Article data

  • 著者: Funda Meric-Bernstam, Lauren Brusco, Kenna Shaw, Chacha Horombe, Scott Kopetz, Michael A. Davies, Mark Routbort, Sarina A. Piha-Paul, Filip Janku, Naoto Ueno, David Hong, John De Groot, Vinod Ravi, Yisheng Li, Raja Luthra, Keyur Patel, Russell Broaddus, John Mendelsohn, Gordon B. Mills
  • Corresponding author: Funda Meric-Bernstam (MD Anderson Cancer Center, Houston, TX; e-mail: fmeric@mdanderson.org)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015年5月26日
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26014291

背景

次世代シーケンシング (next-generation sequencing, NGS) の急速な普及と分子標的薬の開発により、日常診療におけるマルチプレックスゲノムプロファイリングへの関心が高まり、ゲノム検査結果に基づく臨床試験への患者紹介が精密医療の核心戦略として位置づけられていた。大量並列DNAシーケンシングによる包括的なゲノムプロファイリング検査が実臨床に導入されつつあり (Frampton et al. NatBiotechnol 2013)、その臨床的実装可能性への関心が高まっていた。一方、多遺伝子パネル検査で同定されたアクショナブル変異が実際の遺伝子型マッチ臨床試験登録に結びつくかどうかという実践的な問いへの定量的評価は不足していた。

先行研究の主な知見として、Lung Cancer Mutation Consortium (LCMC) ではKris et al.が肺癌患者のうち64%にオンコジェニックドライバー変異を同定したが、マーカー選択試験への実際の登録は28%にとどまると報告した (Kris et al. JAMA 2014)。またSAFIR01 (Sequential Alteration Follow-up In Receptor-positive breast cancer, a UNICANCER multicenter CGH-array and sequencing trial for metastatic breast cancer) 乳癌試験 (André et al. Lancet Oncol 2014) では46%に標的可能変異が同定されたがマッチ治療を受けたのは13%のみ、VanderbiltのLovly et al.はメラノーマ150例のSNaPSHOT (single nucleotide primer extension-based multiplex mutation genotyping assay) 検査で60%に変異同定・転移例の43%が遺伝子型マッチ試験で治療を受けたと報告した。これらは単一疾患に特化した報告であり、多癌腫横断かつ大規模な精密医療プログラムにおける遺伝子型マッチ試験への登録実態と障壁の体系的評価は gap in knowledge であった。さらに、検査後の患者フローの詳細 (施設再来率、中断の種類、障壁の種類) を定量化した報告も不足しており、「なぜアクショナブル変異があっても試験に登録されないか」を構造的に解明する研究が求められていた。

目的

多癌腫横断の大規模マルチプレックスゲノム検査の技術的実現可能性を評価し、ゲノム検査結果に基づく遺伝子型マッチ臨床試験への実際の登録状況と登録障壁を、連続2,000例の追跡により定量的に明らかにすること。

結果

検査実施率とコホートプロファイル: n=2,000例が実際にゲノム検査を受け、中央年齢55歳 (range: 3〜95歳) であった。最多の癌腫は乳癌 (n=531、26.6%)、大腸癌 (CRC; colorectal cancer) (n=288、14.4%)、黒色腫 (n=224、11.2%)、脳腫瘍 (n=201、10.1%)、肉腫 (n=161、8.1%) であり (Fig 1A)、肺癌は標準ケアとして既にゲノム検査が行われることが多くプロトコル登録例に過小代表された。最頻変異遺伝子はTP53 (n=539、30.8%)、PIK3CA (n=259、12.9%)、KRAS (n=226、11.3%)、BRAF (n=140、7.0%)、IDH1 (n=106、5.3%)、NRAS (n=83、4.2%) であった (Fig 1B)。登録2,601例のうち601例 (23%) が組織不足またはDNA質・量不足で検査未施行に終わった点も重要な実務的知見である。検査後3ヵ月以内の死亡はn=105例 (5%) であり、高度進行癌コホートにおける検査の実施可能性を制限する重要な因子であった。

アクショナブル変異の検出率とゲノムプロファイル: n=2,000例のうち789例 (39%) が少なくとも1つのアクショナブル遺伝子に変異を認めた。内訳は414例 (21%) がアクショナブルでない体細胞変異のみ、205例 (10%) が生殖細胞変異、592例 (30%) が変異なし・未検出であった (Fig 2A)。145例 (7.3%) が2つ以上のアクショナブル変異を同時に保有した。KRASをアクショナブルでないと分類した場合はアクショナブル変異率がn=627 (31%) に低下し (Fig 2B)、TP53・IDH1・IDH2も含めた場合はn=1,156 (58%) に上昇した (Fig 2C)。この定義感度は試験設計上の重要な考慮点を示す。腫瘍種別では変異率が5% (特定の肉腫等) から79% (特定の腫瘍型) まで大きく異なり、プラットフォームの有用性が疾患別に大幅に差があることが示された (Fig 2A右パネル)。遺伝子別の腫瘍種特異的頻度では、PIK3CAが乳癌25.7%・大腸癌15.9%、KRASが大腸癌49.6%・膵臓/脳腫瘍35.7%、BRAFが黒色腫43.3%、NRASが黒色腫25.5%、EGFRが肺癌30.6%、APC (adenomatous polyposis coli) が大腸癌24.0%という疾患特異的高頻度変異パターンを示し (Table 1、Fig 3)、頻度5%以上のアクショナブル変異はわずか4遺伝子にとどまった。多くのアクショナブル遺伝子の変異頻度は1%未満であり、これらを対象とした遺伝子型選択試験のための患者集積には大規模スクリーニングが不可欠であることが数量的に示された。

