- 著者: Kuan-lin Huang, R. Jay Mashl, Yige Wu, Deborah I. Ritter, Jiayin Wang, Clara Oh, Sharon E. Plon, Feng Chen, Li Ding
- Corresponding author: Feng Chen (Washington University in St. Louis); Li Ding (Washington University in St. Louis)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-04-05
- Article種別: Original Article
- PMID: 29625052
背景
癌の遺伝的素因は家族性集積から古くから認識されてきたが、common variant (GWAS) では説明できる遺伝的負担が限定的であり、稀で浸透率の高い遺伝的素因変異 (predisposition variant) の体系的な探索が長らく必要とされていた。これまでに100以上のがん易罹患遺伝子(主に腫瘍抑制遺伝子)が報告されてきたものの、先行研究の多くは単一癌種に限定されており、pan-cancer規模で生殖細胞系列変異、体細胞変化、遺伝子発現を統合した解析は不足していた。例えば、Lu et al. (2015) や Southey et al. (2016) は一部の癌種における生殖細胞系列変異を報告しているが、網羅的なpan-cancer解析には至っていなかった。また、小児癌を対象とした研究 Zhang et al も存在するが、成人癌における大規模な解析は未開拓であった。
さらに、ACMG-AMP (American College of Medical Genetics and Genomics–Association for Molecular Pathology) ガイドラインによるバリアント解釈では、VUS (variant of uncertain significance) が多数残り、その臨床的意義を判定するためのエビデンスが不十分であることが課題であった。例えば、Amendola et al. (2016) は、複数の施設間でのバリアント解釈のばらつきを指摘し、VUSの分類における課題を浮き彫りにした。腫瘍抑制遺伝子の機能喪失変異がKnudsonのtwo-hit仮説に従うことは知られているが Knudson PNAS 1971、大規模なコホートで生殖細胞系列変異と体細胞性LOH (loss of heterozygosity) や発現低下との関連を定量的に評価した研究は不足していた。また、癌遺伝子における活性化型の生殖細胞系列変異の存在とその機能的意義についても、体系的な解析は行われておらず、未解明な点が多かった。これらの知識のギャップを埋めるためには、大規模なゲノムデータと臨床データを統合した包括的な解析が不足しており、その必要性が高まっていた。
目的
本研究は、TCGA (The Cancer Genome Atlas) の33癌種10,389症例を対象に、生殖細胞系列の病的 (pathogenic) または病的である可能性が高い (likely pathogenic) 変異を網羅的に同定することを目的とした。具体的には、以下の4点を明らかにすることを目指した。(1) 癌種横断的に共有されるがん易罹患性遺伝子および新規の遺伝子-癌関連性を特定すること。(2) 腫瘍抑制遺伝子における生殖細胞系列変異がtwo-hit機構(LOHや発現低下)を介して機能的影響を及ぼすことを定量的に評価すること。(3) 癌遺伝子における活性化型の生殖細胞系列変異の存在とその発現への影響を明らかにすること。(4) VUS (variant of uncertain significance) を、症例対照頻度、LOH、発現効果、体細胞変異との共局在などの多次元的なエビデンスに基づいて再分類し、その臨床的意義を裏付けるエビデンス基盤を提供すること。
結果
全体的な生殖細胞系列変異のランドスケープ: 10,389症例のTCGAコホートにおいて、853の病的または病的である可能性が高い生殖細胞系列変異と18の大きな欠失(合計871の素因変異)が同定された。これらの変異は全体の8% (n=853例) の症例で検出された (Figure 1)。罹患率は癌種間で大きく異なり、最高は褐色細胞腫/傍神経節腫 (PCPG) で22.9%、最低は胆管癌 (CHOL) で2.2%であった (Figure 2A)。卵巣癌 (OV) では19.9%、乳癌 (BRCA) では9.9%と高頻度であった。BRCA1/2、ATM、PALB2 (partner and localizer of BRCA2)、TP53、MLH1/MSH2/MSH6、PTEN (phosphatase and tensin homolog)、CDH1 (cadherin 1)、APC (adenomatous polyposis coli)、RETなどの既知のがん易罹患性遺伝子が多くの癌種で確認された。
新規および既知の遺伝子-癌関連性: 21遺伝子において、単一または複数の癌種との関連が統計的に確立された (FDR < 0.05)。新規の関連として、SDHA (succinate dehydrogenase complex flavoprotein subunit A) 遺伝子の機能喪失変異とメラノーマ (SKCM) (FDR = 0.035)、PALB2遺伝子の機能喪失変異と胃腺癌 (STAD) (FDR = 0.038) が同定された。また、ATM (ataxia telangiectasia mutated) 遺伝子と前立腺癌 (PRAD) および膵癌 (PAAD) の関連が強化され、BRIP1遺伝子と子宮頸癌 (CESC) の関連も示唆された。BRCA1/BRCA2遺伝子は、既知の乳癌・卵巣癌に加え、膵癌、前立腺癌、胃癌でも有意な濃縮を示し、相同組換え修復欠損 (HRD) 症候群の臨床的拡大を支持する結果であった。例えば、BRCA2はPAADで有意な濃縮 (FDR = 0.012) を示した。
