- 著者: Charles A. Janeway Jr., Ruslan Medzhitov
- Corresponding author: Charles A. Janeway Jr. (Section of Immunobiology and Howard Hughes Medical Institute, Yale University School of Medicine, New Haven, CT, USA)
- 雑誌: Annual Review of Immunology
- 発行年: 2002
- Epub日: 2001-10-04
- Article種別: Review
- PMID: 11861602
背景
自然免疫系 (innate immunity) は進化的に古い宿主防御機構であり、植物から無脊椎動物・脊椎動物まで広く保存されている。これに対し、適応免疫系 (adaptive immunity) は T・B 細胞受容体遺伝子セグメントの再編成による多様性確保を特徴とし、脊椎動物 (顎口類の祖先以降) にのみ存在する。自然免疫は生殖細胞系列にコードされた固定受容体で微生物の保存分子パターン (pathogen-associated molecular patterns: PAMPs) を認識する一方、適応免疫はクローン分布した抗原特異的受容体で精密な分子識別を行い、機能発現に 3〜5 日のクローン選択・増殖を要する。Janeway et al. 1989 は「自然免疫が適応免疫を活性化するために必要な危険シグナルを提供する」という仮説を提唱し、免疫学の転換点となった。Medzhitov et al. 1997 (Drosophila Toll ヒト相同体、PMID 9237759)、Poltorak et al. 1998 (C3H/HeJ マウス TLR4 変異の同定、PMID 9851930)、Hemmi et al. 2000 (TLR9 による細菌 DNA 認識、PMID 11130078) が分子的基盤を提供しつつあったが、本レビュー時点では、PAMPs を認識するパターン認識受容体 (pattern recognition receptor: PRR) の全体像と、それが「感染性非自己 (infectious non-self)」と「非感染性自己 (noninfectious self)」をいかに識別して適応免疫の質を決めるのかという統合的枠組みは未解明・手薄であった。とくに、アジュバントの免疫賦活効果が経験則にとどまり TLR を介する分子機序の直接的証明が不足していた。
目的
自然免疫認識の分子機構、とくに Toll-like 受容体 (TLR) を中心とする PRR による PAMPs 認識と、NF-κB シグナルを介した炎症性サイトカイン産生・樹状細胞成熟・適応免疫誘導のメカニズムを包括的にレビューし、自然免疫が「感染性非自己」の識別と適応免疫の質的決定 (Th1 vs Th2) に果たす役割を統合的に整理することを目的とする。
結果
パターン認識受容体 (PRR) の分類と機能的分業:PRR は細胞表面・細胞内区画・血清中分泌の 3 カテゴリに分類される。(1) 液性 PRR:マンナン結合レクチン (MBL)・CRP (C-reactive protein)・SAP 等の急性期タンパク。MBL はコレクチンとして微生物表面の末端マンノース残基に結合し MASP1/2 を介して補体レクチン経路を起動する。CRP・SAP はペントラキシンとして細菌のホスホリルコリンに結合しオプソニン化・古典的補体経路を担う。(2) 貪食性 PRR:マクロファージマンノース受容体 (MMR/DEC205)・スカベンジャー受容体 A (SR-A/MARCO) 等がグラム陽性・陰性細菌・真菌を認識しリソソーム分解を促進する。MSR 欠損マウスは Listeria・HSV・マラリアへの感受性が増大し、in vivo 防御的役割が実証された。(3) シグナル伝達性 PRR:TLR が中核を担い、PAMPs 認識後に NF-κB を活性化して抗菌遺伝子・炎症性サイトカイン・共刺激分子を誘導する (Fig 1)。
細胞内認識システム — PKR・OAS/RNaseL・NOD タンパク質:ウイルス感染時の二本鎖 RNA (dsRNA) は PKR を活性化し、翻訳開始因子 eIF2α リン酸化による翻訳抑制・NF-κB/MAPK 活性化・アポトーシス誘導を行う。2′-5′-OAS/RNaseL 経路も dsRNA 応答性の抗ウイルス機構として機能する。NOD タンパク質 (NOD1、NOD2) は CARD-LRR ドメイン構造を持ち LPS 等の PAMPs を細胞内で認識し RIP2 キナーゼ–NF-κB を活性化する。NOD2 遺伝子変異がクローン病 (Crohn’s disease) 発症リスクと関連することが遺伝学的に実証され (PMID 11385576・11385577)、自然免疫遺伝子異常と炎症性疾患の直接的連関の初期証拠となった。
