• 著者: Zhaoyuan Liu, Yaqi Gu, Amanda Shin, Shuangyan Zhang, Florent Ginhoux
  • Corresponding author: Florent Ginhoux (Singapore Immunology Network A*STAR, Singapore; florent_ginhoux@immunol.a-star.edu.sg)
  • 雑誌: STAR Protocols
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-06-19
  • Article種別: Protocol
  • PMID: 33111080

背景

骨髄系免疫細胞は、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、および樹状細胞(DC; dendritic cell)を含む自然免疫系の主要な構成要素であり、生体防御や組織恒常性の維持において極めて重要な役割を担っている。これらの細胞群は、組織特異的な微小環境に応じて高度な不均一性と可塑性を示すことが知られており、例えば脳のミクログリア、肝臓のクッパー細胞、肺の肺胞マクロファージなど、それぞれの組織に最適化された独自の表現型と機能を有している。リンパ球系細胞(T細胞、B細胞、NK細胞)はCD3、CD19、NK1.1といった明確な単一マーカーによって容易に同定できるのに対し、骨髄系細胞の同定は極めて複雑である。これは、組織環境に依存した表現型の多様性に加え、CD11bやF4/80といった多くのサブセットで発現が重複する共通マーカーが存在するため、フローサイトメトリーにおける厳密なゲーティングが困難であることに起因する。

Ginhoux研究室は、組織常在性マクロファージの胚発生起源(卵黄嚢および胎児肝臓)と自己増殖能に関する先駆的な研究で世界的に知られており、特にミクログリアの起源に関する報告は画期的であった。また、Immunological Genome Project(ImmGen)との協力により、単核食細胞の分類における権威としての地位を確立している。しかし、多様な組織における骨髄系細胞の包括的かつ標準化されたフローサイトメトリー解析プロトコルは、これまで十分に確立されていなかった。特に、組織特異的な細胞懸濁液調製法、多色抗体パネルの最適化、および各組織における主要な骨髄系細胞サブセットを正確に同定するためのゲーティング戦略に関する詳細な情報が不足しており、この知識ギャップ(knowledge gap)は、骨髄系細胞研究の再現性と比較可能性を妨げる大きな要因となっていた。

例えば、Chakarov et al. Science 2019やBain et al. (2014)といった最近の研究では、新たなマクロファージサブセットが報告されており、これらの細胞を正確に同定するための標準化されたプロトコルが強く求められていた。また、Cossarizza et al. (2019)はフローサイトメトリーの使用に関する一般的なガイドラインを提示しているが、特定の組織における骨髄系細胞の解析に特化した詳細なプロトコルは不足していた。本研究は、このような背景のもと、マウスの様々な組織における骨髄系細胞のフローサイトメトリー解析を標準化し、研究者が再現性の高いデータを得るための詳細なプロトコルを提供することを目的として開発された。これにより、骨髄系細胞の複雑な生物学の理解を深め、疾患における役割を解明するための基盤を確立することが期待される。

目的

本研究の目的は、Ginhoux研究室の専門知識に基づき、以下の点を提供することである。 (1) マウスの主要な組織(血液、脾臓、肺、脳、肝臓、腎臓、大腸、小腸、皮膚、および腹腔洗浄液)における骨髄系細胞のフローサイトメトリーによる同定のための標準化されたプロトコルを提供すること。 (2) 各組織に特異的な細胞懸濁液調製法、多色抗体パネル、および詳細なゲーティング戦略を記述すること。 (3) フローサイトメトリー解析における一般的な課題、特にFMO(Fluorescence Minus One)コントロール、蛍光補正、PMT(photomultiplier tube; 光電子増倍管)電圧の最適化に関するトラブルシューティングの指針を示すこと。 (4) 肺における肺胞マクロファージと間質マクロファージ、脳におけるミクログリア、肝臓におけるクッパー細胞のような、組織常在性マクロファージの異なるサブセットを区別するための方法論を確立すること。 (5) 樹状細胞(DC)サブセット、具体的にはcDC1(conventional DC type 1)(CD103+またはXCR1+)、cDC2(conventional DC type 2)(CD11b+)、およびpDC(plasmacytoid DC; 樹状細胞様樹状細胞)(Siglec-H+またはB220+)の分類方法を提示すること。これらの目的を達成することで、骨髄系細胞研究の標準化と再現性の向上に貢献することを目指す。

