- 著者: Wang L, Leite de Oliveira R, Huijberts S, Bosdriesz E, Pencheva N, Brunen D, Bosma A, Song JY, Zevenhoven J, Los-de Vries GT, Horlings H, Nuijen B, Beijnen JH, Schellens JHM, Bernards R
- Corresponding author: Rene Bernards (Netherlands Cancer Institute)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29754815
背景
BRAF V600E変異を有するメラノーマは、BRAF阻害薬 (BRAFi: vemurafenib) やBRAFとMEKの二重阻害薬 (dabrafenib+trametinib) に対して高い奏効率を示すが、治療開始後にはほぼ例外なく薬剤耐性を獲得することが知られている。この耐性獲得は、血漿中DNAシーケンシングによる非侵襲的モニタリングでも耐性変異の出現として確認されている(Murtaza et al. Nature 2013)。耐性の主要な分子メカニズムは、MAPK経路の再活性化であり、その機序は多様である。具体的には、受容体チロシンキナーゼ (RTK) の発現上昇、KRAS/NRAS変異、BRAFスプライスバリアントの出現、BRAF遺伝子増幅、MEKキナーゼ変異、さらにはTGFβ受容体シグナルを介した経路の活性化などが報告されている(Huang et al. Cell 2012)。
BRAF阻害薬の投与中止後に腫瘍増殖が一過性に停止する「薬剤休薬効果 (drug holiday effect)」と呼ばれる現象も観察されており、これは耐性細胞がMAPK経路の超活性化によりオンコジーン誘導性老化の特徴を示すことに関連すると考えられている。また、クロマチン介在性のエピジェネティック機構によって可逆的な薬物耐容状態が生じることも以前から知られていた(Sharma et al. Cell 2010)。さらに、ミトコンドリア酸化代謝がMAPK経路シグナルの変調時に影響を受けることや、RAS増強シグナルが活性酸素種 (ROS) の産生を増加させることも報告されている。しかし、これらの知見にもかかわらず、BRAF/MEK阻害薬耐性獲得後の治療選択肢は依然として不足しており、耐性に伴って新たに生じる治療的脆弱性については未解明な点が多かった。特に、多様な耐性メカニズムに共通して作用する治療標的の同定は、個別化医療の限界を超える上で重要な課題として認識されていた。
本研究は、この知識ギャップを埋めることを目指し、BRAF阻害薬耐性メラノーマにおける新たな治療的脆弱性を体系的に探索した。特に、耐性獲得細胞が共通して持つ代謝的特性を標的とすることで、多様な耐性メカニズムに対応可能な汎用的な治療戦略を確立することに焦点を当てた。
目的
本研究の目的は、BRAF/MEK阻害薬耐性メラノーマが獲得する治療的脆弱性を同定し、その分子メカニズム、特に活性酸素種 (ROS) の役割と関連する分子標的を明らかにすることである。さらに、in vitro、in vivo、および臨床試験において、MAPK阻害薬 (MAPKi) からヒストン脱アセチル化酵素阻害薬 (HDACi) へと切り替える逐次治療 (sequential therapy) の有効性を実証することを目指した。
具体的には、PDGFRB発現獲得、NRAS変異、BRAFスプライスバリアント、KRAS変異、BRAF増幅など、多様な耐性メカニズムを持つ細胞モデルを用いて、ROSレベルの上昇が耐性細胞に共通する脆弱性であるかを検証する。そして、HDAC阻害薬がこのROS関連脆弱性を標的とする分子メカニズムを、特にシスチン-グルタミン酸アンチポーターxCTをコードするSLC7A11遺伝子の関与に焦点を当てて解明する。最終的に、これらの基礎研究の成果を、マウスモデルでの腫瘍退縮効果および進行性メラノーマ患者における耐性変異の消失という臨床的エビデンスを通じて検証し、薬剤耐性メラノーマに対する新たな治療戦略の概念実証を行うことを目的とした。
結果