TLR ファミリーの多様なリガンド認識:ヒトとマウスには 10 種以上 (ヒト n=10、マウス n=12 前後) の TLR が存在する (Fig 2)。TLR4 は LPS (グラム陰性菌細胞壁主成分) の主要受容体で、LBP→CD14→MD-2/TLR4 複合体の協調的相互作用で認識する。C3H/HeJ マウスの LPS 不応答性は TLR4 TIR ドメインの点変異 (Pro712His) によることがポジショナルクローニングで同定された。TLR2 は最も広いリガンド特異性を持ち、ペプチドグリカン・細菌リポタンパク質・酵母ザイモサン等を認識し、TLR1/TLR6 とのヘテロダイマー形成でレパートリーを拡大する。TLR5 は細菌フラジェリンの保存領域を認識し (PMID 11323673)、TLR9 は非メチル化 CpG モチーフを含む細菌 DNA をエンドソーム内で認識する (PMID 11130078)。TLR9 のリガンド認識が取り込み阻害薬で抑制されることは、細胞内 TLR の存在と細菌溶解後内容物認識という機構を示唆した。
TLR シグナル伝達 — MyD88 依存性・非依存性の二分岐経路:TLR リガンド認識後、TIR ドメインを介してアダプター MyD88 が招集され、MyD88–IRAK (セリン/トレオニンキナーゼ)–TRAF6 (E3 ユビキチンリガーゼ)–IKKβ–IκB 分解–NF-κB 核移行というカスケードが活性化し、炎症性サイトカイン (IL-1β・IL-6・IL-12)・ケモカイン (IL-8)・抗菌ペプチド・共刺激分子 (CD80・CD86) を誘導する。一方、TLR4 は MyD88 非依存性経路も活性化でき、TIR ドメイン含有新規アダプター TIRAP (現 MAL) が同定された。RAC1-PI3K-AKT シグナルが TLR2 活性化時に NF-κB の転写活性化を強化する経路も示され、TLR シグナルの複雑な調節ネットワークが示唆された。
MyD88 欠損マウスが証明した TLR と適応免疫の連関:樹状細胞 (DC) は TLR を高発現し、未熟 DC が PAMPs 認識後に成熟化 (共刺激分子・MHC 発現上昇、リンパ節遊走) を経てナイーブ T 細胞に抗原提示する (Fig 3)。MyD88 欠損マウスでは LPS 以外のすべての PAMPs に対して DC 成熟が障害され、ナイーブ T 細胞の抗原特異的活性化が不能となった。OVA を CFA (マイコバクテリアリサート含有完全フロイントアジュバント) と免疫した実験で、MyD88 欠損マウスでは OVA 特異的 T 細胞応答・IFNγ 産生・IgG2a 産生が完全に消失し Th1 応答が選択的に障害された (IgG1・IL-13 応答は正常)。IL-12 産生はすべての PAMPs に対して消失し、Th1 分極における自然免疫シグナルの必須性が確立された。定量的には、野生型マウスで強く誘導された OVA 特異的 IFNγ・IgG2a 応答が MyD88 欠損では検出限界以下 (ほぼ 0) まで低下する一方、Th2 系の IgG1・IL-13 は維持され、群間で Th1/Th2 バランスが選択的にシフトした。これはアジュバントが TLR リガンドを介して DC 成熟を促し免疫賦活効果を発揮することの実験的証明であり、1989 年 Janeway 仮説の分子的実証となった。
Drosophila Toll 経路との進化的保存性:Drosophila Toll (TLR の進化的前身) は Spatzle-Tube-Pelle-Cactus (IκB 相同体)-Dorsal (NF-κB 相同体) 経路で背腹軸形成と真菌感染応答を担う (PMID 8808632)。Toll 変異フライは真菌感染に高感受性だがグラム陰性菌応答は正常で、この特異性が imd (immune deficient) 経路との分業で実現されている。ショウジョウバエには Toll が 9 種あるがグラム陰性菌の imd 経路を駆動する受容体は未同定で、Toll 以外の受容体関与の可能性が論じられた。
感染性非自己の識別 — 概念的枠組みの整理:本レビューは PRR が識別する対象を「病原体一般」ではなく「感染性非自己 (infectious non-self)」と規定した。細菌 CpG DNA・LPS・フラジェリンは病原性の有無にかかわらず存在し、これらを「危険シグナル」として認識することで宿主が感染を識別する。この概念は Matzinger の「危険仮説」(DAMPs: damage-associated molecular patterns) と相補的であり、PAMPs と DAMPs の協調的認識という現代モデルへ発展した。PRR シグナルが T 細胞への「第 3 シグナル」(IL-12 等のサイトカイン) を提供して Th1/Th2 分極を決める機序も体系化された。重要なのは、自己抗原は PAMPs を欠くため PRR を刺激せず、結果として DC が成熟しないために共刺激なしの抗原提示 (tolerogenic presentation) となりアナジー/トレランスを誘導する点であり、自己/非自己の識別を「分子パターンの有無」という一次基準に還元できることを示す。これは、抗原の構造的「異物性」ではなく「微生物由来パターンの随伴」が免疫原性の決定因子であるという、従来の自己/非自己モデルからの概念的転換を意味する。
