• 著者: Shani Dror, Serena Lucotti, Tetsuhiko Asao, Jianlong Li, Inbal Wortzel, Lee Shaashua Berger, Irina Matei, Nancy Boudreau, Haiying Zhang, David Jones, Jacqueline Bromberg, David Lyden
  • Corresponding author: David Lyden (Children’s Cancer and Blood Foundation Laboratories, Departments of Pediatrics, and Cell and Developmental Biology, Drukier Institute for Children’s Health, Meyer Cancer Center, Weill Cornell Medicine, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Research square
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-05-30
  • Article種別: Original Article (Preprint)
  • PMID: 38853850

背景

がんの遠隔転移はがん患者における主要な死因であり、その治療法の確立は極めて重要な課題である。転移細胞が標的臓器に生着・増殖するためには、あらかじめ微小環境が再編成された PMN (pre-metastatic niche; 前転移ニッチ) の形成が必要とされる。このPMN形成の初期段階において、肺血管の透過性亢進 (vascular permeability) は循環腫瘍細胞の血管外遊出を容易にする決定的なイベントである。先行研究において、腫瘍由来の細胞外小胞および粒子である EVPs (extracellular vesicles and particles) が遠隔臓器のPMN形成を駆動することが報告されてきた。例えば、メラノーマ由来のEVが骨髄前駆細胞をMET受容体を介して教育し前転移性表現型を誘導すること (Peinado et al. NatMed 2012)、腫瘍由来EVのインテグリンプロファイルが転移の臓器指向性を決定すること (Hoshino et al. Nature 2015)、さらに膵がん由来のEXO (exosome) が肝臓のKupffer細胞を刺激して fibronectin 産生を促し肝PMNを惹起すること (Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015) などが既報として知られている。しかしながら、これらのEVPsが肺血管内皮細胞に直接作用して障壁を破壊するのか、あるいは肺微小環境内の特定の宿主間質細胞を介して間接的に透過性を制御しているのか、その詳細な細胞間リレー機構は未解明のままであった。特に、肺組織には肺胞マクロファージ (alveolar macrophage) と間質マクロファージ (IM: interstitial macrophage) という異なるマクロファージ亜集団が存在するが、腫瘍由来EVPsがどの細胞に選択的に取り込まれ、いかなるシグナルを介して血管透過性を制御するのかという点に関する知見は著しく不足しており、研究上の大きなギャップが存在していた。また、腫瘍種によって肺血管透過性の誘導能に大きな差異が存在する理由についても、分子レベルでの解明が不十分であり、効果的な転移予防治療を開発する上での大きな障壁となっていた。

目的

本研究の目的は、腫瘍由来EVPsが肺PMNにおいて血管透過性を亢進させる詳細な細胞・分子機構を解明することである。具体的には、(1) 腫瘍由来EVPsが肺血管内皮細胞に直接作用するのか、あるいは肺常在性免疫細胞、特に間質マクロファージ (IM) を介して間接的に作用するのかを検証する。(2) EVPsを取り込んだIMが活性化される際の細胞内シグナル経路と、血管内皮障壁を破壊する最終エフェクターサイトカインを同定する。(3) 腫瘍種間における肺血管透過性誘導能の差異を規定するEVP側の特異的カーゴタンパク質をプロテオミクス解析により同定し、その機能を検証する。(4) 臨床における関連性を実証するため、ヒト肺がん患者から切除された非癌部肺組織標本を用いて、同定された機構が実際のヒト病態でも再現されているかを多角的に検証することである。

