• 著者: Stephen J. Murphy, Faye R. Harris, Farhad Kosari, Simone Barreto Siqueira Parrilha Terra, Aqsa Nasir, Sarah H. Johnson, Vishnu Serla, James B. Smadbeck, Geoffrey C. Halling, Giannoula Karagouga, William R. Sukov, Konstantinos Leventakos, Ping Yang, Tobias Peikert, Aaron S. Mansfield, Dennis A. Wigle, Eunhee S. Yi, Benjamin R. Kipp, George Vasmatzis, Marie-Christine Aubry
  • Corresponding author: Marie-Christine Aubry, MD (Department of Laboratory Medicine and Pathology, Mayo Clinic, Rochester, MN)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-05-16
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31103780

背景

複数の肺腫瘍を有する患者は増加しており、肺癌患者の最大15%が2個以上の病変を有するとの大規模シリーズが報告されている。多発肺腫瘍を認めた際の最大の臨床課題は、MPLC (multiple primary lung cancers; 複数原発肺癌) と IPM (intrapulmonary metastasis; 肺内転移) の鑑別であり、MPLCでは各腫瘍に対する根治的切除を含む局所治療が適応となるのに対し、IPMでは転移性疾患として全身療法が主体となるため、誤った分類は治療方針を根本的に誤らせる。

従来の標準的手法は組織病理学的評価であるが、異なる組織型 (例: AD (adenocarcinoma; 腺癌) vs SQCC (squamous cell carcinoma; 扁平上皮癌)) では比較的容易に独立原発と診断できる一方、同一組織型の比較では観察者間変動が大きく、鑑別が極めて困難な場合がある。IASLC (International Association for the Study of Lung Cancer; 国際肺癌学会) 肺癌病期分類プロジェクトは2016年に複数の臨床・病理学的基準を提案し、単一評価基準の限界を認識した上で多因子的アプローチの必要性を強調したが、確定的判定を下せない症例が依然として多く残存する。

ゲノム解析によるアプローチとして、共通ドライバー変異 (EGFR、KRAS、BRAF等) の有無が系統判定に用いられてきたが、先行複数研究において原発巣と転移巣間の変異一致率が0%から86%まで広く変動することが報告されており信頼性に問題がある。特に「フィールド癌化 (field cancerization)」仮説は、肺上皮全体が共通の発癌刺激に曝露されることで同一のホットスポット変異を持つ独立した腫瘍が並存しうると予測しており、同一変異の共有が必ずしも転移の証拠とはならない問題が指摘されている (Pao et al. NatMed 2012)。また既知ドライバー変異が全く検出されない肺癌が約50%存在し、NGSパネルによる系統判定が情報を提供できないケースも少なくない。大規模ゲノム検査の臨床的適用可能性については先行研究が評価してきたが (Meric-Bernstam et al. JClinOncol 2015)、多発肺腫瘍の系統判定に特化した体系的な大規模コホート研究は手薄であった。

体細胞染色体再配列から得られるjunction breakpointは各腫瘍に高度に固有なゲノムマーカーであり、同一のjunctionが異なる患者の腫瘍に生じる確率は理論上極めて低い。MPseq (mate-pair sequencing) を用いた先行パイロット研究 (n=11例) でその有用性が示唆されていたが、より大規模なコホートでの検証が不足しており、組織病理学的評価および臨床NGSパネルとの体系的比較というgap in knowledgeがあった。

目的

体細胞染色体再配列のjunction breakpointを利用したMPseqが多発NSCLC (non-small cell lung cancer; 非小細胞肺癌) における腫瘍系統判定 (独立原発 vs 転移) において従来の組織病理学的評価および臨床肺癌NGSパネルに対してどの程度優位性を持つかを、先行パイロット研究 (n=11例) を拡張した37例コホートで検証すること。

結果

MPseqによる全腫瘍ペアの確定判定と組織病理学的評価との対比:MPseqはn=37例・全76腫瘍において系統判定に十分な数の体細胞junctionを検出し、全41腫瘍ペア比較で確定的な系統判定を達成した (不確定: 0例、達成率100%, 95% CI: 91.4-100%)。各腫瘍ペアで検出されたjunction総数は10から459 (平均140、中央値125) であった。代表的な3症例のゲノムプロットでは (Fig 1)、Lu131の2腺癌腫瘍間で染色体間転座を含む大規模なchromoplexy (少なくとも7染色体関与: 5, 12, 17, 19, 20, 22番染色体およびY染色体) が確認され転移と明確に判定された。Lu132では計16 junctionのうち6個 (38%) が共有され、染色体間転座2件 (4q35.2-Xp27.3間および3p11.1-9q33.1間) と染色体内再配列1件 (19q13) を含む体細胞junctionの共有が転移の証拠となった。Lu134では2腫瘍間で計435のユニークjunctionが検出されたが共有は0件であり、独立原発であることが明確に示された。

