- 著者: Yong Zou, Xi Chen, Jian Xiao, Dong Bo Zhou, Xiao Xiao Lu, Wei Li, Bin Xie, Xiao Kuang, Qiong Chen
- Corresponding author: Qiong Chen (Department of Geriatrics, Respiratory Medicine, Xiangya Hospital of Central South University, Changsha, China; qiongch@163.com)
- 雑誌: Oncotarget
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-01-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 29568356
背景
NET (neutrophil extracellular traps) は好中球が放出する DNA 繊維と抗菌タンパク [MPO (myeloperoxidase), NE (neutrophil elastase), ヒストン] からなる細胞外網状構造体であり、Brinkmann et al. Science 2004 が細菌捕捉・殺菌機構として最初に記述した。NETosis は PAD4 (peptidyl arginine deiminase 4) によるヒストン H3 シトルリン化 (cit-H3) とクロマチン脱凝縮を経て進行し、アポトーシスや壊死とは異なる固有の細胞死様式として確立されている。過剰 NET 形成は組織障害や自己免疫疾患 (関節リウマチ・全身性エリテマトーデス・血管炎) の病態促進に関与し、マクロファージの cytokine 産生を「license (許可)」する役割を持つことが Warnatsch et al. Science 2015 によって動脈硬化モデルで示された。
LPS (lipopolysaccharide) はグラム陰性菌外膜 endotoxin であり、COPD (chronic obstructive pulmonary disease, 慢性閉塞性肺疾患) および CF (cystic fibrosis, 嚢胞性線維症) における気道炎症と粘液過分泌の主要 driver として知られる。COPD では MUC5AC・MUC5B (mucin 5B, airway gel-forming mucin) の過剰産生・goblet cell (杯細胞) 化生・好中球主体の気道炎症が病理的特徴であり、CF でも同様の炎症・粘液病態が気道閉塞を招く。Liu et al. SciRep 2016 は LPS が間接的に NET 形成を誘発し急性肺傷害 (ALI) に寄与することを Sci Rep に報告した。COPD および CF 患者の気道・痰において NET 上昇が複数の臨床観察研究 (Grabcanovic-Musija 2015 Respir Res; Pedersen 2015 Respir Med; Wright 2016 Respirology; Marcos 2010 Nat Med; Yoo 2014 J Immunol) で確認されてきた。
しかし、NET が COPD・CF の気道炎症・粘液過分泌の active driver として機能するかのメカニズムは gap in knowledge として未確立であった。TLR4/NF-κB 経路は LPS 認識 core signaling だが NET との相互作用は解析されておらず、DNase I による NET 分解が気道粘液病態を救済できるかの前臨床的根拠が不足していた。CF で既に承認されている吸入組換え型 DNase I (Dornase alfa, Pulmozyme) の NET-directed 気道療法への repurposing 根拠を提供する研究が求められていた。
目的
LPS 気管内投与マウス急性気道炎症モデルにおいて、(1) NET 形成の肺組織内定量・局在の確認 (cit-H3, MPO-DNA 複合体)、(2) aerosolized DNase I による NET 分解が気道炎症 (好中球浸潤・pro-inflammatory cytokine) および粘液過分泌 (MUC5AC/MUC5B mRNA・タンパク・goblet cell 化生) に与える影響の評価、(3) TLR4/NF-κB シグナルへの NET 依存的寄与の解析、(4) NETs と LPS のマクロファージ cytokine 産生に対する in vitro 相乗効果の検証を目的とした。これにより、NET が LPS 誘発気道病態の増幅因子である仮説を検証し、吸入 DNase I の治療戦略としての preclinical rationale を確立することを目指した。
結果
LPS 誘発 NET 形成の確認と DNase I による分解 (Fig 1):LPS 気管内投与マウスの肺組織免疫蛍光染色では cit-H3 (シトルリン化ヒストン H3)・MPO・DAPI の 3 マーカーが共局在し NET 形成が可視化された (Fig 1A)。Western blot では LPS 群の cit-H3 タンパク発現が NS 対照群と比較して有意上昇しており (p<0.05, n=6, Fig 1B, 1C)、NET 形成マーカーとして確認された。BALF 中 MPO-DNA 複合体濃度も LPS 群で NS 群より有意高値を示した (p<0.05, Fig 1D)。Aerosolized DNase I (120 U/5 mL NS) を LPS 投与 4 時間後・12 時間後に吸入投与することで cit-H3 タンパク発現および BALF MPO-DNA 複合体量がいずれも有意に低下し (p<0.05 vs LPS 群)、気道局所への酵素噴霧投与による NET の enzymatic 分解が実証された。なお LPS 群で典型的な fiber-mesh 構造が免疫蛍光で確認されなかった点は肺組織破壊や切片準備の影響と考えられ、Western blot・ELISA 2 指標での補完的確認により NET 誘導の信頼性を担保した。