結果

腫瘍由来EVPによる肺血管透過性の早期亢進: マウスに B16F10 メラノーマ細胞を皮下移植したモデルにおいて、移植後わずか 2 days の極めて早期の段階で肺血管における Dextran の漏出(透過性亢進)が有意に観察された (Fig. 1b)。この血管漏出の 80% 以上は、毛細血管ではなく、von Willebrand Factor (vWF) 陽性の太いマクロ血管(動脈および静脈)の周囲で選択的に発生していた (Fig. 1e, f)。さらに、担がんマウスから単離した B16F10 または K7M2 由来のEVPs (10 μg) をナイーブマウス (n=10 mice) に静脈内投与したところ、投与後わずか 1 hour で担がんマウスと同等の肺血管透過性亢進が惹起された (Fig. 1g)。一方で、低転移性の 67NR や正常細胞 Melan-A 由来のEVPs、あるいはEVPを除去した条件培地の投与では透過性の変化は認められなかった (Fig. 1h, Extended Fig. 1d)。この 1 hour という極めて迅速な反応から、当初はEVPが血管内皮細胞に直接作用していると予想されたが、in vitro において HPAEC (n=3 replicates) に対し B16F10 EVP を直接添加しても透過性の亢進は全く認められなかった (Fig. 3e)。

間質マクロファージ (IM) によるEVP依存的血管透過性の媒介: フローサイトメトリー解析により、静注された蛍光標識EVPは肺血管内皮細胞 (CD31+) にも取り込まれるが、それ以上に CD45+ 免疫細胞、特に F4/80+ マクロファージに極めて高効率に取り込まれることが判明した (Fig. 3a, b)。マクロファージ亜集団のうち、肺胞マクロファージ (AM) ではなく、血管近傍に局在する間質マクロファージ (IM) がEVP取り込みの主たる主体であった (Fig. 3d)。そこで、各種細胞の特異的枯渇実験を行ったところ、clodronate liposome によるAMの枯渇や抗Ly6G抗体による好中球の枯渇はEVP依存的な血管透過性に影響を与えなかったが、抗CSF1R抗体を用いたIMの特異的枯渇 (n=10 mice) により、B16F10 EVP投与による血管漏出は 80% 以上、K7M2 EVPによる漏出は 55% 以上有意に抑制された (Fig. 3f, Extended Fig. 3d)。さらに、ex vivo で単離したIMに B16F10 EVP を 3 hours 作用させて得た条件培地 (IM secretome) を HPAEC (n=3 cells) に添加したところ、内皮単層の透過性が 45% 有意に亢進した (Fig. 4b)。これにより、EVPを取り込んだIMから分泌される可溶性因子が血管障壁を破壊する直接の因子であることが実証された。

IMにおけるJAK/STAT経路活性化とIL-6分泌リレー: EVPを取り込んだIMの機能変化を解明するため、in vivo でEVPを取り込んだIMをソートし RNA-seq 解析を行った。遺伝子セット富飾解析 (GSEA) の結果、EVPの取り込みによってIM内で「IL-6/STAT3シグナル経路」および「炎症反応」に関連する遺伝子群が著しく活性化していることが同定された (Fig. 4c)。さらに、EVP処理したIM (n=3 replicates) の分泌プロテオーム解析(サイトカインアレイ)および RT-qPCR 解析により、B16F10 および K7M2 由来のEVPは、IMにおける IL-6、CXCL2、CCL3、TNF-α の発現および分泌を著しく誘導することが示された (Fig. 4d, Extended Fig. 4d)。これらのサイトカインに対する中和抗体をマウスに前投与したところ、抗IL-6中和抗体の投与によってのみ、EVP依存的な肺血管透過性亢進がほぼ完全に消失した (Fig. 4e, p<0.01)。また、リコンビナント IL-6 (40 nM) の直接投与は、in vitro および in vivo の両方で血管内皮細胞の VE-cadherin および ZO-1 の局在を破壊し、血管透過性を直接亢進させた (Fig. 4f, g, h)。IMを枯渇させたマウスにおいて、EVPは透過性を誘導できないが、リコンビナント IL-6 を投与すると血管透過性が回復したことから、IL-6 がIMの下流で機能する必須のエフェクターであることが確認された (Extended Fig. 4f)。