これに対し、組織病理学的評価では24ペア (59%) が独立原発、10ペア (24%) が転移と判定されたが、7ペア (17%, 95% CI: 7.2-32.1%) は2名の病理医の意見が一致せず「不確定」に終わり、MPseqの確定判定率100%と比較して統計的に有意な差を認めた (Fisher’s exact test p<0.01)。MPseq 100% (95% CI: 91.4-100%) vs 組織病理学的評価 83% (34/41) の直接比較では、MPseqが全例で確定判定に至るのに対し組織病理では7ペア (17%) が不確定に終わった。異なる組織型の8ペアでは組織学的評価とゲノム解析が100%一致した。同一組織型の33ペアでは9ペア (27%) でMPseqが組織学的評価と異なる判定を下した (Table 2)。病理医の組織型診断一致率は76腫瘍中74腫瘍 (97%) と高かったが、腺癌の優位パターンへの一致率は62腫瘍中46腫瘍 (74%) に低下した。

同一組織型での判定変更の内訳と「転移→独立原発」再判定の臨床的意義:同一組織型33ペア中9ペア (27%) の判定変更内訳は: 「不確定→転移」が3ペア (9%)、「不確定→独立原発」が4ペア (12%)、「転移→独立原発」が2ペア (6%) であった。「独立原発→転移」への変更は0ペアであった。特に臨床的に重要な2例 (LU041およびLU126) は、2名の病理医が「転移」と一致して診断したにもかかわらず、MPseqでは共有体細胞junctionが全く検出されず (固有junctionがそれぞれ203個および125個)、独立原発と再判定されたケースである (Fig 3)。もし組織病理学的評価のみに従えば、これら2例のMPLC患者は転移性疾患として全身療法へ移行し、根治的切除の機会を失った可能性がある。

病理医2名が一致して判定した34ペアにおけるゲノム解析との一致率は32/34 (94%) であった。臨床記録での患者管理判断との完全三者一致 (臨床・組織・ゲノム) は26/41 (63%) にとどまった。不一致・不確定の15症例を臨床・放射線学的に再評価したところ、6例 (40%) で当初の臨床判断が変更され、そのうち5例がゲノム判定と一致した (Supplemental Table 2)。腺癌同士29ペアでは病理学的評価で15ペア (52%) 独立原発・7ペア (24%) 転移・7ペア (24%) 不確定であったのに対し、MPseqでは21ペア (72%) 独立原発・8ペア (28%) 転移・0ペア不確定であった。

転移腫瘍ペアにおける体細胞junction共有率の定量的解析:転移と判定された11ペアでは、腫瘍ペア内の全junctionに占める共有junctionの割合が平均70%であった。10/11ペア (91%) で50%超の共有率を示し、7/11ペア (64%) で70%超の共有率を示した。22個の個別腫瘍についての平均・中央値はそれぞれ81%・85%であった。最高共有率はLu121 (AD vs AD) の459 junction中378個 (82%) であり、最低共有率の症例でも10 junction中7個 (70%) が共有されており、転移腫瘍では高い割合でjunctionが共有される一方で腫瘍内不均一性により一部のjunctionは片方の腫瘍にのみ出現した (Fig 3)。全41ペア中38ペア (93%) では系統評価に20個以上のユニーク体細胞junctionが利用可能であり、残り3ペアのうち2ペアは53%および75%のjunction共有率をもって転移と確定判定された。

生殖細胞系列junctionの構造的予測可能性と除外精度:末梢血由来DNAが利用可能だった22/37例 (60%) において、独立原発と判定されたペアで共有されていた全junctionが血液DNAにも存在し、生殖細胞系列変異であることが確認された (Fig 2A)。34例から合計93の生殖細胞系列junctionがフィルタリング後に検出され、1例あたり平均2.7個であった。その構造特性は高度に予測可能であり、82%が100 kb未満の局所欠失 (41/67 [61%]) またはトランスポゾン (14/67 [21%]) で構成されていた (Fig 2B、2C)。300 kbを超える生殖細胞系列junctionはわずか2件 (3%) のみであった。血液DNAが利用不可能だった症例でも、独立原発ペアで共有された28件のjunctionは全て (100%) トランスポゾンまたは500 kb未満の局所欠失であり、構造的特性から生殖細胞系列由来と予測可能であった。1件の生殖細胞系列junctionが2患者 (LU031とLU139) に共通して存在し、その後germlineマスクに追加された。

