• 著者: Chen Chen, Bongsoo Park, Emeline Ragonnaud, Monica Bodogai, Xin Wang, Le Zong, Jung-Min Lee, Isabel Beerman, Arya Biragyn
  • Corresponding author: Arya Biragyn (Immunoregulation Section, Laboratory of Immunology and Molecular Biology, National Institute on Aging, NIH, Baltimore, MD)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-09-13
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36104343

背景

腫瘍微小環境である TME (tumor microenvironment) において、腫瘍関連マクロファージである TAM (tumor-associated macrophage) は、腫瘍の進展、免疫抑制、転移促進、および血管新生において極めて重要な役割を果たすことが知られている。従来の定説では、TAMは主に骨髄である BM (bone marrow) 由来の単球から、M-CSF (macrophage colony-stimulating factor) などのサイトカイン刺激を介して分化・誘導されると考えられてきた。一方、B細胞系統が腫瘍免疫において果たす役割は極めて複雑であり、促進的および抑制的な双方向の作用を持つことが報告されている。著者らのグループによる先行研究では、がん細胞が分泌する TSLP (thymic stromal lymphopoietin) が骨髄B細胞前駆体である BMBP (bone marrow B-cell precursor) を脾臓へと動員し、免疫抑制性のTGF-β陽性CD25陽性 tBregs (tumor-evoked regulatory B cells) へと変換させ、がんの転移を促進することを明らかにしている。系統発生学的には、多能性前駆細胞から骨髄系とリンパ系の分岐が起こった後にB細胞前駆体の運命が決定されるが、転写因子の強制発現や欠失実験などの人工的な操作によって、B細胞前駆体がマクロファージへと分化転換 (transdifferentiation) し得ることが示されてきた。また、未処置のnaïveマウスにおいても、非再構成型のB細胞受容体である BCR (B-cell receptor) 遺伝子を持つ極めて少数の二表現型pro-B細胞がマクロファージ様表現型を獲得することが既報で観察されている。しかしながら、実際のがん病態下において、がん細胞がこのB細胞からマクロファージへの分化転換経路を能動的に利用しているか否か、またその詳細な分子機構や生成される細胞群の機能的意義については、これまで未解明であり、学術的なgapが存在していた。がん微小環境におけるTAMの起源の多様性に関する理解は依然として不足しており、単球以外の細胞源からTAMが供給される可能性についての検証は不十分であった。乳がんなどの微小環境における単一細胞解析 Azizi et al. Cell 2018 においても、多様な免疫細胞のフェノタイプが報告されているが、B細胞由来のマクロファージ様細胞の存在とその動態については詳細な検討がなされていなかった。

目的

本研究の目的は、がん細胞が骨髄B細胞前駆体 (BMBP) をマクロファージ様細胞である B-MF (B-cell-derived macrophage-like cell) へと分化転換 (transdifferentiation) させる現象 (co-opt) を利用しているか否かを、複数のマウス腫瘍モデルおよびヒトのがん患者検体を用いて検証することである。さらに、この分化転換によって生じるB-MFが、従来の単球由来マクロファージである Mo-MF (monocyte-derived macrophage) とは異なる独自の転写プロファイル、代謝特性、および強力な免疫抑制能を有しているかを明らかにする。加えて、この transdifferentiation を駆動するがん分泌因子と受容体シグナル、および下流の転写因子である Pax5 (paired box 5) からなる分子軸 (M-CSF/CSF1R/Pax5軸、ここで CSF1R (colony-stimulating factor 1 receptor) はM-CSF受容体である) を同定し、この経路を標的とした新規がん免疫療法の可能性を提示することを目的とする。

結果

腫瘍微小環境におけるB細胞マーカー共発現TAM (B-MF) の同定: 4T1.2乳がん (BALB/c) およびMC38大腸がん (C57BL/6) マウスモデルの腫瘍組織において、マクロファージマーカー (F4/80+CD11b+) とB細胞マーカー (CD19+、CD79a+) を共発現するユニークな腫瘍関連マクロファージ (TAM) サブセット (B-MF) が同定された (Fig 1)。このB-MFは、B細胞欠損マウスであるμMTマウス (n=6 mice) やJHTマウス (n=4 mice) の腫瘍内ではほぼ完全に消失していた (p=0.0011およびp=0.0033) (Fig 1)。B-MFは、通常の単球由来マクロファージ (CD79a- TAM) と比較して、CD20、IgM、IgD、CD206、IL-4Rαを高発現しており、さらに細胞内遊離コレステロールを検出するFilipin IIIの結合能が有意に高かった。免疫組織化学染色 (IHC) においても、腫瘍内にCD19+CD68+の共陽性細胞が少数ながら明確に観察され、がん微小環境においてB細胞系統に由来するマクロファージ様細胞が存在することが裏付けられた (Fig 1)。