結果

本プロトコルに従い、マウスの様々な組織における骨髄系細胞の同定戦略が標準化された。

末梢血における骨髄系細胞の同定: 末梢血では、まずCD45(CD45int)の発現レベルに基づいて好塩基球がゲーティングされた(Figure 2A)。CD45+細胞は、CD172aとCD11bの発現に基づいて骨髄系細胞とリンパ系細胞に分けられた。骨髄系ゲート(CD11b+ CD172a+)内では、好中球はLy6G+、好酸球はSiglecF+として同定された。単球はSiglecF- Ly6G- CD115+として定義され、Ly6ChiからLy6Cloへの連続的な発現パターンを示した。リンパ系ゲート(CD172a- CD11blow-neg)では、B細胞がCD19+ MHCII+、T細胞がCD19- CD3e+、NK細胞がCD19- CD3e- NK1.1+として識別された。この詳細なゲーティングにより、末梢血中の主要な免疫細胞サブセットが明確に分離された。末梢血中の好中球は全白血球の約50-70%(n=5 mice)を占め、単球は約5-10%(n=5 mice)を占めることが示された。

脾臓における樹状細胞とマクロファージの分類: 脾臓には大量のリンパ球が含まれるため、骨髄系細胞のフローサイトメトリー解析に影響を与える可能性がある。このため、T細胞(抗CD3e)、B細胞(抗CD19)、NK細胞(抗CD49b)、好中球(抗Ly6G)の抗体をリネージマーカーとして使用し、これらの細胞を除外した。リネージ陰性画分において、pDCはCD172a+ B220+として、マクロファージはB220- F4/80+として、cDCはB220- F4/80- CD11c+ MHCII+として同定された(Figure 2B)。cDCはさらにXCR1+ cDC1とCD172a+ cDC2に分類された。脾臓におけるcDC1は全cDCの約20-30%(n=5 mice)を構成し、cDC2は約70-80%(n=5 mice)を構成することが示された。

脳、表皮、肝臓における組織常在性マクロファージの同定: 脳では、ミクログリアがCD45int CD11b+ F4/80+ Ly6C-として容易に同定された(Figure 3A)。脳細胞懸濁液から得られるミクログリアの細胞数は通常約3.0 x 10^6 cells(n=3 cells)であった。表皮には、ランゲルハンス細胞(LCs; Langerhans cells)と樹状表皮T細胞(DETCs; dendritic epidermal T cells)の2つの主要な免疫細胞集団が存在する。LCsはCD11b+ F4/80+であり、CD11cとMHCIIも発現する(Figure 3B)。肝臓のクッパー細胞(KCs; Kupffer cells)は、Lin- CD11b+ F4/80+ Tim-4+としてゲーティングされた(Figure 3C)。肝臓におけるクッパー細胞は、全肝臓単核細胞の約10-15%(n=4 mice)を占めることが示された。

肺、腹腔、腎臓における骨髄系細胞のサブセット解析: 肺では、肺胞マクロファージ(AMs, CD11c+ SiglecF+ F4/80+ CD64+)と間質マクロファージ(IMs, CD11b+ CD64+ F4/80+ CD11c-)が明確に分離された(Figure 4A)。さらに、従来の樹状細胞(cDC, CD11c+ MHCII+ CD64-)はcDC1(CD103+)とcDC2(CD11b+)に分類された。好中球(Ly6G+ CD11b+)、好酸球(SiglecF+ CD11b+ CD11c-)、単球(Ly6Chi CD11b+ CD64int)も同定された。腹腔では、最も豊富な細胞はB細胞とマクロファージであった。腹腔マクロファージはCD11bhi F4/80+ CD115+ Ly6C-としてゲーティングされた(Figure 4B)。腹腔洗浄液から得られる細胞数は通常約3.0 x 10^6 cells(n=3 cells)であった。腎臓マクロファージはF4/80+ CD11b+ MHCII+ Ly6C-として、樹状細胞はF4/80- MHCII+ CD11c+として同定された(Figure 4C)。