CNVスコアとNGSパネルの補完的有用性と限界:CNVスコアは41ペア中66%でjunction解析と一致したが、7%では逆相関 (junction解析と反対方向) を示し、27%では判定が不確定であった (Fig 4)。3ペアの逆相関は、各独立原発腫瘍が染色体の大部分に及ぶ高い倍数性 (ploidy) を呈し、肺癌で頻繁に観察される7p・20q・17q・5p・8qのゲインと偶然に高い一致率を示したことが原因であった。CNVスコア単独では系統判定が不確定となる割合が高く、特にjunction数が少ない症例 (LU043、LU108) ではCNVスコアが系統判定に寄与しなかった。

臨床用肺癌NGSパネルを施行した17例では、34腫瘍中18腫瘍 (53%) でドライバー変異が全く検出されなかった。KRAS G12/13変異が7例 (41%) に検出され、そのうちLU26とLU28の独立原発ペアが同一KRAS G12C変異を共有していたが、MPseqではjunctionが全く共有されておらず (LU26: 99個のユニークjunction、共有0)、独立原発を支持した。EGFR変異は3例 (17%) で検出され、LU121の転移ペアでは同一EGFR exon 19欠失が共有されMPseqと一致した。LU032は2腫瘍が異なるEGFR exon 19欠失 (それぞれEGFR c.2237_2255delinsおよびc.2240_2254del) を保有し独立原発であった。MET変異はLU031の一腫瘍に検出された。RNA解析では全例で既知の融合遺伝子は検出されなかった。

考察/結論

本研究は、体細胞染色体再配列のjunction breakpointを利用したMPseqが多発NSCLCにおける腫瘍系統判定において、これまでの研究で標準として用いられてきた組織病理学的評価と異なり、全症例で確定的な判定が可能であることを37例の大規模コホートで初めて系統的に実証した。同一組織型の腫瘍ペアで病理学的評価が27% (9/33ペア) の症例で誤判定または不確定に終わるという結果は、組織病理学的評価のみへの依存が生み出す実質的な誤分類リスクを定量的に示す重要なデータである。

先行研究との相違: 既報の研究では、EGFR・KRAS・TP53等のドライバー変異の一致・不一致が系統判定の主要ツールとして用いられてきたが、本研究では独立原発の腺癌ペア (LU26) が同一KRAS G12C変異を保有するケースが実際に観察され、フィールド癌化の影響によりドライバー変異の共有が転移の証拠とはなり得ないことが確認された。これまでの研究で報告された0%から86%という広い変異一致率の変動域は、腫瘍内不均一性に加えてこうした収斂進化の影響を反映していると考えられる。また、ドライバー変異陰性腫瘍が53%に上ることは、NGSパネルによる系統判定が約半数の症例で情報を提供できないことを意味し、50遺伝子パネルおよび182遺伝子パネルでもそれぞれ28%・14%の症例で判定不能であることが先行研究で示されている。これらの限界と対照的に、MPseqは全例で高い確信度の判定を提供し、不確定例がゼロであった。

新規の臨床的貢献: 本研究で初めて示されたのは、junction breakpointが組織病理学的評価で「不確定」となった7例全てを解決し、かつ病理医2名が一致して「転移」と診断した2例を正確に「独立原発」と再判定できるという事実である。junction breakpointは腫瘍ゲノム上で固有性が極めて高く (同一junctionが偶然に別の腫瘍に生じる確率は理論上1/10^12)、単一の体細胞junctionの共有のみで転移の強力な証拠となりうる。さらに、生殖細胞系列junctionが平均2.7個 (予測可能な構造: 100 kb未満局所欠失またはトランスポゾンが82%) と少なく、血液DNAなしでも構造的特性から除外判定が可能であることは、臨床実装における生殖細胞系列汚染問題への実用的解決策を示している。

臨床的意義: MPseqによる系統判定の臨床応用は、多発肺腫瘍患者に対する治療方針決定において根本的な精度向上をもたらす。MPLCと誤診された転移例では全身療法開始が遅れ、転移と誤診されたMPLC例では根治的切除の機会が失われる。外科的切除標本での評価でさえ27%に誤判定が生じることを考慮すると、生検や細胞診標本での組織学的評価ではさらに高い誤分類率が予想され、臨床現場でのゲノム系統判定の必要性は一層高い。Mayo Clinicでは本MPseqがすでにCLIA (Clinical Laboratory Improvement Amendments; 臨床検査施設改善修正法) 認定の臨床検査として実施可能であり、臨床的意義の高い構造変異の検出に活用されている。