がん細胞分泌因子による骨髄B細胞前駆体 (BMBP) の分化転換: FACSにより超高純度 (>99%) で分取した骨髄由来のBMBP (n=3 replicates) を、4T1.2乳がん細胞の培養上清 (4T1.2-CM) 中で培養したところ、CD19+B220+の表現型から段階的にCD11b+F4/80+IgM+の細胞へと分化転換 (transdifferentiation) することが示された (Fig 2)。この現象は、CD45.1およびCD45.2同種抗原を用いた共培養実験、およびin vivoでのID8卵巣がん担がんマウス (n=3 mice) への養子移入実験により、細胞融合やトロゴサイトーシスによる偽陽性ではなく、90%以上が真の分化転換であることが証明された (p=0.0144) (Fig 2)。この分化転換能は、BM由来のCSF1R+CD93+CD19+前駆細胞およびpre-B細胞株 (70z/3) に限定されており、末梢の脾臓やリンパ節である LN (lymph node) 由来の成熟B細胞では観察されなかった (p=0.0002) (Fig 2)。また、B16-F10メラノーマを除くほぼすべてのがん細胞株のCMにおいて、同様のB-MF誘導能が確認された (Fig 2)。

B-MFと単球由来マクロファージ (Mo-MF) の転写・機能的相違: マイクロアレイおよび単一細胞RNA-seq (B-MF: 10,563細胞、Mo-MF: 10,235細胞) を用いた解析により、B-MFとMo-MFは主成分分析 (PCA) において明確に異なるクラスターへと分離した (Fig 3)。B-MFはMo-MFと比較して、脂肪酸代謝、酸化的リン酸化、細胞周期、およびステロイド・コレステロール生合成に関連する遺伝子群を有意にアップレギュレート (log2FC > 1.5) しており、一方でプロ炎症性およびIFN-γ応答遺伝子群をダウンレギュレートしていた (Fig 3)。機能的にも、B-MFは高い自己増殖能 (BrdU取り込み陽性) を示し、アポトーシスに陥ったがん細胞に対する貪食能がMo-MFと比較して有意に高かった (p<0.0001) (Fig 4)。さらに、in vitroのT細胞増殖抑制アッセイにおいて、B-MFはCD4+ T細胞の増殖を強力かつ用量依存的に抑制し (p<0.0001)、FoxP3+ Tregへの分化を促進した (Fig 4)。

M-CSF/CSF1R/Pax5軸による分化転換の制御: がん細胞が分泌するM-CSF (4T1.2-CM中で数千pg/mLの高濃度で検出) が、BMBP上のCSF1Rに作用することで分化転換を駆動することが明らかになった (Fig 5)。B細胞特異的CSF1R欠損 (Mb1-CSF1R^Flox/Flox) マウス由来のBMBP (n=6 mice) では、がんCMによるB-MFへの分化転換が著しく阻害された (p<0.0001) (Fig 5)。M-CSF/CSF1Rシグナルは、B細胞の必須転写因子であるPax5の発現を低下させ (p=0.0025)、骨髄系遺伝子群の脱抑制を引き起こすことが確認された (Fig 6)。ATAC-seq解析により、骨髄由来のCSF1R+ BMBPはCSF1R-細胞と比較して、マクロファージ分化に関与するERGおよびRUNX1の結合領域のクロマチンアクセシビリティが有意に高く (FDR < 0.05, fold change > 1.5)、分化転換に対してpermissiveな状態にあることが示された (Fig 6)。

B-MFの移入によるin vivoでの腫瘍進展および転移の促進: μMTマウスにin vitroで生成したB-MFを養子移入すると、対照群と比較してB16-F10腫瘍の重量が有意に増加し (p<0.01)、4T1.2乳がんの肺転移病巣数が増加した (p<0.05) (Fig 4)。このとき、腫瘍内の抗腫瘍性IFN-γ+CD4+ T細胞の頻度および絶対数が有意に減少していた (p=0.0018およびp=0.0353) (Fig 4)。さらに、乳がんおよび卵巣がん患者の末梢血においても、CSF1R+ BMBPの有意な増加 (p=0.0002) とB-MF様の転写シグネチャーが確認された (Fig 6)。これらの結果から、がん細胞が分泌するM-CSFを介して誘導されたB-MFが、抗腫瘍性T細胞免疫を抑制することで、がんの進展および転移を強力に促進することがin vivoで実証された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、TAMが主に骨髄由来の単球 (monocyte) から分化するというこれまでの定説と異なり、骨髄のB細胞前駆体 (BMBP) ががん細胞の分泌するM-CSFによってマクロファージ様細胞 (B-MF) へと分化転換し、TAMの重要な供給源となっていることを示した。この知見は、単球系のみをTAMの起源とする従来のパラダイムを覆すものであり、TAMの起源における不均一性 (heterogeneity) を根本的に拡張するものである。