EVPカーゴとしてのインテグリンα5 (ITGα5) の同定と機能検証: なぜ特定の腫瘍由来EVPのみが強力に血管透過性を誘導できるのかを解明するため、B16F10、K7M2(高透過性誘導)、4T1、Melan-A(低透過性誘導)のEVPプロテオームを質量分析により比較した。その結果、高透過性誘導EVPにおいて、細胞外マトリックス接着に関与するインテグリンα5 (ITGα5) が特異的に高発現していることが判明した (Fig. 5a, b)。CRISPR/Cas9 を用いて B16F10 および K7M2 細胞の ITGα5 をノックアウト (KO) すると、分泌されるEVPの粒子径やIMへの取り込み効率自体には変化がなかったが (Extended Fig. 5f, g)、ITGα5 KO EVP を投与されたマウス (n=10 mice) では肺血管透過性が 50% 以上有意に低下した (Fig. 5d, p<0.01)。さらに、ITGα5 KO EVP を作用させたIMでは、IL-6/STAT3 経路の活性化および IL-6、CXCL2 の遺伝子発現が著しく減弱していた (Fig. 5l, m)。また、ITGα5 KO 腫瘍を移植したマウスでは、野生型腫瘍移植マウスと比較して、肺PMNにおける血管透過性が 70% 有意に抑制された (Fig. 5e, p<0.001)。

血管透過性亢進によるがん細胞外遊出と肺転移の促進: EVP-IM-IL-6(間質マクロファージ-インターロイキン-6)軸による早期の血管透過性亢進が、実際の転移形成に及ぼす影響を検証した。ナイーブマウス (n=10 mice) に B16F10 EVP を単回静注し、1時間後に B16F10 がん細胞を静注したところ、14日後の肺転移結節数は PBS 対照群と比較して 2.5-fold increase(2.5倍に増加、p<0.01)と有意に増加した (Fig. 2b)。一方、透過性を誘導しない Melan-A EVP では転移促進効果は認められなかった。同様に、K7M2 EVP の前投与は 4T1 乳がん細胞の肺転移を 7-fold increase(7倍に増加、p<0.01)と有意に増加させた (Fig. 2d)。3Dイメージング解析により、B16F10 EVP の単回前投与は、静注後 4 days 時点におけるがん細胞の肺実質への外遊出 (extravasation) 効率を 35% 有意に上昇させることが実証された (Fig. 2g, p<0.05)。さらに、IMの枯渇 (Fig. 3h, i)、抗IL-6中和抗体の投与 (Fig. 4i, j)、あるいはEVPにおける ITGα5 の欠損 (Fig. 5h, i) は、いずれもEVP依存的ながん細胞の外遊出および肺転移結節の形成を 50% 以上有意に抑制した。

ヒト肺がん患者標本における臨床的相関: 実際のヒト病態における本機構の関与を検証するため、肺がん患者 (Stage IAI-IIB: early-stage lung cancer) の切除標本 (n=8 patients) から、腫瘍隣接非病変肺組織 (tumor-adjacent normal) と、同一患者の遠位肺組織 (distal normal) からIMを単離して比較した。免疫組織化学的解析の結果、腫瘍組織において ITGα5 の高発現が確認されるとともに、腫瘍に隣接する非病変肺組織のIMにおける IL-6 の発現レベルは、遠位肺組織のIMと比較して有意に上昇していることが実証された (Fig. 6a, b, p<0.05)。これは、ヒト肺がんにおいても、腫瘍由来因子(EVP)が遠隔的・局所的にIMを再プログラミングし、IL-6を介した前転移微小環境を形成していることを強く支持する臨床的証拠である。

考察/結論

本研究は、腫瘍由来EVPsが肺PMNにおいて血管透過性を亢進させ、転移を促進する新たな細胞間リレー機構を解明した。

先行研究との違い: 従来の知見では腫瘍由来EVPs(特に内包されるmiRNAや膜タンパク質)が血管内皮細胞に直接作用して密着結合を破壊するというモデルが主流であったが (Zhou et al. CancerCell 2014, Zeng et al. NatCommun 2018)、本研究はそれらと異なり、EVPが内皮細胞に直接作用するのではなく、肺常在性の間質マクロファージ (IM) を介して間接的に透過性を制御しているという画期的なパラダイムを提示した。これは、膵がん由来EVが肝臓のKupffer細胞を教育する機構 (Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015) と並び、臓器特異的なPMN形成における常在性マクロファージの重要性を肺においても確立したものである。

