• 著者: Kalinowski A, Macaubas C, Guo H, Anker LA, Wakeham DE, Ho M, Pattni R, Bayram B, Sharma S, Liliental J, Yoon JH, Mellins ED, Steinman L, Urban AE
  • Corresponding author: Agnieszka Kalinowski, Lawrence Steinman, Alexander E. Urban (Stanford University)
  • 雑誌: Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-05-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42113976

背景

統合失調症 [schizophrenia spectrum disorder (SZ)] は世界人口の約 1% に影響を及ぼす重篤な精神疾患であるが、有効な疾患修飾療法は存在せず、その病態機序の解明が急務である。収束する疫学・動物・臨床的エビデンスは、生まれながらの免疫系 (自然免疫) の活性化が SZ の病態に関与することを示しており、この概念は「自然免疫仮説 (Innate Immune Hypothesis)」として知られる。自然免疫系の基本的な認識機構については Janeway らが詳述しており (Janeway et al. AnnuRevImmunol 2002)、パターン認識受容体を介した自然免疫細胞の活性化が炎症カスケードを開始することが知られている。大規模疫学研究は、幼少期の感染症 (自然免疫応答を刺激するもの) が SZ の有意なリスク因子であることを示している。first episode psychosis (FEP) /初回エピソード精神病 および慢性 SZ において好中球・単球数が増加しており、血清・脳脊髄液中の補体タンパク質を含む自然免疫活性化マーカーが上昇している。

補体 C4 タンパク質に着目すると、Sekar et al. (Nature 2016) のゲノムワイド関連解析 (GWAS) でヨーロッパ系集団における C4A 遺伝子コピー数の増加が SZ リスクと関連していることが示されており、C4A 遺伝子発現増加がシナプス刈り込みの亢進と連動するという「過剰シナプス刈り込み仮説 (Excessive Pruning Hypothesis)」が提唱されている。また、SZ 患者の血漿中では C4 タンパク質の活性化産物である C4-anaphylotoxin (C4-ana) 濃度が上昇し、その阻害タンパク質 C4-binding protein (C4-BP) が低下していることが Byrne et al. (Brain Behav Immun 2024) らにより一貫して報告されている。しかし、この C4-ana 上昇に対応した血漿 C4 タンパク質の減少や補体カスケード上の他の変化は臨床研究で一貫して示されておらず、補体 C4 タンパク質の非血漿的な起源が示唆されていた。肝臓が血漿補体タンパク質の主要産生源であることは周知であるが、一部の補体タンパク質が免疫細胞内で産生・活性化されることが近年の研究で明らかになっており (Lavin et al. Cell 2017)、好中球・単球が C4 タンパク質を含む補体タンパク質の細胞内産生起源となる可能性が浮上していた。

これまでの研究は、C4 タンパク質が血漿由来であることを前提としており、末梢免疫細胞 (好中球・単球) における C4 タンパク質の発現・含有量と C4A 遺伝子コピー数の関係を SZ と対照で体系的に比較した研究は存在しなかった。この領域の知見は著しく不足しており、「好中球・単球が C4 タンパク質の非血漿的起源であるか」「SZ 患者の好中球で C4 タンパク質が活性化・消費されているか」という問いは未解明のままであった。SZ における末梢免疫細胞の補体 C4 タンパク質動態は knowledge gap として残されており、遺伝学的リスク (C4A GCN) と細胞レベルの C4 タンパク質発現を直接結びつけた研究の不在が本研究の動機となった。

目的

(1) フローサイトメトリーおよびメタシグネチャー解析を用いて、末梢血中の主要免疫細胞サブタイプにおける C4 タンパク質の細胞内局在を同定する。(2) SZ 患者と対照者において、好中球・古典的単球 (CM) における C4 タンパク質量と C4A 遺伝子コピー数 (GCN) の相関を比較し、SZ に特異的な関連性を検討する。(3) SZ と対照群間の免疫細胞 C4 タンパク質量の差異、および C4 タンパク質と臨床症状・ストレス指標との関連を探索的に検討する。

結果

好中球・単球が末梢血中の主要なC4タンパク質含有細胞である

パート 1 では、匿名ドナー 10 名の全血フローサイトメトリーにより、C4 タンパク質が好中球および全 3 種の単球サブタイプ (CM、NCM、intermediate monocytes) に優勢に存在することを確認した (Fig. 1)。アイソタイプコントロール補正後の C4 タンパク質 MFI (Median Fluorescent Intensity) は、好中球で最も高く、他の免疫細胞型と比較して有意に高かった (P=0.0002)。CM は T 細胞より有意に高い C4 MFI を示し (P=0.007)、NCM (P=0.02) および intermediate 単球 (P=0.004) も同様であった。Intermediate 単球の MFI は B 細胞より高く (P=0.03)、好中球内の C4 タンパク質は細胞核 DNA の辺縁部 (rim) に局在していた (Fig. 2A)。この細胞内 C4 タンパク質は「C4 complosome」(細胞内補体複合体)として概念化された新規知見である。公開マイクロアレイデータ (>800 サンプル) を用いたメタシグネチャー解析でも、C4A 遺伝子は intermediate 単球・好中球・特殊化記憶 T 細胞・樹状細胞で他の免疫細胞に比べ約 2 倍高く発現していた一方、C4B 遺伝子は T 細胞・B 細胞で約 3 倍高く発現しており、遺伝子発現パターンはフローサイトメトリーの結果と整合した。