新規性: 本研究は、がん細胞が分泌するM-CSFが、骨髄から動員されたCSF1R+Pax5LowのBMBPにおいて転写因子Pax5の発現を低下させ、骨髄系遺伝子の脱抑制を介してマクロファージへの分化転換を誘導する分子機構を本研究で初めて明らかにした。また、B-MFが単球由来マクロファージ (Mo-MF) とは異なる独自の脂質代謝特性や自己増殖能を持ち、抗腫瘍性IFN-γ+CD4+ T細胞を特異的に抑制することで腫瘍進展を促進するという新規の免疫抑制機構を同定した。

臨床応用: 本知見は、がん微小環境における免疫抑制ネットワークを標的とした新規治療戦略の臨床応用に直結する。特に、CSF1R阻害剤 (pexidartinibなど) やM-CSF中和抗体を用いた治療が、従来の単球由来マクロファージだけでなく、より強力な免疫抑制能を持つB-MFの生成をも抑制し得るという臨床的意義を示す。また、乳がんや卵巣がん患者の末梢血におけるCSF1R+ BMBPの増加は、病勢進行や治療抵抗性を予測する臨床的有用性の高いバイオマーカーとなる可能性を指し示している。

残された課題: 今後の検討課題として、ヒトのがん組織におけるB-MFの系統追跡 (lineage tracing) をより厳密に実証すること、およびB-MFをMo-MFから明確に区別して治療標的とするための特異的表面マーカーを同定することが挙げられる。また、本研究におけるlimitationとして、マウスモデルにおけるB-MFの機能解析が中心であり、ヒト臨床検体におけるB-MFの機能的寄与についてはさらなる検証が必要である。さらに、B細胞特異的なCSF1R阻害が正常なB細胞免疫応答に与える影響についても、今後の研究において慎重に評価されるべきである。

方法

マウスモデルとして、BALB/c背景の4T1.2乳がん同所性移植モデル、C57BL/6背景のMC38大腸がんおよびB16-F10メラノーマの皮下移植モデル、さらに ID8 (mouse ovarian surface epithelial cell line) 卵巣がんの腹腔内播種モデルを使用した。B細胞欠損マウスとしてμMTマウスおよびJHTマウスを用いた。また、B細胞特異的に EYFP (enhanced yellow fluorescent protein) を発現するMb1-Cre/Rosa-EYFP (Mb1-EYFP) マウス、およびB細胞特異的にCSF1Rを欠損するMb1-CSF1R^Flox/Floxマウスを樹立して実験に供した。フローサイトメトリーである FACS (fluorescence-activated cell sorting) による細胞分離および解析は、既報のプロトコル Liu et al. STARProtoc 2020 に準拠して、Welchのt検定 (t-test) などの統計解析を用いて実施した。骨髄から超高純度 (>99%) で分取したBMBPおよびpre-B細胞株である70z/3細胞を、がん細胞の培養上清である CM (conditioned medium) を用いて7〜30日間培養し、分化転換を誘導した。細胞融合やトロゴサイトーシス (trogocytosis) の可能性を排除するため、CD45.1およびCD45.2の同種抗原 (alloantigen) を用いた共培養実験およびin vivo養子移入実験を実施した。転写プロファイルの解析には、アジレント社製マイクロアレイおよび10x Genomics社のChromiumプラットフォームを用いた単一細胞RNAシーケンシングである scRNA-seq (single-cell RNA sequencing) を使用した。scRNA-seqデータの正規化および分散安定化にはSCTransform法 Hafemeister et al. GenomeBiol 2019 を用い、Seuratパッケージ Hao et al. Cell 2021 を用いて次元削減およびクラスタリングを行った。遺伝子発現変動解析である DEG (differentially expressed gene) にはlimmaパッケージ Ritchie et al. NucleicAcidsRes 2015 を、経路解析には GSEA (Gene Set Enrichment Analysis) Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005 を用いた。クロマチンアクセシビリティの解析には ATAC-seq (Assay for Transposase-Accessible Chromatin using sequencing) を用い、MACSピークコーリングツール Zhang et al. GenomeBiol 2008 およびDESeq2 Love et al. GenomeBiol 2014 を用いてアクセシビリティ変動領域である DAR (differentially accessible region) を同定した。モチーフ解析にはHOMERソフトウェア Heinz et al. MolCell 2010 を用いた。機能阻害実験として、M-CSF中和抗体およびCSF1R阻害剤であるKi20227を用いた。ヒト臨床検体として、再発・転移性トリプルネガティブ乳がん患者 (n=8) および高悪性度漿液性卵巣がん患者 (n=5) の末梢血単核細胞である PBMC (peripheral blood mononuclear cell) を用いてFACS解析およびマイクロアレイ解析を行った。