新規性: 本研究で初めて、腫瘍由来EVPに濃縮された ITGα5 が肺IMに選択的に作用し、JAK/STAT3(ヤヌスキナーゼ/シグナル伝達並びに転写活性化因子3)経路の活性化を介して IL-6 の一過性かつ大量の分泌を誘導する「EVP-IM-IL-6リレー軸」を新規に同定した。特に、EVP投与後わずか 1 hour という極めて迅速なキネティクスで血管透過性が亢進する現象の背後に、血管近傍に局在するIMの迅速な活性化とサイトカイン分泌が存在することを突き止めた点は、これまでに報告されていない新規の知見である。

臨床応用: 本研究で同定された ITGα5-IM-IL-6 経路は、がんの遠隔転移を標的とした新たな予防・治療戦略の論理的基盤となる。臨床的有用性として、(1) すでに臨床で使用されている抗IL-6受容体抗体(トシリズマブなど)やJAK阻害剤(ルキソリチニブなど)を用いた、PMN形成および転移播種の阻害治療、(2) ITGα5 阻害抗体や小分子化合物を用いた腫瘍由来EVPの活性化能の無効化、(3) 患者血中EVPにおける ITGα5 発現量を測定することによる、肺転移リスクの早期診断バイオマーカーとしての臨床応用が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、第一に本研究はプレプリント段階の論文であり、今後さらに詳細な査読プロセスを経る必要がある。第二に、IMがEVPを取り込む際の受容体(ITGα5のリガンドとなるフィブロネクチンなどの関与)の同定や、IL-6 以外のIM分泌因子(CXCL2など)の血管透過性への協調的寄与の定量的な評価が不十分である。第三に、IM特異的な遺伝子欠損マウス(Pf4-Cre: platelet factor 4-Cre などを交配したモデル)を用いた、より厳密な遺伝学的アプローチによるIMの機能証明が今後の課題として挙げられる。

方法

細胞株およびマウスモデル: マウスメラノーマ細胞株 B16F10、骨肉腫細胞株 K7M2 (osteosarcoma cell line K7M2)、高転移性乳がん細胞株 4T1、低転移性乳がん細胞株 67NR、正常メラノサイト Melan-A (normal melanocyte cell line Melan-A) を使用した。マウスは 7-12 週齢の C57BL/6J および BALB/c を使用した。 EVPの単離と特性評価: 超遠心法 (sequential ultracentrifugation) を用いて細胞培養上清または腫瘍組織からEVPsを精製した。NTA (nanoparticle tracking analysis) および透過電子顕微鏡 TEM (transmission electron microscopy) により粒子径と形態を検証した。 血管透過性アッセイ: in vivo では、10 μg のEVPsをマウスに後眼窩静脈叢 (retro-orbital) から単回投与し、1時間後に Rhodamine B 標識 Dextran (70,000 MW) を静注して肺組織への漏出を共焦点顕微鏡で定量した。in vitro では、ヒト肺動脈内皮細胞 HPAEC (human pulmonary artery endothelial cell) をトランスウェル上で培養して単層を形成させ、Dextran の透過量を測定した。 肺免疫細胞プロファイリング: 肺組織を酵素消化し、フローサイトメトリー (Liu et al. STARProtoc 2020) および FACS (fluorescence-activated cell sorting) を用いて、間質マクロファージ (IM: CD11b+ F4/80+ Siglec-F- Ly6C-) と肺胞マクロファージ (AM: CD11b+ F4/80+ Siglec-F+) を分離した。 細胞特異的枯渇および中和実験: clodronate liposome の経鼻投与によりAMを、抗CSF1R抗体の腹腔内投与によりIMを、抗Ly6G抗体により好中球を特異的に枯渇させた。また、抗IL-6、抗TNF-α、抗CCL3、抗CXCL2中和抗体を投与した。 遺伝子操作: CRISPR/Cas9 システムを用いて B16F10 および K7M2 細胞のインテグリンα5 (ITGα5) をノックアウト (KO) した。 統計解析: 群間比較には Student’s t-test または one-way ANOVA (Tukey’s post-hoc test) を用い、有意水準は p<0.05 とした。