腫瘍抑制遺伝子のtwo-hit機構: 腫瘍抑制遺伝子における659の病的または病的である可能性が高い生殖細胞系列変異と18の大きな欠失(ATM、BRCA1、NF1など)について、その機能的影響を評価した。これらの変異を持つ症例の47.6%で腫瘍内での遺伝子発現が低く(同癌種コホートの下位25%)、38.5%でLOHが認められた。合計で43%の症例が、Knudson PNAS 1971 のtwo-hit仮説を支持するbiallelic two-hitイベントを示した (Figure 3C)。これにより、生殖細胞系列の単一アレル破壊が、腫瘍特異的な野生型アレル喪失と連動して発現低下を引き起こす遺伝学的選択圧が定量的に示された。BRCA1/2、MSH2、PALB2、ATMはLOH頻度が特に高く、APCやPTENも頻繁にtwo-hitイベントを示した。例えば、BRCA1 p.Q1777fs、p.D825fs、p.W372*、p.E797*の4つの卵巣癌症例では、いずれも高度に有意なLOH (FDR < 3.43E-20) が観察された。
癌遺伝子の活性化型生殖細胞系列変異: 癌遺伝子の活性化ドメインに33の病的または病的である可能性が高い生殖細胞系列変異が同定され、これらは高発現(同遺伝子の上位tier)を伴っていた (Figure 4B)。特に注目すべきは、MET (MET exon 14近傍のミスセンス変異、乳頭状腎細胞癌類似)、RET (MEN2症候群型のC634などのホットスポット変異)、PTPN11 (Noonan症候群関連、若年性骨髄単球性白血病/神経芽腫リスク) などであり、これらが機能喪失変異とは異なる活性化機構を生殖細胞系列で示すことを実証した。例えば、MET p.H1112R変異を持つ3つのKIRP腫瘍はすべて、MET遺伝子発現が上位25%に位置していた。RET遺伝子では、12の症例で高発現が認められ、特にp.I852M (LGG、96% percentile)、p.D631Y (KIRP、84% percentile)、p.R912P (READ、80% percentile) の変異が注目された。HEK293T細胞を用いたin vitro実験では、MEN2B症候群関連のRET p.M918T変異はリガンド非依存的な活性化を示した (Figure 7C)。
VUSの再評価と機能的エビデンス: 症例対照濃縮、LOH、発現低下、体細胞変異との共局在、Evolutionary Actionスコアなどの多次元的なエビデンス統合により、47のVUSが病的である可能性が高い候補として優先的に評価された (Figure S2D)。これらのVUSには、BRCA1/2のRINGドメイン、ATMのキナーゼドメイン、TP53のDNA結合ドメインといった機能ドメイン内の変異が多く含まれており、将来の臨床的再分類に資するエビデンス基盤を提供した。例えば、ERCC2 p.F544fs変異は癌濃縮 (p = 1E-4) を示し、そのキャリアは該当癌種コホートで下位25%の発現を示した。また、6つのERCC2 p.F544fs変異、3つのFANCCおよびFANCL切断変異、LOH関連のPOLHおよびFANCM変異が同定され、これらのキャリアはそれぞれの癌コホートで下位25%の発現を示した。
独立したゲノムエビデンスによる病原性の裏付け: 853の病的または病的である可能性が高い変異について、独立したエビデンスによる病原性の裏付けを行った。ExACの非フィンランド系ヨーロッパ人コホート (n=33,370) との比較により、30のユニークな変異が癌症例で有意な濃縮を示した (p < 0.05)。上位4つの変異は、ATM p.E1978* (p = 3.50E-06)、BRCA1 p.Q1777fs (p = 2.97E-05)、POT1 p.R363* (p = 3.11E-05)、PALB2 p.R170fs (p = 5.20E-04) であった (Figure 6A)。また、小児癌で既報の28の病的変異と、TCGA MC3コホートで3回以上再発する体細胞変異と共局在する23の生殖細胞系列変異が観察された (Figure 6B)。これらの結果は、小児癌と成人癌、生殖細胞系列と体細胞ゲノム間で共通の癌原性プロセスが存在することを示唆している (Exact Poisson test, p < 2.2E-16)。さらに、MDACC (The University of Texas MD Anderson Cancer Center) の独立したコホート (n=3,026患者) でも、TCGAで同定された29の特定の変異が再発見され、これらの変異が癌で濃縮されていることが確認された (Fisher’s Exact Test, p = 0.015)。
考察/結論
本研究は、TCGAの10,389症例を対象とした大規模なpan-cancer解析により、生殖細胞系列のがん易罹患性変異の包括的なカタログを提供し、predisposition genomicsの重要なリソースを確立した。
