- 著者: Marchal C, Sima J, Gilbert DM
- Corresponding author: David M. Gilbert (Florida State University, Tallahassee, FL, USA)
- 雑誌: Nature Reviews Molecular Cell Biology
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-09-02
- Article種別: Review
- PMID: 31477886
背景
真核生物の染色体は細胞分裂のたびに、DNAだけでなくクロマチン構成要素・エピジェネティック情報・3D構造を含めて完全に複製されなければならない。約60年前、哺乳類染色体の大きなセグメントがS期の異なる時刻に複製されることが初めて示され (Taylor 1960)、その後のゲノミクス解析でメガベース規模のセグメントが「一定タイミング領域 (CTR: constant timing region) 」として隣接レプリコンの協調的活性化によって特徴的な時刻に複製されることが判明した。Hi-C (high-throughput chromosome conformation capture) の登場により、複製タイミングがA/Bコンパートメント・位相的関連ドメイン (TAD: topologically associated domain) ・ラミナ関連ドメイン (LAD: lamina-associated domain) と強く相関することがマッピングされた (Lieberman-Aiden et al. 2009; Dixon et al. 2012)。ヌクレオソームを基本単位とするクロマチンのパッケージング (Kornberg & Lorch 1999, Kornberg et al. Cell 1999) と、ヒストン修飾を介したシグナル伝達 (Cheung et al. Cell 2000) が複製タイミングの相関因子として注目された。さらに複製タイミングシグネチャーの変化は小児急性リンパ性白血病や早老症など複数の疾患で観察され、がんエピジェネティクスの一環として診断的意義も指摘されてきた (Dawson et al. Cell 2012)。しかしこれらは強い相関の記述にとどまり、3D構造と複製タイミングの因果関係および制御機構の理解は依然として不足していた。とりわけ、複製タイミングを規定するcis作用配列の同定と、染色体全体の複製ウィンドウを制御する分子実体の解明という点で knowledge gap が残されており、ほとんどの遺伝子ノックアウト・薬剤摂動が複製タイミングを変化させないという頑健性が機構解明を一層困難にしていた。
目的
哺乳類細胞におけるDNA複製タイミングプログラムと3Dゲノム構造の関係を統合的に整理することを目的とする。具体的には、(1) 複製タイミングとA/Bコンパートメント・TAD・LADの対応関係、(2) 細胞分化および細胞周期進行に伴う複製タイミングと3Dクロマチン相互作用の動態、(3) 複製タイミングを能動的に制御するcis作用配列 (ERCE: early replication control element) およびtrans作用因子 (RIF1・CTCF・コヒーシンなど)、染色体全体をコーティングする長鎖非コードRNA (lncRNA: long non-coding RNA) であるASAR (asynchronous replication and autosomal RNA) の役割、(4) 複製タイミングと転写の間接的な関係を論じ、3Dゲノム構造とは独立した複製タイミング制御層という統一的モデルを提示する。
結果
複製タイミングはA/Bコンパートメントと一致しTADとは部分的に整合する:哺乳類ゲノムでは1-5 Mbの一定タイミング領域 (CTR) が複製の基本単位をなし、その間を大きなタイミング遷移領域 (TTR: timing transition region) が緩やかに繋ぐ (Fig 1a)。Hi-Cの第一主成分 (PC1) で定義されるA型コンパートメントは転写活性・オープンクロマチンに対応して早期複製と一致し、B型コンパートメントは不活性・凝縮クロマチンとして後期複製と一致する。この対応はメガベース単位では極めて堅固だが、数十kb解像度では崩れ、個々の転写単位とは一致するが複製タイミングとは相関しなくなるため、解析解像度を生物学的プロセスのスケールに合わせる必要がある。LADは後期複製・B型コンパートメントと強く相関するが完全一致はせず、これは早期複製ドメインの境界がLAD境界と重なり、早期ドメイン由来の複製フォークが活性複製起点を持たない隣接LADへ急速に侵入して早期複製させるためである。TADの境界は複製ドメイン (RD: replication domain) の境界と整合し、両者は細胞遺伝学的に複製フォーカスとして可視化される安定構造単位に対応する (Fig 1b)。
