• 著者: Yi-Pu Li, Ying Zheng, Yu-Shuang Liu, Li-Fang Zhang, Xin-Yuan Chen, Si-Han He ほか (Ling-Yi Kong correspondingなど4名)
  • Corresponding author: Jin-Lei Bian (Bianjl@cpu.edu.cn), Hao Zhang (zhanghao@cpu.edu.cn), Kai-Bo Wang (kbwang@cpu.edu.cn), Ling-Yi Kong (cpu_lykong@126.com), China Pharmaceutical University, Nanjing
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-05-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42243089

背景

MET癌遺伝子 (chromosome 7q21-q31) は受容体型チロシンキナーゼ (RTK, receptor tyrosine kinase) をコードし、HGF (hepatocyte growth factor) 結合によりRAS-RAF-MAPK・PI3K-AKT/mTORシグナルを活性化する。METの増幅・過発現・変異は肝細胞癌 (HCC, hepatocellular carcinoma)、肺癌、胃癌、大腸癌など複数のがん種で認められ、EGFR阻害剤やRAS阻害剤への耐性機構としても重要である (EGFR耐性機構)。既存の承認済みMET-TKI (tyrosine kinase inhibitor) であるcapmatinib・tepotinib・savolitinibはMET exon 14 skipping変異NSCLCで承認されているが、MET増幅・タンパク過発現例やHCCでの臨床効果は限定的であった (Schuler et al. JTO 2020)。

G4 (G-quadruplex、グアニン四重鎖) は一本鎖グアニン富裕配列がHoogsteen水素結合によりカリウムイオン安定化のもとで形成する非カノニカル2次構造で、遺伝子複製・転写・ゲノム安定性を制御するエピジェネティック調節因子として機能することが知られている (Balasubramanian et al. Nat Chem Biol 2011)。MYC・KRAS・EGFRなどの癌遺伝子プロモーターG4を安定化することで転写を抑制する戦略が「難治性」分子標的の代替療法として注目されており (Neidle et al. Annu Rev Pharmacol 2022)、MET癌遺伝子プロモーターにもG4形成配列 (Pu24、転写開始点-80〜-57 bp) の存在がG4-ChIP-seq (G-quadruplex クロマチン免疫沈降シーケンシング) 実験で示唆されていた (Weldon et al. Nucleic Acids Res 2018)。しかし、METプロモーターG4 (MET-G4) の高分解能構造やそれと相互作用してMET転写を制御するタンパク質、さらにその複合体を標的とする低分子化合物については未解明であった。また従来の分子接着剤はタンパク質-タンパク質相互作用を標的とするものが主流であり、G4-タンパク質インターフェースを標的とするというアプローチは前例がなく、この知識のギャップを埋める新たな戦略が求められていた (薬剤耐性機構)。

目的

METプロモーターG4の高分解能NMR構造を決定し、MET-G4に結合してMET転写を制御する細胞内タンパク質を同定すること、さらにMET-G4-タンパク質複合体を標的とする天然化合物スクリーニングにより分子接着剤として機能する化合物を発見・特性解析することを目的とした。

結果

MET-G4のNMR高分解能構造決定: Pu25m1T DNAのNMR解析により、MET-G4は平行鎖 (parallel) G4トポロジーを採用し、3つのG-テトラードコア (G4-G8-G12-G20、G5-G9-G13-G21、G6-G10-G14-G22) を持つことが確認された (Fig. 2d)。522 NOE (nuclear Overhauser effect) 距離拘束・48水素結合拘束・25二面角拘束を用いたMD (molecular dynamics) シミュレーションで、G-テトラードコアの重原子RMSDは0.38±0.14 Å・全残基0.53±0.17 Åと良好な収束を示した (Table 1)。G2-C3-T19トライアドが5’末端をキャップし、独自のT15-C16-G17-C18ループ配列が全体の剛性を高めた。Tm値は50 mM K+含有溶液中で66°C以上と高い安定性を示した (Fig. 1a; Table 1)。

