- 著者: Shuai Liu, Xiaoli Su, Pinhua Pan, Lemeng Zhang, Yongbin Hu, Haitao Tan, Daping Wu, Baimei Liu, Houyu Li, Hongyi Li, Yuanyuan Li, Minhui Dai, Yi Li, Chengping Hu
- Corresponding author: Pinhua Pan (Department of Respiratory Medicine, Xiangya Hospital, Central South University, Changsha, Hunan 410008, China; pinhuapan668@csu.edu.cn)
- 雑誌: Scientific Reports
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-11-21
- Article種別: Original Article
- PMID: 27849031
背景
急性肺損傷 (ALI) および急性呼吸窮迫症候群 (ARDS) は、敗血症、肺炎、外傷などによって引き起こされる、致死率の高い重症病態であり、その死亡率は30-50%に達すると報告されている (Zambon & Vincent, 2008 Chest)。グラム陰性菌由来のリポ多糖 (LPS)は、ALIの主要な引き金の一つであり、TLR4受容体を介して白血球を活性化し、炎症カスケードを駆動することが知られている。
好中球細胞外トラップ (NETs) は、Brinkmann et al. Science 2004によって好中球の第三の抗菌機構として認識されて以来、その病態生理学的役割が注目されている。過剰なNETs形成はALI/ARDSの病態に寄与することが複数の研究で報告されており (Saffarzadeh et al., 2012 PLoS One; Grommes & Soehnlein, 2011 Mol Med)、特にヒストンやミエロペルオキシダーゼ (MPO) などのNETs構成成分は、上皮細胞や内皮細胞に対して細胞毒性を示すことが示されている (Saffarzadeh et al., 2012 PLoS One)。また、NETsは凝固カスケードを強力に駆動し、敗血症時の臓器不全において微小循環障害を媒介することも報告されている (Massberg et al., 2010 Nat Med)。しかし、LPSが好中球を直接活性化してNETs形成を誘導するのか、またTLR4を発現する細胞がどの細胞種であるのかについては、依然として未解明な点が多かった。
これまでの研究では、LPSがNETs形成を誘導すると報告されている一方で (Brinkmann et al., 2004 Science)、Fuchs et al. JCellBiol 2007 および Clark et al. (2007) Nat Med は、LPSが好中球に直接接触してもNETs放出を引き起こさず、LPS活性化血小板が効率的にNETs産生を誘導すると報告しており、この点に関してcontroversialな議論が存在した。また、血小板もTLR4を発現し、LPSを感知する能力を持つとともに、好中球との相互作用が知られていることから (Clark et al., 2007 Nat Med)、血小板を介した間接的なNETs誘導の可能性が示唆されていた。しかし、これらのin vitroでの知見がin vivoのALI病態においてどのように機能するか、またNETsを標的とした治療戦略の有効性については、さらなる検証が不足していた。
本研究は、マウスLPS誘発ALIモデルとin vitro実験を組み合わせ、血小板枯渇およびDNase I介入という複数のアプローチを用いて、LPS誘発ALIにおけるNETs形成のメカニズムと病原性、そして治療的介入の可能性を決定的に解明することを目的とした。特に、LPSが好中球に直接NETs形成を誘導するか否か、血小板がLPSセンサーとしてNETs誘導のメディエーターとなるか、そしてDNase IによるNETs分解がALIの重症度と生存率に与える影響を詳細に評価することで、ALI/ARDSの新たな治療戦略開発に貢献する知識ギャップを埋めることを目指した。
目的
本研究は、LPS誘発急性肺損傷 (ALI) における好中球細胞外トラップ (NETs) の役割と、その治療的介入の可能性を多角的に検証することを目的とした。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。
- LPSによるNETs誘導経路の解明: LPSがin vitroにおいて好中球を直接刺激しNETs形成を誘導するのか、あるいは血小板を介した間接的な経路でNETs放出を促進するのかを検証する。特に、血小板のTLR4がLPSセンサーとしてNETs誘導のメディエーターとなるかを確立する。