遺伝子型マッチ試験への登録率と統計的関連: 検査後に何らかの治療的臨床試験に登録した患者はn=519例 (26%) であった (Fig 4A)。アクショナブル変異を有する患者の試験登録率28.4%は非アクショナブル変異群24.4%と比べて統計的に有意差があったが (Pearson χ²検定、p=0.0445; Fig 4B)、その差は軽微であった。789例のアクショナブル変異保有患者のうち、遺伝子型マッチ試験へ実際に登録されたのは83例 (11%) にすぎなかった: 遺伝子型選択試験 (登録必須) 54例 (7%)、遺伝子型関連試験 (バイオマーカー選択なしだが対象遺伝子産物を標的とする薬剤使用) 29例 (4%) であった (Fig 4C)。これ以外に121例 (15%) は遺伝子型非マッチ試験に登録した。登録患者の主要ゲノム変異内訳はFig 4Dに示し、標準ケアで検査可能な変異 (EGFR n=5、BRAF n=16、KRAS n=3) を除いた場合も同様のパターンが観察された。先行のLCMC報告 (28%) やSAFIR01 (13%) と比較しても、本多癌腫横断コホートの11%は同等の低さを示した。

PIK3CA/AKT1/PTEN/BRAF変異群の詳細フロー分析: n=429例における中央追跡期間は検査結果から最終追跡まで257日 (range: 4〜749日) であった。199例 (46%) は検査後にMD Anderson Cancer Centerで新規治療レジメンを受けなかった (Fig 5A): 75例 (17%) は来院せず、55例 (13%) は地元での治療選択、26例 (6%) はPS (performance status) 不良で治療不能、43例 (10%) は安定病変等その他の理由であった。検査後に同施設で新規治療を受けたn=230例では: 40例 (17%) が遺伝子型選択試験に登録、16例 (7%) が遺伝子型関連試験に登録、35例 (15%) が他の試験に登録、40例 (17%) が試験外で遺伝子型関連薬剤を投与された (Fig 5B)。検査前に遺伝子型関連薬剤を受けていた8例 (2%) と試験外投与12例 (5%) を含めると、230例中116例 (50%) が何らかの形で遺伝子型マッチ薬剤を受けた。電子カルテへの検査結果記録は158/230例 (68%)、遺伝子型マッチ試験討議の文書化は106例 (46%)、試験登録に至ったのは61例 (27%) のみであった (Fig 5C)。13例が検査後に複数の遺伝子型マッチ試験に連続登録し、2例はKRAS+PIK3CAまたはKIT+PIK3CAを同時標的とする試験に並行登録した。

検査ターンアラウンドタイムと登録障壁の体系化: PIK3CA/AKT1/PTEN/BRAF変異群のうちマルチプレックス検査前に単一遺伝子CLIA検査未施行のn=326例では、同意からCLIA検査結果入手までの平均31日・中央値26日を要した。102例 (23.8%) は検査結果受領前に別の治療を開始しており (うち13例は遺伝子型関連の選択)、検査の「ポイントオブケア」活用を妨げた。試験登録の主な障壁として同定されたのは (Fig 5C): (1) 非治験治療に対する患者希望または地元での治療選択 (最多)、(2) PS不良または他の試験適格基準外、(3) 試験スロット・利用可能な試験の欠如、(4) 保険拒否、(5) 希少変異に対応する試験の欠如であった。試験が討議されながらも非遺伝子型マッチ・非治験治療・他院治療を選んだ患者が45例存在したのに対し、スロット不足4例・PS不良4例・適格基準外11例・保険拒否1例という非患者側の構造的障壁も明確に同定された。

考察/結論

本研究は大規模多癌腫横断マルチプレックスゲノム検査の技術的実現可能性を2,000例規模で実証した。しかし789例 (39%) にアクショナブル変異を同定したにもかかわらず遺伝子型マッチ試験への登録がわずか83例 (11%) にとどまるという乖離は、精密医療の概念実証から臨床実装への転換における構造的障壁を定量的に明示するものであった。PIK3CA/AKT1/PTEN/BRAF変異群の詳細追跡では、施設で治療を受けたn=230例のうち50% (116例) が遺伝子型マッチ薬剤を受けており、「施設を離れなかった患者に限れば」精密医療は半数で実現できたという重要な逆説も示された。

