- 著者: Svetoslav Chakarov, Hwee Ying Lim, Leonard Tan, Sheau Yng Lim, Peter See, Josephine Lum, Xiao-Meng Zhang, Shihui Foo, Satoshi Nakamizo, Kaibo Duan, Wan Ting Kong, Regine Gentek, Akhila Balachander, Daniel Carbajo, Charles-Antoine Dutertre, Bernett Lee, Jinmiao Chen, Baptiste Janela, Oliver B. Kelly, Peter Ginhoux, Florent Ginhoux
- Corresponding author: Florent Ginhoux (Singapore Immunology Network (SIgN), A*STAR, 8A Biomedical Grove, Immunos Building, Level 3, Singapore 138648; florent_ginhoux@immunol-a-star.edu.sg)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-02-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 30872492
背景
組織常在マクロファージ (RTM; resident tissue macrophage) は、自然免疫、組織恒常性、線維化、および修復において主要な役割を果たす。脳のミクログリアや肺胞マクロファージ (AM; alveolar macrophage) など、特定の臓器では独特のRTMが自己複製により維持されている。しかし、結合組織や実質に存在する間質マクロファージ (IM; interstitial macrophage) は、その定義と分類が極めて曖昧であった。複数の表現型を持つ異なるIMサブポピュレーションの存在が示唆されてきたものの (Gibbings et al. AmJRespirCellMolBiol 2017)、そのサブセット分類、発生由来、および機能については系統的な理解が不足していた。特に、IMの多様性が単一の細胞系統の成熟・活性化状態の連続体を表すのか、あるいは独立した集団であるのかという課題が未解明のまま残されていた。これまでの研究では、IMの不均一性を高解像度かつ組織横断的に解析した知見が不足しており、特定の微小環境ニッチとの関連性も不明であった。単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq; single-cell RNA sequencing) と系統追跡を統合したアプローチにより、多組織横断的なIM分類が必要とされていた。Singapore A*STARのFlorent Ginhoux研究室は、肺、脂肪、心臓、真皮におけるscRNA-seq、系統追跡、および空間画像化を組み合わせたトライアンギュレーションにより、決定的な汎組織IM分類を試みた。
目的
本研究の目的は、マウスおよびヒトの複数組織(肺、脂肪、心臓、真皮など)において共存する間質マクロファージ (IM) の不均一性を単一細胞レベルで解明し、組織横断的に保存されたサブセットを定義することである。具体的には、(1) scRNA-seqによりIMのサブセットを同定し、組織横断的な保存性を検証すること、(2) 系統追跡モデルを用いて、これらが単球由来か組織常在起源かを解明すること、(3) 空間画像化(共焦点顕微鏡および全組織透明化)により、特定の微小環境ニッチ(血管周囲、神経周囲)への局在を確立すること、(4) 新規マクロファージ枯渇モデルである Slco2b1 (solute carrier organic anion transporter family member 2B1) 遺伝子標的マウスを用いて、ブレオマイシン誘発肺線維症およびイソプレナリン誘発心線維症モデルにおける各サブセットの機能的役割を検証すること、(5) ヒト肺および脂肪のscRNA-seqデータを用いて、得られた知見の臨床的・進化的保存性を確認すること、を目的とした。
結果