BRAF/MEK阻害薬耐性メラノーマにおけるROS上昇と選択的paraquat感受性: A375細胞株の耐性株確立において、A375R細胞はPDGFRB発現の獲得、A375DR細胞はNRAS Q61H変異の獲得が耐性機序として確認された。Mel888細胞株では、Mel888R細胞はBRAFスプライスバリアント、Mel888DR細胞はKRAS G12C変異という異なるMAPK経路再活性化機序を示し、多様な耐性メカニズムを有する細胞モデルが確立された。ROS測定では、MAPK阻害薬 (MAPKi) 非存在下での基礎ROSレベルが、単剤耐性株 (A375R, Mel888R) で親株の約2-foldに上昇し、二重耐性株 (A375DR, Mel888DR) ではさらに高いレベルを示すことが確認された (Fig. 1E, S1F)。ROS誘導剤paraquatは、耐性株の増殖を選択的に抑制したが (p<0.01)、親株への影響は軽微であった (Fig. 1F, 1G)。paraquatによる耐性株選択的毒性は、DNA損傷マーカーであるγH2AXの発現上昇とアポトーシスマーカーであるcleaved PARPの誘導を伴い、ROS消去剤NAC投与によってこれらの効果は完全に救済された (Fig. 1I, 1J)。この選択的感受性は、PDGFRB発現、NRAS変異、BRAFスプライスバリアント、KRAS変異といったBRAFi/MEKi耐性の種類を問わず共通して認められた。計4種の独立した耐性細胞モデル (n=4 resistant cell lines) すべてでこの普遍性が確認され (各条件n=3 independent replicates)、ROSレベルの上昇が耐性獲得に普遍的に伴う脆弱性であることが示された。
vorinostat (HDAC阻害薬) の耐性細胞選択的殺傷とSLC7A11を介したROS誘導メカニズムの解明: 承認済みのHDAC阻害薬であるvorinostatを両メラノーマモデルに適用したところ、耐性細胞 (A375R, A375DR, Mel888R, Mel888DR) で選択的な長期増殖抑制効果とアポトーシス誘導が認められた (Fig. 2B, 2C)。これらの効果は、NACやGEEによるROS消去剤の併用により完全に救済された (Fig. 2B, 2F)。さらに、vorinostat, belinostat, panobinostatの三種のHDAC阻害薬すべてで同様の耐性細胞選択的効果が確認された。GFP+ (親株) とRFP+ (耐性株) を9:1で混合したin vitroコンペティションアッセイでは、MAPKi投与でRFP+ (耐性) 細胞が濃縮されるのに対し、vorinostatではRFP+細胞が選択的に枯渇し、GFP+親株細胞が相対的に生き残った (n=3)。この結果は、vorinostatが異種腫瘍集団 (MAPKi感受性細胞と耐性細胞の混合) から耐性細胞を選択的に除去できることを示唆する (Fig. 4B, 4C)。RNAseq解析により、A375親株および耐性株の3細胞株すべてでvorinostat処理後に共通して下方制御される12遺伝子の中にSLC7A11 (シスチン-グルタミン酸アンチポーターxCTをコード) が含まれることを発見した (Table S1)。SLC7A11のshRNAノックダウンはROSレベルを上昇させ、特に耐性細胞での増殖抑制効果が強かった (Fig. 5D, 5E)。一方、SLC7A11の強制過剰発現は、vorinostatによるROS誘導と増殖抑制効果を解除し、SLC7A11がHDAC阻害薬作用の主要な媒介分子であることを確定した (Fig. 5J-5M)。なお、HDAC阻害薬とMAPK阻害薬を同時投与すると、vorinostatがMAPK経路を活性化してMAPKiの効果を拮抗することが示され (Fig. 3A, 3B)、逐次投与 (BRAFi/MEKiからの休薬後にHDACi) が必須であることが実証された。