気道炎症の NET 依存性と DNase I 救済 (Fig 2):LPS 投与群の BALF では総細胞数・好中球数が NS 群に比べ著増し、好中球優位の気道炎症浸潤が確認された。Aerosolized DNase I 処置によりこれらの細胞数はほぼ NS 群レベルまで低下した (p<0.05 vs LPS 群, Fig 2B)。H&E 染色でも LPS 群の肺組織炎症細胞浸潤が DNase I によって抑制されることが組織学的に示された (Fig 2A)。BALF サイトカイン測定では IL-1β, IL-6, TNF-α の 3 種すべてが LPS 群で NS 群より有意高値を示し、DNase I 投与群では 3 サイトカイン全てが有意低下した (p<0.05 vs LPS 群, Fig 2C, n=6)。NET 分解により好中球動員と pro-inflammatory cytokine storm の双方が抑制されることが薬理学的に証明され、NET が LPS 誘発気道炎症の upstream 増幅因子として機能することが確認された。
粘液過分泌・goblet 細胞化生の NET 依存性 (Fig 3):LPS 投与により肺組織 MUC5AC および MUC5B の mRNA 発現が NS 群と比較して有意上昇し、BALF 中の MUC5AC・MUC5B タンパク濃度も平行して増加した。DNase I 処置群では MUC5AC・MUC5B mRNA および BALF タンパクがいずれも有意低下した (p<0.05 vs LPS 群, Fig 3A, 3B, n=6)。気道 gel-forming mucin である MUC5AC・MUC5B の産生が mRNA・タンパクの両レベルで NET 分解により抑制されたことは、NET が気道上皮 mucin 過剰産生の upstream 因子として機能することを示す。AB-PAS 染色では LPS 群で気道上皮の PAS (Periodic Acid Schiff) 陽性 goblet cell が顕著に増加 (goblet cell metaplasia) したが、DNase I 投与群でこの変化が著明に抑制された (Fig 3C)。COPD・CF の病態 hallmark である気道 goblet cell 化生と MUC5AC/MUC5B 過分泌が NET-directed 介入で一挙に改善できることが示され、translational な含意を持つ結果といえる。
TLR4/NF-κB 経路の NET 依存的活性化 (Fig 4):LPS 投与肺組織の Western blot では TLR4 タンパク、phospho-IκB-α (p-IκB-α)、NF-κB p65 発現がいずれも NS 群より有意上昇し、LPS-TLR4 下流の NF-κB 古典経路の活性化が確認された。DNase I によって NET を分解すると TLR4, p-IκB-α, NF-κB p65 の 3 タンパクすべてが有意低下した (p<0.05 vs LPS 群, Fig 4A-4D, n=6)。この結果は、NET 自体が TLR4/NF-κB 経路の活性化を増幅する upstream platform として機能していることを意味する。LPS 単独 TLR4 シグナルに NET が加わることで inflammatory cascadeが持続的に amplify される分子機序が初めて呼吸器 in vivo モデルで実証された。
NET と LPS によるマクロファージ相乗活性化 (Fig 5):In vitro HMDM 実験では、NETs (20 ng/μL) 単独刺激で IL-1β・TNF-α が微増したが有意差は得られなかった (p>0.05)。LPS 単独 (100 ng/mL) では IL-1β, IL-6, TNF-α の明確な誘導が観察された。NET + LPS 共刺激群では 3 サイトカインすべてが LPS 単独群と比較して有意上昇した (p<0.01, Fig 5A-5C, n=3 HMDM 独立実験)。NET は単独では cytokine 産生能が低いにもかかわらず、LPS 存在下でマクロファージの cytokine output を相乗的に増幅する co-factor として機能することが示された。NET が未熟 IL-1β の転写を促し、IL-1β 成熟・分泌には LPS 等の 2nd シグナルを必要とする可能性が提示された。
考察/結論
本研究は LPS 誘発マウス気道炎症・粘液過分泌モデルにおいて、NET が TLR4/NF-κB を介した気道病態の中心的増幅因子として機能することを、aerosolized DNase I rescue 実験と in vitro マクロファージ共刺激実験の 2 軸から証明した。
先行研究では NET の抗菌機能 (Brinkmann 2004 Science) や自己免疫疾患への関与が主に解析されてきた。Warnatsch 2015 Science は動脈硬化モデルで NET-macrophage cytokine licensing を示したが、呼吸器系における NET の粘液病態への関与は未解明であった。本研究はこの gap を埋め、NET が MUC5AC/MUC5B 過分泌・goblet cell 化生に直接寄与することを新規に示した最初の報告である。本研究で初めて、LPS 誘発気道炎症・粘液過分泌が TLR4/NF-κB を介した NET 依存的経路で増幅され、DNase I による NET 分解がその全体を抑制できることが in vivo 薬理実験で確立された。さらに、NETs と LPS によるマクロファージ cytokine 産生の相乗効果 (p<0.01) は、NET が LPS シグナルの priming 因子として機能することを示す新規の細胞分子機構的知見である。