LRPPRC-MET-G4相互作用とMET転写促進機構: G4プルダウン/LC-MS/MS解析でLRPPRCがMET-G4結合タンパク質として最高MS/MSカウント値で同定された (Fig. 3a-c)。siRNA knockdown実験で、LRPPRC KDはHepG2細胞でMET mRNAを24時間以内に対照比約30%に低下させた (Supplementary Fig. 6d,e)。逆にLRPPRC過発現はMET mRNA・タンパクを有意に増加させた。LRPPRC1025-1394ドメインがMET-G4への高親和性結合を担い、Kd値は69.6 nMであった (MET-G4-MUT: 342.8 nM; Fig. 3h)。Kd値の4.9倍の差は結合特異性を示す。ChIP-qPCR実験でもLRPPRCのMETプロモーター上のG4形成領域への結合が確認された (Fig. 5l)。G4-CUT&Tag実験でHepG2細胞においてMETプロモーター領域にG4シグナルの有意な濃縮が確認された (Fig. 3b)。

nitidineのMET-G4安定化と分子接着剤機能: 424天然化合物ライブラリーのFRET-melting assayスクリーニングで、Tm値を25°C以上上昇させる8化合物がヒットした (Fig. 5a)。このうちnitidine (NIT) は1 μMでHepG2細胞のMET mRNAを約60%減少させる唯一の化合物として選択された。Nitidineは2当量添加でMET-G4のTmを26°C上昇させ (Supplementary Fig. 16a)、Kd値は低ナノモル範囲であった。EMSA実験でnitidine添加はLRPPRC-MET-G4複合体量を有意に増加させ (Fig. 5g)、LRPPRC-MET-G4間のKd値を6分の1に低下させた (Fig. 5h)。G4-ChIP-qPCR解析でnitidine処置はMETプロモーターG4富化を4倍増強し (Fig. 5k)、LRPPRC-ChIP-qPCRでもnitidineはMETプロモーターへのLRPPRC占有を有意に増加させた (Fig. 5l)。これらの結果はnitidineがLRPPRC-NIT-MET-G4三元複合体を形成する分子接着剤として機能することを示す。

in vitro・in vivo抗腫瘍効果: Nitidineは用量依存的にHepG2・HCCLM3 HCC細胞でMET mRNA・タンパクを低下させ (Fig. 5e,f)、HGF (n=各3-5 well/条件) 刺激条件でより強いHepG2増殖抑制を示した (p<0.05)。デュアルルシフェラーゼレポーター実験で、nitidineはMET-G4-WT構築物のルシフェラーゼ活性を有意に抑制したが、MET-G4-MUT構築物には影響を与えなかった (Fig. 5d)。MET siRNA KDとnitidineの組み合わせは相乗的抗増殖効果を示した (Supplementary Fig. 20b)。MET増幅肺癌細胞株EBC-1・H1993ではnitidineが用量依存的にMET発現を抑制した一方、capmatinibはMET発現を一貫して低下させなかった (Supplementary Fig. 24b-d)。In vivoのHepG2 xenograftモデル (n=各5匹/群) でnitidineは腫瘍体積・重量を用量依存的に有意に低下させ (p<0.05; Fig. 6b,c)、sorafenibより強い腫瘍抑制が確認された。H1993 xenograftモデルでもnitidineはcapmatinibと同等の抗腫瘍活性を示した (Supplementary Fig. 28b-f)。血清ALT・AST値は処置期間中有意な変化なく (Supplementary Fig. 27c,d)、HepG2モデルでは体重変化も認めなかった (Supplementary Fig. 27b)。

考察/結論

本研究は、LRPPRC-MET-G4軸というMET癌遺伝子の新規エピジェネティック転写制御機構を初めて解明し、この複合体を分子接着剤 (molecular glue) により標的化するという新規なアプローチを確立した。MET-G4が転写エンハンサーとして機能し、LRPPRCがその読み取りタンパク質として作用するという機能連鎖は、先行研究で報告されてきたG4結合タンパク質 (DHX36・hnRNP A1・PARP1等) を介した遺伝子抑制機構とは異なり、新たなG4依存的転写活性化軸を提示する。