scRNA-seqによる組織横断的IMサブセットの同定: マウス肺から単離したIMの単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) 解析 (n=1309 cells) により、遺伝子発現プロファイルの異なる2つの明確な細胞クラスター(クラスター1およびクラスター2)が同定された (Fig 1A-C)。クラスター2は創傷治癒関連遺伝子 (Tfgb2, Plaur) や Lyve1、Mrc1 を高発現し、クラスター1はMHCクラスII関連遺伝子 (H2-Aa, H2-Ab1) および Cx3cr1 を高発現していた。フローサイトメトリー解析でも、IMは LYVE1^hi MHCII^lo CX3CR1^lo(クラスター2に相当)と LYVE1^lo MHCII^hi CX3CR1^hi(クラスター1に相当)の2群に明確に分離された。バルクRNA-seq解析では、これら2つのサブセット間で1837個の有意な差次発現遺伝子 (DEGs) が検出された。この二分法は、肺だけでなく、心臓、脂肪、真皮においても高度に保存されており、組織特異的な発現シグネチャーを除去した主成分分析 (PCA) において、細胞サブセットごとに明確なクラスターを形成した。
発生由来と系統追跡による独立系統の証明: S100a4-Cre-Rosa-EYFP運命追跡モデルにおいて、両IMサブセットのEYFP (enhanced yellow fluorescent protein) 陽性率は出生時の約50%から週齢とともに上昇し、20週齢までに約80%に達した。パラバイオシスモデル(CD45.1+ WTとCD45.2+ Ccr2-/-マウスの接合)では、接合6ヶ月後にCD45.2+ Ccr2-/-宿主の肺において、CD45.1+ WTドナー由来細胞が LYVE1^lo MHCII^hi および LYVE1^hi MHCII^lo IMのそれぞれ約 20% を再構成しており、両集団がCCR2依存性の血中単球から継続的に補充されることが示された。さらに、Cx3cr1-CreER-Rosa-EYFPモデルを用いたタモキシフェンパルス実験では、LYVE1^lo MHCII^hi IMは効率的にEYFP標識されたが、LYVE1^hi MHCII^lo IMへの移行は観察されず、両者が独立した系統であることが証明された。
空間的局在と微小環境ニッチの分離: 共焦点顕微鏡および組織透明化技術を用いた3D画像化により、2つのサブセットが異なる解剖学的ニッチに局在することが明らかになった。LYVE1^hi MHCII^lo IMは、CD31+血管の周囲に密接に並んで局在していた (Fig 5A-C)。これに対し、LYVE1^lo MHCII^hi IMは、TUBB3+またはPGP9.5+の末梢神経束および神経線維の周囲に選択的に局在していた (Fig 5D-F)。この血管周囲ニッチと神経周囲ニッチの分離は、肺、心臓、脂肪、真皮のすべての組織において共通して観察された。
線維化モデルにおけるLYVE1^hi MHCII^lo IMの保護的役割: 新規作製した Lyve1-Cre/GFP-Slco2b1^flox/DTR マウスにおいて、ジフテリアトキシン (DTx) 投与により LYVE1^hi MHCII^lo IMを 80% 以上選択的に急性枯渇させた (n=4 mice per group) (Fig 6A)。この状態でブレオマイシン誘発肺線維症を惹起すると、対照群と比較して著しい体重減少、肺組織におけるコラーゲン沈着の約 2.0-fold increase (p<0.001) (Fig 6D)、およびSiglecF- MerTK+ CD64+炎症性マクロファージの浸潤亢進が観察された。また、枯渇群の肺では、投与3日目にMIP-1a (CCL3) や CCL22 などの炎症性ケモカインが有意に増加していた (MIP-1aで log2FC 1.8, p=0.003) (Fig 6F)。さらに、LYVE1^hi MHCII^lo IMの枯渇により血管透過性が亢進し、Evans blue色素の漏出が 2.5-fold increase (p<0.001) した (Fig 6H)。生体内イメージング解析では、枯渇マウスの肺において、静脈内投与された ubi-GFP+ 単球の浸潤速度が低下し、血管壁への接着時間(track duration)が有意に延長した (p<0.01) (Fig 6J)。
ヒト組織における進化的保存性: ヒト肺組織のscRNA-seqデータ (Lambrechts et al. NatMed 2018) を用いたcMAP解析により、解析した3873個のヒト肺マクロファージのうち、754細胞がマウスの LYVE1^lo MHCII^hi IMに、1003細胞が LYVE1^hi MHCII^lo IMに類似した転写プロファイルを示し、ヒトにおいてもこの二分法が保存されていることが確認された (Fig 3E)。
考察/結論
本研究は、これまで不均一で定義が曖昧であった組織間質マクロファージ (IM) について、組織横断的に保存された2つの独立した系統(神経周囲の LYVE1^lo MHCII^hi と血管周囲の LYVE1^hi MHCII^lo)が存在することを単一細胞レベルで明らかにした。