TAD形成機構を破壊しても複製タイミングは不変である (Table 1) :本レビューの核心的知見として、CTCF (CCCTC-binding factor) ジンクフィンガータンパク質とコヒーシン複合体はループエクストルージョンによりTAD境界を形成するが、これらの除去は複製タイミングを変化させない。CTCFのノックダウン・ノックアウト (mESC、Gilbert研究室未発表データ) およびコヒーシンサブユニットの枯渇 (HCT116、マウス肝細胞) は、Hi-Cで測定される隣接TAD間の絶縁を著しく低下させるにもかかわらず複製タイミングには無影響であった (Table 1)。Suz12・MeCP2・G9a・ヒストンH1三重ノックアウト・cMyc-nMyc二重ノックアウトなど多くのクロマチン因子欠失も複製タイミングを変えない。一方RIF1 (Rap1-interacting factor 1) のノックアウト・ノックダウンはMEF・mESC・HeLaでゲノムワイドな複製タイミング変化を引き起こすが、3D構造への影響は局所的にとどまる。例外的にBAF250a (ARID1A) ・Brg1 (SMARCA4) ノックアウトは局所的な複製タイミング変化を生じる。この体系的整理は、TAD形成機構と複製タイミング制御が独立した分子機序によって駆動されることを明確に示す。
複製タイミングは細胞型間で安定だが分化時にドメイン統合を起こす:複製タイミングプログラムは同一細胞型の細胞間で極めて安定であり (single-cell Hi-Cで確認)、転写や多くのエピジェネティック修飾よりも安定な細胞型マーカーとして機能する。一方、ゲノムの少なくとも50%は細胞運命転換時に複製タイミングを切り替え、その変化は約0.5 Mbの複製ドメイン単位 (400-800 kb) で生じる。幹細胞が分化制限を受けるにつれ隣接複製ドメインが類似時刻に複製されるようになり、CTRがより大きく少数になる「ドメイン統合 (domain consolidation) 」が起こる。この統合は核内での物理的コンパクションと相互作用増加を伴い、FISHと4C・Hi-Cで可視化された。分化に伴う複製タイミング変化はA/Bコンパートメント切り替えと高相関を示すが、ヒトES細胞では分化初期の数細胞周期でコンパートメントと複製タイミングが非同期に変化し、両者が独立して切り替わりうることが示された。これは両者が直接の因果ではなく共通上流機構で間接的に連関することを示唆する。複製ドメインは細胞型を超えて境界を保持し時刻のみが発生学的に制御されるという「replication domain model」を支持する。
複製タイミングはG1初期のタイミング決定点で確立されS期後に消失する:複製タイミングプログラムはG1初期の「タイミング決定点 (TDP: timing decision point) 」で確立され、この時期に染色体ドメインが間期を通じて留まる位置へ移行する (Fig 2b)。4Cおよびsingle-cell Hi-Cにより、分裂後のTAD・A/Bコンパートメントの再構築がTDPと同一時間枠で起こることが確認された。TDPは複製起点が選択される origin decision point に先行し、両点の間で複製を強制開始させると複製タイミングは正常だが開始部位はランダムとなる。これは複製タイミングと開始部位選択が独立機構であることを示す。複製開始部位は高度に確率的で、多くの部位は2%未満の細胞周期でしか使われず、同一染色体が同じ起点コホートで複製されることはない (Box 2)。G2期にはHi-CによるTAD・コンパートメント構造は保持される一方、複製タイミング情報は失われ、間期ゲノム構造の足場だけでは複製タイミングを規定できないことが明らかになった。これらは3D相互作用がG1初期に足場を作り、細胞周期制御因子がそこに作用して複製タイミングを確立するという「scaffoldモデル」を支持する。
cis作用配列ERCEとlncRNA ASARが複製時刻を能動的に規定する:CRISPR-Cas9でmESCの複製ドメインに系統的欠失・逆位を導入した研究により、早期複製を制御するcis作用配列ERCEが同定された (Fig 4b)。ERCEはCTCF・コヒーシン非依存的に互いに3D空間でクラスター (hub) を形成し、H3K27Ac (活性ヒストンマーク) に富み、マスター転写因子Oct4/Sox2/Nanog (OSN) とヒストンアセチル基転移酵素p300に占有され、スーパーエンハンサーと類似する。単一ERCEは部分的活性しか持たず早期複製には少なくとも2つのERCEが必要で、ドメイン内の全ERCEを欠失するとドメイン全体がS期後半に複製され、A→Bコンパートメント切り替え・局所TAD破壊・転写消失が同時に起こる (Fig 4b)。染色体スケールでは、ASAR (ASAR6・ASAR15) が片方の相同染色体全体をcisにコーティングして複製ウィンドウを規定する (Fig 4a)。ASAR内のアンチセンス方向LINE1 (long interspersed nuclear element 1、ヒト・マウスゲノムに約500,000コピー) を欠失または逆位にすると染色体全体の複製が著しく遅延し、複製がG2・分裂期まで継続して凝縮不全を招く。これらASAR (ASAR6・ASAR15) はいずれもcisに作用する大型のlncRNA遺伝子座で、片方の相同染色体に限局して複製ウィンドウを規定する点で、XISTによる単一X染色体の不活化機構と深く類似する。欠失・逆位により染色体全体の複製が遅延すると、後期に残された領域がG2・分裂期へ持ち越されて染色体凝縮と分配の不全を招くため、ASARは染色体の正確な複製完了とゲノム安定性の双方に寄与すると考えられる。これはX染色体不活化におけるXISTの機構と類似した、常染色体での染色体スケール制御の新知見である (Pefanis et al. Cell 2015)。
