• 著者: Sidong Huang, Michael Hölzel, Theo Knijnenburg, Andreas Schlicker, Paul Roepman, Ultan McDermott, Mathew Garnett, Wipawadee Grernrum, et al.
  • Corresponding author: René Bernards (Netherlands Cancer Institute, Amsterdam)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2012
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 23178117

背景

EGFR変異陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) や、EML4-ALK転座陽性NSCLCに対するALK阻害薬 (crizotinib) は、初期には劇的な奏効を示すものの、耐性が不可避的に生じ、長期的な患者利益を制限する要因となっている。例えば、Maemondo et al. NEnglJMed 2010 の報告では、EGFR-TKIが進行期NSCLC患者の無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長する一方で、全生存期間 (OS) の改善は限定的であることが示されている。既知の耐性機序としては、EGFR遺伝子自体の二次変異 (例: T790M変異) や、下流シグナル経路の変異 (例: KRAS変異、MET増幅) が挙げられる。EGFR T790M変異は、ATP結合ポケットへの阻害薬結合を妨げることで耐性を引き起こすことがYun et al. ProcNatlAcadSciUSA 2008 により報告されている。しかし、Sequist et al. SciTranslMed 2011 によると、EGFR変異NSCLCにおける耐性の約30%は、これらの既知のメカニズムでは説明できないままであった。同様に、BRAF変異黒色腫におけるBRAF阻害薬 (例: vemurafenib) 耐性や、KRAS変異大腸癌における化学療法耐性においても、標的内変異や下流経路変異だけでは説明できない多数の耐性メカニズムが存在することがChapman et al. NEnglJMed 2011 や先行研究により示されている。Kwak et al. NEnglJMed 2010 は、EML4-ALK転座陽性NSCLC患者におけるcrizotinibの有効性を示しつつも、耐性獲得が課題であることを指摘している。また、Choi et al. NEnglJMed 2010 は、ALK阻害薬に対する耐性メカニズムとして、ALK遺伝子自体の二次変異の存在を報告している。

これらの薬剤耐性メカニズムの多様性と未解明な部分の存在は、治療戦略の最適化を困難にしている。特に、複数の癌種や異なる作用機序を持つ薬剤に対して共通して作用する耐性決定因子は、その同定が新たな治療標的の発見に繋がる可能性がある。しかし、このような共通の決定因子を網羅的に同定するための大規模な機能的スクリーニングはこれまで不足しており、薬剤応答の普遍的な決定因子を特定するための研究が強く求められていた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、EML4-ALK転座を有するNSCLC細胞株H3122におけるcrizotinib耐性に関与する遺伝子を、大規模なshRNAスクリーニングを用いて同定することである。さらに、同定された遺伝子MED12の分子メカニズムを詳細に解析し、それが他の癌種や異なる作用機序を持つ抗癌剤(EGFR阻害薬、BRAF阻害薬、MEK阻害薬、化学療法薬など)に対しても汎用的な薬剤耐性を付与するかどうかを検証する。最終的に、MED12が関与する耐性メカニズムを標的とした新たな治療戦略の可能性を探索することを目的とする。具体的には、MED12がTGF-βシグナル伝達経路を介して薬剤耐性を制御するメカニズムを解明し、TGF-β受容体 (TGFβR) 阻害薬と既存の分子標的薬との併用による耐性克服の可能性を前臨床モデルで評価する。

結果

24,000 shRNAスクリーニングによるMED12の多剤耐性因子としての同定: EML4-ALK転座を有するH3122細胞に8,000遺伝子を標的とする24,000 shRNAライブラリーを導入し、crizotinib (0.3 µmol/L) 存在下で28日間選択培養を行った。マイクロアレイバーコード法による濃縮shRNAの同定結果、M/Aプロット解析 (濃縮度M>2、発現量A>7) で43個の候補が抽出された。このうち、複数の独立したshRNAが同一遺伝子を標的として共に閾値を超えたのはMED12のみであった (2種のshRNAが再現性よく高濃縮)。5種の独立したMED12 shRNA (#1〜5) 全てがH3122細胞におけるcrizotinib耐性付与を確認した (Figure 1C)。さらに、RNAi耐性型のマウスMed12 cDNAをMED12 KD H3122細胞に導入するレスキュー実験により、耐性が逆転したことから、MED12 KDが真に耐性の原因であることが確認された (Figure S1)。MED12の抑制は、EGFR変異NSCLC細胞株PC9およびH3255においても、gefitinibやerlotinibといったEGFR阻害薬に対する耐性を付与した (Figure 1F-1H)。

