Article data
- 著者: Xuewen Liu, Yuxia Jia, Mark B. Stoopler, Yufeng Shen, Haiying Cheng, Jinli Chen, Mahesh Mansukhani, Sanjay Koul, Balazs Halmos, Alain C. Borczuk
- Corresponding author: Balazs Halmos (Montefiore Medical Center/Albert Einstein College of Medicine, New York, NY)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2016
- Epub日: 2015-07-27
- Article種別: Original Article
- PMID: 26215952
背景
肺肉腫様癌 (PSC; pulmonary sarcomatoid carcinoma) は全肺悪性腫瘍の0.1〜0.4%を占める稀な高悪性度非小細胞肺癌 (NSCLC; non-small-cell lung carcinoma) の亜型であり、多形癌・紡錘細胞癌・巨細胞癌・癌肉腫・肺芽腫の5亜型に分類される。診断時の腫瘍平均径は4.65 cm (範囲1.3〜10.2 cm)、胸膜浸潤率72%、血管浸潤率75%と侵襲性が極めて高く、他のNSCLC亜型より予後不良かつプラチナ製剤ベースの化学療法への耐性も強い。このため進行期での有効な治療選択肢は乏しく、分子標的治療への期待が高かった。
分子プロファイリングについては複数の研究が行われてきた。Italiano et al. (2009) は欧州22例のPSCでEGFR変異を認めず、Pelosi et al. (2012) もALK再配列を否定した。一方Leone et al. (2011) はPSC 22例中2例にEGFR exon 19欠失を報告し、アジア系コホートでは最大20%のEGFR変異率を示した報告もあるが、ゲフィチニブへの奏効は乏しかった。Kaira et al. (2010) も肺多形癌でのEGFR変異解析でアクショナブル変異の臨床的有用性は限定的であると示した (Kaira et al. JThoracOncol 2010)。肺腺癌の包括的ゲノム解析を行ったCancer Genome Atlas研究 (CancerGenomeAtlas et al. Nature 2014) ではMET exon 14 skippingが肺腺癌の3〜4%に同定されたが、PSCでの頻度・機能的意義・治療可能性は未検討であった。
PSCにおける分子異常の包括的解析はサンプル数が少なく方法論の範囲も手薄であり、アクショナブルな遺伝子変異が高頻度に存在する可能性は見落とされてきた。特にMET変異については限定的なスクリーニングしか行われておらず、真の変異頻度と機能的重要性が不明のままであるというgap in knowledgeが存在した。
目的
PSCを対象とした全エクソームシーケンシング (WES; whole-exome sequencing) により体細胞変異の包括的スペクトラムを解明し、MET遺伝子変異の頻度・機能的意義・治療標的としての可能性を前臨床的および臨床的に明らかにすること。
結果
WESによる包括的体細胞変異スペクトラムの同定:発見セット10例において合計1,461個の体細胞変異が同定された (Fig A3)。変異内訳はミスセンス850個 (58.2%)、ナンセンス76個 (5.2%)、スプライスサイト変異26個 (1.8%)、欠失78個 (5.3%)、挿入33個 (2.3%)、サイレント394個 (27.0%) であり、平均体細胞変異率は3.44/Mb (範囲1.01〜7.03) であった。41例全体ではKRAS変異が6/40例 (15%、腺癌成分を有する29例中21%)、BRAF変異が1/31例 (3%) に認められた一方、EGFR変異 (0/40例) とALK転座 (0/38例) は認めなかった。これは患者の92%が現・元喫煙者 (34例中50%が>20 pack-yearsのheavy smoker) であることと整合的であった。