エピジェネティック・配列要素と転写の間接的な関与:ヒストンアセチル化はβ-グロビン遺伝子座で複製タイミングを制御し、トリコスタチンA (TSA: trichostatin A) によるHDAC (histone deacetylase) 阻害は非赤血球細胞でも早期複製を誘導し、HDACターゲティングは赤血球細胞で遅延複製を誘導した (Fig 3b)。ただしH3K27Acは全エンハンサーに存在するためアセチル化単独では不十分である。リボソームDNA (rDNA: ribosomal DNA) ではDNAメチル化状態と複製タイミングが直接連関し、NoRC (nucleolar remodeling complex) 過剰発現はメチル化・遅延複製コピーを増やす (Fig 3a)。配列依存性として、ヒトF1ハイブリドマウスES細胞 (M. musculus castaneus × M. musculus musculus) では非インプリント領域でも相同染色体間の複製非同期が観察され、その程度は細胞型特異的に1%から12%まで変動した (Fig 3c)。SNP・短鎖インデルのクラスターが複製タイミング差と連関するが、これらは起点の選択ではなく起点効率の変化 (fold-change) に結びつく。trans因子としてはRIF1がPP1ホスファターゼを介してMCM複合体を脱リン酸化し開始を遅延させ、SIRT1がdormant起点発火を抑制する (Fig 4c)。転写と複製タイミングは正相関するが、構成的早期複製遺伝子 (全遺伝子の約2/3) が相関を駆動する一方、分化で時刻が変わる約1/3の遺伝子は後期複製状態でも転写されうるため、両者は密接だが分離可能な機構で制御される間接的関係にあると結論される。
考察/結論
本レビューは、DNA複製タイミングプログラムが3Dゲノム構造とは独立した制御層として機能することを統合的に論じた。これまでの研究では複製タイミングとA/Bコンパートメント・TADの強い相関が繰り返し報告されてきたが、本論文が既報と対照的に強調する最も重要な点は、CTCF・コヒーシン依存のループエクストルージョンによるTAD構造を破壊しても複製タイミングが変化しないという所見であり、3D構造と複製タイミングが同一上流機構によって間接的にのみ連関するという「replication domain model」を支持する。新規な貢献として、本研究で初めて体系化されたcis作用配列ERCEの概念は、複製タイミング・コンパートメント・TADアーキテクチャ・転写を協調制御する具体的な分子実体を提示し、長年未解明だった複製タイミング制御の突破口を開いた。さらにASARという長鎖非コードRNAが染色体全体をコーティングして複製ウィンドウを規定する機構は、X染色体不活化のXISTに類似した常染色体スケール制御の存在を示すこれまで報告されていない概念的進展である。臨床的意義として、複製タイミングシグネチャーの変化が小児急性リンパ性白血病・早老症・がんで観察されること、後期複製領域で点変異頻度が高くMMR (mismatch repair) タンパク質のS期中盤での発現低下が一因となること、すなわち複製タイミングがゲノム変異分布とがんゲノム進化に寄与しうる点は、疾患の精密な細胞型同定マーカーや bench-to-bedside の橋渡しへの臨床応用可能性を示す。残された課題として、複製タイミングをエピジェネティック状態変化に先行させる分子シグナルの同定、ERCEの機能的本質 (スーパーエンハンサーとの相違) とトランス結合因子の解明、ASARによる染色体全体コーティングの分子機構、ASARとERCEが協調するのか相補するのかの検証、相分離 (phase separation) がERCEクラスター形成に果たす役割、そして疾患・がんにおける複製タイミング変動の定量的評価が今後の研究課題として挙げられる。これらの解明には、cis要素とトランス因子を独立に操作する新たなゲノム編集ツールが不可欠であり、更なる検討が求められる。
方法
本論文はNature Reviews Molecular Cell Biologyに掲載されたレビューであり、PubMed/MEDLINE データベース上の細胞生物学・ゲノミクス文献 (n=207) を統合して論じる。素材となる一次研究の主要手法は、Hi-Cおよびその一細胞版 (single-cell Hi-C) によるクロマチン相互作用マッピング、Repli-seq/E-L Repli-seq・BrdU標識による複製タイミングの高分解能プロファイリング、DamID (DNA adenine methyltransferase identification) によるラミナ関連プロファイリング、ヌクレオチドアナログのパルスチェイス標識による複製フォーカスの可視化、FISH (fluorescence in situ hybridization) による空間配置の観察、CRISPR-Cas9による複製ドメイン内の系統的欠失・逆位、SNS-seq/Bubble-seq/OK-seq/ini-seq・ChIP-seq (chromatin immunoprecipitation sequencing) による複製開始点マッピングである。3Dフォールディングの2大コンパートメントA/Bは、ペアワイズ相互作用行列の主成分分析 (PCA: principal component analysis) の第一主成分 (PC1, eigenvector) として定義される。複製タイミングとクロマチン特徴量 (ヒストン修飾・DNase感受性・転写) の関係はPearson/Spearman相関で評価され、DNase感受性プロファイルからの複製タイミング予測には数理モデリングが用いられた。遺伝子欠失が複製タイミングおよび3D構造に及ぼす効果はTable 1に体系的に整理され、対象細胞株にはマウスES細胞 (mESC)、マウス胚線維芽細胞 (MEF)、HeLa、HCT116、マウス肝細胞、ヒトES細胞 (H9) などが含まれる。