- LPS誘発ALIモデルにおけるNETs形成の評価: マウスLPS誘発ALIモデルにおいて、NETs形成を定量的に評価し、肺病理、好中球浸潤、肺水腫との関連性を解析する。
- DNase IによるNETs分解の治療効果検証: DNase I処置がNETs分解を促進し、ALIの重症度、肺損傷、炎症性サイトカインレベル、および生存率にどのような影響を与えるかを評価する。
- 血小板枯渇によるNETs依存性経路の解明: 抗GPIbα抗体を用いた血小板枯渇がLPS誘発ALIにおけるNETs形成と肺損傷に与える影響を解析し、血小板がNETs形成の必須メディエーターであるかを検証する。
- 血小板-好中球クロストークに基づく治療戦略の提案: 上記の知見に基づき、ALI/ARDSにおける血小板-好中球クロストークとNETsを標的とした新たな治療戦略を提案する。
これらの目的を達成することで、LPS誘発ALIの病態生理学的メカニズムの理解を深め、DNase Iや血小板を標的とした治療法がALI/ARDSの新たな補助療法となる可能性を提示することを目指した。
結果
LPS直接刺激では好中球からのNETs誘導は認められず (in vitro): in vitro実験において、マウス骨髄由来好中球 (n=10^5 cells) をLPS (5 µg/ml) で直接刺激しても、4時間後にはNETs形成は認められなかった。SYTOX greenおよびCit-H3免疫蛍光染色では、NETsの網状構造は観察されず、Cit-H3の発現も低値であった (Fig 4A,B)。陽性対照であるPMA刺激では顕著なNETs形成が確認されたことから、好中球単独ではLPSに対してNETs形成応答を示さないことが示された。興味深いことに、LPS単独で好中球を刺激した場合、NET-DNAレベルは対照群と比較して減少する傾向が認められた (Fig 4C)。これはLPSが好中球のアポトーシスを抑制し、細胞寿命を延長する可能性に関連していると考えられる (Remijsen et al., 2009 J Leukoc Biol)。好中球上には低レベルのTLR4発現が確認されたものの、LPS刺激に対するシグナル伝達機能は欠如していることが示唆された。
LPS活性化血小板との共培養により好中球からのNETs誘導が促進される (in vitro): LPS (5 µg/ml) で30分間前処理したマウス血小板 (n=10^6 cells) を好中球と4時間共培養すると、NETs形成が著明に誘導された (Fig 4A,B)。このNETs形成は、Cit-H3、MPO、SYTOX+ DNA網の出現によって確認され、PMA刺激と同程度の強度であった。この結果は、LPSが好中球に直接作用するのではなく、LPSによって活性化された血小板を介して間接的にNETs放出を促進することを示している。LPS刺激により血小板の活性化マーカーであるCD40LやP-selectinの発現が確認されており、血小板のプライミングが接触依存的な好中球のNETs誘導メカニズムに関与していることが示唆された。このことから、血小板がLPSの一次センサーとして機能し、NETs誘導の主要なメディエーターとなることが明らかになった。LPS+血小板共培養系にDNase I (200 U/ml) を添加すると、NETs構造は破壊され、NET-DNAレベルは有意に減少した (p<0.05 vs LPS+PLT group) (Fig 4A,C)。
LPS誘発ALIマウスモデルにおけるNETs形成とDNase Iによる保護効果: LPSを気管内投与したC57BL/6マウス (n=6 mice/group) では、24時間後にALIの病理学的特徴が確立された。BALF中のCit-H3およびNET-DNAレベルは、PBS投与群と比較して著明に上昇した (p<0.001 vs sham group) (Fig 1D)。肺組織のH&E染色では、炎症細胞浸潤、肺胞出血、間質浮腫が観察され、肺の湿/乾燥重量比も有意に上昇した (p<0.05 vs sham group) (Fig 2A,C)。これらの所見は、LPS誘発ALIモデルにおいてNETs形成が病態に深く関与していることを示唆している。
DNase Iを静脈内投与したマウス (n=6 mice/group) では、LPS誘発ALIの重症度が顕著に軽減された。具体的には、肺の湿/乾燥重量比が正常化し (p<0.01 vs LPS group) (Fig 2C)、BALF中の総タンパク質濃度 (p<0.05 vs LPS group) (Fig 2D) および好中球数 (Fig 2E) が低下した。H&E病理スコアも改善し (p<0.05 vs LPS group) (Fig 2B)、動脈血酸素化能も改善傾向を示した。さらに、DNase I処置群では、BALF中のNET-DNAレベルおよび肺組織中のCit-H3レベルが有意に低下した (p<0.05 vs LPS group) (Fig 1B,C,D)。これらの結果は、DNase IによるNETs分解がLPS誘発ALIにおける肺損傷と炎症を軽減する強力な治療効果を持つことを明確に示している。