C4A遺伝子コピー数と好中球C4タンパク質の正相関はSZ群に特異的

パート 2 の Clinical Comparison Cohort では、SZ 群 (n=30) と対照 (n=38) の年齢 (24.6 vs 26.2 歳, P=0.13)・性別 (P=0.62) は有意差がなかったが、BMI は SZ 群で有意に高く (26.5±5.2 vs 23.9±5.2, P=0.02)、全 SZ 患者が抗精神病薬を服用中であった (Table 1)。主要解析として、C4A 遺伝子コピー数 (GCN) と好中球 C4 タンパク質量の Spearman 相関を群別に検討した結果、SZ 群のみで有意な正相関が観察された (rs=0.63, 95% BCa CI: 0.12-0.89, P=0.012, df=13, n=15) (Fig. 2C-D)。対照群では同様の相関は認められなかった。Kendall の τ を用いた感度解析でも同様に強い相関を示した (τ=0.55, 95% CI: 0.10-0.78, P=0.011)。

この相関の頑健性を確認するため、BMI・年齢・性別・抗精神病薬投与量・freeze storage time (FST) /凍結保存期間 を共変量として調整した偏相関でも相関係数はほぼ変わらなかった (BMI 補正後 r=0.60、全共変量補正後 r=0.60)。さらに C4A コピー数 1 の参加者を除外しても有意な相関が維持され (r=0.54, P=0.045)、C4A コピー数 2 のみのサブセット解析 (対照 n=13 vs SZ n=8) では SZ 群で好中球 C4 タンパク質が有意に低かった (r=0.45, P=0.039)。これらの感度解析結果は一貫して、C4A GCN × 好中球 C4 タンパク質の相関が SZ 特異的現象であることを支持する (Fig. 2F-G)。CM では SZ・対照ともに C4A GCN との相関は認められず、好中球との対比が際立った。

好中球・単球C4タンパク質のSZ群における全般的低下

探索的解析として全免疫細胞サブタイプにわたる C4 タンパク質量を群間比較した結果、SZ 群ではすべての免疫細胞において C4 タンパク質の低下傾向が観察された (Fig. 3)。好中球での低下が最大であり、C4A GCN を共変量とした rank ANCOVA では F(1,33)=3.92、η²p=0.11 (中程度の効果量)、P=0.056 と境界域の有意差を示した。BMI も共変量に追加すると群間差がより顕著となり (F(1,33)=8.84, η²p=0.217, 大きな効果量, P=0.0055)、95% BCa CI がゼロをまたがないことからも群間差の信頼性が示唆された (Fig. 3A,C)。CM については、フローサイトメトリーによる MFI で SZ 群での低下傾向が観察されたが (MFI = 1.71±1.70 vs 2.59±1.97 ×10⁴, r=0.27, P=0.058)、BMI 調整後には効果量が減少した (η²p=0.04)。免疫蛍光法による CM 細胞周辺 (perimeter) C4 タンパク質は SZ 群で有意に低く (1.43±0.81 vs 1.65±0.68 ×10⁴ relative fluorescence units (RFU), r=0.32, P=0.045)、BMI 調整後も効果量は中等度を維持した (η²p=0.09, P=0.045)。NCM では群間差は認められなかった。

臨床指標との探索的相関:ストレスと症状との関連

探索的解析として、好中球・CM の C4 タンパク質量と臨床指標 (PSS; Perceived Stress Score、PANSS) との相関を検討した (Table 2)。SZ 群は対照群より有意に高い知覚ストレスを示した (PSS: 28.3±5.9 vs 20.4±5.0, r=0.69, 95% BCa CI 0.41-0.86, P<0.001)。好中球 C4 タンパク質量は SZ 群のみで PSS と正の相関傾向を示したが (Spearman rho=0.53, P=0.079)、統計的有意水準には達しなかった。PANSS general psychopathology subscore との相関も SZ 群のみで大きな効果量を示したが有意でなかった (rho=0.47, P=0.09)。これらの相関は C4A GCN を共変量として調整しても維持された。この「好中球という同一細胞タイプ」での自己申告 (PSS) と臨床面接 (PANSS) の両測定による一致した傾向は注目される。

考察/結論

① 先行研究との違い

これまでの SZ 研究は血漿補体タンパク質を解析対象として C4-ana の上昇と C4 タンパク質変化の不一致に着目してきた。これと異なり、本研究は末梢免疫細胞 (好中球・単球) に着目し、C4 タンパク質が細胞内に存在・発現され、その量が C4A GCN と SZ 特異的に相関することを初めて示した。従来の補体研究が肝臓由来血漿 C4 を主軸としていたのと対照的に、本研究は好中球・単球内における「C4 complosome」という細胞内補体複合体の概念を提唱し、末梢自然免疫細胞が補体活性化の非血漿的起源であることを示した。また、SZ における好中球・単球の活性化増加は既知であったが、それと C4 遺伝子多型 (GWAS C4A コピー数) および C4 タンパク質の細胞内動態を直接結びつけた研究はこれまでに存在しなかった。