in vivoでの腫瘍退縮と患者検体での耐性変異消失: マウス皮下A375腫瘍モデルにおいて、PLX4720 (vemurafenib類縁体) 処理後に耐性腫瘍が出現 (約40-50日後) したのち、vorinostat単剤に切り替えると腫瘍体積の顕著な減少が認められた (Fig. 6B)。PLX4720継続群では最も速い増殖が観察され、薬剤中止群 (drug holiday) では一過性停止後の緩徐な増殖、PLX4720+vorinostat併用群では緩徐な増殖を示したのに対し、PLX4720からvorinostatへ切り替えた群では腫瘍退縮が明確に観察された (n=11 mice)。ex vivoで確立した4つのPLX4720耐性腫瘍由来細胞株は、いずれもvemurafenib耐性を維持しており、BRAF増幅 (exv. A4)、NRAS Q61K変異 (exv. A3)、TGFβ標的遺伝子発現上昇 (exv. A1, A2) という異なる耐性機序を持ちながら、すべてのHDAC阻害薬に感受性を示した (Fig. 6G)。臨床試験 (NCT02836548) では、dabrafenib+trametinib耐性の進行メラノーマ患者3例の生検解析で、vorinostat処置により腫瘍内SLC7A11発現が抑制されることが確認された (Fig. 7I)。患者Aでは、vorinostat治療前に44%のアリル頻度で検出されたKRAS G12C耐性変異が、3週間のvorinostat治療後に0%に消失した (Fig. 7E)。患者BではNRAS Q61H変異 (10%) が0%に減少し、患者CではNRAS増幅が減少した (Fig. 7F, 7G)。免疫細胞浸潤への有意な影響はなく (Fig. S6)、vorinostatの効果は免疫学的機序ではなく腫瘍細胞への直接的な選択的毒性によることが示された。
考察/結論
本研究は「collateral sensitivity (共存感受性)」の概念を基礎として、BRAF阻害薬耐性メラノーマが治療的に活用可能な新たな脆弱性を獲得することを発見・実証した点で画期的な意義を持つ。先行研究と異なり、エピジェネティック修飾による可逆的薬物耐容状態を示した先行研究(Sharma et al. Cell 2010)やMED12を介したTGFβシグナル制御による多剤応答を報告した先行研究(Huang et al. Cell 2012)とは対照的に、本研究は耐性獲得後に普遍的に生じるROS代謝的脆弱性という全く新規な標的を同定した。耐性に伴って上昇したROSが「アキレス腱」となり、HDAC阻害薬によるSLC7A11抑制→グルタチオン (GSH) 低下→ROS致死的増幅という機序が耐性細胞を選択的に殺傷する。この機序の重要な特徴は、PDGFRB上昇、NRAS変異、BRAFスプライスバリアント、KRAS変異、BRAF増幅、TGFβシグナル活性化といった多様な耐性機序のすべてに共通してROS上昇が伴うことであり、特定の耐性機序に依存しない汎用的治療戦略の根拠となる。ROSを細胞内の統合的ストレスセンサーとして位置づけた場合、MAPK経路の持続的活性化による代謝リモデリング (ミトコンドリア酸化代謝の亢進) がROS上昇の主因であると理解でき、耐性機序の分子的多様性を超えて共通の代謝的脆弱性が出現するという概念的枠組みが成立する。
HDAC阻害薬 (特にvorinostat) とMAPK阻害薬の拮抗関係の発見は治療設計に実践的な示唆を与える。vorinostatによるROS増加がMAPK経路を活性化することで、MAPK阻害薬の効果を相殺してしまうという観察は、単純な併用療法の失敗を予見するものであり、MAPK阻害薬ウォッシュアウト後の逐次投与 (BRAFi/MEKiからの休薬後にvorinostat開始) が必須であることを実証した。この逐次治療デザインは進行中の臨床試験 (NCT02836548) に直接反映され、臨床試験デザインへのtranslational貢献として評価できる。実際の臨床試験でBRAF+MEK阻害薬耐性変異 (KRAS G12C, NRAS Q61H, NRAS増幅) がvorinostat治療後に消失したという所見は、collateral sensitivityの臨床的概念実証として特に重要であり、この戦略が実患者において耐性腫瘍クローンを選択的に排除できることを示している。さらに免疫細胞浸潤への有意な影響がなかったことは、vorinostatの効果が免疫学的機序ではなく腫瘍細胞への直接的な代謝的毒性によることを示し、免疫抑制的な可能性を否定する点でも重要である。薬剤耐性の獲得は治療選択肢の終焉を意味しない―むしろ新たな治療的脆弱性を生み出す可能性があるという本研究のパラダイムは、EGFR変異肺癌、HER2陽性乳癌、KRAS変異大腸癌など他の分子標的治療への耐性克服戦略に広く応用可能な原理として腫瘍学に新たな視座を提供する。従来の耐性克服アプローチ (第2世代標的薬への切替、多剤併用) と異なり、本研究は耐性細胞の代謝的特性を逆手に取るという新規な治療戦略を確立した点に独自性がある。残された課題としては、collateral sensitivityを事前予測するバイオマーカーの同定、逐次投与の最適タイミングの決定、および免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせ効果の検証が挙げられ、今後の臨床応用に向けたさらなる検討が待たれる。