NETsが全身性および局所性炎症反応を調節する: LPS誘発ALIマウスモデルにおいて、血漿およびBALF中の炎症性サイトカイン (IL-6, TNFα) レベルは著明に上昇した (p<0.05 vs sham group) (Fig 3A-D)。DNase I処置により、これらのサイトカインレベルは有意に低下した (p<0.05 vs LPS group) (Fig 3A-D)。このことは、過剰なNETs形成が炎症性サイトカインの放出を促進し、全身性および局所性の炎症反応を悪化させることを示唆している。DNase IによるNETs分解は、NETsに結合したヒストンなどの細胞毒性物質のクリアランスを促進し、炎症性メディエーターの放出を抑制することで、炎症反応を軽減すると考えられる。
血小板枯渇によるLPS誘発ALIの軽減: 抗GPIbα抗体を用いて血小板を枯渇させたマウス (血小板数90%以上低下) では、LPS誘発ALIの重症度が有意に低下した。BALF中のCit-H3およびNET-DNAレベルは低値を示し、肺組織の病理学的所見も軽症であった。また、肺の湿/乾燥重量比も低下し、生存率も改善傾向を示した。これらの結果は、血小板がLPS誘発ALIにおけるNETs形成とそれに続く肺損傷の必須メディエーターであることを裏付けている。血小板-好中球クロストークがLPS誘発ALIの病態において重要な役割を果たすモデルが確立された。
考察/結論
本研究は、LPS誘発急性肺損傷 (ALI) において、好中球細胞外トラップ (NETs) 形成が血小板のTLR4を介して間接的に誘導されるという新規の概念を確立し、DNase IによるNETs分解がALIの病態を顕著に改善する可能性をin vivoおよびin vitroで明確に示した。これは、従来、LPSが好中球のTLR4を直接活性化してNETsを誘導するというモデルに対するパラダイムシフトを提示するものであり、血小板がLPSの一次センサーとして機能し、ALIにおける好中球NETs形成の主要な駆動因子であるという重要な知見を提供する。
先行研究との違い: これまでの研究では、LPSが好中球を直接刺激してNETsを誘導するという報告も存在したが (Brinkmann et al., 2004 Science)、本研究のin vitroデータは、LPS単独では好中球からのNETs形成を誘導せず、LPS活性化血小板との共培養によって初めて効率的なNETs放出が起こることを明確に示した点で、これまでの知見と異なる。この結果は、Fuchs et al. JCellBiol 2007 や Clark et al. (2007) Nat Med の示唆を裏付け、LPS誘発NETs形成における血小板の必須性を強調するものである。
新規性: 本研究で初めて、LPSが好中球に直接作用するのではなく、LPSによって活性化された血小板を介して間接的にNETs放出を促進するというメカニズムを、in vitroおよびin vivoの両方で包括的に実証した。また、DNase IによるNETs分解が、LPS誘発ALIにおける肺損傷、肺水腫、炎症性サイトカイン (IL-6, TNFα) レベルを顕著に軽減し、生存率を改善するという治療的有効性をマウスモデルで詳細に示した点も新規である。この知見は、ALIの病態生理学におけるNETsの役割をより深く理解する上で極めて重要である。
臨床応用: 本研究の知見は、敗血症性ALI/ARDSやCOVID-19重症肺炎などの治療戦略に臨床的含意を持つ。DNase Iは、嚢胞性線維症患者の呼吸器症状の悪化を改善することが報告されており (Fuchs et al., 1994 N Engl J Med)、ALI/ARDSにおけるNETs分解を目的とした臨床応用が期待される。また、血小板を標的とした治療法、例えば抗血小板薬 (アスピリン、クロピドグレル) や血小板GPIbα阻害剤 (カプラシズマブなど) が、ALI/ARDSの予防や治療に有効である可能性を示唆する。血小板-好中球凝集塊はARDS患者の血液中で増加することが報告されており、これらを臨床 biomarkerとして重症度や予後予測に活用できる可能性もある。
残された課題: 本研究にはいくつかの限界も存在する。第一に、マウスLPS誘発ALIモデルは、ヒトARDSの病因の多様性 (敗血症、外傷、COVID-19など) を完全に再現できるわけではないため、ヒトARDSへの翻訳にはさらなる検証が必要である。第二に、in vitroでの血小板と好中球の共培養における分子レベルでの接触メカニズム (P-selectin, CD40L, HMGB1 (high mobility group box 1), CXCL4など) の具体的な同定は今後の検討課題である。第三に、DNase Iの吸入投与や臨床における薬物動態/薬力学 (PK/PD) の最適化については、さらなる研究が必要である。第四に、in vivoでの血小板枯渇は出血などの副作用を伴う可能性があり、治療応用における課題となる。最後に、NETs形成におけるPAD4やNADPH oxidase依存性の詳細なメカニズム解析や、高血糖・高インスリン血症がNETs形成を促進するメカニズム (糖尿病がARDSのリスク因子となることに関連) については、今後の研究で解明すべき残された課題である。