残された課題と今後の展望: 本手法にはいくつかのlimitationが存在する。MPseqは特殊かつ高コストの技術であり、現状では標準的な臨床機関への普及が困難である。ホルマリン固定パラフィン包埋 (formalin-fixed paraffin-embedded; FFPE) 組織への応用は技術的制約があるが、修正全ゲノムシーケンシングプロトコルではFFPE標本でのjunction検出率が90%超に達することが示されている。また、腫瘍内不均一性が高い症例や体細胞変異数が少ない腫瘍では判定精度が低下する可能性があり、最低限のjunction検出数の確立が今後の検討課題である。ctDNA (circulating tumor DNA; 循環腫瘍DNA) を用いた非侵襲的系統判定アプローチや、より安価な低カバレッジ全ゲノムシーケンシング (low-pass whole genome sequencing; WGS) での同等精度実現に向けたfuture researchが必要である。さらに、異なる患者集団・民族集団における生殖細胞系列多型の誤分類リスクや、より広範なコホートでの外部妥当性の検証も、更なる検討を要する課題として残されている。

方法

Mayo Clinic Thoracic Specimen Registryより、2個以上の腫瘍の新鮮凍結組織が入手可能な37例 (76個の独立した腫瘍) を選定し、合計41の腫瘍ペア比較を実施した。本研究はMayo Clinic機関内倫理審査委員会 (IRB 12-002561および15-007961) の承認を受けた。本研究使用略語: MPLC (multiple primary lung cancers), IPM (intrapulmonary metastasis), SQCC (squamous cell carcinoma), LCNEC (large cell neuroendocrine carcinoma), LCM (laser capture microdissection), BIMA (Breakpoint Identification in Mate-pair Alignments), CNV (copy number variant), FFPE (formalin-fixed paraffin-embedded), ctDNA (circulating tumor DNA), CLIA (Clinical Laboratory Improvement Amendments), IRB (Institutional Review Board)。腫瘍グループの内訳は、異なる組織型の比較8ペア (AD vs SQCC、AD vs 大細胞神経内分泌癌 (large cell neuroendocrine carcinoma; LCNEC)) と、同一組織型の比較33ペア (AD vs AD: n=29、SQCC vs SQCC: n=4) であった。

LCM (laser capture microdissection; レーザーキャプチャーマイクロダイセクション) を用いて10μm凍結切片から腫瘍細胞を精密採取し、単一ステップ全ゲノム増幅法によりDNAを抽出した。末梢血由来DNAは37例中22例 (60%) で入手可能であり、生殖細胞系列 (germline) junctionの同定と除外に使用した。

MPseqライブラリはIllumina mate-pair kitを用いて作製し、Illumina HiSeq2000にて101 bpのペアエンドリードで解析した。各腫瘍あたり平均1億500万リードを取得し、平均ブリッジゲノムカバレッジは60倍程度であった。バイオインフォマティクス解析にはGRCh38参照ゲノムに対するBIMA V3アライナーを用い、30 kb以上離れた位置または異なる染色体にマッピングされる不一致リードをjunction候補として選出した。系統判定のための信頼閾値は7つのサポートリードを持つjunctionとし (偽陽性率はほぼゼロ)、評価対象となるペア検体では3リード以上を閾値とした。統計的には、0の共有junctionかつ最低2つの非共有junctionをカットオフとして独立原発を定義した (p=0.01)。診断法間の一致率比較にはFisher正確確率検定 (Fisher’s exact test) を用い、確定判定率の95% CI (confidence interval) はClopper-Pearson exact法で算出した。CNV (copy number variant; 染色体コピー数変化) については各染色体腕にスコアを付与し、共有ゲイン/ロスにプラス点、相反するゲイン/ロスにマイナス点を付けることでCNVスコアを算出した。

2名の肺病理専門医 (M.C.A.とE.S.Y.) が臨床情報およびゲノムデータを盲検化した状態で独立に組織学的評価を行い、独立原発 (independent primary)・転移 (metastasis)・不確定 (indeterminate) の3分類で判定した。adenocarcinoma (AD) の優位パターンにはGirardらの基準を適用した。

17例の腫瘍ペアには臨床用肺癌NGSパネルも追加実施した。DNAレベルでEGFR、BRAF、KRAS、HRAS、NRAS、ALK、ERBB2、METのホットスポット変異をIon AmpliSeq法で評価し、RNAレベルでALK、ROS1、RET、NTRK1の融合遺伝子をRNA-seqで検出した。アレル頻度5%以上の変異を解析対象とし、臨床分子遺伝学者による病原性評価を行った (Liu et al. JClinOncol 2016)。