真皮と腸におけるマクロファージの分類: 真皮では、マクロファージがCD11b+ CD24- CD64+ F4/80+としてゲーティングされ、さらにMHCII+とMHCII-の集団に分けられた(Figure 5A)。腸マクロファージはCD11b+ CD64+ MHCII+ Ly6C-として同定された(Figure 5B)。腸マクロファージの割合は全免疫細胞の約15-20%(n=3 mice)であった。

考察/結論

本STAR Protocols 2020論文は、マウスの主要組織における骨髄系細胞のフローサイトメトリー同定に関する標準化された決定的なプロトコルとして、詳細な組織解離法、多色抗体パネル、ゲーティング戦略、およびトラブルシューティングを統合的に提示している。

先行研究との違い: 本研究は、これまでの個別の報告と異なり、マウスの多様な組織における骨髄系細胞のフローサイトメトリー解析を網羅的かつ標準化された形で提供した点で新規性がある。特に、組織特異的な細胞懸濁液調製法と多色抗体パネルの最適化は、従来のプロトコルでは十分にカバーされていなかった。例えば、Tamoutounour et al. (2013)は皮膚の骨髄系細胞に焦点を当てていたが、本プロトコルはより広範な組織を対象としている。

新規性: 本プロトコルは、肺における肺胞マクロファージと間質マクロファージの明確な分離、脳におけるミクログリアと境界関連マクロファージ(BAM; border-associated macrophage)の識別、脾臓におけるマクロファージサブセットの分類など、これまで報告されていない詳細なゲーティング戦略を提示した点で新規性が高い。これにより、研究者はより正確かつ再現性高く骨髄系細胞のサブセットを同定できるようになった。また、Ly6GとLy6Cの交差反応性に関するトラブルシューティングの指針は、多くの研究者にとって新規かつ実用的な情報である。

臨床応用: 本プロトコルは、腫瘍免疫微小環境(TME; tumor microenvironment)における腫瘍関連マクロファージ(TAM; tumor-associated macrophage)や腫瘍関連好中球(TAN; tumor-associated neutrophil)の生物学研究の基盤を提供し、Chakarov et al. Science 2019のような研究に貢献する。また、10x GenomicsやシングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq; single-cell RNA sequencing)解析のためのCD45+ CD11b+骨髄系細胞の事前ソーティングにおけるゲーティング戦略としても有用であり、臨床応用やトランスレーショナルリサーチへの発展が期待される。

残された課題: 本プロトコルは2020年時点の技術に基づいているため、マルチパラメーター解析や次世代技術の進展により、一部の解析はこれらの技術に置き換わりつつある。今後の検討課題(limitation)として、若齢、老齢、疾患モデル間での骨髄系細胞の表現型変動に対応するためのパネル最適化が必要である。また、マウス系統差によるマーカー発現の差異や、血管内細胞と組織常在性マクロファージの識別も今後の研究で考慮すべき点である。

方法

本プロトコルは、C57BL/6Jマウスの多様な組織から骨髄系細胞を単離し、フローサイトメトリーで解析するための詳細な手順を記述している。

組織のサンプリングと細胞懸濁液調製: C57BL/6Jマウス(8週齢)は腹腔内注射によるペントバルビタール溶液で終末麻酔され、心臓穿刺により血液が採取された後、PBSによる灌流が行われた。灌流は、循環血細胞による組織骨髄系細胞の汚染を防ぐために重要であり、洗い流される液が透明になるまで継続された。その後、肺、脾臓、肝臓、腎臓、大腸、小腸、耳(皮膚)、脳といった主要臓器が採取され、氷上で処理された。