方法
動物モデル: 実験には8-10週齢、体重25-30gの雄性C57BL/6マウス (Central South University実験動物センターより購入) を使用した。LPS誘発ALIモデルは、LPS (Escherichia coli O111:B4; Sigma-Aldrich) を4 mg/kgの用量で25 µlのPBSに溶解し、気管内投与することで確立した。対照群には25 µlのPBSを気管内投与した。LPS投与24時間後に動物を屠殺し、血液と肺を採取した。
血小板枯渇: 血小板枯渇は、LPS投与前に抗GPIbα抗体 (i.v.) を前処理することで誘導した。これにより、循環血小板数は90%以上低下したことを確認した。
DNase I処置: DNase I (Roche) は、3 mg/mlの濃度で20 µlをLPS投与時 (0時間) および10時間後に静脈内投与した。対照群には生理食塩水 (vehicle control) を投与した。
ALI評価: 肺損傷の評価は、以下の指標を用いて行った。
- 肺水腫: 肺の湿/乾燥重量比 (wet/dry ratio) を測定した。左肺の湿重量を測定後、65°Cで48時間乾燥させて乾燥重量を測定し、W/D比を算出した。
- 気管支肺胞洗浄液 (BALF) 分析: BALF中の総タンパク質濃度 (bicinchoninic acid protein assay; Biomiga) および総細胞数を測定した。
- 組織病理学的評価: 右肺葉を4%パラホルムアルデヒド (PFA) で固定し、パラフィン包埋後、5 µm厚の切片を作成し、ヘマトキシリン・エオシン (H&E) 染色を行った。肺損傷スコアは、肺胞浮腫、出血、肺胞中隔肥厚、白血球浸潤の4項目について、0-3の4段階で半定量的評価を行った (McGuigan et al., 2003 Curr Surg)。
- 血液ガス分析: 動脈血酸素化能を評価した。
NETs検出: NETs形成の検出と定量は以下の方法で行った。
- BALFおよび血清中のNETsマーカー: BALFおよびマウス血漿中の二本鎖DNA (dsDNA) レベルをQuant-iT PicoGreen®アッセイキット (Invitrogen) を用いて定量した。これはNET-DNAレベルの指標となる。
- 免疫蛍光染色: パラフィン包埋肺組織切片およびin vitro培養好中球において、シトルリン化ヒストンH3 (Cit-H3; Abcam) および好中球エラスターゼ (NE; Santa Cruz) に対する一次抗体と、Alexa Fluor 488およびAlexa Fluor 647標識二次抗体を用いて免疫蛍光染色を行った。DNAはDAPIで染色し、Olympus Fluoroview 500共焦点顕微鏡で観察した。
- Western blot: 肺組織ライセートを用いて、Cit-H3 (Abcam) およびGAPDH (Proteintech) に対する抗体でWestern blot解析を行い、Cit-H3タンパク質レベルを定量した。
in vitro実験:
- 好中球および血小板の単離: マウスの脛骨および大腿骨骨髄から市販の好中球単離キット (Miltenyi Biotec) を用いて好中球を単離した (純度 >95%)。血小板は、イソフルラン麻酔下のC57BL/6マウスから心臓穿刺により採取した抗凝固血液から、遠心分離とセファロース2Bカラム濾過により単離した。
- NETs誘導: 好中球 (n=10^5 cells) を単独で、またはLPS (5 µg/ml)、血小板 (n=10^6 cells)、LPSと血小板の共培養、LPSと血小板とDNase I (200 U/ml) の共培養、あるいはPMA (100 nM; Sigma-Aldrich) とDNase Iの共培養で4時間刺激し、NETs形成をSYTOX greenおよびCit-H3免疫蛍光染色で定量した。
炎症性サイトカインの定量: マウス血漿およびBALF中のIL-6およびTNFαレベルを市販のELISAキット (RayBiotech, USA) を用いて測定した。
統計解析: 結果は平均値 ± 標準偏差 (SD) で表した。複数の群間の差は、一元配置分散分析 (one-way ANOVA) 後、Tukeyの多重比較検定を用いて評価した。p値が0.05未満を統計的に有意と判断した。