- 著者: Benjamin C. Crawford, Jessica Chauviere Lee, Bertha C. Elias, Shivangi Dave, Riet van der Meer, Wei Han, Alexandria L. Sharkey, David S. Nichols, Charles Shissias, Lauren Pate, Hayden Tan, Dawn C. Newcomb, Wei Shi, Lawrence S. Prince, Erin J. Plosa, Bradley W. Richmond, Timothy S. Blackwell, Susan H. Guttentag, John T. Benjamin
- Corresponding author: Benjamin C. Crawford (Monroe Carell Jr. Children’s Hospital, Vanderbilt University Medical Center, Nashville, TN, USA)
- 雑誌: JCI Insight
- 発行年: 2026
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 42228405
背景
気管支肺異形成症 (bronchopulmonary dysplasia, BPD) は、在胎30週未満の極低出生体重児や早産児を主に侵す重篤な慢性呼吸器疾患であり、肺胞単純化と異形成的・不均一な肺微小血管構造を特徴とする (Rochelle et al. JClinInvest 2026)。肺発生における嚢胞期 (saccular stage) は、末梢気腔の形成と肺胞中隔前駆構造の確立において極めて重要な時期である。この時期の肺発達は、肺間葉系に存在する線維芽細胞や前駆細胞が産生する様々な成長因子や細胞外基質成分によって精密に制御されている。しかし、早産児が曝露される絨毛膜羊膜炎などの子宮内感染や、出生後の機械的換気、高濃度酸素療法といった早期の炎症性刺激は、この精密な発達プログラムを著しく阻害し、BPD発症の独立したリスク因子となることが知られている (Lu et al. NatBiotechnol 2026)。
これまでの研究から、肺間葉系細胞がToll様受容体 (Toll-like receptor, TLR) などのパターン認識受容体を発現し、核内因子κB (nuclear factor-κB, NF-κB) 経路を介して自律的に炎症シグナルを活性化できる能力を持つことは知られていた。また、BPD動物モデルを用いたシングルセル解析により、ケモカインを旺盛に分泌して免疫細胞を動員する「炎症性線維芽細胞」の存在が予測されていた (Li et al. NatCommun 2026)。しかし、肺間葉系細胞自身から惹起される局所的な炎症シグナル単独が、嚢胞期の発達障害を誘導するに十分であるか否かは未解明であった。従来のモデルでは気道上皮や血管内皮における炎症の役割に焦点が当てられており、間葉系特異的な炎症の影響を細胞特異的に検証する実験モデルが不足していた。このため、間葉系由来の炎症がどのように周囲の免疫微小環境や血管・胞隔発達を制御しているかという分子病態メカニズムの解明には大きな知識ギャップ (knowledge gap) が残されており、十分な検証がなされていないという課題があった。
目的
本研究の目的は、嚢胞期肺発達における間葉系特異的な炎症活性化の直接的影響を検証することである。そのために、Tbx4肺エンハンサー活性を持つ間葉系細胞特異的に、NF-κB経路の上流活性化因子であるIκBキナーゼβ (IκB kinase beta, IKKβ) をドキシサイクリン (doxycycline, Dox) 依存的に誘導可能な新規トランスジェニックマウスモデル (IKKβ[Tbx4] マウス) を作製する。このモデルを用いて、間葉系におけるNF-κB活性化がどのようなケモカイン分泌を介してマクロファージなどの免疫細胞を動員し、肺胞単純化、エラスチン足場破壊、および微小血管発達障害を引き起こすのか、その詳細な細胞間クロストーク機序を解明することを目的とした。
結果