MED12 KDによる癌種・薬剤横断的多剤耐性の付与: MED12 KDによる耐性付与の汎用性を複数の癌種・薬剤で検証した。NSCLC (H3122) におけるALK阻害薬 (crizotinib, NVP-TAE684) 耐性に加え、EGFR変異NSCLC (PC9, H3255) でのgefitinib耐性、BRAF V600E黒色腫 (A375, SK-MEL-28) でのPLX4032 (vemurafenib) およびAZD6244 (MEK阻害薬) 耐性、KRAS/BRAF変異大腸癌 (SK-CO-1, SW1417) でのAZD6244耐性、肝細胞癌 (Huh-7) でのsorafenib耐性が全てMED12 KDにより誘導された (Figure 2C, 2E, 2G)。これらの薬剤は作用機序が異なるが、MED12 KD後のシグナル解析では、pMEKおよびpERKがいずれも薬剤処理下で維持されており、MEK/ERK経路の持続的活性化が共通の下流耐性機序として同定された (Figure 2A, 2B, 2D, 2F, 2H)。また、MED12 KDはシスプラチンや5-フルオロウラシル (5-FU) などの化学療法薬に対しても耐性を付与した (Figure S2F, S2G)。MED12 KDは、癌細胞の増殖を抑制する傾向があるにもかかわらず、薬剤存在下では増殖上の利点をもたらすことが示された。

TGFβシグナル伝達の活性化とMEK/ERK経路への影響: MED12 KD細胞における薬剤耐性メカニズムを解明するため、518個のヒトキナーゼを標的とするshRNAライブラリーを用いた「ドロップアウト」スクリーニングを実施した。crizotinib存在下で枯渇したshRNAの解析結果、TGFβR2 (transforming growth factor β receptor II) が2つの独立したshRNAで同定された (Figure 3B)。これは、TGFβR2の抑制がMED12 KD細胞のcrizotinib感受性を回復させることを示唆する。実際に、MED12 KD H3122細胞においてTGFβR2をshRNAで抑制すると、crizotinibに対する感受性が回復し、細胞増殖が著明に抑制された (Figure 3C)。逆に、外因性TGFβR2の過剰発現はTGFβシグナルを活性化し、H3122細胞にcrizotinib耐性を付与した (Figure 3E)。組換えTGFβ1処理も同様に、H3122細胞にcrizotinib耐性を誘導し、MEK/ERK経路を活性化した (Figure 3G, S4B)。これらの結果は、TGFβシグナル伝達の活性化がMED12 KDによる薬剤耐性誘導に必須かつ十分であることを示している。TGFβ処理は、PC9およびH3255細胞におけるEGFR阻害薬に対する耐性、ならびに大腸癌細胞および黒色腫細胞におけるAZD6244およびPLX4032に対する耐性も誘導した (Figure S3E-S3G)。

MED12の細胞質局在とTGFβR2への直接結合: MED12タンパク質の局在を解析したところ、核 (転写コンプレックス) に加えて細胞質にも有意な量が存在することが免疫蛍光染色および細胞分画後のウエスタンブロット解析で確認された (Figure 4K, S5K)。免疫沈降実験により、MED12とTGFβR2が物理的に共沈降し、MED12がTGFβR2キナーゼ活性を直接抑制する細胞質コンプレックスを形成することが示された (Figure 4L, 4M)。MED12 KDによりこのMED12-TGFβR2複合体が解離すると、TGFβR2が脱抑制されてpSMAD3の増加 (TGFβシグナル活性化) が生じた。また、MED12 KDはTGFβR2タンパク質レベルの強い誘導を引き起こし (Figure 4G, 4H)、細胞表面の125I-TGFβ1結合能も増加した (Figure S5H)。TGFβR2 mRNAレベルの増加はわずかであったことから (Figure 4I)、MED12は主に転写後レベルでTGFβR2を抑制することが示唆された。さらに、MED12はTGFβR2の糖鎖修飾を阻害し、細胞表面発現を抑制することが示された (Figure S6C)。他のMEDIATORサブユニット (CDK8, MED13) のKDではTGFβR2のアップレギュレーションやSMAD2の活性化は観察されず、MED12のこの機能が特異的であることが示された (Figure 5A, 5B)。