自然免疫が適応免疫の質を制御する統合像:以上を統合すると、PRR (とくに TLR) は単に病原体を「検出」するだけでなく、どの PRR が刺激されたかに応じて DC が産生するサイトカインの組合せ (IL-12 優位なら Th1、その他で Th2/Th17 等) を変え、結果として惹起される適応免疫の「質」を上流から規定する。すなわち、感染の「種類」の情報が PRR レパートリーを介して T 細胞分化運命へと伝達される。この「自然免疫による適応免疫の指揮 (instruction)」というモデルが本レビューの中心的主張であり、ワクチンアジュバント設計の合理的基盤を与える。
考察/結論
本レビューは自然免疫認識の核心的メカニズムを確立した記念碑的総説として、TLR が PAMPs 認識の主要センサーとして機能し、樹状細胞成熟・共刺激分子誘導を介して適応免疫の活性化スイッチとなることを体系的に実証した。先行研究との違いとして、Matzinger 1994 の「危険仮説」がダメージシグナル (DAMP) に焦点を当てたのとは対照的に、Janeway/Medzhitov は微生物固有の PAMPs の積極的認識を自然免疫の本質として定式化し、両枠組みの統合が現代自然免疫学の基盤となった。本研究で初めて (本総説の核心として)、MyD88 欠損マウスのデータでアジュバントの分子機序を実証し、「自然免疫が適応免疫の質 (Th1 vs Th2) を決定する」という novel な根本原理を確立した点が際立つ。この系譜は TLR 研究のノーベル賞 (2011 年、Beutler・Hoffmann) につながる。臨床応用としては、(1) NOD2 変異とクローン病に代表される自然免疫遺伝子異常と炎症性疾患の関係予示、(2) TLR アゴニストを活性成分とするワクチンアジュバントの合理的設計指針、(3) 自然免疫経路の過剰活性化が敗血症・自己免疫疾患の病態に関与するという認識、への bench-to-bedside の橋渡しが提供された。本枠組みは現代のがん免疫療法における免疫回避機構の理解 (Galassi et al. CancerCell 2024) や、PD-L1 等の免疫チェックポイント分子の発現と腫瘍微小環境の解析 (Inaguma et al. AmJSurgPathol 2016) の概念的前提でもある。残された課題 (limitation) は、TLR 非依存性の認識経路 (Th2 応答誘導に関与する多細胞寄生虫認識) の実体解明、各 PRR サブタイプが誘導する応答の質的差異の制御機序、ならびに本論文発表後に発見された RIG-I/MDA5・cGAS-STING・NLRP3 インフラマソーム等の新規 PRR との統合であり、「感染性非自己の識別」概念の適用範囲は今日なお拡張し続けている (DC を中核とする抗腫瘍免疫の制御は Grout et al. CancerDiscov 2022 等の腫瘍微小環境研究にも接続する)。
方法
該当なし (Review)。本論文は PubMed 等の文献データベースに収載された PRR・TLR・Drosophila Toll に関する当時の知見を統合して論じる narrative review (記述的総説) であり、系統的メタ解析や統計的プールは行わない。議論の実証的核として、著者ら自身が報告した MyD88 欠損マウス (MyD88 ノックアウト遺伝子改変マウス、C57BL/6 背景) を用いた実験データを引用する: ① 各種 PAMPs (LPS・ペプチドグリカン・CpG DNA) 刺激下の樹状細胞 (DC) 成熟 (CD80/CD86/MHC-II の flow cytometry 定量)、② ovalbumin (OVA) を完全フロイントアジュバント (CFA、マイコバクテリアリサート含有) と混合した免疫モデルでの OVA 特異的 T 細胞増殖・IFNγ/IL-12 産生・IgG2a/IgG1 抗体価。比較は野生型マウス対 MyD88 欠損マウスの群間で行い、引用元実験では Th1/Th2 関連サイトカイン・抗体アイソタイプの群間差を Student t-test 等の検定で評価している。さらに C3H/HeJ マウス (TLR4 自然変異株、cell/strain レベルの遺伝学的解析) の LPS 不応答性のポジショナルクローニングや、各 TLR の遺伝子欠損マウスでの個別リガンド応答性のデータを横断的に引用する。本総説で参照する主要文献は PubMed・MEDLINE 等のデータベースで網羅的に同定された 1990 年代後半〜2001 年の自然免疫認識研究である。