先行研究との違い: これまでの研究の多くが単一癌種に焦点を当てていたのに対し、本研究は33癌種にわたる大規模なpan-cancer解析を実施した点で大きく異なる。これにより、BRCA1/2が乳癌・卵巣癌だけでなく膵癌・前立腺癌・胃癌でも濃縮されるなど、癌種横断的な遺伝子-癌関連性を明らかにした。また、腫瘍抑制遺伝子のtwo-hit機構をLOHと発現低下の両面から定量的に検証し、その頻度を43%と示した点は、先行研究では不足していた知見である。
新規性: 本研究で初めて、SDHAとメラノーマ、PALB2と胃腺癌といった新規の遺伝子-癌関連性を発見した。さらに、MET、RET、PTPN11などの癌遺伝子の活性化ドメインにおける33の生殖細胞系列変異を同定し、これらが遺伝子高発現と関連していることを示したことは新規の発見である。また、症例対照頻度、LOH、発現効果、変異との共局在などの多次元的なエビデンスに基づいて47のVUSを優先的に評価し、その機能的意義を裏付けるエビデンス基盤を提供したことも本研究の新規性である。
臨床応用: 本知見は、BRCA1/2に加えてPALB2、ATM、CHEK2、Lynch症候群関連遺伝子、PCPG関連遺伝子など、遺伝学的検査の対象となる遺伝子の拡大を支持する。特に、癌遺伝子の活性化型生殖細胞系列変異の同定は、特定の癌種における標的治療(例:RET変異に対するRET阻害薬)の可能性を示唆し、臨床現場での遺伝子パネル検査の重要性を強調する。生殖細胞系列と腫瘍組織のペアシーケンシングが、バリアントの機能的意義を解釈し、臨床的意義を判定するための標準診療に組み込まれるべき根拠を提供した。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) TCGAコホートが欧州系人種に偏っているため、非ヨーロッパ人種における民族特異的なバリアントの探索が必要である。(2) 構造異常や非コード領域のバリアントが癌素因に寄与する可能性があり、これらの包括的な解析が残されている。(3) 浸透率の低いバリアントやcommon SNPによる多遺伝子加算的リスク予測の精度向上も今後の課題である。(4) PARP阻害薬やMMR欠損腫瘍に対する免疫チェックポイント阻害薬など、アクション可能な生殖細胞系列変異に対する予防的・治療的介入の費用対効果検証も重要である。本研究のlimitationとして、稀なバリアントの検出力には依然として限界があり、より大規模なコホートが必要であることが挙げられる (Figure S7)。
方法
TCGAの33癌種10,389症例から得られたwhole-exome sequencing (WES) およびwhole-genome sequencing (WGS) データを統合解析した。生殖細胞系列バリアントの検出には、GenomeVIPシステム (Mashl et al., 2017) を用いてGATK (McKenna et al., 2010)、VarScan2 (Koboldt et al., 2012)、Pindel (Ye et al., 2009) の結果を統合した。バリアントのフィルタリング後、CharGer (Characterization of Germline Variants) と呼ばれる自動分類パイプラインを開発し、ACMG-AMP (American College of Medical Genetics and Genomics–Association for Molecular Pathology) ガイドライン (Richards et al., 2015) に基づいて病的または病的である可能性が高いバリアントを判定した。CharGerはClinVar (Landrum et al., 2016) や遺伝子特異的データベース(TP53、BRCA1、BRCA2、RET、TERTなど)の情報を参照し、12の病的エビデンスレベルと4つの良性エビデンスタグを用いて複合スコアを算出した。
LOH (loss of heterozygosity) の判定は、腫瘍と正常組織におけるアレル頻度 (allele fraction) の比較に基づき、以前に開発された統計的手法 (Lu et al., 2015) を適用した。体細胞コピー数変異 (CNV) はGISTIC (Mermel et al., 2011) を用いて解析し、遺伝子発現レベルはマッチしたRNA-seqデータから算出したz-scoreを用いて評価した。症例対照比較では、ExAC (Exome Aggregation Consortium) およびgnomAD (Genome Aggregation Database) の非癌コホートとのアレル頻度を比較した。
VUSの優先順位付けには、多次元的なエビデンス統合アプローチを採用した。これには、癌コホートにおけるVUSの濃縮度 (case-control enrichment)、LOHの有無、遺伝子発現への影響、体細胞変異との共局在 (co-localization)、およびEvolutionary Action (EA) スコア (Lichtarge et al., 2016) が含まれる。また、稀な生殖細胞系列コピー数異常 (CNV) の検出には、SNPアレイデータとWESデータを用いたXHMM (exome hidden Markov model) 解析 (Fromer and Purcell, 2014) を実施した。RET遺伝子の機能的評価は、HEK293T細胞を用いたin vitro実験により、pMAPKレベルを指標としてリガンド非依存的な活性化を測定した。統計解析には、Total Frequency Test (TFT) やFisher’s exact test、線形回帰モデル、Kolmogorov-Smirnov test、Poisson test、t-testなどが用いられた。