TGFβR阻害薬による耐性克服とEMT様変化: TGFβR1/R2阻害薬LY2157299 (galunisertib) がMED12 KD細胞での多剤耐性を解除できるかを検証した。LY2157299とgefitinib (またはcrizotinib) の組み合わせは、MED12 KD細胞のin vitro増殖を単剤と比較して著明に抑制し、pSMAD3およびpERKの同時抑制が確認された (Figure 7A, 7B, 7C, 7D)。In vivoでは、MED12 KDのH3122およびPC9 xenograftモデルにおいて、LY2157299とTKIの組み合わせがvehicleおよび単剤と比較して有意な腫瘍増殖抑制 (P<0.05) を達成した。これは、TGFβR阻害薬による耐性克服の概念実証を前臨床レベルで示したものである。MED12 KD細胞ではE-カドヘリン発現低下とビメンチン発現上昇を特徴とする上皮間葉転換 (EMT) 様表現型が誘導された (Figure 4E, 4F)。このEMT様変化はTGFβR2依存的であり、TGFβR2 shRNAまたはLY2157299で抑制された。

MED12 KDシグネチャーと臨床的意義: 大腸癌患者臨床検体 (n=127) での免疫組織化学MED12発現解析では、MED12低発現腫瘍は高発現腫瘍と比較してoxaliplatin/irinotecan系化学療法後の生存が短い傾向を示した (HR 0.87; P=0.66)。270例のステージIII大腸癌患者コホートでは、MED12 KD様遺伝子シグネチャーを持つ患者は化学療法によるDSSの有意な改善が見られなかった (HR 0.87, 95% CI 0.61-1.24, p=0.66) のに対し、MED12 WT様シグネチャーを持つ患者では化学療法によりDSSが有意に延長した (HR 0.33, 95% CI 0.19-0.56, p=0.00038) (Figure 6A, 6B)。これは、MED12 KDシグネチャーが5-FUベースの化学療法応答を予測することを示唆する。さらに、152のRASまたはBRAF変異を有する癌細胞株パネルの解析では、MED12 KDでアップレギュレートされる170遺伝子の高発現が、4種類のMEK阻害薬全てに対して有意に高いIC50値と関連していた (AZD6244: p=0.009; CI-1040: p=0.004; PD-0325901: p=0.007; RDEA119: p=0.013) (Figure 6C)。EGFR-TKI耐性獲得前後のNSCLC患者腫瘍検体 (n=3) のRNA-Seq解析では、EGFR T790M変異を持たない1例 (case 10) において、gefitinib耐性獲得後にアップレギュレートされた遺伝子がMED12 KDシグネチャーと有意に重複することが示された (p=2.0 x 10^-4) (Figure 6D)。

考察/結論

本研究は、転写コアコンプレックスの構成因子であるMED12が、予期しない細胞質局在においてTGFβR2を直接制御することにより、ALK、EGFR、BRAF、MEK阻害薬および化学療法薬に対する多剤耐性を横断的に規定するという新規メカニズムを発見した。MED12は、従来知られていた標的内変異や下流経路変異とは全く異なる機序で耐性を付与しており、その普遍性 (NSCLCのALK/EGFR、黒色腫のBRAF、大腸癌のKRAS) が際立っている。

先行研究との違い: これまでの研究では、MED12は主に核内の転写メディエーター複合体の一部として機能すると考えられていたが、本研究はMED12が細胞質にも存在し、TGFβR2の糖鎖修飾を阻害することでその細胞表面発現を抑制するという、これまで報告されていない機能を担うことを示した点で、先行研究と大きく異なる。また、他のメディエーター複合体サブユニット (CDK8, MED13) のノックダウンでは同様の耐性誘導が見られなかったことから、MED12のこの機能が特異的であることが示唆された。

新規性: 本研究で初めて、MED12が細胞質でTGFβR2に物理的に結合し、その糖鎖修飾を阻害することで細胞表面発現を抑制するという新規メカニズムを同定した。MED12の抑制がTGFβR2のアップレギュレーションとTGFβシグナル伝達の活性化を引き起こし、MEK/ERK経路の活性化を介して薬剤耐性を誘導するという一連の経路は、これまで報告されていない。この発見は、多剤耐性メカニズムの理解に新たな視点を提供する。

臨床応用: 本知見は、MED12低発現またはTGFβシグナルが活性化している患者において、TGFβR阻害薬 (例: LY2157299) と既存のTKIを組み合わせることで、薬剤耐性を克服できる可能性を示唆する。前臨床モデルにおいて、この併用療法がMED12 KD細胞の薬剤感受性を回復させ、腫瘍増殖を抑制することが示されたことは、この戦略の臨床応用への強力な根拠となる。特に、EGFR T790M変異を持たないEGFR-TKI耐性NSCLC患者でMED12 KDシグネチャーが活性化していることが示されたことは、特定の患者層に対する個別化医療の可能性を開く。