先行研究との違い: 従来の肺IM研究では、表現型が異なる3つのサブポピュレーションの存在が提唱されていたが (Gibbings et al. AmJRespirCellMolBiol 2017)、本研究はscRNA-seqおよび運命追跡モデルを駆使することで、実際には2つの独立した単球由来系統が共存していることを明確に示した点で大きく異なる。また、これらが単なる活性化状態の連続体ではなく、発生段階から分岐した独立系統であることを証明した点も従来の知見と対照的である。
新規性: 本研究は、単球由来マクロファージが組織に浸潤した後に、血管周囲および神経周囲という特定の微小環境ニッチからのシグナルを受けて、それぞれ LYVE1^hi MHCII^lo および LYVE1^lo MHCII^hi へと機能的に分化することを本研究で初めて明らかにした。特に、血管周囲の LYVE1^hi MHCII^lo IMが血管の完全性を維持し、線維化シグナルを抑制する保護的役割を担っていることは、これまで報告されていない新規の発見である。
臨床応用: 本知見は、特発性肺線維症 (IPF; idiopathic pulmonary fibrosis) や心筋線維症などの難治性線維性疾患における、新たな治療標的の同定に直結する。臨床的意義として、線維化を抑制する LYVE1^hi MHCII^lo IMの生存・機能を特異的に高める治療薬(例:CSF1Rシグナル調節やIL-10経路の強化)や、炎症を惹起する神経周囲IMの活性化を抑制するアプローチなど、ニッチ特異的なマクロファージ標的療法の開発が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、Slco2b1やLyve1を用いた遺伝学的標的モデルが非造血系細胞(内皮細胞など)にも一部発現しているため、骨髄移植モデルを必要とする点など、モデルの特異性におけるlimitationが挙げられる。また、定常状態における単球からの補充速度や、加齢・慢性炎症下における各サブセットの動態変化、さらにはヒトの病態組織におけるこれらサブセットの局在変化と機能的役割について、単一細胞空間トランスクリプトミクス等を用いたさらなる詳細な解析が今後の研究方向性として必要である。
方法
動物モデルと系統追跡: C57BL/6J、LysM-Cre、Csf1r-Cre、CX3CR1-GFP、Ms4a3-Cre-tdTomato、Lyve1-CreERT2、Ccr2-KOマウスを用いた。また、マクロファージ特異的プロモーター制御下でジフテリアトキシン受容体 (DTR; diphtheria toxin receptor) を発現する新規モデルとして、Slco2b1遺伝子の3’非翻訳領域に IRES-LoxP-STOP-LoxP-hDTR (internal ribosomal entry site - LoxP - transcriptional stopper - human diphtheria toxin receptor) カセットを挿入した Slco2b1^flox/DTR マウスを作製し、LyzM-CreまたはLyve1-Cre/GFPマウスと交配させた。 組織解析とフローサイトメトリー: 肺、脂肪(内臓白色脂肪組織)、心臓、真皮、大動脈を酵素消化し、単一細胞懸濁液を調製した。フローサイトメトリーおよびFACS (fluorescence-activated cell sorting) ソートには、LYVE1 (lymphatic vessel endothelial hyaluronan receptor 1)、MHCII (major histocompatibility complex class II)、CD64、F4/80、CD11b、CD11c、Ly6C、CX3CR1、TIM4、SIRPαなどの多色抗体パネルを使用した。 単一細胞およびバルクRNAシーケンス: FACS精製した単一細胞からSmart-seq2プロトコルを用いてcDNAライブラリーを調製し、Illumina HiSeq 2000でシーケンスを行った。バルクRNA-seqデータとの比較にはConnectivity Map (cMAP) 解析を適用した。 空間画像化と3Dイメージング: iDISCO (immunolabeling-enabled three-dimensional imaging of solvent-cleared organs) 組織透明化、ライトシート顕微鏡、および共焦点免疫蛍光染色(LYVE1、MHCII、CD31血管マーカー、PGP9.5またはTUBB3神経マーカー)を実施した。 線維化モデルと透過性評価: 肺ブレオマイシン誘発線維症および心臓イソプレナリン誘発線維症モデルを用いて、線維化組織の変化を評価した。統計解析には2群間比較の Student t-test、多群比較の two-way ANOVA (two-way analysis of variance) を適用した。