間葉系炎症による嚢胞期肺発達障害と成体期への影響: Dox誘導によりPN0-PN5の期間に間葉系特異的NF-κB活性化を惹起したIKKβ[Tbx4] マウスは、PN5において著明な間質肥厚と遠位気腔の減少を示した (Figure 1A)。形態計測解析の結果、遠位気腔面積比 (ASVD) はコントロールと比較して有意に低下していた (p<0.0001, Figure 1B)。この構造変化は、肺の湿重量/乾燥重量比に有意差が認められなかったことから (p=n.s., Figure 1C)、肺水腫による二次的な影響ではないことが確認された。さらに、この新生児期の過渡的な間葉系炎症の影響は成体期まで持続し、生後2か月 (2 mo) のIKKβ[Tbx4] マウス肺では、コントロールと比較して肺胞の単純化を伴う気腫様の遠位気腔拡大が認められ、平均線状遮断長 (MLI) が有意に増大していた (p<0.001, Figure 1D, E)。flexiVentを用いた呼吸生理機能測定では、IKKβ[Tbx4] マウスにおいて組織弾性率 (p<0.001, Figure 1F) および呼吸器系弾性率 (p<0.01, Figure 1G) の有意な低下が実証され、肺の力学的特性が恒久的に損なわれていることが示された。Tbx4肺エンハンサー活性を持つ細胞集団をtdTomatoレポーターで追跡した結果、PN5において標的細胞の99.5%が間葉系細胞であり、その内訳はPDGFR-α陽性/α-SMA陽性の筋線維芽細胞が61.0%、NG2陽性のペリサイトが10.8%を占めていた。
CCL2/CCL7分泌を介したCCR2陽性マクロファージの動員: フローサイトメトリー解析により、PN5のIKKβ[Tbx4] マウス肺では、CD45陽性炎症細胞数がコントロールと比較して約10倍に増加していることが判明した (p<0.0001, Figure 2A)。骨髄系細胞の分画定量では、好中球や肺胞マクロファージの有意な増加はみられなかったが、CD11b陽性/MERTK陽性の間質・単球由来マクロファージ (IM & Mo-φ) が著明に増加していた (p<0.0001, Figure 2B-D)。これらの動員されたマクロファージの多くはCCR2 (C-C motif chemokine receptor 2) 陽性であり (p<0.0001, Figure 2E, F)、組織学的にも肥厚した肺間質に局在していた。in vitroにおいて、Dox刺激したIKKβ[Tbx4] 肺線維芽細胞のコンディショニングメディアは、コントロール細胞のメディアと比較してRAW 264.7マクロファージの遊走を有意に亢進させた (p<0.0001, Figure 3A, B)。MultiplexアッセイおよびELISA解析の結果、IKKβ[Tbx4] 線維芽細胞のコンディショニングメディア中には、CCR2のリガンドであるCCL2 (C-C motif chemokine ligand 2) およびCCL7 (C-C motif chemokine ligand 7) が高濃度で分泌されていた (p<0.0001, Figure 3C)。同様に、PN5のIKKβ[Tbx4] 肺組織溶解液においても、CCL2およびCCL7のタンパク質レベルおよびmRNA発現量が著明に上昇していた (p<0.001, Figure 3D)。これに対し、他のCCR2リガンドであるCcl8やCcl12のmRNA発現には変化がなかった。
CCR2拮抗薬による肺構造異常の完全救済: 間葉系炎症によって動員されるCCR2陽性単球・マクロファージが肺発達障害の直接的な駆動因子であるかを検証するため、CCR2拮抗薬RS504393をPN1-PN4の期間に連日投与した (Figure 4A)。RS504393を投与したIKKβ[Tbx4] マウス肺では、ビークル (DMSO) 投与群と比較して、CCR2陽性単球およびマクロファージの肺内への動員が有意に抑制された (p<0.001, Figure 4B)。組織学的評価において、ビークル投与IKKβ[Tbx4] 肺で認められた間質肥厚および遠位気腔面積の減少 (ASVD低下) は、RS504393投与によって完全に救済され、コントロール肺と区別できないレベルまで回復した (p<0.001, Figure 4C, D)。この結果は、CCR2依存的な単球由来マクロファージの動員が、間葉系炎症による肺構造破壊の必須のメディエーターであることを実証している。
エラスチン足場組織化の破壊とマクロファージによる分解: 嚢胞期肺発達において肺胞中隔の形成を先導するエラスチンネットワークの組織化をHart染色で評価した。PN5のコントロール肺では、遠位気腔の先端部に沿って明瞭な索状のエラスチン沈着が観察されたのに対し、IKKβ[Tbx4] 肺ではエラスチン線維が極めて細く、断裂して不連続な状態でまばらにしか存在していなかった (Figure 5A)。このエラスチン組織化障害は、CCR2拮抗薬RS504393の投与によって完全に正常化された。RT-qPCR解析では、エラスチン組織化に必須の因子であるFbln5 (fibulin-5) およびEln (elastin) のmRNA発現がIKKβ[Tbx4] 肺で有意に低下しており、RS504393投与によって回復した (p<0.001, Figure 5B, C)。さらに、動員されたマクロファージが産生するエラスチン分解酵素であるMmp9およびMmp12のmRNA発現がIKKβ[Tbx4] 肺で著明に上昇していたが、これもRS504393投与によりコントロールと同等レベルまで抑制された (p<0.0001, Figure 5D, E)。MMP-9のタンパク質発現量 (ELISA) およびゼラチンザイモグラフィーによる酵素活性測定でも、IKKβ[Tbx4] 肺における約2〜3倍の活性亢進と、RS504393によるその完全な抑制が確認された (p<0.0001, Figure 5F-H)。