臨床的意義: 吸入 DNase I (Dornase alfa, Pulmozyme) は CF 既承認薬であり、本研究の preclinical 知見は COPD 急性増悪・CF exacerbation への直接的な臨床応用経路を示す。既承認薬の repurposing は開発加速が可能であり、臨床的含意は大きい。さらに PAD4 阻害薬 (cit-H3 産生抑制) や NE 阻害薬 (NET 構成タンパク制御) の気道投与という拡張戦略にも本研究の機序解析は根拠を提供する。BALF 中の cit-H3 および MPO-DNA を NET 定量 biomarker として重症 COPD 増悪の重症度評価・DNase I 治療効果 monitoring に用いる臨床現場での応用可能性も示唆される。bench-to-bedside 観点から、LPS → NET → TLR4/NF-κB → MUC5AC/MUC5B という病態 pathway の各ステップが治療標的となりうる。
残された課題: 本モデルは LPS 単回投与による急性モデルであり、COPD の慢性進行性病態や CF の慢性気道感染への直接外挿には今後の検討が必要である。DNase I は細胞外 DNA を分解するが NET 構成タンパク (ヒストン, NE, MPO) の個別寄与は未解析であり、cGAS-STING (cyclic GMP-AMP synthase-stimulator of interferon genes) や TLR9 等の NET 感知受容体の関与も今後の研究課題として残る。In vitro 実験が cell line と HMDM に限られ、ヒト肺胞マクロファージでの primary 検証が未実施である。NET が気道上皮に直接作用して MUC5AC/MUC5B を誘導する経路と、マクロファージ IL-1β/TNF-α 経由の間接経路の相対的寄与の dissect が今後求められる。Limitation として、臨床 COPD・CF 患者での BALF NET 定量と DNase I 臨床効果の prospective validation が未実施の点も挙げられる。
方法
動物モデルと処置: 特定病原体フリー C57BL/6 マウス (6-8 週齢, オス, 体重 18-22 g) に LPS (Escherichia coli O111:B4, Sigma-Aldrich, 2 mg/50 μL) を麻酔下で気管内投与し急性気道炎症モデルを作製した (n=6/群)。対照群は同量の生理食塩水 (NS) を投与した。DNase I 介入群には LPS 投与 4 時間後および 12 時間後に aerosolized DNase I (Sigma-Aldrich, 120 U/5 mL NS) を噴霧吸入器で投与し、LPS 投与 24 時間後にペントバルビタールナトリウム (150 mg/kg 腹腔内) で安楽死させた。気管カニュレーション後に 0.5 mL の氷冷 NS で 3 回洗浄し BALF (bronchoalveolar lavage fluid, 気管支肺胞洗浄液) 計 1.2-1.4 mL を回収した。
NET 定量: 肺組織パラフィン切片の免疫蛍光染色 (DAPI + 抗 MPO + 抗 cit-H3 共局在、共焦点顕微鏡 ×200) と Western blot (cit-H3 抗体, Abcam) で NET 形成を評価した。BALF の MPO-DNA 複合体は自作 capture ELISA (anti-MPO 固相化 + ペルオキシダーゼ標識抗 DNA 抗体, Roche) で定量した。
炎症・粘液評価: BALF 細胞分画は Wright-Giemsa 染色 (最低 400 細胞) で好中球・マクロファージ・リンパ球を分類した。サイトカイン (IL-1β, IL-6, TNF-α) は ELISA (BD Biosciences)、MUC5AC・MUC5B タンパクは ELISA (MyBioSource) で測定した。MUC5AC・MUC5B mRNA は定量 RT-PCR (reverse transcriptase polymerase chain reaction, StepOnePlus PCR system, GAPDH 内部標準, 標準曲線法) で定量した。肺組織の H&E (hematoxylin and eosin) 染色で炎症細胞浸潤を、AB-PAS (Alcian Blue-Periodic Acid Schiff, Sigma-Aldrich) 染色で goblet cell 化生を組織学的に評価した。
シグナル解析: 肺ホモジネート Western blot で TLR4, NF-κB p65, p-IκB-α (phospho-IkappaBalpha), IκB-α, cit-H3 タンパク発現を定量 (Image-Lab software, Bio-Rad, GAPDH/β-actin/Histone H3 を内部標準) した。
In vitro マクロファージ実験: 健常人ボランティア 10 名から末梢血 50 mL (ヘパリン採血) を密度勾配遠心で分離し、好中球を 6% Dextran + RBC Lysis Buffer で純化した後、PMA (phorbol myristate acetate, 500 nM) で 4 時間刺激して cell-free NET を採取・定量 (分光測定法) し、-20°C で保存した。CD14 陽性単球を MACS (magnetic-activated cell sorting, Miltenyi Biotec) で分離し、M-CSF (macrophage colony-stimulating factor, 100 ng/mL) 添加 RPMI 1640 で HMDM (human monocyte-derived macrophage) に分化させた。HMDM に LPS (100 ng/mL) または NETs (20 ng/μL) を単独または同時に 24 時間刺激し、培養上清の IL-1β, IL-6, TNF-α を ELISA (Invitrogen) で測定した (n=3)。
統計解析: 全データは mean ± SD で表示し、ANOVA (analysis of variance) に続く Dunnett 補正多重比較検定を用いた。p<0.05 を有意差ありと判定した。