方法
BRAF V600E変異を有するヒトメラノーマ細胞株A375をvemurafenibに長期暴露し、BRAF阻害薬 (BRAFi) 耐性株 (A375R) を作製した。さらに、dabrafenibとtrametinibの併用療法に長期暴露することで、MEK阻害薬 (MEKi) にも耐性を示す二重耐性株 (A375DR) を樹立した。同様に、別のBRAF V600E変異メラノーマ細胞株Mel888からも、単剤耐性株 (Mel888R) および二重耐性株 (Mel888DR) を作製した。NRAS変異を有するメラノーマ細胞株SK-MEL-147も用い、MEK阻害薬trametinibに長期暴露することで耐性株 (SK-MEL-147R) を樹立した。これらの耐性株の分子機序は、PDGFRB発現獲得、NRAS Q61H変異、BRAFスプライスバリアント、KRAS G12C変異など、臨床で報告される多様なMAPK経路再活性化メカニズムを反映していることを確認した。
各細胞株における薬剤効果の評価には、Incucyte短期増殖アッセイおよび長期コロニー形成アッセイを用いた。細胞内ROSレベルは、CellROX-Greenフローサイトメトリーアッセイにより測定した。ROS誘導剤paraquatおよび承認済みのHDAC阻害薬 (vorinostat, belinostat, panobinostat) の耐性細胞選択的毒性を検証し、ROS消去剤N-アセチルシステイン (NAC) やグルタチオンエチルエステル (GEE) を用いた実験により、ROSが薬剤効果のメディエーターであることを確認した。DNA損傷マーカー (γH2AX) およびアポトーシスマーカー (cleaved PARP) の発現はウェスタンブロット解析で評価した。
HDAC阻害薬による分子メカニズムを解明するため、A375親株および耐性株をvorinostat処理し、次世代RNAシーケンシング (RNAseq) によるトランスクリプトーム解析を実施した。この解析により、HDAC阻害薬によって共通して下方制御される遺伝子群を特定し、特にSLC7A11 (シスチン-グルタミン酸アンチポーターxCTをコード) に着目した。SLC7A11のshRNAノックダウンおよび強制過剰発現実験を行い、その機能的役割とROSレベルおよび細胞増殖への影響を評価した。また、HDAC阻害薬がMAPK経路を活性化し、MAPK阻害薬の効果と拮抗する可能性も検討した。
in vivo実験では、BALB/cヌードマウスを用いた皮下腫瘍移植モデルで、BRAFiからHDACiへの逐次治療の有効性を評価した。A375細胞を移植し、腫瘍が約500 mm³に達した後、PLX4720 (vemurafenibの類縁体) を投与した。腫瘍がPLX4720耐性を獲得し増殖を再開した時点で、治療をvorinostat単剤に切り替える群、PLX4720継続群、薬剤中止群、PLX4720とvorinostat併用群の4群間で比較した。耐性腫瘍由来のex vivo細胞株を樹立し、その耐性機序とHDAC阻害薬感受性を評価した。
臨床試験 (NCT02836548) として、BRAF V600E変異を有し、dabrafenib+trametinib治療に耐性を示した進行メラノーマ患者3例を対象に、vorinostat (360 mg/日経口) を投与した。治療前、治療中、治療後の生検検体からDNAおよびRNAを抽出し、RNA発現解析、標的型次世代シーケンシング (NGS) による耐性変異アリル頻度変化の解析を行った。免疫細胞浸潤の評価には免疫組織化学染色 (IHC) を用いた。すべてのin vitro定量実験はn=3以上の独立反復実験として実施し、Student’s t-検定またはone-way ANOVAで統計解析を行い、p<0.05を統計学的有意差の基準とした。