既報との相違点と新規性: これまでの研究では単一疾患または比較的小規模なコホートが中心であったが、本研究は多癌腫横断かつ2,000例規模で体系的追跡を行った点において新規の取り組みである。LCMCが肺癌単一疾患で28%の試験登録を報告し (Kris et al. JAMA 2014)、SAFIR01が乳癌で13%を報告したのと異なり、本研究は多癌腫横断での11%という試験登録率を示すとともに、46%が施設に再来しないという構造的損失の内訳を初めて分解した。これまで報告されていない知見として、試験登録率がアクショナブル変異の有無によってわずかにしか異ならない (28.4% vs 24.4%、p=0.0445) という事実は、変異の検出だけでは試験登録につながらず、エコシステム全体の再設計が必要であることを定量的に示した。また、小分子癌治療薬の開発が加速するなか (Hoelder et al. MolOncol 2012)、利用可能なマッチング薬剤の試験が希少変異に対しては体系的に欠如している事実も本研究で明示された。

臨床的意義: 本研究の臨床応用として、遺伝子型マッチ試験へのアクセスを改善するための多層的戦略が提言された: (1) 医師への能動的アラートシステム (本研究中に電子メールアラートが導入・患者の検査結果受領時に遺伝子型マッチ試験一覧を自動通知)、(2) 意思決定支援プラットフォームの整備 (PersonalizedCancerTherapy.org)、(3) 希少変異に対するバスケット試験設計やジャストインタイム試験活性化、(4) 多施設・多地域ネットワーク拡充による地理的アクセス障壁の低減である。臨床現場での精密医療実装には技術的インフラだけでなく、患者・医師・試験提供体制の三者を結びつける包括的なエコシステム設計が不可欠であるという臨床的意義は、本研究以降の精密医療推進プログラムの設計思想に直接反映された。

残された課題と限界: 本研究の観察的デザインという limitation として、電子カルテへの検査結果記録が68%にとどまるため実際の検査活用状況の全容は把握できない。ホットスポット検査のみを対象としたため、コピー数変異・遺伝子再構成・融合遺伝子は検出対象外であり、全エクソーム解析や包括的ゲノムプロファイリングによってアクショナブル変異率がさらに上昇する可能性がある。また、39%という検出率と11%という試験登録率のギャップを埋めるための取り組みとして、今後の課題には試験登録率改善のための前向き介入研究、液性生検を用いた迅速なポイントオブケア検査、および適切なPS保有患者への検査集中化の効果検証が含まれる。更なる検討として、遺伝子型マッチ試験登録が実際の治療成績改善に結びつくかどうかの無作為化比較試験による評価が将来の精密医療研究に不可欠の課題として残されている。

方法

患者選択・登録: 施設倫理審査委員会承認の前向きゲノムプロファイリングプロトコル「Molecular Testing for the MD Anderson Cancer Center Personalized Cancer Therapy Program」(NCT01772771、CLIA [Clinical Laboratory Improvement Amendments] 準拠) に同意を得て2012年3月から2013年7月に登録した。主として転移性・局所進行性・局所再発性または高リスク悪性疾患患者を対象とし、ゲノム関連試験が存在する疾患センターを中心に集積した。患者識別は当初研究看護師/コーディネーターが担ったが、5ヵ月後に主治医担当に移行した。登録2,601例のうち601例 (23%) は組織不足またはDNA質・量不足により検査未施行で、実際に検査を受けたのはn=2,000例 (データ締切: 2014年8月26日) であった。

ゲノム解析プラットフォーム: 最初の251例は質量分析ベースのSequenom 11遺伝子ホットスポットパネル、次の1,716例はIon Ampliseq Cancer Panel (Life Technologies) による46遺伝子NGS解析、最後の33例はEZH2・IDH2・GNA11 (guanine nucleotide binding protein subunit alpha 11)・GNAQ (guanine nucleotide binding protein subunit alpha q) を追加した50遺伝子パネルを使用した。シーケンスアライメントはTorrent Suite V2.0.1、参照ゲノムはHg19 (Human Genome Build 19) を使用し、変異検出はTorrent Variant Caller V1.0、データ統合はOncoSeekソフトウェアで実施した。生殖細胞変異はdbSNP v.138の集団アレル頻度と照合して判定した。

アクショナブル変異の定義と分類: 35遺伝子を「アクショナブル」と定義した (承認済みまたは治験薬によって直接・間接的に標的可能)。本解析ではTP53・IDH1・IDH2は該当試験の欠如を理由に非アクショナブルと分類し、KRASはMEK阻害薬選択試験の存在を理由にアクショナブルと分類した。治療的含意の詳細はAppendix Table A3に示す。

PIK3CA/AKT1/PTEN/BRAF変異群の詳細追跡: この4遺伝子変異を有するn=429例を対象に、検査後の治療フロー・試験登録・障壁の種類を電子カルテと前向きデータベースから体系的に収集した (追跡中央期間: 検査結果から最終追跡まで257日)。

統計解析: カテゴリ変数は頻度表で要約した。変異頻度は検査実施例数を分母に算出した。アクショナブル変異の有無と検査後の臨床試験登録との関連はPearson χ²検定で評価した。