ランキングアルゴリズム・CRAVAT/CHASM・PROVEAN解析の組み合わせにより、既知癌遺伝子・TSGとしてTP53 (6/10例)、PIK3CA (2/10例)、MET (2/10例)、KRAS (2/10例)、STK11・SMARCA4・RB1・NOTCH1・MLL2 (各1/10例) が確認された (Fig A2)。さらに新規反復変異遺伝子として、RASA1・CDH4・CDH7 (各2/10例)、LAMB4 (3/10例)、SCAF1・LMTK2 (各2/10例) の計6遺伝子が同定・Sanger sequencing確認された。これらは細胞接着・シグナル伝達に関わる遺伝子であり、PSCの多表現型分化に関与する可能性が示された。
MET exon 14 skippingの22%という高頻度同定:発見セットで検出されたMET変異2例はいずれもexon 14のスプライスサイト変異であった。このため36例全例でMET exon 14とフランキングイントロンを双方向Sanger sequencingで精査したところ、MET exon 14 skippingを来す体細胞変異が8/36例 (22.2%) に確認された (Table 2、Fig 1A)。内訳は5’スプライスサイト欠失3例 (intron 13の16 bp欠失、28 bp欠失、11 bp欠失) と3’ドナースプライスサイト点変異5例 (うちc.G3028C/p.D1010_splice変異が4例) であった。
EGFR・KRAS・BRAF・ALK変異との完全な相互排他性が確認された。1例 (患者2番) のみMET exon 14 skippingとPIK3CA体細胞変異の共存が認められた。MET exon 14 skippingはアシナール腺癌成分を持つPSCで有意に高頻度であり (8例中7例=87.5%がアシナール腺癌成分あり)、アシナール成分を持つPSCでの変異頻度はアシナール成分なしと比較して有意に高かった (Fisher’s exact test P=0.005)。この変異頻度22%は肺腺癌での3〜4%と対照的な高い値であった。
MET exon 14 skippingのRNA・タンパクレベル検証と細胞機能的意義:凍結腫瘍組織のRT-PCRでは、スプライスサイト変異を持つ5腫瘍 (患者2、5、6、16、32番) およびMET exon 14 skipping既知細胞株 (H596、Hs746T) において、exon 14を欠く141 bp短小MET mRNAが腫瘍に特異的に検出された (Fig 1B)。正常組織では認めなかった。Western blottingでは変異腫瘍4例 (2T、5T、16T、32T) と細胞株2系 (H596、Hs746T) でMET前駆体タンパクおよびβサブユニットの小型化が示され、juxtamembrane domainを欠くMETタンパクアイソフォームの産生が確認された (Fig 1C)。患者16番のSanger sequencing histogramで代表的に確認した (Fig 1D)。
MET exon 14 skipping単独陽性Hs746T細胞では、crizotinib (0.1〜10 μM) とMET siRNA (10 nM) のいずれも細胞生存率を有意に低下させ (P<0.01)、下流のAKTおよびERK1/2リン酸化を強力に抑制した (Fig 2A〜D)。一方、野生型MET高発現のCalu-3・HCC827細胞での効果はほぼ認められず、oncogene addictionの特異性が示された。
PIK3CA共変異時に必要な二剤併用阻害戦略:MET exon 14 skippingとPIK3CA E545K変異を共存するH596細胞では、単独crizotinibまたはMET siRNAによる細胞増殖抑制とAKT脱リン酸化は限定的であった。PI3K α/δ阻害薬GDC0941 (IC50=3 nM) との組み合わせでは相乗効果 (CI<1) を確認し (Fig 3A)、AKT脱リン酸化も相乗的に増強された (Fig 3B)。MET siRNA + GDC0941の組み合わせでも同様の相乗的細胞増殖抑制 (P<0.01) とAKT脱リン酸化が認められた (Fig 3C、D)。1 μM crizotinib + 0.03〜0.3 μM GDC0941のCI計算でいずれの用量比でも1未満を示した。
化学療法抵抗性進行期PSCへのcrizotinib劇的奏効症例:74歳女性 (元喫煙者・石綿曝露歴あり) がStage II PSCと診断され、術前プラチナ/タキサン化学療法中に放射線学的増悪を来した。切除3か月後に右下肺・肝臓・腸間膜への広範な再発が確認されたが、化学療法抵抗性と全身状態不良から追加化学療法は断念された。拡大分子検査によりMET増幅 (9コピー) とexon 14 skipping変異が検出され、変異アレル比率は84%と変異アレルの優先的増幅が示唆された。MET増幅に基づきcrizotinib 250 mg 1日2回投与を開始したところ急速な臨床的改善が得られ、2か月後のCTにて右下肺・肝臓・腸間膜の全病変が著明に縮小し優れた部分奏効が確認された (Fig 4)。
