- 著者: Roerink SF, Sasaki N, Lee-Six H, Young MD, Alexandrov LB, Behjati S, Mitchell TJ, Grossmann S, Lightfoot H, Egan DA, Pronk A, Smakman N, van Gorp J, Anderson E, Gamble SJ, Alder C, van de Wetering M, Campbell PJ, Stratton MR, Clevers H
- Corresponding author: Stratton MR (Wellcome Trust Sanger Institute); Clevers H (Hubrecht Institute)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-03-28
- Article種別: Original Article
- PMID: 29643510
背景
ITH (intra-tumour heterogeneity、腫瘍内不均一性) は治療抵抗性・再発の主要因として広く認識されているが、ゲノム・エピゲノム・転写・薬剤感受性という多次元における単一細胞レベルの包括的な実態は不明であった。先行研究では複数部位生検からの亜集団比較によりゲノム多様性の一端が示されており (Gerlinger et al. NEnglJMed 2012、deBruin et al. Science 2014)、Blokzijl ら (Nature 2016) による正常組織幹細胞の変異蓄積研究が正常細胞の基準変異負荷を確立していた。しかし、単一がん細胞からゲノム・エピゲノム・転写・薬剤感受性のすべてを同時に高品質で取得した報告はなく、正常腸上皮との直接比較による変異率定量は手薄であった。DNA mismatch repair (MMR) 欠損以外のがんにおいても変異率が亢進するかどうかは論争となっており、腫瘍内エピゲノム・転写多様化が一過性か安定・遺伝的かという gap in knowledge も残されていた。
目的
大腸癌3例の複数解剖部位から単一細胞由来クローン性オルガノイドを樹立し、ゲノム変異 (体細胞変異数・変異シグネチャー・構造変異)・DNA メチル化・転写状態・抗がん薬感受性の4次元における腫瘍内多様性を、同一患者の正常腸上皮単一細胞と直接比較する形で包括的に定量・解析する。
結果
体細胞変異負荷:がん細胞は正常細胞の4〜19倍の変異を蓄積し、最終増殖期には変異率が10〜100倍に亢進する:正常腸上皮幹細胞の平均体細胞塩基置換数は患者間で類似していた (P1: 3,792、P2: 3,172、P3: 3,621)。がん由来クローンではP1: 72,398 (MMR欠損、約19倍増)、P2: 22,291 (約7倍増)、P3: 14,209 (約4倍増) と著明に増加した (Fig. 2)。Indel 数も正常130〜227個に対しP1: 27,893、P2: 1,485、P3: 2,021 と増加し、ゲノム再編成は正常平均1件に対してP1: 71件、P2: 176件、P3: 67件と最大176倍超の増加を示した。Clock-like な Signature 1 変異数の比較から、がん細胞は正常細胞より推定1.7〜2.5倍多い有糸分裂を経験したことが示された (P1: 1.9±0.5、P2: 2.5±0.2、P3: 1.7±0.2 倍)。しかし系統樹末端ブランチ (最終クローン増殖フェーズ) での変異率は正常の推定100-fold (P1、MMR欠損) および10-fold (P2・P3、MMR正常) に達しており、分裂回数の増加では説明できない変異率の実質的亢進が確認された。大部分の追加変異は系統樹のトランクではなくブランチに蓄積し、最終ドミナントクローン増殖以降に生じたことが示された。
変異シグネチャーの時系列変化:正常細胞に不活性なプロセスが腫瘍の進化とともに多様化する:8種の塩基置換変異シグネチャーが同定された (COSMIC Sig 1・5・6・17・18・20・26 および新規シグネチャー1種)。正常腸上皮では Sig 1・5 が主体であった。がん系統樹のトランクでは Sig 1・5 に加えて Sig 17・18 (活性酸素種関連 DNA ダメージ・塩基除去修復欠損と関連) がいずれの腫瘍でも検出され、がん化早期から新規変異プロセスが活性化することが示された (Fig. 1)。ブランチでの主要シグネチャーはP1: Sig 6・20・26・indel (MMR欠損関連)、P2: Sig 5・17・18・indel、P3: Sig 5・18 および NTA/NTT コンテキストの T>G/A/C 変異を特徴とする新規シグネチャー (TP53 変異クローン限定) であった。P3 では TP53 変異クローンにゲノム再編成が多く蓄積し (TP53 変異クローン vs 野生型で再編成数に約10倍の差)、P2 では WGD (whole-genome duplication、全ゲノム倍加) がトランク内の分子時間の84% (95% CI 80.8-87.6%) 時点に推定され、APC 二重アレル不活化は WGD 以前に生じていたことが確認された。各ブランチ間でのシグネチャー寄与の顕著な差は、腫瘍内で異なる変異プロセスが異なる細胞系譜で稼働することを示した。
