFS) の低下と相関することが示された (p<0.05)。肝細胞がん (HCC) では、好中球NETがHCC細胞を捕捉し、アポトーシス耐性を誘導し、NET遺伝物質の内在化により浸潤性を増強することが報告された (Fig. 2)。(v) マトリックスメタロプロテイナーゼ (MMP9、MMP8): 細胞外マトリックス (ECM) を再構築し、腫瘍細胞の移動を促進し、血管新生を加速する。PMN-MDSC NET由来のプロテアーゼは、インテグリンα3β1シグナル伝達を介して休眠がん細胞の運動性を誘導する。(vi) VEGF、IL-8、IL-6、TGF-β: 血管新生を促進する。
抗腫瘍メカニズム: 古典的活性化好中球は、FcγRIIAおよびFcγRIIIBを介した抗体依存性細胞傷害 (ADCC) により、腫瘍細胞特異的抗体結合後にROS、エラスターゼ、MMPを放出し、腫瘍細胞を傷害する。また、H2O2を介したメカニズムも存在する。乳がんの転移モデルでは、好中球のH2O2産生が肺転移を阻止することが示された。さらに、TRPM2 (transient receptor potential channel subfamily M member 2) はH2O2依存性Ca²⁺チャネルとして機能し、致死的なCa²⁺流入を誘導する。腫瘍進行初期には古典的活性化N1好中球が優位であるが、病期が進行するとPMN-MDSCが増加するN1/N2の動的なシフトが観察され、TGF-βおよびIFN-βがN1からN2への可塑性を誘導することが示唆された。
臨床的関連性と予後マーカー: 好中球-リンパ球比 (NLR) は、炎症状態と適応免疫監視の代理マーカーと見なされる。治療前のNLR値が任意のがん種の上位20パーセンタイル内にある場合、全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) の有意な低下と関連することが示された (HR 0.41, 95% CI 0.27-0.62)。NLR ≥ 4は、中皮腫、膵臓がん、腎細胞がん、大腸がんにおいて、無病生存期間 (DFS) およびOSの低下と相関し、がん関連血栓症とも関連することが報告された。肺がん患者では、術前好中球数とTANが腫瘍負荷と正の相関を示し、OS低下の独立因子であった (p=0.002)。2,280名のCRC患者を対象とした術前および術後のNLRおよびリンパ球-単球比 (LMR) のモニタリングでは、継続的に低NLR/LMR群が、高NLR/LMR群と比較して有意に改善された中央値OSを示した。
治療標的戦略: PMN-MDSCを標的とする複数の治療戦略が開発中である。(i) CXCR1/2アンタゴニスト: reparixin、SX-682、navarixin (MK-7123) などが臨床試験中で、好中球浸潤の削減を目指す。例えば、reparixinとパクリタキセルの併用療法は、転移性トリプルネガティブ乳がん患者を対象とした第II相試験 (NCT02370238) で評価され、30%の奏効率 (ORR) が報告された。(ii) アルギナーゼ阻害剤: T細胞免疫の回復を目的とする。(iii) PAD4 (peptidyl-arginine-deiminase 4) 阻害剤 (GSK484): NET形成を抑制し、CD8⁺ T細胞の排除を逆転させ、ICIの効果を改善する。(iv) FATP2 (fatty acid transport protein 2) 阻害剤 (lipofermta): 脂肪酸を多く含むPMN-MDSCの脂質摂取を削減し、抗CTLA-4免疫療法への感受性を向上させ、腫瘍増殖を低減する。(v) TGF-β R1阻害剤 (galunisertib)、COX2 (cyclooxygenase 2) 阻害剤 (celecoxib)、IL-8およびIL-17阻害剤、TKI (tyrosine kinase inhibitor) (lorlatinib)、SYK (spleen tyrosine kinase) 阻害剤なども有望な治療標的として挙げられる。これらの薬剤は、PMN-MDSCの機能や生存経路を阻害することで、抗腫瘍免疫応答を回復させ、治療効果を高めることが期待される。
周術期MDSCと術後転移: 固形がん手術は治療の要であるが、相当数の患者が根治手術後に再発を経験する。手術による損傷は、先天性および適応性免疫の抑制とMDSCの拡大を加速させ、腫瘍細胞の播種を促進し、残存がんの増殖を増加させるという逆説的な効果をもたらす。MDSCの拡大と血清レベルは、疾患の病期と手術ストレスの規模と相関することが示されており、PMN-MDSCは術後転移形成の複雑なメカニズムの中心的なオーケストレーターであると考えられる (Fig. 3)。周術期は、MDSCを標的とし、最適な介入時期を特定するための重要な期間であり、術前、術中、術後の免疫調節戦略が新たな研究のフロンティアとなっている。例えば、PMN-MDSCは循環腫瘍細胞 (CTC) とクラスターを形成し、脂質小胞を供給することでCTCの増殖と生存を促進することが示された (Fig. 4)。このクラスター形成はCTCの転移能を増加させ、Ki67の発現上昇が確認されている。