考察/結論
本研究はPSCにおけるMET exon 14 skipping変異の22% (8/36例) という高頻度を初めて大規模に実証した。これまでの研究においてVieira et al. (2014) は77例の肉腫様癌でMET exon 14変異率わずか3%と報告していたが、これは3’スプライスサイトの欠失変異のみを対象とした方法論的制約によるものであった。本研究は5’および3’スプライスサイトの欠失・点変異を双方向Sanger sequencingで網羅したことに加え、本コホートではアシナール腺癌成分を有するPSCが68%と高い割合を占めた (Vieira らの30%と対照的) ことが高い変異頻度に寄与していたと考えられる。肺腺癌の3〜4%という頻度 (CancerGenomeAtlas et al. Nature 2014) と比べPSCでは約5〜7倍高頻度であることは、MET依存性シグナル経路がPSCの病態形成に中心的役割を果たすことを示唆する。
MET exon 14 skippingの分子メカニズムは、juxtamembrane domainに存在するE3ユビキチンリガーゼc-Cbl結合部位の欠損により、METタンパクのユビキチン化・プロテアソーム分解が阻害されて持続的なMETキナーゼ活性化が生じるというものである。本研究で示された既知ドライバー変異 (EGFR/KRAS/BRAF/ALK) との相互排他性は、MET exon 14 skippingが独立した新規なドライバーoncogenic eventとして機能することを強力に支持する。さらに、HGF (hepatocyte growth factor)/MET経路が上皮間葉転換 (EMT; epithelial-mesenchymal transition) と間葉系増殖を促進することは、PSCに特有の上皮・肉腫様双方の分化形態と整合的であり、MET変異がPSCの特徴的な組織像の発生に関与している可能性を初めて論じた点も本研究で初めて示した観点である。
PIK3CA変異が共存する場合は単剤MET阻害では不十分であり、MET + PI3K併用阻害が必要であることが明確に示された。Sequist et al. SciTranslMed 2011 に示されたようにEGFR変異NSCLCでもPIK3CA共変異は単剤EGFR-TKI (チロシンキナーゼ阻害薬; tyrosine kinase inhibitor) 耐性の原因となることが知られており (Kris et al. JAMA 2014)、本研究の知見はその分子アナロジーとして理解できる。臨床現場でMET exon 14 skipping変異陽性PSCを治療する際には、PIK3CA変異を同時に検索し、共変異症例には併用阻害戦略を考慮することが重要であることを本研究は示している。
臨床的意義として、本研究の最も重要な貢献は化学療法抵抗性進行期PSCへのcrizotinibの劇的奏効症例を初めて示した点である。74歳女性 (患者39番) がMET増幅 (9コピー) とexon 14 skipping (84%変異アレル) の存在下で2か月以内に著明な部分奏効を達成したことは、PSCに対する分子標的治療の臨床応用の実現可能性を直接的に示す強力なconceptual validationである。その後の展開として、tepotinib (2020年FDA承認) とcapmatinib (2020年FDA承認) がMET exon 14 skipping変異陽性NSCLCの標準治療として確立され、本研究の先見性が臨床的に証明された。
残された課題として、(1) MET増幅とexon 14 skippingの治療応答への各々の独立した寄与の解明、(2) PSC亜型別のMET変異頻度の比較 (本研究は癌肉腫・肺芽腫を除外しており全PSCを代表しない可能性)、(3) MET-TKI耐性機序の同定 (MET D1228V/Y1230C等の二次変異との関連)、(4) 非癌細胞株での適切な発現コンストラクトを用いたMET exon 14 skippingのoncogenic roleの正式検証が挙げられる。本研究のlimitationとして、n=36の単施設コホートで稀な疾患ゆえのサンプルサイズの制約がある。今後の研究として、前向き多施設試験でのMET exon 14 skipping変異陽性PSCに対する第二・第三世代MET-TKIの有効性確立、および免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせ効果の検証が求められる。