残された課題: 今後の検討課題として、MED12の機能喪失変異や発現低下がヒト癌患者においてどの程度の頻度で発生し、それが臨床的な多剤耐性にどの程度寄与しているかを前向きに評価する必要がある。また、MED12 KDが誘導するEMT様変化と多剤耐性の機能的連関は、EGFR-TKI耐性後の組織型転化 (EMTへの移行) の臨床観察と符合するが、MED12の喪失が実際にEMTを介した耐性獲得の主要なドライバーであるかをさらに検証する必要がある。さらに、Sharma et al. Cell 2010 が報告したような、癌細胞が一時的に可逆的な薬剤耐性状態をとりうるという知見と、MED12の機能喪失が薬剤選択圧下で選択的優位性をもたらすという本研究の発見との関連性も、今後の研究で深掘りすべき点である。

方法

EML4-ALK転座を有するH3122細胞株に、8,000個のヒト遺伝子を標的とする24,000種類のshRNAベクターからなるNKI (Netherlands Cancer Institute) ライブラリーを感染させた。その後、crizotinib (0.3 µmol/L) 存在下で28日間選択培養を行い、薬剤耐性により濃縮されたshRNAをバーコードマイクロアレイ法で同定した。同定された候補遺伝子については、3つの独立したshRNA (#1〜3) を用いたMED12ノックダウン (KD) を実施し、その効果を検証した。また、RNAi耐性型のマウスMed12 cDNAをMED12 KD H3122細胞に導入し、薬剤感受性の回復を評価するレスキュー実験も行った。

MED12 KDの汎用性を評価するため、PC9およびH3255 (EGFR変異NSCLC)、A375およびSK-MEL-28 (BRAF V600E変異黒色腫)、SK-CO-1およびSW1417 (KRAS/BRAF変異大腸癌)、Huh-7 (肝細胞癌) などの複数の癌細胞株を用いた。これらの細胞株において、細胞増殖アッセイ、ウエスタンブロット解析 (pMEK, pERK, pSMAD3の発現レベル評価)、免疫沈降法 (MED12-TGFβR2相互作用の確認)、およびxenograftモデルを用いたin vivoでの腫瘍増殖抑制効果の評価を行った。

MED12 KD細胞における薬剤感受性を回復させる遺伝子を同定するため、518個のヒトキナーゼを標的とするTRC (The RNAi Consortium) キノームshRNAライブラリーを用いた「ドロップアウト」スクリーニングを実施した。crizotinib存在下で10日間選択培養後、次世代シーケンシングにより枯渇したshRNAを同定した。このスクリーニングは、Manning et al. Science 2002 が報告したヒトキノームの包括的なリストに基づいている。

MED12の細胞内局在を調べるため、免疫蛍光染色および細胞分画後のウエスタンブロット解析を行った。MED12とTGFβR2の物理的相互作用は、共免疫沈降 (coIP) 実験およびin situ近接ライゲーションアッセイ (PLA) により確認した。TGFβR2の糖鎖修飾状態を評価するため、Endo HおよびPNGase F酵素処理後のウエスタンブロット解析を行った。PNGase F (Peptide-N-Glycosidase F) はN結合型糖鎖を完全に除去する酵素であり、Endo H (Endoglycosidase H) は高マンノース型および一部の複合型糖鎖のみを切断する。

MED12 KDによる遺伝子発現変化を解析するため、RNAシーケンシング (RNA-Seq) をH3122、PC9、SK-CO-1、A375、Huh-7細胞株およびそのMED12 KD誘導体で実施した。これによりMED12 KDシグネチャー遺伝子を同定し、TGFβ標的遺伝子および上皮間葉転換 (EMT) マーカー遺伝子の発現を定量的RT-PCR (qRT-PCR) で確認した。

大腸癌患者の臨床検体 (n=127) を用いて、免疫組織化学染色によるMED12発現レベルと、oxaliplatin/irinotecan系化学療法後の無病生存期間 (DSS) との関連をカプラン・マイヤー解析 (ログランク検定) で評価した。さらに、270例のステージIII大腸癌患者コホートにおいて、MED12 KDシグネチャーが5-FUベースの化学療法応答を予測するかを解析した。また、COSMIC (Catalogue Of Somatic Mutations In Cancer) データベースから得られた152のRASまたはBRAF変異を有する癌細胞株パネルの遺伝子発現データとMEK阻害薬 (AZD6244, CI-1040, PD-0325901, RDEA119) のIC50値を解析し、MED12 KDシグネチャーとMEK阻害薬感受性の関連を評価した。EGFR-TKI耐性獲得前後のNSCLC患者腫瘍検体 (n=3) のRNA-Seqデータを用いて、MED12 KDシグネチャーとの重複を解析した。