② 新規性

本研究は、SZ 患者の好中球において C4A 遺伝子コピー数と C4 タンパク質量が正相関するという新規な発見を提供する。この「好中球特異的かつ SZ 特異的」な相関 (rs=0.63) は、これまでにない切り口で SZ の末梢免疫病態を説明する可能性を持つ。さらに、公開 RNA-seq メタシグネチャーデータと本研究の実測値が収束して C4 タンパク質の好中球・単球優位分布を示したことは、この知見の再現性と普遍性を支持する。好中球内 C4 タンパク質の消費仮説 (SZ 群で GCN に比して C4 タンパク質が低い現象) は、C4 protein が SZ 好中球で活発に発現されながらも生物学的経路を通じて消費されているという新規なモデルを提唱するものである。

③ 臨床応用

本研究の知見は SZ に対する新規治療法開発の臨床的意義を持つ。好中球が補体 C4 活性化の起源として機能するならば、好中球機能の標的化は SZ の末梢免疫系を介した神経炎症抑制に繋がる可能性がある。実際に、SZ 治療で最も効果的な薬剤の一つであるクロザピン (clozapine) は好中球の機能を抑制することで知られており、この既知薬理作用と本研究の結果は機序的に一致する。また好中球エラスターゼ (elastase) の活性化が SZ で亢進しているという報告と、エラスターゼ阻害薬 (Silvelesat) が好中球駆動性神経炎症を抑制できるという前臨床データは、この経路の臨床応用に向けた将来性を示す。CNS 疾患において末梢標的を用いた治療アプローチ (血液脳関門を通過する必要がない) は薬物開発上の大きな利点であり、本研究が示す「好中球・単球の C4 タンパク質経路」は血中でアクセス可能な治療標的として魅力的である (Chang et al. NatCommun 2023)。

④ 残された課題

本研究の主要な限界として、好中球コホートの症例数が少ない点 (SZ n=15) が挙げられ、単一施設研究のため再現研究が不可欠である。また、全 SZ 患者が抗精神病薬を服用中であったため、薬剤効果の除外が困難であり、未治療 FEP サンプルでの検証が今後の研究課題として最重要である。好中球における C4A・C4B 遺伝子発現を本研究では直接測定できておらず (公開 mRNA データに依存)、単細胞レベルの C4 タンパク質測定も将来の課題となる。さらに、好中球内 C4 タンパク質が実際に活性化されているのか、どの生物学的経路で消費されているのかを検証するためのさらなる基礎研究が必要である。臨床症状 (PSS・PANSS) との相関は探索的解析であり、有意水準に達していないため、大規模コホートでの検証が求められる。

方法

研究デザインと対象: 2 パート構成の横断研究。パート 1 はスタンフォード血液センターから献血した匿名ドナー 10 名の全血を用いたフローサイトメトリー解析および公開マイクロアレイデータ (>50,000 免疫細胞) のメタシグネチャー解析。パート 2 は前向き臨床コホート (Clinical Comparison Cohort) で、パイロットコホートおよび拡張コホートの 2 部構成とし、合計 SZ 30 例・対照 38 例を解析した。研究は Stanford 大学 IRB 承認のもと実施され、ClinicalTrials.gov NCT05109065 に登録された。

組入れ基準: SZ 患者は DSM-5 診断 (structured clinical interview, SCID-V で確認)、初回診断または抗精神病薬開始後 5 年以内、年齢 18-35 歳。対照は SCID-V で精神障害なし、prodromal questionnaire brief (PQB) スコア ≤6。排除基準は薬物使用・自己免疫疾患・免疫抑制状態・癌など。

測定手法: C4 タンパク質を 1) 好中球では Western blotting (WES、capillary-based; C4 α chain ~90 kDa)、2) 単球では PBMC からのフローサイトメトリー (CD14+CD16−古典的単球 [classical monocyte (CM)]; CD14−CD16+非古典的単球 [non-classical monocyte (NCM)])、3) 血漿では WES (1:500 希釈) で定量した。C4A GCN は digital droplet PCR (ddPCR) で決定した。C4 タンパク質測定はすべて Sum Normalization 法で標準化した。CM の細胞内局在は immunofluorescence (Zeiss LSM900 共焦点顕微鏡) で評価した。臨床指標は Perceived Stress Score (PSS) および Positive and Negative Syndrome Scale (PANSS) を使用した。

統計解析: Benjamini-Hochberg 法による多重比較補正。非正規分布データ (Shapiro-Wilk 検定) のため非パラメトリック検定 (Spearman 相関、Kendall 相関、Mann-Whitney U 検定、rank-based ANCOVA) を使用。信頼区間は bias-corrected accelerated bootstrap (BCa) 法で算出した。