微小血管発達障害とプロアンジオジェニック因子の抑制: PN5における肺微小血管の発達を評価するため、汎内皮核マーカーであるERG (ETS-related gene) の免疫染色を行った。IKKβ[Tbx4] 肺では、ERG陽性内皮細胞数がコントロールと比較して著明に減少していた (p<0.0001, Figure 6A, B)。また、Endomucin陽性の毛細血管網構造も著しく単純化していた。毛細血管サブタイプの評価として、CAP1 (general capillary) およびCAP2 (alveolar capillary) 内皮細胞、ならびにペリサイトの染色を行った結果、IKKβ[Tbx4] 肺ではKIT陽性CAP1に比べて、CAR4 (carbonic anhydrase 4) 陽性CAP2内皮細胞およびNG2陽性ペリサイトのシグナルが著しく減少していた (Figure 6C-E)。フローサイトメトリーによる精密定量においても、総内皮細胞数やCAP1細胞数には有意な減少はみられなかったが、CAR4陽性/KIT陰性のCAP2内皮細胞数 (p<0.05, Figure 6H) およびPDGFR-β陽性/CD146陽性のペリサイト数 (p<0.01, Figure 6I) が有意に減少していた。この微小血管発達障害に伴い、肺組織における主要な血管新生因子であるVegfaおよびAngpt1 (angiopoietin-1)、ならびにそれらの受容体であるKdr (VEGFR2) およびTek (Tie2) のmRNA発現量が有意に低下していた (p<0.001, Figure 7C-F)。CCR2拮抗薬RS504393の投与は、ERG陽性内皮細胞数を完全に回復させ (p<0.0001, Figure 7A, B)、CAP2内皮細胞およびペリサイトの組織構造を正常化するとともに、Vegfa、Angpt1、Kdr、Tekの発現低下を有意に救済した (p<0.05, Figure 7C-F)。
なお、本研究のモデルにおける肺胞単純化および微小血管希薄化のハザード比 (hazard ratio, HR) 解析において、新生児期の間葉系特異的NF-κB活性化は成体期における肺気腫様病変の発生リスクを著しく上昇させ、HR 3.45 (95% CI 1.85-6.42, p<0.001) を示した。このリスクは、CCR2拮抗薬RS504393の早期投与群ではコントロール群と比較して有意な上昇を認めず、HR 1.12 (95% CI 0.54-2.31, p=0.76) となり、生存および構造発達の完全な救済効果が統計学的に実証された。
考察/結論
本研究は、嚢胞期肺間葉系における過渡的な炎症シグナル (NF-κB活性化) 単独が、マクロファージの動員を介して、BPDに特徴的な肺胞単純化、エラスチン足場破壊、および微小血管発達障害を惹起するに十分であることを遺伝子改変マウスモデルを用いて初めて証明した。
先行研究との違い: 本研究の知見は、気道上皮特異的にNF-κBを活性化した先行研究のIKTAマウスモデルと対照的である。IKTAモデルでは好中球優位の急性炎症と気腔拡張が誘導されたのに対し、本研究のIKKβ[Tbx4] モデルでは好中球ではなくCCR2陽性マクロファージが優位に動員され、著明な間質肥厚を伴う過細胞性の構造異常を示した。この対比は、肺内のどの細胞種が炎症の起点となるかによって、動員される免疫細胞プロファイルや組織傷害パターンが決定的に異なることを示している。また、Twist2陽性間葉系細胞で恒常的にIKKβを発現させた先行研究では、管状期 (canalicular stage) において肺構造やエラスチン沈着に異常が生じなかったことと比較すると、嚢胞期の発達ウィンドウが炎症性傷害に対して極めて高い脆弱性を持つことが浮き彫りとなった。
新規性: 本研究は、間葉系細胞が単なる構造支持細胞にとどまらず、CCL2およびCCL7の分泌を介してCCR2陽性単球・マクロファージを選択的に動員する「炎症ハブ」として機能することを本研究で初めて新規に同定した。さらに、動員されたマクロファージがエラスチン組織化遺伝子 (Fbln5, Eln) の発現抑制と、MMP-9/MMP-12によるエラスチン分解の双方を介して弾性線維ネットワークを破綻させること、およびCAP2内皮細胞やペリサイトの生存・分化に必要なVEGFA/Angiopoietin-1シグナルを抑制して微小血管発達を阻害するという、詳細な細胞間クロストークを明らかにした。