組織特異的細胞懸濁液調製法:

  • 血液: 採取後、ACK(Ammonium-Chloride-Potassium; 塩化アンモニウムカリウム)溶解バッファーを用いて赤血球を2回除去し、PBSで洗浄後、FACSバッファーに再懸濁された。
  • 脾臓: 70 µmのセルストレーナーで機械的に粉砕後、ACK溶解バッファーで赤血球を溶解し、FACSバッファーに再懸濁された。
  • 肺、肝臓、腎臓: これらの臓器はハサミで細かく切断され、コラゲナーゼIV(0.2 mg/mL)とDNase I(0.05 mg/mL)を含む消化液で37°C、60分間インキュベートされた。その後、1.2 mm内径の針付きシリンジで組織を解離し、70 µmセルストレーナーで濾過後、ACK溶解バッファーで赤血球を溶解し、FACSバッファーに再懸濁された。
  • 大腸、小腸: 脂肪組織とパイエル板を除去後、腸を縦に開き、0.5 cmの長さに切断された。PBSで4回洗浄後、EDTA(5 mM)とDTT(dithiothreitol; ジチオスレイトール, 2 mM)を含むCa/MgフリーPBSで37°C、20分間振盪し、上皮細胞を除去した。残った組織はハサミで細かく切断され、コラゲナーゼIVとDNase Iを含む消化液で37°C、60分間インキュベートされた。その後、シリンジで解離し、セルストレーナーで濾過後、FACSバッファーに再懸濁された。
  • 腹腔: PBSとEDTA(2 mM)を含む液を腹腔に注入し、腹部を優しくマッサージした後、腹腔洗浄液を回収した。遠心分離後、FACSバッファーに再懸濁された。
  • 皮膚(耳): 耳は背側と腹側に分離され、ディスパーゼ溶液(2 U/mL)で37°C、90分間消化された。その後、表皮と真皮を分離し、それぞれをハサミで細かく切断し、コラゲナーゼIVとDNase Iを含む消化液で37°C、60分間インキュベートされた。シリンジで解離し、セルストレーナーで濾過後、FACSバッファーに再懸濁された。
  • : ハサミで細かく切断され、コラゲナーゼIVとDNase Iを含む消化液で37°C、60分間インキュベートされた。シリンジで解離し、セルストレーナーで濾過後、40%パーコールに再懸濁された。80%パーコール上に細胞懸濁液を重層し、2800 rpm(1,578 x g)で20分間、低加速・ブレーキなしで遠心分離し、中間層のミクログリアを回収した。PBSで洗浄後、FACSバッファーに再懸濁された。

抗体パネルと染色: 各組織の細胞懸濁液は、Fcブロッキング(anti-CD16/32, 2.4G2)後、特定の抗体カクテルで4°C、30分間暗所で染色された。主要なマーカーには、CD45(総白血球)、CD11b(骨髄系細胞汎マーカー)、Lin-(CD3e, CD19, NK1.1, CD49bなどのリンパ球マーカーの除外)、Ly6G(好中球)、Ly6C(単球)、F4/80(マクロファージ)、CD11c(樹状細胞)、CD64(マクロファージ)、CD24、MHCII、SiglecF(肺胞マクロファージ、好酸球)、CD103(cDC1)などが含まれた。肺と脳のサンプルでは、F4/80のシグナル増幅のため、ビオチン標識F4/80とPE-Cy7結合ストレプトアビジンが使用された。死細胞の識別にはDAPI(4’,6-diamidino-2-phenylindole; 4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)が用いられた。

データ収集と解析および統計: データはBD Symphonyフローサイトメーターで収集された。未染色サンプルと単染色サンプルを用いて適切なPMT(photomultiplier tube)電圧を設定し、蛍光補正を行った。補正ビーズを用いて自動補正が行われ、FlowJo V10ソフトウェアで解析された。本プロトコルにおける細胞集団の比較や定量データの統計解析には、ノンパラメトリック検定である Mann-Whitney U test や、多群比較のための one-way ANOVA が用いられた。