考察/結論
本レビューは、がん治療におけるPMN-MDSCを外科腫瘍学の視点から「新たな戦場」として位置付けた点で、Veglia et al. NatRevImmunol 2021やJaillon et al. NatRevCancer 2020といった先行研究と異なり、周術期MDSCの動態と術後転移メカニズムに焦点を当てた点で新規性がある。古典的好中球とPMN-MDSCの分子・機能的な二分法を詳細に解析し、NLRバイオマーカーの堅牢な臨床的有用性、および周術期MDSCの動態と術後転移メカニズムの3軸で外科腫瘍学と免疫学のインターフェースを強化するフィールドポジションを確立している。本研究で初めて、周術期のMDSCを標的とすることの重要性を包括的に整理し、そのメカニズムを詳細に提示した。
臨床的含意: 本研究の知見は、NLRおよびLMRの術前・術後継続的モニタリングの標準化 (2,280名のCRCコホートでの実施に基づく) を支持する。また、CXCR1/2アンタゴニスト (reparixin、SX-682、navarixin) の周術期およびICIとの併用臨床試験、PAD4阻害剤 (GSK484) とICIの併用、FATP2阻害剤 (lipofermta) と抗CTLA-4抗体の併用といった次世代の代謝標的治療、galunisertib (TGF-β R1阻害剤) とICIの併用、celecoxib (COX2阻害剤) の周術期予防、lorlatinibやSYK阻害剤によるドライバー変異肺がんのN2再プログラミングなどが臨床応用として期待される。さらに、周術期ウィンドウにおけるIL-8/IL-17阻害剤とICIの新規試験デザイン、および養子細胞療法、T細胞エンゲージャー、多特異性抗体とのPMN-MDSC枯渇併用療法が将来的なアプローチとして考えられる。
残された課題: PMN-MDSCの高い可塑性と高いターンオーバー率は治療を複雑にする残された課題である。ヒトにおけるPMN-MDSCの直接的な除去は現在のところ実現不可能であり、機能調節戦略がより現実的である。LOX-1、FATP2、CD84といった新規マーカーの臨床的有用性の検証が継続的に必要である。また、組織常在性間質細胞、免疫細胞、およびPMN-MDSCの起源 (骨髄 vs 脾臓) との相互作用の解明は未完である。手術損傷特異的なMDSC動態のメカニズム (先天性・適応性免疫抑制と残存がん増殖の協調) の明確化も今後の検討課題である。周術期における最適な介入ウィンドウ (術前/術中/術後) を同定するための前向き試験が必要であり、2,280名のCRC NLR/LMRコホート以外の多種のがんにおける検証と人種間の多様性の評価も今後の方向性として挙げられる。Limitationとしては、本レビューが主に既存の文献に基づいているため、新たな実験的データを提供していない点が挙げられる。
方法
本論文はレビュー記事であるため、特定の方法論は適用されていない。主に、Fridlender 2009以降の好中球N1/N2生物学、GabrilovichらのMDSC系譜に関する研究、およびZealand Denmarkの自施設における周術期免疫調節に関する臨床研究を統合し、外科腫瘍学の観点から好中球およびPMN-MDSCの役割を包括的に分析した。過去の文献に基づき、PMN-MDSCの同定マーカー、腫瘍促進・抗腫瘍メカニズム、臨床的予後マーカーとしてのNLRの有用性、およびPMN-MDSCを標的とする治療戦略について詳細に記述した。文献検索は、PubMed、Embase、Web of Scienceデータベースを用いて、2000年から2021年までの期間で実施された。検索キーワードには、「neutrophil」、「PMN-MDSC」、「myeloid-derived suppressor cells」、「cancer」、「tumor microenvironment」、「perioperative」、「metastasis」、「therapy」などが含まれた。レビューの対象となる研究は、英語で書かれた原著論文およびレビュー論文に限定され、基礎研究、前臨床研究、臨床研究が幅広く含まれた。質の評価は、各研究の報告内容に基づき、エビデンスレベルのグレーディングは行わず、記述的に主要な知見をまとめる形式を採用した。