方法
コロンビア大学倫理委員会の承認のもと、同大学の1997〜2013年の病理データベースよりWHO基準に基づき41例のPSC (癌肉腫・肺芽腫を除く) を選出した。術前化学療法歴2例・DNA品質不足3例の計5例を除く36例を、発見セット (n=10) とバリデーションセット (n=26) に分けた。
発見セットでは新鮮凍結腫瘍と対応正常組織のペアを用いたWESを実施した。Illumina HiSeq 2000にて100 bp paired-endリードで配列決定し、平均カバレッジは腫瘍120倍・正常60倍とした。バイオインフォマティクス解析はBWA (version 0.5.9) によるhg19アセンブリへのアライメント、GATK (version 1.0, UnifiedGenotyper) による局所アライメント精緻化とベースクオリティ補正、Samtoolsによる体細胞変異コールの順に実施した。dbSNP135および1000 Genomes Projectのminor allele frequency ≥1%の変異を除外し、SIFTとPolyPhen2による病原性予測で候補を絞り込んだ。変異遺伝子のランキングにはCRAVAT/CHASM (Cancer-specific High-throughput Annotation of Somatic Mutations) とPROVEAN (Protein Variation Effect Analyzer) 解析を適用した。既知癌遺伝子・腫瘍抑制遺伝子 (TSG; tumor suppressor gene) はTruSeq Amplicon Cancer 48遺伝子パネル (Illumina、212アンプリコン多重ターゲットリシーケンス) で確認し、新規遺伝子はSanger sequencingで双方向確認した。
バリデーションセットはFFPE (formalin-fixed paraffin-embedded) 組織を用い、MET exon 14とフランキングイントロンを36例全例に対し双方向Sanger sequencingでスクリーニングした。RNA・タンパクレベルの検証には逆転写PCR (RT-PCR; reverse transcriptase polymerase chain reaction) とWestern blottingを使用し、抗体はSanta Cruz BiotechnologyおよびCell Signaling Technologyから入手した。
細胞機能実験ではMET exon 14 skipping陽性細胞株としてH596 (肺腺扁平上皮癌細胞株、MET exon 14 skipped + PIK3CA E545K変異、ATCC, Manassas, VA) およびHs746T (胃腺癌細胞株、MET exon 14 skipped、ATCC) を使用し、野生型MET高発現のCalu-3とHCC827を陰性対照とした。METノックダウンはSilencer Select siRNA (小干渉RNA; small interfering RNA) をDharmafect 1トランスフェクション試薬で導入した。MET/ALK/ROS1阻害薬crizotinibおよびPI3K α/δ阻害薬GDC0941 (IC50=3 nM) はいずれもSelleck Chemicalsより購入した。細胞生存率はMTSアッセイで評価し、薬剤組み合わせの相乗効果はBlissモデルとCalcuSyn softwareにより組み合わせ指数 (CI; combination index) を算出した。臨床症例としてMET増幅 (9コピー) + exon 14 skipping変異陽性の74歳女性進行期PSC患者にcrizotinib 250 mg 1日2回を投与した。
統計解析は、臨床病理学的変数とMET変異の関連にFisher’s exact testを用いた。MTSアッセイデータは3回以上の独立実験のmean ± standard deviationで表し、処置群対照群の比較はSPSS (version 13.0) を用いたpaired-sample t-testで実施、P<0.01を有意とした。