DNAメチル化・転写状態の安定した遺伝的多様化:変異系統樹とトポロジーが一致する:470,000 CpG サイトのメチル化データ (n=70 clones、450K Infinium アレイ) と転写プロファイル (RNA-seq、n=73 clones) を PCA (principal component analysis) で解析したところ、正常由来オルガノイドは全患者で類似してクラスター形成したが、がん由来クローンは患者ごとに独立したクラスターを形成した (Fig. 3)。P1腫瘍では CIMP (CpG island methylator phenotype) による全体的な CpG アイランド高メチル化が確認され、MLH1 プロモーターの高メチル化による MMR 欠損がエピジェネティックに制御されることが示された。各患者でメチル化・発現データから独立に構築した系統樹は変異データから得た系統樹とトポロジーが高度に一致し (SPR 距離が小さい)、エピゲノム・転写の多様化が変異の歴史に追随して安定かつ遺伝的に蓄積することが示された。in vitro オルガノイド培養後もこの特性は維持されており、腫瘍微小環境とは独立した細胞自律的・安定的な多様化であることが確認された。P3の TP53 野生型クローン2例のみ他の P3 クローンと離れた位置に布置された点も腫瘍内エピゲノム多様性の存在を裏付けた。
薬剤感受性の腫瘍内多様性:IC50が最大1,000倍異なり、一部は遺伝子型依存的:7剤を用いた in vitro 感受性試験 (濃度範囲: 19.5 nM〜20 µM、21段階、6日間処置) では、同一腫瘍内の密接に関連するクローン間でも IC50 (half-maximal inhibitory concentration) が最大1,000-fold 異なる場合があり、化学療法薬・分子標的薬の両者に当てはまった (Fig. 4)。遺伝子型と感受性が対応した例として、P3腫瘍では nutlin-3a が TP53 野生型クローンに著明な増殖抑制を示した一方 TP53 変異クローンでは効果が減弱した。RNF43 (WNT 経路の負の制御因子をコードするがん抑制遺伝子) 変異クローンは WNT 分泌/porcupine 阻害薬 IWP2 に高感受性を示した。しかし大部分の薬剤感受性多様性は地理的起源や系統樹とは明確に対応せず、密接に関連したクローン間にも顕著な差が存在した (例: P2.T4.1 は SN-38 に著明耐性; P3.T1.5 は 5-FU に特異的感受性)。変異の多様化と薬剤感受性の多様化との間に明確な相関は見られず、全3症例で多くの薬剤に抵抗性クローンが存在していた。
考察/結論
本研究は単一細胞由来クローン性オルガノイドを用い、大腸癌の腫瘍内多様性をゲノム・エピゲノム・転写・薬剤感受性の4次元で包括的に解析した初めての研究であり、先行研究 (Gerlinger et al. NEnglJMed 2012、deBruin et al. Science 2014) が採用した複数部位生検による亜集団比較と異なり、同一の単一細胞から高精度のゲノム情報とエピゲノム・転写・機能情報を同時取得した点で方法論的優位性をもつ。特に重要な発見は、MMR正常大腸癌 (P2・P3) においても体細胞変異率が最終クローン増殖フェーズで正常細胞の約10倍に達するという直接的証拠であり、変異率亢進が MMR欠損特異的な現象ではなくがん全般に広く起きる可能性を示した。
本研究で初めて示したことは、腫瘍内エピゲノム・転写多様化がin vitro培養を経ても安定して維持される細胞自律的・遺伝的性質をもつことであり、その多様化パターンが変異系統樹トポロジーと一致することである。また同一腫瘍内の密接に関連するクローン間でも最大1,000倍の薬剤感受性差が存在することも、これまで報告されていない知見として確立された。変異率亢進のメカニズムとして、DNA複製ストレス・活性酸素種によるDNAダメージ (Sig 17・18)・腫瘍状態特有の代謝ストレスが候補として挙げられたが、因果関係の実証は今後の課題である。エピゲノム・転写多様性を駆動するドライバー変異以外の機序についても novel な探索が必要である。