先行研究の分子接着剤が主にタンパク質-タンパク質インターフェース (例: thalidomide系のDDB1-CRBN-neosubstrate三元複合体形成) を標的としてきたのとは異なり、nitidineはDNA G4-タンパク質インターフェースを安定化するというこれまで前例のない機構を採用している点で新規な概念を提供する。この「G4接着剤」アプローチはMET以外の癌遺伝子G4 (MYC-G4・KRAS-G4) にも拡張可能な新規な創薬パラダイムを示す (MET-KRAS共変異)。また、capmatinibがMETリン酸化シグナルを抑制するのみで全体的なMET発現量を変えないのに対し、nitidineはMET転写レベルを低下させるという異なるメカニズムにより補完的効果を示しており、MET増幅腫瘍における新たな治療戦略となりうる。

臨床応用の観点から、本研究はFGFR阻害剤・RAS阻害剤耐性でMET増幅が獲得される症例に対して、転写レベルでのMET抑制という新戦略の先行臨床的根拠を提供する。特にHCCではcabozantinibのみが承認されており、METプロモーター標的戦略は未開拓の治療的ニッチを埋めるものである。LRPPRC-MET-G4インターフェースを標的とした次世代分子接着剤の合理的設計への道筋も示された。

残された課題として、第一にnitidineはpolypharmacological profileを持つため、MET-G4非依存的な抗腫瘍効果の寄与を完全には除外できない。第二にLRPPRC-NIT-MET-G4三元複合体の高分解能NMR/X線/cryo-EM構造決定は、nitidineのNMR結合が中速から速い交換様式を示すため現時点では技術的に困難である。第三に本研究で同定されたMET-G4結合タンパク質 (EIF3A・DHX9・HADHA等) 間の機能的相互作用の全容解明が必要である。第四に特にH1993 xenograftでday 13以降の体重減少がみられており、治療域の最適化が臨床応用への課題として残る。

方法

構造解析: METプロモーター近傍のPu25m1T DNA (G14→T14変異体) を用いてNMR分光法 (NOESY・HSQC・DQF-COSY) による高分解能溶液構造決定を実施した。522 NOE距離拘束・48水素結合拘束・25二面角拘束を用いたMD (molecular dynamics) シミュレーションにより、最低エネルギー15構造のアンサンブルを取得した。重原子RMSD値はG-テトラードコアで0.38±0.14 Å・全残基で0.53±0.17 Åであった。

タンパク質同定: G4プルダウン/LC-MS/MS (liquid chromatography-tandem mass spectrometry) 解析 (HepG2細胞ライセート + ビオチン標識MET-G4) と424化合物を含む天然物ライブラリーを用いたFRET (fluorescence resonance energy transfer)-melting assayスクリーニングを実施した。LRPPRC (leucine-rich pentatricopeptide repeat-containing protein) の3つの切断フラグメント (LRPPRC53-648・LRPPRC650-1024・LRPPRC1025-1394) のEMSA (electrophoretic mobility shift assay)・MST (microscale thermophoresis) 実験で結合ドメインを同定し、AlphaFold 3.0予測構造 + HADDOCK 2.4分子ドッキング + Amber MDシミュレーション (1250 ns) によりLRPPRC-MET-G4結合モデルを構築した。

細胞・in vivo実験: HepG2・HCCLM3 HCC細胞株、EBC-1・H1993 MET増幅肺癌細胞株を用いてRT-qPCR・ウエスタンブロット・luciferaseレポーター・ChIP (chromatin immunoprecipitation) 実験を実施した。統計解析にはStudent t検定・一元配置ANOVA (analysis of variance) を適用し、p<0.05を有意とした。In vivoはHepG2・H1993由来xenograft (異種移植) モデル (ヌードマウス) を用いてnitidine (NIT) の抗腫瘍効果を評価した。対照薬としてFDA承認肝癌治療薬sorafenibおよびMET-TKI capmatinibを用いた。