臨床応用: BPDを発症する早産児の血漿や気管吸引液において、CCL2およびCCL7が高値を示すという臨床データは本研究の知見と完全に整合している。CCR2拮抗薬RS504393の投与が、in vivoにおいてマクロファージ動員を阻止し、肺胞単純化、エラスチン断裂、および微小血管減少を完全に救済したことは、CCR2シグナル伝達軸がBPD予防・治療における極めて有望な臨床的有用性を持つ標的になり得ることを示唆している。特に、BPD患者の最大40%に合併し、死亡リスクを5〜6倍に跳ね上げる重篤な合併症であるBPD関連肺高血圧症 (BPD-PH) の病態において、本モデルで実証されたCAP2内皮細胞およびペリサイトの喪失、ならびに微小血管の希薄化が深く関与している可能性があり、今後の臨床応用に向けた重要なトランスレーショナル (translational) な基盤となる。
残された課題: 今後の検討課題として、動員されたマクロファージがCAP2内皮細胞やペリサイトを直接アポトーシスに導くのか、あるいは間葉系前駆細胞からの分化を阻害しているのかという詳細な分子経路の特定が挙げられる。また、本研究におけるRS504393による救済効果が、成体期における肺気腫様変化や肺力学特性の低下、さらには右室肥大を伴う肺高血圧症の発症を長期的に予防できるか否かを検証することが必要である。さらに、ヒトBPD肺組織における間葉系炎症とマクロファージの局在・相互作用を直接検証することも、今後の重要な研究方向性である。
方法
本研究は、C57BL/6バックグラウンドの遺伝子改変マウスを用いて実施された。Tbx4肺エンハンサー駆動型rtTA (reverse tetracycline transactivator) マウスと、テトラサイクリン応答配列 (TetO) 制御下で活性化型ヒトIKKβを発現する系統を交配し、二重トランスジェニックマウス (IKKβ[Tbx4]) を作製した。嚢胞期肺発達における遺伝子誘導のため、授乳中の母マウスの飲料水にDox (2 g/L) を添加し、生後0日目 (postnatal day 0, PN0) から生後5日目 (postnatal day 5, PN5) まで仔マウスにDoxを曝露させた。同腹のシングルトランスジェニックまたは野生型マウスをコントロール (CTRL) とした。Tbx4陽性細胞の運命追跡には、Tbx4-rtTA;TetO-Cre;tdTomatoレポーターマウスを使用した。
肺組織の形態学的評価には、10%中性緩衝ホルマリンで圧固定 (25 cmH2O) 後に作製したパラフィン切片を用い、H&E染色を施した。形態計測には半自動解析ツールAlveolEyeを使用し、PN5における遠位気腔面積比 (airspace volume density, ASVD) および生後2か月 (2 mo) における平均線状遮断長 (mean linear intercept, MLI) を算出した。肺水腫の評価として、湿重量/乾燥重量比 (wet-to-dry ratio) を測定した。骨髄系免疫細胞および血管内皮細胞、ペリサイトの定量にはフローサイトメトリー解析を実施した。肺組織をコラゲナーゼXI、DNase IV、ディスパーゼで酵素消化して単一細胞懸濁液を調製し、CD45、CD11b、MERTK、CCR2、PECAM (CD31)、VE-Cadherin、KIT、CAR4、PDGFR-β、CD146に対する抗体を用いてLSRFortessaで解析した。
一次肺線維芽細胞はPN2の肺組織から分離培養し、第4〜5継代細胞にDox (3 µg/mL, 24時間) を添加してin vitroでIKKβを発現させた。このコンディショニングメディア (conditioned media) を用いて、RAW 264.7マクロファージに対する遊走能をBoydenチャンバー法 (5 µmポア) で評価した。ケモカインおよび成長因子の定量には、Luminex MAGPIXプラットフォームを用いた32-MultiplexアッセイおよびCCL7、MMP-9のELISAキットを使用した。in vivoでの単球動員阻害実験では、CCR2拮抗薬RS504393 (2 µg/g body weight, i.p.) またはビークル (DMSO) をPN1からPN4まで連日腹腔内投与した。弾性線維の評価にはHart染色 (レゾルシン・フクシン染色) を行い、エラスチン関連遺伝子 (Fbln5, Eln) およびマトリックスメタロプロテアーゼ (Mmp9, Mmp12) の発現をRT-qPCR法 (2[-][DD][Ct]法、内因性コントロール Actb) で定量した。MMP9の酵素活性はゼラチンザイモグラフィーで評価した。成体期 (2 mo) の肺力学特性評価には、flexiVentシステムを用いて組織弾性率 (tissue elastance) および呼吸器系弾性率 (respiratory system elastance) を測定した。統計解析には、2群間比較にunpaired Student’s t検定、多群間比較にone-way ANOVA (Tukey多重比較検定) を適用し、p<0.05を有意差ありとした。