臨床的含意として最も重要なのは、単一生検に基づく薬剤感受性評価が根本的な限界をもつという実証的証拠が示されたことである。同一腫瘍内でIC50が最大1,000倍異なる抵抗性クローンが治療開始前から存在することは、臨床応用における治療戦略の再考 (多剤併用・腫瘍内多部位生検・エピジェネティック標的療法の組み合わせ) を強く促す。オルガノイドシステムが in vivo の多様性を安定に再現することも確認され、bench-to-bedside な個別化医療のプラットフォームとしての有用性が示された。
残された課題は、本研究が3例という小規模コホートであること、in vitro 培養中に失われるエピゲノム変化の存在可能性、および薬剤感受性多様化の分子メカニズムの未解明である。今後の研究として、in vivo 腫瘍微小環境下での全変異・全エピゲノム変化の網羅的解析、エピゲノム多様性に基づく薬剤応答予測バイオマーカーの開発、ならびに MMR正常がんにおける変異率亢進メカニズムの実証が求められる。
方法
対象は未治療大腸癌3例: P1 (66歳、上行結腸、MMR欠損、BRAF V600E・PIK3CA E81K・ACVR2A変異); P2 (65歳、S状結腸直腸、APC二重変異・TP53スプライス変異); P3 (56歳、上行横行結腸、KRAS A146T・APC二重変異)。なお P1 でみられた ACVR2A (activin A receptor type 2A) は大腸癌でフレームシフト変異が頻発するがん抑制遺伝子 (TGF-β スーパーファミリー受容体型セリン/スレオニンキナーゼ) である。各腫瘍を4〜6片に解剖して細胞懸濁液を作製し、Moflo (Beckman Coulter) を用いた蛍光活性化セルソーティングで単一細胞を96ウェルプレートに播種し、basement membrane extract (BME) 中で ROCK (Rho-associated protein kinase) 阻害薬 Y-27632 (ROCK inhibitor compound) 添加下にクローン性腫瘍オルガノイドを樹立した。同患者の正常腸上皮陰窩 (腫瘍辺縁5 cm 以遠) も対照として採取した。全クローンに対し以下を実施: (1) 360がん遺伝子パネル標的シーケンシング [CGPv3 (cancer genomic profiling panel v3)、>700× カバレッジ、Illumina HiSeq2000、BWA-aln (Burrows-Wheeler Aligner)]; (2) WGS (whole-genome sequencing) 約30× (Illumina XTEN (HiSeq X Ten)、BWA-MEM (Burrows-Wheeler Aligner with maximal exact matches)、ヒト参照ゲノム NCBI build37); 変異コール: CaVEMan (cancer variants through expectation maximisation) 1.11.0 [SNV (single nucleotide variant) 検出]、Pindel 2.1.0 (indel)、Brass 3.0.4 (構造変異)、ASCAT (allele-specific copy number analysis of tumors) 1.5.1 (コピー数); (3) Infinium HumanMethylation450 BeadChip (470,000 CpG サイト、minfi パッケージ、SWAN (subset-quantile within array normalization) 正規化); (4) RNA-seq (Illumina HiSeq2000、Bowtie/TopHat、edgeR 負の二項式一般化線形モデル、FDR (false discovery rate) < 0.05); (5) 7剤 [ドキソルビシン、SN-38 (イリノテカン活性代謝物)、5-フルオロウラシル (5-FU)、アファチニブ (EGFR 阻害薬)、nutlin-3a (TP53 安定化薬)、MEK1/2 阻害薬 III、AKT 阻害薬 VIII] の感受性試験 (CellTiter-Glo 3D、19.5 nM〜20 µM の21段階濃度、6日間処置、384ウェルプレート、2回反復実験)。系統樹は変異・メチル化・転写の3データから独立に構築し (PHYLIP suite、Shearwater アルゴリズム、ape パッケージ)、Subtree Prune and Regraft (SPR) 距離でトポロジーを比較した。変異シグネチャーは NMF (non-negative matrix factorization、非負値行列因子分解) で抽出した (Alexandrov et al. Nature 2013)。データは EGA (European Genome-phenome Archive) に登録 (EGAS00001000869 標的シーケンシング、EGAS00001000985 RNA-seq、EGAS00001000881 WGS)。